このスレ初めて書き込みします。一応「人外よりさらに外道の人間」というテーマで書いてみた。  
エロ部に入るまでの前ふりが長いけど、面倒なので一度に投下します。(途中で規制くらわねば)  
エロしか読みたくねーという人は、多分12レス目辺りからエロに入ると思うので、そっから読んでくれい。(誤差あり)  
 
 
vampire maiden ヴァンパイア・メイデン  
 
   
 夢野晴夢(ゆめのはーれむ)が番播芽衣(ばんぱめい)の家に招待されたのは、そろ  
そろ梅雨も明けようかという六月の終わりごろだった。  
 晴夢は、このやや田舎に近い街に、生まれたときから住む高校二年生である。一見した  
だけでは分かり辛いが、その性格はかなり傲岸不遜で、ついでに異常なぐらい勉強ができ  
ない。取り立てて趣味や特技もなく、授業態度は不真面目でサボりがちであった。長所と  
いえば、奇跡的な偶然で顔つきが端整なことと、体が丈夫で病気一つしないことぐらいで  
ある。  
 その日も、一日の授業が終わり、机の上に出したノート類を一度も開かないまま、薄馬  
鹿の如く天井を仰いでいた。窓からは、夏本番の清清しい風がいまにも吹き込みそうな気  
配だった。  
 そんな時、芽衣は晴夢に声をかけたのだ。  
「ねぇ、夢野君。もし良ければ、今度の連休にウチに泊まりにこない?」  
「ぁん? 俺がお前んちに?」  
「そう。お父さんも、夢野君は特に物理の成績が悲惨だから、特別に個人授業をしたいっ  
て……ねぇ、駄目?」  
 芽衣は少し身をかがめて、席に座る晴夢に上目遣いで目線を合わせた。白いセーラー服  
の胸元が垂れ、隙間から下着のレースと豊かな谷間が覗く。晴夢は思わずそこに視線を集  
中させつつ、訝しげに尋ねた。  
「何で俺がわざわざ休みの日に勉強しに行かなきゃいけねぇんだよ」  
「それは、ついでよぉ。芽衣の家に来るの、いや?」  
 甘えた口ぶりで芽衣が小首を傾げると、長いウェーブの髪がさらりと流れて、なんとも  
いえない甘くて爽やかな香りがしてくる。つい股間がむずむずしてくるのを晴夢は抑えた。  
「お前なら他にいくらでもついてくる男はいっぱいいるじゃねぇか、わざわざ落ちこぼれ  
の俺に声をかける理由はなんだよ」  
「……芽衣ってヘラヘラしてて誰にでも合わせちゃうから、そんな風に思ってるかもしれ  
ないけど、本当は上辺を飾ってるだけで、心を開けるお友達はいないんだぁ。まだ転校し  
てきて少ししか経ってないし、慣れない土地で夏休みを一人で過ごすのも心細くて……そ  
の点、夢野君なら昔からここに住んでるし、仲良くなれたら頼もしくていいな、って……  
思ったんだけど、駄目かなぁ?」  
 芽衣は口の端から真っ白な犬歯を覗かせて、最後にしおらしく付け加えた。  
「それに……、芽衣は夢野君のことを落ちこぼれなんて一度も思ったことないから……。  
しっかりしてるし、きっとお友達になってくれたら楽しいだろうなって……ごめんなさい、  
やっぱり勝手だったね」  
 大きな眼を残念そうに伏せ、肩を落として去ろうとする芽衣の後姿を、晴夢の声が追い  
かけた。  
「おい、今度の休みに行きゃあいいのか?」  
「来てくれるのっ?」  
「まぁ、暇だしな」  
 表情を輝かせ子供みたくはしゃぎながら、芽衣は家までの道程を書いた地図を晴夢の手  
に握らせた。しなやかな指をぎゅっと絡めつけ、耳元で、  
「お家の人には、休みの間はずっと向こうに居るって、ちゃんと伝えといてね。遅くなっ  
ても心配しないように……絶対だよ」  
 と、甘ったるい声で囁いた。  
 晴夢はしばらく、その声音と眩むような香が頭の奥に残って、少なからず淫猥な気分に  
なった。芽衣は天真爛漫な顔つきをしているくせに、妙に色っぽい部分があるのだった。  
 
