俺は姉貴がだいっっっっきらいだ。
友達は美人で頭の良い最高のお姉ちゃんがいてうらやましい。
なんていってたけど、そんなのは猫かぶってるだけなんだ。
小中と同じ学校だったが、そこでの嫌がらせはひどいモンだった。
根も葉もない噂、色基地外だ変質狂だと学校中に流され女子から嫌われるし。
なにか友達と悪さをしようもんなら、すぐさま親に言いつけられるし。
他にも筆舌しがたいアレやコレやで。本気で○そうと思っていた。
だから高校に入って姉貴と離れ離れになると、もう天国だった。
というのも、俺の学校は家から遠いので一人暮らしすることになったからだ。
まさにわが世の春、そしてなんと彼女もできたのだ。
もち、告白は容易ではなく、三日三晩費やして台詞を考えたし練習した。
本番では『好きでつ、つき合ってくだたい』と、なんか噛んじゃったけど。
でも彼女は少し笑いながら『いいよっ』っていってくれた。
そこにはバラ色の青春が大股開いて待っていた。
待っているはずだった。
あの日姉貴の部屋に入らなければ。
そして姉貴を受け入れなかったら。
あの日俺は実家に用事があって帰っていた。
姉貴に借りたCD(Cocco)を返すためだったが、あいにく留守だったので、
仕方なく置手紙して部屋の机にでも置いとこう、と思った。
それがいけなかった。アイツの部屋に入るなんて、よせばよかった。
部屋に入ると壁一面になにかが貼り付けてあった。
タレントのポスターかなんかだと思って見てみると、なんと俺。
俺の写真、大小さまざまの写真、小さい頃から今までの写真が部屋中に、
壁に天井に貼りまくられていた。
正直、ドン引きした。
キモイっていうレベルじゃねえぞ!! みたいな。
どうしてこんなことするのか理解に苦しんだが、考えて考えて、ひとつの仮説を立ててみた。
俺のことが好きなんじゃないか?
常識的に考えて、それ以外の説は成り立たないのでは。
今までやってきた嫌がらせは、好きの裏返しなのでは。
あの酷い噂も、他の女の子が俺に近寄らないために流したのでは。
そこまで考えて部屋を飛び出した。
CDをゴミ箱に捨てて一目散に家を逃げ出した。
なにも見なかったことにしよう、全て悪い冗談だったんだ、と電車に揺られながらつぶやいた。
そうだ全て忘れればいい。姉貴は最低の糞女で、俺の敵だ。疫病神だ。今までもこれからも。
思いとは裏腹に、姉貴との想い出がフラッシュバックする。
苦々しい記憶の端々に、なぜか姉貴の愛情が見え隠れしているような。
不器用にも俺のことを、恋して、愛して、そんな、気がした。
だが、もう俺には関係ない。
そうだ、俺には彼女がいるし、いまさら姉貴を女としてみるなんて無理だ。
ムリムリカタツムリだ。割ったDVDを元に戻すぐらいムリな注文だ。
全て忘れよう。今日は彼女が夕飯を作りに来てくれる。
彼女と一緒に楽しくゴハンを食べて、FMJ観て、タモ倶楽観て、エッチして寝よう。
と、考えている間にアパートに着いた。
カギを取り出す、が、開いてる。彼女がもう来たのか。中から声もするし。
しかし、なにかおかしい。彼女は誰かと会話しているようだ。ケータイかなっとおもった。
もちろん違った。
ただいまー、とドアを開けた瞬間、『おかえりなさい』となつかしい声が、聞こえた。
彼女がしゃべっていた相手は、姉貴だった。
「あー、ツカサ君おかえり、おじゃましてます。」
彼女の声は、なぜかとても遠くに聞こえて。
俺は声も出せず姉貴の顔を見た。
うっすら笑って
俺をみつめて
まるで
ヘビの
ヘビのような
「きちゃった」
――そして俺と彼女と、姉貴の、物語が始まった。