「ふむ、成功みたいですね」
少女の、高いのだけれどどこか子供らしくない声が響く。
「う・・・うぅ・・・っ!」
僕は薄暗い部屋の中で苦悶していた。
股間が、そこに全身の血が集まったかのように熱い。
部屋を薄暗く照らす蝋燭の光が、先走りで濡れた先端にてらてらと反射する。
溜まっているものを解放したいという欲求が全身を支配する。
頭がくらくらして、体を支えている足ががくがくと震えて砕けそうになる。
だけど僕は・・・今の僕は、自分のソレを掴む事も出来なかった。
何故なら今の僕の手には、本来あるべき指がなく、代わりに・・・
「な・・・なんで・・・ぇ」
声とともに荒い息をつくと、鼻が鳴ってしまう。大きく、いびつな鼻がぶひぶひと。
「なんで君は・・・僕を、こんな姿に・・・!?」
そう、今の僕は、数時間前までの人間の姿から変わり果てて・・・
両手両足にヒヅメを持ち、びらびら広がった耳と大きな鼻、くるんと丸まった尻尾、
そして桃色の体毛を持った、豚の姿になっていた。
ただ、普通の豚と違うのは、二足歩行できて、言葉も喋れる・・・
いわゆる獣人のような格好である点。
でも、こんな姿では、その程度の違いは救いとは思えなかった。
むしろ、人でも無く獣にもなりきれないという中途半端な体が、逆に恥ずかしい。
事のはじまりは、ハイキングにと誘われた山道を歩いている最中に友人とはぐれたことだった。
歩くのが早い友人についていくのが疲れて、後から行くと言って少し休憩して・・・
その後、歩き始めてしばらくすると、分岐点も無かったはずなのに、
山頂へ行く道でも、山を降りる道でもなさそうな、山林の奥深くへと迷い込んでいたのだ。
そこへ更に突然の夕立。
空は雲に覆われ真っ暗になり、雨でびしょびしょに濡れた地面はどこが道かも分からない。
止む気配もなく、状況が悪くなる一方で、なんとか手探りで道を進もうとしていると・・・
一軒の小屋を見付けたのである。
「どちら様ですか?」
扉のノックに顔を覗かせたのは、若い・・・というより幼いという感じの少女だった。
質素な服を着つつも、美少女と言っていい外見で、肩まである鴉の濡れ羽色のような艶やかな黒髪が揺れる。
「大変でしたねぇ、大丈夫ですか?」
まだ10代の前半くらいに見えるその少女は、しかし随分大人びた仕草で、
僕を小屋の中へと招き入れ、タオルと暖かい飲み物を出してくれた。
どうしてこんな子が一人で山奥で暮らしているのだろう、と不審に思わないでもなかったが、
不幸な事情があるのかもしれないし、詮索するのはやめよう、と思いながら飲み物を口に運んで・・・
数秒後、異変が起きた。
唐突に、下腹部がうずきはじめた。衣服の股間部が大きく膨れ上がる。
「・・・な・・・?」
次の瞬間、全身を愛撫されるような快感が体を包む。それと同時に肉体が変容しはじめた。
指が解け合い固まりヒヅメと化して、尾てい骨の末端から本来ありえない尻尾が伸びて・・・
その様子を、少女は僕の目の前で冷静に、観察するかのように見ている。
ここに来てやっと、僕はこの少女こそがこの変容の原因を作ったのだと気付いた。
「き、・・・っ、君は・・・一体・・・ぃ・・・」
「キルケー2世です。キリィと呼んで下さい」
悪びれもせずににっこりと笑って名乗る少女・・・キリィの、そのあどけない笑顔に、僕は恐怖を感じた。
「2世・・・? キルケって・・・?」
「知りませんか? 昔、アイアイエ島にいらっしゃった魔女です。
キルケー様は子を作られなかったので、使い魔にして第一の弟子の私が名を継がせていただきました」
「使い・・・魔・・・ぁ?」
「・・・ああ、この姿じゃわかりませんよねぇ」
そう言って、キリィは踊るようにその場で一回転。そして、次の瞬間そこに居たのは・・・
