「フィディ!フィディ、開けてちょうだい!」
木戸を乱暴にノックする音に、既に床についていた娘は不機嫌な表情で目を開けた。
「うー…はいはい…なんなのよこんな時間に。農婦は早寝早起きが基本なのに…」
ぼやきながら起き上がり戸へと向かう農婦の娘フィディ。
もっとも農婦と言っても、多くの財産と土地を親が遺した上、根が怠惰で、
自分一人が食べていける程度にしか仕事していないので気楽なものではあるが。
戸を開ける。既に声で見当はついていたが、やはり戸の前に居たのは馴染み深い顔だった。
「…何の用よフィフ姉、またトラブル?」
地味な農家の生活に嫌気が差し家を出ていった姉、フィフェルである。
フィディ以上に放埓な彼女は、しかし容姿には非常に恵まれていたので、生活には困らなかった。
端的に言えば娼婦である。表向きとしては「踊り子」ということになっているが。
決まった家も持たず、「豚小屋の藁がフィフェルの寝床」と揶揄されるほどに遊び歩いている彼女は、
当然のように揉め事を引き起こす事や恨みを買うことも多く…
そんないざこざの際に身を寄せるのがこの実家である。
よくもぬけぬけと、といった感じではあるが、
家を出る際に絶縁するような後腐れのある別れをしたわけでもなく、それに腐っても肉親、ということで
フィディは呆れつつも毎回姉を保護してやっていた。
…今回もまぁそういうことなのだろう。きっと。
とフィディは思っていた。ところが。
「フィディ…お願いよ!助けて!助けてちょうだい!あいつから、あいつから逃げないと…!」
どうもいつもとは違う。姉の様子がおかしい。
いつもの姉は、自分が原因の事件であろうと全く悪びれずに危機感なく笑いながら、
言葉の上では「お願い」しつつも実際には強引に上がり込んでしまうような人だった。
(「いやー困っちゃったわー面倒な客にひっかかっちゃってー。フィディちゃん匿ってくれないかしら?」
「…藁で寝たら?」
「フィディちゃんいけずねー」)
こんなに何かに怯えて、本気で懇願するような姉の姿をフィディは見た事が無い。
「…どんなヤバイ事をしたのよ。それともヤバかったのは客?」
とりあえず家の中に招き入れて尋ねる。
「客…あんなものが客なものですか…私だって何も悪い事してなんて…
…いえ、馬鹿だったわ…あんな…あんな不気味な月の晩に…歩いて…一人でなければ…私は…!」
恐怖のあまり、話が要領を得ない。
「…とりあえずお茶でも飲んで落ち付いて。それとも何か食べる?久しぶりに肉買ってきたけど」
「っひぃい!」
フィフが唐突にあげた悲鳴にフィディは吃驚した。
「ひ…あ、い、いえ、なんでも…けど、肉は、駄目…いや、なの」
「悲鳴をあげるほど嫌なの?前は肉料理が大好きだったのに。趣味変わった?服も」
確かに服も以前とは違う。職業柄か、体のラインが見えるような扇情的な衣装を好んで着ていたのだが、
今は随分ゆったりとした服に身を包んでいる。
妹の問いに、フィフはどこか悲痛な表情で何か呟いた。
声が小さくてフィディには聞き取れなかったが、フィフは、こう言っていたのだ。
「いえ…着られないのよ…こういうのしか」
「まぁ、誰が相手だか知らないけど、隠れ場所なら沢山あるから大丈夫じゃない?うち広いし」
姉を少しでも安心させようとするフィディだが、フィフは首を横に振った。
「隠れるなんて無駄なのよ…あいつの鼻から逃れることなんてできない…」
「鼻…?」
恐らくは「勘が鋭い」という比喩表現なのだろうが、
しかしこんな切羽詰った様子で会話に喩えやユーモアを利かせるというのは少々不自然にも思う。
「けど、隠れるのが無駄っていうんだったらどうすりゃいいのよ…」
「入ってこれないようにすればいいのよ。戸の前に家具とかを積んで。窓も塞いで!」
「無茶言わないでよ。そんなことしたら私達も出られないじゃない」
「それでいいのよ!あいつに捕まるよりはよっぽどいい!」
「…軍でも敵に回したの?それとも教会?」
「あいつにくらべればそんなのよっぽどマシな方だわ!とにかく塞いで!早くしないとあいつが…」
……その時響いた音が、姉妹の言い争いを、一瞬で凍り付かせた。
軽く高いノックの音と、重く低い呼び声。
「子豚さん、子豚さん…中に入れてくださいな…」
子供に聞かせるようなふざけた調子の台詞は、背筋が寒くなるような声にはまったく似合っておらず。
しかしその声にフィフは目を見開いて、顔面を蒼白にしていた。
フィディにも緊張が走る。
…しかし「子豚」呼ばわりとは腹の立つ奴だ。姉も自分も太ってる部類には入らないというのに。
それとも「豚小屋の藁がフィフェルの寝床」という悪評の皮肉か?
