薄曇りの放課後、秘密基地だった廃屋へ、初めて制服で入った。
十年ぶりだった。
半袖でむきだしの肘にあたる、色素の薄いセミロングの柔らかい髪に指を埋めたくなるのを
こらえつつも辺りを見回して裏へ回った。
つないだ指先が震えたので、立ち止まる。
「け。啓ちゃん。ほんとに、するの」
黙って頷く。
そんなの散々了解済みでここまで来たことは、亜月だって充分分かっているのだ。
学生はそうそうホテルに行く金もないし、互いに自営業の家に住んでいるから
どっちかの家ですることもできないし何より顔が割れていて怖くてそんなことできない。
「だってシャワーもないのに」
「さっき体育館で浴びてただろ」
そんなことを言いながらも想像してしまう。
隣をちらっと見ると耳が赤かった。
つないだ手がどっちのものか汗ばんでいて、息が心持ち荒くなる。
軋む音をゆっくりと隠す。
扉を背で閉めると、ぎゅっと無口な小さな手がこっちを握り締めてきた。
――幽霊屋敷と評判の俺達の秘密基地は本当に幽霊屋敷だ。
「あらー、いらっしゃい久し振り」
玖我山みのりがバルコニーの手すりに空気椅子して半透明に浮いている。
相変わらず時代錯誤な紺のセーラー服だった。
「なになにどうしたの?何の御用かし、ら――」
意地悪子悪魔の彼女は、俺と亜月の様子を一目で見て取りにっこりと(にたりと)笑った。
バルコニーから両手をメガホンのようにして叫んでくる。
「ずうっと遊びに来てくれないと思ったら、人の屋敷で、不純異性交遊ね。
啓吾のオオカミー!ちょっと前まで剥けてもいなかったくせにー!」
「み、みのりちゃん!!」
「なによーアツキったら胸ばっかり成長したんじゃないの?
さすが牛乳屋の娘ね!Fでしょー?」
「うっうそ、なんでわかるの!?」
コラコラ。
俺はとりあえず亜月を叩いた。
他の人間に相易々と胸のサイズを教えるんじゃありません。
おまえのおっぱいは俺のなんですよ。
「……うるせーよみのり。十二年前に助けてやったじゃねえか。
邪魔すんなよな。貸してくれよ。金が無いんだよ」
「なっさけないわねー啓伍。新聞配達の手伝いで何溜めてたのよ。せーし?
ま、分かったわよ。誰か来たら知らせてあげるわ」
しっしと手をやるとみのりは顔に似合わない発言をかましてから
すうっと三階へ飛んで行ってしまった。
相変わらず意地悪なくせに人がいい幽霊だ。あと下品。
……そういや俺達の性知識ほとんどみのりからじゃないのか?
曇り空だったのが、雨に変わったらしい。
水音が煩く窓ガラスに響いている。
まぁ、そういうわけであるからして。
俺と亜月は幼稚園に入る前から町外れの妙な迎賓館崩れの建物で、
秘密基地ごっこをしていた幼馴染同士だ。
今思えばきっかけは、親同士が朝早いものだから、遊びに出る時間が似通っていたというのが理由だと思う。
泣き虫で髪の色がきれいで、寝顔がすごく嬉しそうなあっきのことが、
その頃から女の子としてすごく好きだった。
本当は中学になっても時間をずらして登校したくなんかなかった。
親兄弟の話だって昔みたいに当たり前にしていたかった。
だから一昨年のバレンタインで顔を真っ赤にして伝えられていちもにも無かったわけだ。
ていうか俺から言えばよかった。情けない。
埃深い奥の仮眠室に入ると、亜月が俺を見上げて眉を軽く寄せた。
「啓ちゃんは。みのりちゃん嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど」
それよりとまずキスをする。
「あっきのが大事」
あと何回か普通にキスをして、ベッドに座らせる。
俺はあまり背が高い方じゃないがあっきはそれより更に低い。
まっすぐで細い髪は撫でると柔らかかった。
髪を抱えて口の間で涎をすくった。
ふちゃふちゃと柔らかい唇を押し付け合い、挟んだり舌で味わったりする。
昔はなんてでっかい部屋だろうと思っていたのに仮眠室のベッドは2800円のホテルより小さかった。
「っ、ん、んー、ぁ」
舌の先を何度も往復すると腕の中で震えた。
もっとする。
耐えられないのか亜月は首を振って唇を離した。
「ぁ、はぁ」
荒い息を整え、今度は自分から目で縋ってくる。
まだしばらく舌同士で先端をなぞりあった。
埃が飛ぶ。
ぱらつく雨で薄暗い。
時々亜月が舌先だけなのにないた。
そろそろ限界になってきたので口の奥まで舌で貪っていく。
