7時半…。爆発音のする目覚まし時計を止めた俺はもこと顔を出した。  
朝日が目にしみる。しみすぎてムカつく。  
眠いけど起きねば。 いや、寝るべし!  
俺の中で誰かがそう決断した。誰だ。 しかし、そうはいかないと自分でもわかってるんだが…。  
温(ぬく)い布団とひんやりとした空気のマッチングが俺を誘い込むのだ。はぅああ…  
 
(がちゃ。)  …来よった。約2分か…速い。  
「優虎!起きろ!」  
布団を引っぺがされた。酷いYO!寒いぞゴルァ!ヌッコロスぞ!!  
人知れず悪態をついた俺は兵隊キメラアントにつかまった人間団子のように丸くなった。  
 
裕子だ。これこそまさしく幼馴染の見本っぽいもの。  
同姓同名じゃないが、読み方がまったく同じ。  
同い年で、家は向かいだし、毎朝起こしにくる。  
「まったく…。てか寝んな!!」  
 
しかし、今俺は一人暮らしなので合鍵を渡した。てか渡させられた。  
目覚まし時計まで仕掛ける始末。  
幼馴染みそんないいもんじゃないって。  
 
「そいつぁ無理だ。理由はお天道様に問うてくれ…。」  
意味不明の言葉を放ち、布団を取り返そうとするが、  
ぼふ  
 
「ッ!!ああああ!危ないな!!降らすなって言ってるだろ!」  
俺めがけて飛んできた物は広辞苑。間一髪で避けたが。使用用途間違ってる。  
ちなみに俺の部屋にあるやつなので本来の使われ方もされていない。  
危うく久しぶりに遺書を書かねばならんところだった。  
 
「優虎最近反応素早くなったじゃん♪やっぱり毎朝だと慣れるのかな?」  
猫っぽい口をにっこりさせながら笑う。可愛いなぁ…と思ったが一瞬で恐れと相殺された。  
 
「ほめんな!ったく…起きましたよ。完全に。 着替えるから出ろ!それとも見たいんか?」  
「見たくないよ。どうせたいしたもんじゃないんでしょ?」  
 
ちょっぴり傷つく言葉を吐いて部屋を出る。  
「な…めんなや…」  
寝癖隠しである額までのバンダナを装着しながら自信の無い反論をしかけるが、  
既に出て行ったので、黙って着替えることに。  
 
「だからっ!!広辞苑は投げるモノじゃないんだよ!わかる!?」  
「だーてっ!!優虎が起きないのが悪いんじゃん!毎朝!」  
「だーてっ、じゃねぇよ。他に起こし方知らんのか?」  
「手っ取り早いし」  
「何でも早さ優先させればいいモンじゃないんだよ!」  
「シャアとか瀬田宗治郎とかみんなはやいじゃん!  
はやきことは美徳なの!」  
 
相変わらず歩きながら常人には理解不能な討論をする。  
同じく通学中の生徒である数人がくすくす笑っているが、それもいつものことだ。  
ウェストまである髪を一本に結っていて、歩く度にぽんぽんするのは可愛いし  
出るトコ出てて、顔も標準を余裕で越えるのだろうが…。  
 
「だいたい何で高校生にもなって毎朝起こしにくるんだよ!」  
「何でって…そりゃあ幼馴染みだからじゃん?」  
裕子がちょっと寂しそうに頬を膨らます。すかさず追い討ちだ!  
 
「ふ…幼馴染だと?裕子にはスキルが足りないという自覚が無いのか?」  
「ス…スキル?スキルって技?」  
「そのとおり。幼馴染スキルだ。  お前は!料理ができないッッ!!」  
 
指差して、ビシ!!と言ったが、どうやら   泣かせてしまったようだ。  
これもやや頻繁に起こることだが、やはり慣れないなぁ…。罪悪感が拭いきれない。  
(俺は言うときは言うし意外と優しいと評判なのだが、実は肝が小さいだけなのだ!!)  
「ジョークだ。まぁ気のイイ嘘みたいなトコロだ。気にするな。それくらいな。」  
適当に慰めようとするが、  
「かぷ」  
引っ込めようとしていた指を噛まれた。噛まれたというより色っぽく咥えられた。  
「なっ…」  
慌てて指を抜くと、いや抜いたと同時に  
 
     荒咬み→九傷→八錆 を放ち、  
「優虎の…馬鹿ぁあ!!」  
言い放ち走り去っていった。  
 
くそ…危険回避能力に長けてきた俺を油断させるためのトラップかよ…。  
若い頃はよくいじくってやったもんだがな…。時の流れは残酷だね…。  
 
うふふ…と逝きそうになりながらも、俺はメモ帳を取りだした。  
 
「   遺書  
親父様、お袋様 どうやら僕もそろそろあなた達のところへ行くときがきたようです。  
親戚一同様、本当に申し訳御座いません。  
裕子へ  
あなたは今日以降、お日様にあたる日は来ないと思います。僕的に求刑は無期懲役です。  
上滝家の皆様に懺悔しながら一生を過ごしなさい…。  
エディへ  
あの壷をキシリア様に届けてくれよ。あれは…  
いい物だ…。  
ぐはっ!」  
と書き綴り、息絶えた。  
 
そこへ長身長髪の金髪男が通りかかる。  
エディ・ヴァジェナス。1つ上の学年だが俺たちと妙に仲がいい。  
「また死んでんのか?神抱…。」  
はぁ、とため息をついて俺の上体を起こす。  
「おお…エディか…。この遺書を頼む…。」  
 
「いくつ目の遺書だか…」  
と言って渾身の遺書を破り捨てた。なんてこった。  
そして俺の腕を肩にかけて歩き始めた。  
 
「いつものことながら…今日は何言ったんだ?」  
「早さについて語り合ってたらこうなってた…」  
「…何でだよ。ちゃんと謝っとけよ。」  
「やっぱり俺が悪いのか…」  
 
理不尽な世の中だ。  
 

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