「…ここは善良で勤勉な農婦の家よ。明日も早くから仕事なの。用事があるなら昼にまたどうぞ」
苛立ちを声に出して緊張を破ろうと試みるフィディ。
「つれねぇなぁ。…だったらこの家を、ひと吹きでプーと吹き飛ばしてやるぞ」
冗談のはずなのに冗談に聞こえず悪寒が走る。
誇張ではなく、本当にそれが可能なんだと思っている、そんな気配が言葉の響きの裏側に感じ取れた。
「…っ、ドアを塞いでぇ!フィディ!」
恐怖に耐え切れずフィフが半ば悲鳴のように叫ぶ。
フィディも言われる前にまずは椅子でも積もうと…
した瞬間に、破砕音とともに壁から生えた何かを見て硬直した。
「ドアを塞げ、ねぇ…」
何だろうこれは。形としては人間の手に近いが…いやしかし人間の手は、目の前にあるこれと違って、
こんなに毛むくじゃらでもなく、鋭い爪が生えていたりもせず、
ましてや木の壁をこんなに簡単に貫く力など、持っていないはずだ。
今になって姉の恐怖が伝染したかのようにフィディの全身が震え始める。
フィフの方は既に恐怖を通り越して絶望の色をその目に浮かべていた。
「で、ドアってここか?…ああすまん、間違えちまったみてぇだな」
空けた穴を起点に、手が壁板を掴み、ベキベキと引き剥がす。
…なるほどねー壁をぶち破れるような奴だったらドア塞いでも意味ないよねー
あははすごいわ壁にドアより大きな穴がーでも別にわざわざ壁に穴空けなくても
ドアを蹴破って入ってくればいいじゃないかー嗚呼私の家が大損害だよあはははは…
「…うわぁああああああっ!」
恐怖で飛びかけた意識を辛うじて繋ぎとめたフィディは
ドアを塞ぐのに使おうと思って掴んでいた椅子を渾身の力で、
壁の穴の向こうにいる「何か」に投げつけた。
しかしそれは相手の体に到達する前に、目にも止まらぬ勢いで振り払われた腕に触れ粉々に砕け散った。
その「何か」は部屋の中にゆっくりと歩み寄る。
部屋の明かりに照らされて、夜の闇の中では不明瞭だった姿が明らかになる。
しかしフィディはあまりのことに、それを目の当たりにしても、
その存在が何なのか、今起こってる状況が何なのか、自分がこんなことに巻き込まれてる理由は何なのか、
理解できず、呆然とした表情と思考を停止した頭から、ただ言葉だけが滑り落ちた。
「…おお…かみ…」
半ば放心状態のフィディを無視し、狼は部屋の奥のフィフに声をかけた。
「迎えに来てやったぞ。『子豚ちゃん』」
びくり、とフィフが震える。
「い…いや!もう…もう許して!お願い!私を放して…帰して!」
怯えてへたりこみながらも強く首を横に振るフィフに、狼は溜息をつく。
「あきらめの悪い奴だな…まぁ、いいぜ、別に。帰してやっても」
「…え!?」
予想外の言葉に表情を明るくするフィフ。だが。
「ただ…『人間の場所』に帰ったところで、『人間のフリをし続けて』『人間と一緒に』ずっと生きていけると
本当に思っているんなら、な」
「!!!」
狼の言葉に息を詰まらせる。
「それとも…おまえ、まだ『自分が人間だと思ってる』のか?」
「いや…やめて!言わないでぇ!」
「…姉さん?」
考える事をやめかけていたフィディだったが、奇妙な会話の内容に流石に違和感を抱く。
「初めの頃みたいに、満月の夜だけあの姿になるんだったらまだ人間と言ってもいいかもなぁ。
だけど、もう新月とその前後の日しか人間の姿になれない今でも人間と言えると思うか?