無意識なのか一生懸命下唇を反撃されたので逆に吸ってやった。
「けいちゃ……、け、ちゃん、や、それぇ」
「相変わらずでけぇな。好きだ、これ」
手に余る胸を掴むと亜月が耳まで赤くなり全身力を抜いてベッドから崩れ落ちた。
なんだ折角揉もうと思ってたのに勿体無い。
襟まで唾液でべとべとだ。
脇に手を入れて持ち上げて、ベッドに寝かせる。
何か言いたげなのを口で塞いで改めて制服の上から尖ったところをくわえてやる。
「ひぁ!」
初めてしたのは一年生の頃だった。
付き合い始めてはじめて制服が替わって、前より目立つようになったこの胸にとにかく
毎日触りたくてたまらなくなってこれが近くにあるのが好きで仕方がなかった。
十年前ぺッたんこだったのが、いつからこんなにでかくなったんだか。
だいたいコイツ結構えろいし。
「あっき。気持ちいいか?」
「う、っん…うん、いい、ぃ…!」
こくこくと頷いては背中を浮かせる幼馴染に満足する。
その間もこっちのを探ろうと手をぱたぱたとシャツの裾付近で遊ばせている。
触られないように逃げてるんだけど。
「啓ちゃんばっか、してずるい……」
「いーんだって」
「ね、あの、また練習したから試したいなー、って」
えへへと亜月が珍しく頬を緩める。
練習って牛乳瓶か。牛乳瓶なのか。
突っ込みたいのを我慢して、いったんやめる。
(でもいつか練習台を突き止めよう。)
からだを起こすとベッドが軋んだ。
ジッパーを下ろしてもうすっかり硬くなっている自身を解放してやった。
柔らかな髪が臍の下辺りに触れて焦れる感覚で溜息をつき、風を吹きかける。
昔からのように亜月の髪を撫でる。
湿った吐息が濡れた亀頭を包み、白い五本指がぎこちなく扱いている。
赤黒い舌が伸びて下から上へ三度舐め上げ、先端を唇が恐る恐る吸った。
……あー。
なんかもういれたい。
「啓ちゃん、せっかち」
「…るせ」
「そんなトコも好き」
なぜか満足そうに懐かしげな声で、亜月が手を少し早くした。
何で胸でするという選択肢がないんだろうとかちらりと思ったりするけどそれは今度にする。
親父に交渉して新聞配達のエリアを増やしてお金をためてホテルに泊まって、こんどゆっくり勉強しよう。
髪を撫でながらそんなことを思いつつ、尻の方からじりじり上ってくる感覚に息をかみ殺した。
*
亜月がベッドの端を握り、声を出すのを耐えている。
薄い髪に首、スカート奥の腿肉が柔らかくて白い。
最初はゆっくりだ。
浅く突いてから深く。
段々と生温いのが突いている周辺にまとわり着いてきて弄る豆の周囲もぬるついてくる。
一秒間に一回くらいの抜き差しで、馴染んできた襞を味わう。
「やぁ、や…んっ!ん。ぁ…けいちゃ」
「亜月。啓吾って、呼べよ」
「だってそれ、あ―ー―ん、ふぁ…敬語みたいだし」
「おい!」
「ひゃっ」
天然なことを言われるのでちょっと突いてやるとすぐに足が跳ねた。
腰を不覚までねじ込み遠慮無しに激しく動く。
「呼ばない、と、こうだぞ!」
「あっ、あぁ、ああ!やー!それや、それだめ――ッ」
段々頭の中が白くなってくる。
必死に小さな尻を動かす馴染んだ身体があんまりに好きで可愛くて、
なんかこういう存在に小さい頃から会えていたこととかそういう些細なことすら幸せになるのだこんな時は――
「やだ、やだ来ちゃう!けいちゃん、け、……っ、あ、ぁああっー!」
「っ、出る!」
背中を何度も波打たせて締め付ける姿を見ながら、俺も思い切り薄い膜の中に精液を放った。
その感覚が分かるのか亜月はしがみついてくる。
何度か耳の傍で好きといわれて、それで余計に身体の力が心地よく抜けていった。
雨はやんだり降ったりしているらしい。
風はない。
うっすら涼しい中で、乱れた制服を元に戻して、ベッドでぼんやり抱き寄せていた。
「……小さい頃ね。みのりちゃんのことが、二人だけの秘密で、わたしは嬉しかった」
ぽつりと眠そうな顔で、制服姿で亜月が呟く。
三軒隣の裏向こう、寝顔が優しい牛乳屋さんの女の子。
付き合い始めて二年過ぎ。
ああ今更赤くなることなんてないぞ俺。そうだよな。そうだよな俺。
ほうと息を吐いて、亜月がもたれかかってくる。
幸せそうな寝顔を見ながら、
「どういたしまして。そんな風に思ってもらえてうれしいわ」
肘掛け椅子に座ってにこにこ笑っている性悪幽霊に、俺は感謝していいのか怒っていいのかわらかなくなった。
いや、怒ったけど。
「見てんなよ!」
完