獣化。子供のころは、漫画とか、ホラー映画の話だと……  
おもってた。そのときまでは。  
今はもう過去の話……。  
地球上の全人類の4割は、特殊な病気を抱えながら、  
生きていくしかなかった。  
 
会社帰りに医者に見てもらうにした、  
どうも、最近……  
 
・眠れない  
・起きれない  
・月が見えると心拍数が上がる  
・オナニーが多い  
 
という典型的な「狼」の症状が出てしまっていたからだ。  
 
「残念だけど、こりゃ〜、アレだね……  
今日当たり役場に行って申請したほうがいいよ?  
大丈夫、書類はすぐ作るから」  
小さかったときからかかりつけだった  
街の診療所の院長先生がそう言った。  
いささか残念そうに、僕の方に手を置く。  
 
あとはとてもスムーズだった。  
スピード違反の青色切符を切られるよりも早く、  
僕も「獣化病」と認定され、  
手帳が交付されることとなってしまった……  
 
結婚も考えていた彼女にどう伝えようか……迷う。  
妊娠を避けるようにゴムをつけていたけど、いつ移るかわからない。  
耐性があっても、セックスで感染するあの病気になりたくなかったし。  
アイツが電話に出てくれるのを待っている間が、かなり長く感じられた  
「もしもし、どしたの?しごとは?」  
「今日は早退してきた」  
「えっ?なんで〜?もしかして、熱?あたし、そっちにいこか?」  
「いや、違うんだ……アレにかかって」  
「アレ?っていうと……インポ?HD?って意味一緒か」  
「………獣化病」  
 
 
 
僕がしゃべったあとに間、沈黙。  
 
 
 
「ふーん、"で"?」  
彼女はそう一言。  
「で、って…………」  
「……だから、どうすんの?別れんの?」  
 
女ってこういうときばっかりサバサバしてるよね  
 
「お前にうつってほしくないし……僕は」  
「ヤダ。あたし別れないから」  
きっぱり。  
「一生子供できないんだぞ?自分の意思で感染するしか」  
「じゃあ感染(うつ)しちゃおうよ、あたしに」  
 
「お、お前……そんな簡単に言うなよ!馬鹿かっ!」  
 
一生懸命叫ぶように言った。  
一番好きな女にそんなガンみたいなAIDSみたいな病気移す馬鹿がどこにいるんだと。小一時間問い詰めたいキモチを抑えて、叫んだ。  
……でもあいつも引き下がらない。  
 
「馬鹿じゃない!あたし、アンタの子供欲しいもん!獣化病だって良いじゃない!」  
「良くない!アレが迫害の対象になった時期だってあったんだぞ!キチガイみたいな目で見られて、いやじゃないのかよ!」  
「そんな事言ってて生きていけると思ってんの!?バッカみたいそんなこといってるから女ができなかったのよ」  
「何だよ!この後のことも考えないで突っ込んでいくようなお前と一緒にすんな!」  
「……何よ……良いじゃない……あたしが夢見たって良いじゃない……  
一番好きな男の……子供生んで家族作っても、いいじゃない……」  
「……」  
 
 
何もいえなくなる……  
鼻を啜って、声が震えてるあいつの声が、  
僕と本当に結婚したいって思ってる、あいつの声が。  
……うん。そうだ……。そうなんだよ  
 
 
「……ホントだな?」  
「当たり前よ……馬鹿っ!」  
「じゃあ……分かった」  
「……はぁ?」  
「再来週の3連休、時間空けとけよ」  
「……どういうこと……」  
「お前にうつすんだよ……ビョーキ」  
「え……じゃあ」  
「結婚しよう。できちゃった結婚……できると良いけど」  
 
その一言で、彼女は完全に泣き出した。  
 
 
 
なんだろね。この、おかしなプロポーズ。  
 
Lycanthrope Syndrome 「プロポーズ」の話 終。  
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