「・・・ね、猫?」
そう、体格こそ変わらないものの、柔らかな黒い毛皮に包まれた体と長い尻尾を持ったその姿は、まさに二足歩行の黒猫。
体毛があるから必要無いのか、服は着ていないが、その代わり魔女らしく黒いマントとふちの広い三角帽子を身につけている。
「キルケー様の得意だった魔法ってなんだかわかります?」
魔女の使い魔に相応しい黒猫の姿のキリィが問う。正直、わかりたくも無かった。
「それは、お客様を動物に変えて、ペットとしておもてなしする魔法・・・その中でもお気に入りの動物が・・・」
その言葉の続きは、もう、わかっている。聞きたくも無いその言葉を、キリィは恐らくわざと、嬉々として言った。
「ブ・タ・♪ だったんですよぉ」
膨張する自分の体に、はちきれる衣服を見て、僕は、既に歪んでしまった口から獣じみた叫びをあげたのだった。
「なんで君は・・・僕を、こんな姿に・・・!?」
混乱の中で数分前までのことを思い出しながら、僕はもう一度叫んでいた。
「理由はいくつかあるんですけど・・・まず・・・」
キリィは僕の両手の手首(・・・だったあたり)を掴んで、バンザイさせるように上に持ち上げながら、
自分のかかとを僕のかかと(・・・というかヒヅメの後ろ)に引っかけて足を払った。
「うわっ!?」
慣れないヒヅメでは体重の移動もままならず、盛大に後ろに倒れてしまう。キリィに押し倒されるような形で。
ちょうど毛足の長い柔らかなじゅうたんがあったことと、
そして皮肉にも、自分の体を覆う脂肪と体毛がクッションの役割をしたことで痛みはほとんどなかった。
「理由の一つ目、指じゃなくて、ヒヅメのある動物なら、器用さが無くなって抵抗しづらくなるからです」
「な・・・んむっ!?」
僕はキリィを跳ね飛ばして起きあがろうとしたが、そこでキリィは唐突に、僕の口に自らの唇を重ね合わせた。
少しざらざらした舌が僕の口内に侵入してくる。唾液が甘く感じる。
拒もうとして舌で押し出そうとしても、無駄な抵抗で、むしろお互いの舌がますます絡み合うだけで・・・。
口の中がこそばゆい。頭がぼうっとしてくる・・・
「・・・んんっ!?」
下腹部にいきなり異様な感触。なに・・・か・・・ふさふさとした柔らかい、細長いものが、ソコを、撫で・・・
尻尾だ、と気付いた瞬間。それが、きゅっ、と巻き付いてきて。
「んっ!」
更に器用にも、そのまま上下にとソレを扱き始めて。
「んっ・・・んぁ・・・くふ、ぅ・・・っ」
口と尻尾、両方で責められて、僕の体から抵抗する力が抜けてしまったのを見透かしたように、キリィは口を離した。
「ん・・・コレが理由の二つ目です。半分動物なら、発情させるのも簡単ですからねぇ」
「っはぁ・・・はぁ・・・なんで・・・そんな、こと、を・・・」
「魔女がどうやって自分の魔力を高めるか知ってます?」
キリィは僕の体毛に指を這わせながら言う。
「知るわけ・・・ない・・・」
「あらあら、あんまり反抗的な態度とってると、縛り上げて放置しますよ?
そうでなくてもそのヒヅメじゃ自分で処理することも出来ないんですし。・・・もう我慢、出来ないんでしょ?」
そう言いながら、尻尾でぴしりと僕のソレを軽く叩くキリィ。びくん、と腰がはねる。
「・・・ッ」
屈辱に体が震える。しかし彼女の言ったとおり、「発情」してしまった今の僕には、
この欲求がやり場の無いままにされる事は想像しただけで恐怖だった。
「知りま・・・せん・・・」
言い直した僕に、キリィは満足げにうなずき、
「はい、いい子ですねぇ。魔力を高める方法・・・それは、オスの、精を、吸うこと、なんです」
精を吸う、という表現が、「そういう行為」を表すのだと気付くまでに少しかかって、
「だったら、なんで僕なんです・・・?