…わかってるんだろう?もう、『あの姿』の方が自分の本当の姿なんだ、ってな」
「違う、違う!」
「まぁ、あとしばらくすれば新月で人間の姿になることもできなくなって、ずっとあのままになるだろうがな。
それに…忘れてねぇか?…昨夜が新月で、そろそろ丸一日経つんだぞ?」
狼がそう言ったのを見計らうかのように
「…あ!?…い、やっ…あぁ、っく、あああ!!」
フィフが絶望の表情で苦悶の声をあげ始め、狼が残酷な笑みを浮かべた。
「タイムリミット、だ」
「…ああ、おまえが一人で居たならあと一日くらいはもったかもな。
でも、俺が近くにいたら我慢できねぇだろ。血が共鳴する、ってだけじゃなく…
…おまえ、もう、俺の姿を見たり俺の匂い嗅いだだけで発情しちまうような体なんだもんなぁ?」
「あう、ん…くっ、あふ…!」
フィフは必死で何かを堪えるように歯を食いしばっているが、時折甘い声が漏れるのを抑える事ができない。
「ね…姉さん…?」
フィディは状況についていけず、ただ戸惑うしかない。
「ほぉ、妹さんか…へっへ、こっちもなかなか可愛い娘じゃねぇか。
こんな可愛い妹の前で、ありのままの姿を見てもらったら、さぞかし気持ちいいだろうと、
そう思わないかぁ?…なぁ、姉ちゃん!」
狼はそう言うと、瞬く間にびりびりとフィフの体を包む服を引き裂いた。
「いやぁああ!」
露わになった肢体。どうにかして隠そうとしても、
下腹部から太腿にかけて大量の液体でぐっしょりと濡れた痴態は隠しようがなかった。
「姉さ…」
「見ないで!フィディ、見ないでぇ!」
「見せてやれよ。おまえも見られて感じてるんだろぉ?
なんで姉ちゃんがこんなことになっちまったのか、妹さんの前で実演してやれよ!」
狼がフィフの秘所に指を走らせると、ぐちゅっぬちゅっと濡れた音が響く。
「ひきゃぁあん!」
「おまえの姉ちゃんが俺にはじめて会った時、『何でも言うことを聞きますから命ばかりは』と言ったのさ。
そこで俺は『人間としての尊厳をすべて捨て去った家畜になる、というなら助けてやろう』と言った。
姉ちゃんは『そういうのは娼館で慣れてるから』とあっさり承諾した。
…その本当の意味もわからずに、な」
「本当の…意味…?」
姉が獣に弄ばれるという光景の衝撃で、頭がまともに働かないフィディは、半ばオウム返しに呟く。
狼が、フィフの腰の両脇を掴んで軽々とその体を持ち上げた。
一体何を、と思うと、
「あ…や、やめてぇ!フィディの…いもうとの、まえ、でぇっ!」
「妹さんの前だからやるんだよ。さあ、本当の意味ってやつを見せてやるぜ」
巨大な男根がフィフの秘所に押し当てられていた。
長さ、太さともにフィフの二の腕程もあるのではないかというほどだ。
「ほぉら、妹に見せてやれよ。…おまえの、本当の、姿を、な!」
「や…やめ……ひぎぁああああッ!!」
ぐじゅっじゅぶぶぶっ!
長大なペニスは、しかし多量の愛液で濡れた膣に、むしろスムーズに突き立った。
「あううっ!あぐぁああああっ!」
じゅぶっ!ぐちゅっ!
