森長亜月はよく眠る。  
小さい頃からちょっと目を離すと、縁側で眠り俺の背中で舟をこぎソファにうつ伏せ枕を抱いていた。  
 
その寝顔が、その、とんでもなく可愛いのだ。  
 
いわば、お母さんがケーキを焼くにおいが嬉しくてドアの傍で笑ってる女の子が、  
そのまま花の香りで眠ってしまったみたいな感じだ(というのはみのり談である。  
なぜあの性悪幽霊からこんな乙女チックな表現が生まれるのか?…閑話休題)  
 
しかも色素が薄いので陽射しにとける栗色の髪が透ければ、よりいっそう柔らかい表情に見える。  
寝言が「ねこ」とか意味不明なのもまた堪らない。可愛い。  
亜月はものすごい美人というわけではないけれど、とにかくその寝顔で可愛い可愛いと評判だった。  
小学校中学年くらいまではそれなりにもてたし、俺はもちろんそれにイライラ嫉妬してよく泣かせるくらい喧嘩した。  
冷やかされるようになって意識的に距離を取り出した頃には、  
もっとおしゃれが上手くてませている女子達がもてるようになっていて、  
俺は情けなくも少し安心しながら距離を取ったもんだった。  
それが中学に入った頃だったか。  
亜月は相変わらず泣き虫で、なのに一緒に続けていた剣道だけは負けず嫌いだった。  
 
「そういやあの頃からか。ここが成長しだしたの」  
 
いつの間にか手に余るほどになったそれは、ビリジアン(懐かしい)の冬服の下でも豊かに皺を作り存在を主張している。  
部活の練習疲れなのか、二人でまったりしていたら気がつくと亜月は眠ってしまっていた。  
優しい寝顔が喉辺りをむずむずさせた。  
懐かしい寝顔は変わらず、身体だけが誘うように成長している。  
耳にかかる毛先が流れて、呼吸と共に震える運動が吸い込まれるように手をひきつける。  
寝ている相手だというのに、息が荒くなるのを自覚していた。  
眠る幼馴染兼彼女を覗き込んで顔を近づけ、制服越しに右の胸をやわやわと揉んだ。  
薄い吐息を漏らして肩を捩る姿がエロイぞ、あっき。すごいぞ。  
…俺のあれはもうアークインパルスだ。  
 
「啓伍、すごく面白いわ……」  
斜め上からしみじみとした声が落ちてきた。  
俺のあれは途端にフォークボールと化した!  
しばらく脱力しまくったあとで振り向き、眼を丸くした女子高生の幽霊を捉える。  
隙間風がかすかに絹の髪をさらう。  
――黒髪ロングの膝下スカートに赤いスカーフと三つ折りソックス、時代錯誤も甚だしい格好が星の明かりに透けている。  
ふうと溜息をついて玖我山みのりは腕を腰に当てた。  
そしてぐっと片手を突き出した。  
「しまったー。あまりに啓伍が面白かったからつい。いいよ、続けて☆」  
「っ、く、く…っ」  
ぐっとサムズアップで真剣にウインクされた。  
顔に一秒単位で血が上っていくのは怒っているせいだけではないと、懸命な読者諸君はお分かりだと思われるね!  
「み…みのりてめえ……。今日という今日は許せん………」  
「しーらないっ。啓伍がやらしーのが悪いのよー!身に覚えのあることするから!  
 えっちーえっちー!すけっちわんたっちー!へんたーいすけべー!!」  
「っくああぁ!小学生かコノヤローー!」  
叫ぶだけ叫びながら実に楽しそうに部屋をすり抜けていく馴染みの幽霊を追いかけて廊下に飛び出し、分厚い埃を散らして駆けた。  
一分ほど追いかけっこを続けたところで長い髪がなびいて軽やかにコンクリートの割れ目に消えていくのが見えた。  
「くっそ…今に見てろよっ!」  
肩で息をしながら月の見える闇を睨む。  
 
