油断をすると背後に登場する少女。その実体は正義のヒロイン・スーパーミニだったのです。
場面変わって夜の老人ホーム。部屋番号は601号室。
物語の主人公、早乙女ジュン(77)はぐっすりと寝ていた。
その寝顔の先。窓の外に一面と広がった県指定の森林公園。その一本の大木の袂で
妖しく光る赤い眼光。 もう1時間以上もその場所に留まっていた。
「見つけた、ついに見つけたぞ」
シルクハットに黒いマント。手元には自慢のステッキ。
枝つたいに走るリスが男の顔をなにげなく覗き込んだ。
「あぁ?リスさんかぁ。可愛いなー」
「チ!・・チュゥーッ!!」
毛を逆立てて必死に飛び上がるリス。脱兎のごとく森の奥へ消えていった。
「おやおや逃げなくてもいいのに?おかしなリスさんだね」
暗闇で見えないはずの男の口元が白く光る。
(ギリギリギリギリギリギリ)
森の木が無気味に揺れはじめた。地獄の底から聞こえるかのような何かを擦り込む音。
それはシルクハット男の歯ぎしりだった。
異様な殺気を感じ、止まり木で就寝していたカラスやスズメたちが一斉に飛び立った。
「フフフ、やっと見つけたぞ。早乙女ジュン・・いや、スーパーミニ!」
月の光に照らされた男の表情は満面の笑顔。だが、顔の端の筋肉が激しく痙攣を繰り返している。
見るからに不自然な笑顔だ。それはおさまりのつかない憤怒で狂い死なないようにと、
笑顔で激情を押さえて生きてきた男の後遺症。
今、男は猛烈に怒りが込み上げてきているのだ。
への字に笑う目から涙がとめどなく溢れ出ている。
「ぐぶびぶへ、な、長かった・・(ギリッ)こ、今夜ついに、積年の怨みを果たせる・・、
(ギリッ)ブラックデーモンの同門の仇、(ギリリッ)清算、そしてっ!死!」
黒スーツの胸ポケットに手を忍ばせて何かを取出す。古びた写真だ。総勢50人は写っている。
かつて一世を風靡した悪の秘密結社ブラックデーモンの全隊集合写真だった。
「スーパーミニ、おまえさえいなければ・・我々は・・ブチッ」
太平洋戦争とポツダム宣言と戦後復興───。
終戦後、歴史の表面には出てこないアンダーグラウンドの激闘が秘かに存在していた。
暴力と武力と恐怖で社会を築こうとした秘密結社ブラックデーモン一団と、
マッカーサーの指示のもと連合統治・GHQが送りだした1人のスーパーヒロイン。
当時、連合軍の先鋭科学者たちが結集して、身寄りのない戦災少女を実験体に選定した。
少女の名は「早乙女ジュン」。かくして実験は成功し、最強人間兵器“スーパーミニ”が誕生する。
在留軍をもってしても勢力を抑えられなかったブラックデーモンだったが、スーパーミニが現われてからは
戦況は一変する。トレードマークの超ミニスカートをひるがえしながら次々と一味を打破した。
2ヶ月もかからないうちに連中を壊滅に追い込み、この世から消しさった。
まさに風に舞う正義のミニスカート、スーパーミニ。