 
 芽衣は二ヶ月ほど前に突然この土地にやってきて、誰も使っていなかった洋館で、父と  
二人暮しをしている。東京の端にある閑静な街なので、自然も多く、住宅地を除いては家々  
もあまり密集しておらず、距離がある。芽衣の住む屋敷はその中でも特に寂しい所に一軒  
だけ建っていた。晴夢が訪れると、まるでゴシックホラーの舞台になりそうな古びた洋館  
の重い扉がゆっくりと開かれ、出迎えたのは私服姿の芽衣だった。  
「いらっしゃい。来てくれたのね、嬉しいわ」  
「おう、邪魔するぞ」  
「うん。遠慮せず中に入って」  
 芽衣は朗らかに晴夢を迎え入れた。屋敷の内部は外観から連想される通り、映画で見る  
ような様相だった。足元の真っ赤な絨毯は廊下の端まで続いており、そこら中の壁には蝋  
燭を立てる燭台が張り付いている。  
「これは、お前らが越してきたときからこうなってたのか?」  
 思わず晴夢は尋ねた。  
「んー、そうみたぁい。パパが面白いからそのままにしておこう、って。まるで映画のセ  
ットみたいで素敵でしょ?」  
 屈託なく笑いながら、芽衣は大広間と思われる部屋に晴夢を案内した。そこには、年季  
の入った暖炉があり、天井には丹念に掃除の行き届いたシャンデリアが輝き、大仰な黒塗  
りのソファーが真ん中に構えていた。そこに身を埋めているのが、晴夢の学校に科学教師  
として転任してきた、番播狗蔵(ばんぱいぬぞう)だった。狗蔵は晴夢が前に来ると、音  
も無く立ち上がって挨拶をした。  
「よく来てくれたね、夢野君。父として歓迎するよ。娘は君が気に入っているようなので、  
仲良くしてやってくれたまえ」  
 そして、高そうなパイプを持ち替えると、煙を深く吐き出した。白髪交じりの髪をきち  
んと撫で付け、穏やかな目尻は学校で見る時より更に、人が良さそうに緩んでいる。  
 晴夢は内心キザな親父が、格好つけんなと思いながらも、素直にこう述べた。  
「この屋敷の中広いっすね。トイレ行くだけにも迷っちまいそうだ」  
「ははは、私か娘がついておればそんなことにはならんよ。何、君もすぐここが好きにな  
るさ」  
 そう言って、皺のある口元を一瞬意味ありげに歪ませて笑った。晴夢は変な印象を受け  
ながらも、後ろで芽衣が呼びかけてきたのですぐに意識はそちらに向かった。  
「夢野くぅん、クッキー焼いたの。台所に取りに来てくれない?」  
「ああ、今行く」  
 嬉しそうに駆けていく芽衣と、それを追いかける晴夢の姿を見送りながら、狗蔵は冷酷  
で不気味な微笑を浮かべた。しかしその笑みは、すぐに温厚な仮面の下に押し隠された。  
狗蔵はパイプをまた持ち替えると、肺に深く煙を吸い込んだ。  
 
 
 その二日間、晴夢は屋敷で放漫に過ごした。好きな時間に目覚め、眠くなったら部屋に  
引っ込んで寝た。芽衣は日中は晴夢に付きまとい、夕方になると食事の準備をして、晴夢  
が寝るまで隣で相手をした。その会話の内容や時間潰しは、他愛のないものだったが、ど  
ちらにせよ学校一の美少女と涼しい邸内で自堕落に好きなことをして過ごす時間は、中々  
心地よいものだった。  
「ねぇ夢野君、次は庭でバドミントンしようよ」  
「俺とやるんじゃ相手にならないよ、お前は」  
「ひどーい、こう見えて芽衣は強いんだからぁ。ねえパパ」  
「ははは、手加減してやっておくれ、夢野君」  
芽衣は学校で見るより更に活発で無邪気な気がした。  
もとより転校してきた当初は、学校中が騒然となったほどの美少女である。その長い手  
足に陶磁器のような肌理細かい肌、潤った双眸に漆黒のゆるやかなウェーブとなれば、そ  
こらのアイドルが逃げ出すぐらいの愛くるしさだった。顔は幼いが、体は決して未発達で  
はなく、寧ろ成熟しているといえる。露出の多い私服になれば、それが良くわかった。そ  
のアンバランスがこれ以上ない魅力を放っている。  
だが、芽衣は身体の豊満さに比べ、精神の成長は遅いようだった。晴夢はそれがまた男  
心をくすぐるような、残念なような相反した気分になった。  
 クラスの男を家に招きいれるということは、多少はそういう気もあるのかと期待もして  
いたのだ。が、その気配を全く見せず、芽衣は晴夢の部屋が閉まる時は、また明日ね、と、  
扉の前で未練なく小さく手を振った。  
 芽衣はどうやら純粋に、単なる友人として晴夢に接しているようだ。同性の友達も多い  
のにわざわざ自分を誘ったのは不思議だが、女同士というのは色々ややこしい面もあるよ  
うなので、あっさりしているという理由で、淡白な性格の晴夢を選んだのかもしれない。  
能天気に見えて、慣れない土地で色々気苦労はあるのかもしれなかった。  
 そう考えたら、無性にいじらしく思えてきた。だが口には出さず、晴夢はつとめて単な  
る芽衣の遊び相手として、気ままな日々を過ごした。  
 そんな時に、晴夢は芽衣の部屋に呼ばれたのである。  
 