コレだから折角の隠れ家デートも油断がならないというのだ。  
邪魔しないから自由に使っていいわよ♪とかなんで信じたのか一時間前の俺!  
だいたいあの幽霊、客観的に見れば俺だって認めてやらなくもない美人なのに下品な言動で台無しだ。  
「ったく、喧嘩中まで嬉しそうな顔しやがって」  
「啓ちゃんもね」  
後ろからおかしげな声がして、心地よい感触が腕にきゅっと指をからめてきた。  
薄手のコートを羽織った体温は暖かくて実に落ち着く。  
「あ、起きたのか」  
「…ごめんね、寝ちゃって。もう暗くなっちゃった」  
「いーって。俺、あっきの寝顔好きだしさ」  
疲れてどちらかが寝てしまうのは珍しいことではなかったから、ほんとに怒ることじゃなかった。  
頭を撫でてやると、亜月が声にならない声で小さく何か呻いた。  
柔らかい髪と小柄な姿が、腕に深めに隠れる。  
…そうやって、いつまでたっても誉め言葉に照れる姿は可愛すぎて参る。  
っていうかやばい。  
単純すぎて何だが、胸が当たってるので再びあれがなにしてきた。  
……あっきが眠ったの、これからしようかなーっていう雰囲気の時だったしなあ。  
部活帰りで少し汗のにおいがするのもあの空気を思い出させて鼻の奥までくらりとする。  
腕時計を覗けば八時前だった。  
唾を飲み込んでから腕にしがみつく幼馴染の彼女をそっと見下ろした。  
「亜月。時間、いつまでへーき?やっぱしない?俺は、したい」  
「……ぁ」  
脇にかかる息が熱くなって亜月も同じ衝動を抱いているのが分かった。  
スカートから覗く白い膝が期待に痙攣するのを見たところで理性が切れた。  
そのまま深緑の制服を壁に押し付け、最後まですることにした。  
床の埃が粘って汚れてしまった。  
 
 
後始末をして、屋敷のホールに降りる頃には九時をまわっていた。  
「やっべ。夕飯抜きかもしんね」  
「そしたらうちに食べに来るといいよ」  
手を引かれる亜月が答えながらきょろきょろ天井を見渡している。  
袖口やスカートの皺が先ほどの余韻を伝えて愛しさを増した。  
「そういえば今みのりちゃん、いないのかな」  
「あー?どうでもいーよ。呼べば来んじゃねーの」  
「仲いいよね、二人とも」  
亜月がくすくすと呟く声は明るかった。  
…ちょっとくらい嫉妬してくれればいいのにとか思ったり。  
いや、俺とあの性悪幽霊の関係には昔も今も何も  
あったもんじゃないので、嫉妬されても困るんだが。  
「いいかぁ?」  
「啓ちゃんてば、分かってないなあ。みのりちゃん、私達のこと、大好きだって言ってたよ?」  
ほんとかよ。  
「本当よ。好きな子達ほど苛めたいだけなの。フフフ」  
 
「……」  
 
けっ。先ほどの恨みはらさで置くべきか。  
こんなやつ無視だ無視。  
 
「ああ、空耳か空耳か。さーて帰るか、あっき。  
 もうこんなところ来るのやめよう。次からはホテル行こうな」  
目の前でまじめ腐った顔で現れた幽霊を無視して横に回っていく。  
出口まで振り返らずに何か言いたげな亜月の手を引いて館を出かけたところでいきなり、  
「なによっ!啓伍のばかぁ!」  
珍しく傷ついた怒鳴り声が背中から飛んできた。  
振り返る。  
階段の途中で一人きり、普段動じない頬が少し透明に赤く、涼やかな瞳はこっちを睨み返していた。  
ガキの頃からの昔馴染みで、今では同じくらいの年頃になった廃屋住まいのエロ幽霊。  
こういう面白いやつと、一緒に隣で育って来れなかったのはちょっとばかし残念だ。  
「…悪い」  
肩を竦めて謝ると、ちょっと決まり悪げな目で幽霊が困って下を見た。  
うん、結構ああいう顔は可愛いんだよな。  
言ってやらんけどちょっと見とれる。  
じっとそうして見ていたらこれまた珍しく、ちょっと傷ついた顔の亜月に足を踏まれた。  
願いがかなった。俺は幸せものだ。  
「ごめん、あっき。浮気はしません」  
囁いてから、手を握り返してもう一度みのりに手を振った。  
「じゃあな、みのり。また貸してもらいに来るよ」  
「ホテルに行けばいいでしょう」  
ふん、と怒ったままの顔で黒髪はつーんと手を振っていた。  
「ごめんねみのりちゃん、また絶対来るね!」  
一生懸命最後まで手を振っている亜月の柔らかい指先を改めて感じながら、  
変な状況に慣れ親しんでいる自分が妙に笑えて冬の終わりの寒さも気分が良かった。  
「みのりちゃんはね、あそこに一人で寂しいんだよ。」  
ぽそりと呟く幼馴染に言わずもがなのことだったのでただ信号待ちでキスをする。  
明日もまた二人であの頃のように、会いに行ってやろう。  
 
 

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