わざわざ僕をこんなカッコにしなくても、それこそ豚とか、猫とか・・・」
「ああ、なかなか頭いいですね。でも魔力への変換効率が一番高い・・・つまり質が良いのが人間の精なんです」
「それじゃあ逆に、こんな姿にする意味が・・・」
「ふふ、それが理由の三つ目ですよ。まぁ、コレは説明するより・・・」
キリィが僕の腹の上から腰を浮かせて、
「実際に感じてもらった方が、いいでしょう・・・ね、ッ!」
ずっ、と、彼女は、僕のソレの上に、腰を沈めたのだった。
「んぅううっ!?」
豚として発情していた僕の体は、人だったときの数倍の快楽を感じていた。
「・・・・・・っ、どう? いいでしょ・・・っ!?」
「・・・っく、ひ・・・ぅ、はぁ・・・っ!」
快楽の波に揉まれ、喋ることもままならない。
柔らかく暖かな肉壁に包まれたかと思うと、次の瞬間には抜ける直前まで引きずり出される。
さらにキリィは、腰を使うだけではなく、ざらざらした舌で僕の首や乳首を舐めたり、背中を撫でまわしたり・・・
あるいは逆に、それらの場所に軽く牙や爪を立てて、快感と痛みの交互の刺激を与えてきたりする。
「ぅ・・・う・・・ぅ!」
食べられている、と、僕は思った。彼女は猫であって猫ではなく、虎や豹のような恐ろしい肉食獣で、
もはや家畜と化してしまった僕を、嬲りながら狩るように追い詰めているのだと。
「あぅ・・・っぐ・・・ぁあっ!」
僕は屈辱と、抗えない快楽と、そして恐怖にいつしか涙を流していた。
混乱と快感に麻痺してロクに物も考えられない頭の片隅で、
彼女がこの狩りを・・・この行為を完遂させたとき、僕は、完全に、貪られるだけの豚の身に堕ちるのだと感じた。
「・・・っく、ふぅ・・・ん! そろそ、ろ・・・ですね、いっちゃって・・・いいんっ、ですよっ!」
自らも快楽を声ににじませながらキリィが言う。僕は、歯を食いしばって必死に耐えようとした。
「んっ、いまさら・・・っ、頑固、ですね、ぇっ! それじゃ、とっておきの・・・ぉ、ココは、どうですか・・・っ!」
キリィは、僕の尻に手を走らせ、そこにあった・・・尻尾を、握った。
「・・・・・・ッ!?」
ソコに匹敵するような快感が全身を走った。
全く予期していなかったところからの快楽に、張り詰めていた糸が限界を超えて・・・切れた。
「う・・・ああぁあああああ・・・・っ!!」
びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ・・・
全身をがくがくとふるわせながら、キリィの胎内に勢い良く僕の精が放たれる。
「はうぅん!もっと・・・もっとですぅ!もっと精を・・・っ!」
快感に顔を歪めたキリィの声に反応するかのように、もっと搾り取ろうというのか、キリィの肉体が僕を更に強く締めつける。
豚として果てさせられてしまったという屈辱的な虚無感とともに射精が終わり・・・
びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ・・・
終わ・・・り・・・・・・?
「んなぁっ!・・・なん、でぇっ!? とまぁっ、とま、らな、あぁっ!」
「ふふ・・・ぅん、これが・・・理由の三つ目・・・ですよ・・・ぉ」
終わらない絶頂に翻弄される僕を見て微笑みながら、キリィが言う。
「豚の精は、ぁっ、他の動物に比べて大量で、その射精はっ、数十分も続くんです・・・ぅっ。
今の貴方は、人の質にぃっ、豚の量を兼ね備えた・・・っ、理想的な、精液製造動物なんです・・・ぅ!」
「せ、せい、えき、せい、ぞ・・・っ!?」
人としての尊厳が、粉々に打ち砕かれる。
乳を搾られる為に生かされる雌牛と同等の・・・いや、それよりも更に劣悪な、家畜の烙印。
「さらに、『豚のように激しい発情期』が『人のように一年中』続きますからぁ、んっ、
精を搾る時期にも・・・困らなくて良いんっ、ですよぉ?」
「そん、な・・・っ、そん・・・なぁ・・・っ!!」
「嫌がってもっ、もう貴方は、精を抜かないと、夜も眠れずに最後には気が狂っちゃう体なんですよ・・・っ?
まぁ、これから毎日毎晩抜いてあげるから、安心してくださいね♪」
絶望の中でも、射精は止まらず、あまりの快楽の中で、理性が薄れていく。
こんなに気持ち良いんだったらこのままでもいいかも、と思ってしまった瞬間、僕は、身も心も、豚に成り果てていた。
(話は)終わり (悪夢は)はじまり