突き上げられ、膣内で暴れまわる肉棒の激しい震動に彼女は悲鳴を上げる。
しかし、その悲鳴は段々と嬌声へとかわっていく。
「んぁ…っ!はん、ふぁああああん…ッ!」
じわじわと、膣内の快感が大きくなって全身へと広がっていく感覚がする。
その感覚に呼応する様に、彼女の身体にも変化が始まった。
フィディは愕然としながら身動きもとれずその光景を見つめる。
陰茎の挿さった陰部を中心に、うっすらと桃色の体毛が伸び始めた。
ぞくぞくっ
鳥肌が立つ。見えない手で愛撫されているようだ。
突き上げられるたびに揺れる尻が、太股が、肥大化していく。
「んぁっ、あっ、あっ…」
膨らみはじめた胸を触る
「んぁああっ!」
通常の性交では感じることのない快感が走り、フィフは胸を鷲掴みにしていた。
「んはぁう…やぁ…止まらないよう…みちゃだめぇ…みないでぇ…!」
「見て欲しいんだろ?自分がどんなに淫乱なケダモノか…」
揉みしだくたびに快楽と共に乳房がますます膨らんで行く。
いや、胸だけではない。その下の腹も、揉んでいる手も、徐々にその形を変えて行く。
「あうぅん…だめぇ…きもちいい…きもちいいよぅ…」
自分の身体が変容して行くのに気付きながらも、快楽の虜となった彼女は止められない。
肥大した尻の上、尾てい骨の先からなにか沸きあがる感覚。
「んはぁあん!だめぇ!しっぽ、しっぽなんてぇえ!わたひ、にんげんなのに…ッ
で、でも、らめ、らめぇっ、きもちいいっ、しっぽきもちいいのぉッ!」
「誰が人間だってぇ?家畜にされて犯されて悦んでる変態の雌が!」
「ひぐぅっ!いっちゃらめぇ!はずかひぃのに…はぅ、おかしくなっちゃうぅ!」
やがて少しずつ伸びていった細い尻尾はくるりとばねの様に丸まった。
耳が大きくびらびらと広がっていく。
「はうぅうん!み、みみきもちい…ぶひっ!」
膨れ上がった鼻が鳴る。
大きく肥大した鼻は唇と一つになって、顔の前へと伸びて突き出しはじめた。
「あぶぅっ!ぶごっ、らめっ、もう、だめ、ぶぎっ、きもひよくて、ぶぅっ、
いっちゃう…ッ、いっひゃ…ぁ、ぶぎっ、ぶひぃいいいっ!!!」
膨れ上がった舌を出し、だらしなくよだれを垂らす口が放つ嬌声は豚の鳴き声に取って代わられていく。
「いけよ、妹の目の前でいっちまえよ、メ・ス・ブ・タ!」
「ぶ……ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!!!」
とうとう、フィフは、大量の唾液と愛液を垂れ流して絶頂の声を上げてしまった。
「あーあ、いっちまったなオイ。こんないやらしい豚の姿を、こんな汚らわしい家畜の姿を、
こんな所を実の妹に見られて、もう人間として生きていけると思うか?
わかったか?おまえはもう豚として生きていくしかねぇんだよ」
狼が投げかける、耐え難い恥辱を生み出す言葉も、
数十分に及ぶという豚の絶頂の中では快楽を増幅させるだけである。
「気持ちいいだろぉ?そうさ。おまえは雌豚になれて幸せなんだよ。
おまえもそう思うよなぁ?雌豚で幸せだと、雌豚で居たいと、雌豚がいいと、思うよな?」
心に、魂に刷り込むように、フィフの広がった耳元に囁く狼。
「ぶひぃいーっ! ぷぎぃいーっ! ンぶひいぃいいーーーーッ!」
絶頂の中でガクガクと震える雌豚獣人の頭が、頷く方向に動いたように見えた。
「あああぁああああぁあぁぁあぁあぁあぁああぁぁああ!!!」
フィディはもはや事態を受け入れられず、発狂寸前で言葉にならない悲鳴を上げながら逃げ出していた。
部屋から飛び出し、裏口へと全力で廊下を駆け抜け、扉を開ける。
「どこに行くの?お姉ちゃん」
扉の前に、少女が立っていた。何の用か知らないが、こんな時に来客とは最悪のタイミングだ。
「逃げて!急いで!早…」
…何の用か知らないが、「こんな夜中にたった一人でこんな所に居る少女」
顔は見えない。夜の暗さもあるが、真っ赤な頭巾を目深にかぶっていたから。
「あはは、逃げることなんてないのに」
少女の声は、無邪気さゆえの無慈悲さを孕み、
「ねぇ、お姉ちゃん」
顔を上げた赤ずきんは、純白の体毛の狼の顔に満面の笑みを浮かべた。
「さ、一緒に、アソボ?」
その夜、娘の悲鳴と豚の嬌声を、聞いた人間は、居ない。
<続く…のだろうか、コレ>