 
 時計を見れば、もう夜の十一時を回っている。何か用事があるんだろうな、という純粋  
な義務感に、期待に似た甘い感覚を一筋混ぜながら、分厚い板のドアをノックした。  
「どうぞぉ」  
 中からはいつも通りの、舌足らずな声が聞こえてきた。だが幾分、しっとりと落ち着い  
ているようにも感じられる。ベッドに腰掛けていた芽衣は、晴夢が入ってくると立ち上が  
って、傍に寄ってきた。部屋の内装は他の客間と大して変わらずシンプルだった。  
「邪魔するぜ」  
「ごめんね、こんな時間に。どうぞ、中へ入って」  
「どうした、トランプの相手でもしてほしいのか?」  
「ん、もう。そんなんじゃないの……ねぇ、こっちに来て」  
 芽衣は晴夢の腕に、自身の細い両腕を絡ませた。晴夢はいつも通りの声で言った。  
「どうかしたのか? お前、目が潤んでるぞ」  
「……夢野君……ううん、晴夢君。お願い、芽衣の隣に来て。ここでお話したいの」  
 そう言って、部屋の端に置かれたベッドに引き寄せる。晴夢は黙って言うとおり隣に腰  
掛けた。芽衣はしばらく、腿と腿を擦り合わせて躊躇っていたが、やがて顔を上げると、  
別人のような艶っぽい目つきで静かに言った。  
「……ねぇ、晴夢君は、芽衣のことどう思う?」  
「どう、って?」  
「可愛いな、とか、綺麗だな、とか、嫌な女だな、とか」  
「そりゃ……」  
 晴夢は芽衣の瞳を正面から覗きこむと、明瞭に言い切った。  
「そりゃあお前、セックスしたいな、だよ」  
 単刀直入な返答に芽衣は少しの間、無言で晴夢の顔を探っていた。が、やがて声を立てずに柔和な顔つきで笑った。嫌な顔をするか、冗談に受け取るかの反応を予想していた晴  
夢は、落ち着いた仕草に意表をつかれた。  
 芽衣はいつもの癖で小首を傾げると、どんぐりを思わせる黒目の大きい明眸で、晴夢を  
真っ直ぐに見つめてあどけなく尋いた。  
「ホントに、そう思ってるの?」  
「あぁ、思ってるさ。お前だけじゃなくてこの世の女全員とな。ブスは除くけど」  
「芽衣だけじゃないのぉ」  
 芽衣の表情が沈み、眉間に皺が入った。  
「それが男の性ってもんだ」  
「芽衣だけじゃいやなの? 芽衣だけを見てくれるなら、させてあげるって言ったら、ど  
うする?」  
 芽衣は不意に体ごと近づいてきた。晴夢の腕をしっかり取ると、その脇腹に体躯を押し  
付け、小さな顔を顎が引っ付くぐらい近くに寄せる。芽衣の薄く開いた唇から吐かれる息  
がかかると、酔ったみたいな気分になった。  
「どういう意味だ?」  
「そのままの意味よ。芽衣、晴夢君のことずっと好きだったの。だから、セックスしたい  
と思ってくれて嬉しいの。ねぇ、他の誰でもじゃなくて、芽衣だけを見てくれるなら、何  
でもしてあげる。……駄目ぇ?」  
 芽衣は晴夢の耳元でそう甘ったれると、耳朶をそっと噛んだ。ぞくぞくとした冷たい快  
感が、背筋を這い上がってくる。芽衣の蕩けたみたいに黒く濡れる瞳を見ていたら、吸い  
込まれていくように、荒々しい衝動が体の中心を貫いた。  
 白い手が、晴夢の膝の上に置かれた。晴夢は乱暴にその手を取ると、体の向きを替え、  
芽衣を正面からベッドに倒した。新しくはないが高価そうなベッドのシーツに、柔かい黒  
髪が藻を散らしたように広がり、頭が深く沈んだ。  
 
「い、たい」  
 咄嗟に芽衣が苦しがった。男の全身が覆いかぶさってくるという初めての体験に、戸惑  
うみたいな切なげな眼をする。晴夢はそっと体をわずかに浮かし、食いつくみたいに華奢  
な首筋を貪った。形良く浮き出た鎖骨が、否応なしに情欲を煽る。  
 すでに下腹部は甘く、熱く疼き、窮屈に収めているのが限界だった。ズボンのチャック  
に手をかける仕草を、芽衣は敏感に察知し、つい身を竦め、顔を強張らせた。晴夢は目を  
細めて芽衣の白い頬を撫でた。  
「……ねぇっ……」  
 途切れ途切れに息を吐き、芽衣が上目遣いに晴夢を伺いつつ言った。晴夢はズボンを下  
ろしながら、目だけで芽衣を見た。  
「もうちょっと、待って、ねぇ? 芽衣に晴夢君に触らせて欲しいの。芽衣ばっかりされ  
るんじゃなくって」  
「……あぁ、いいぜ」  
 下半身はトランクスだけになって、晴夢は芽衣の願い出を聞き入れ、上のシャツも鬱陶  
しそうに脱ぎ去った。目配せすると、芽衣は心得たように小さく頷いた。  
 芽衣の薄いTシャツは捲くりあがって、折れそうにくびれた腰が露わになっている。そ  
れを両手で手早く引き下ろすと、おもむろに起き上がり、ベッドの上に座り込む晴夢に慎  
重に抱きついた。首に手を回し、晴夢の膝の上に軽い全身を下ろす。そして、汚れのない  
指で、硬い胸元をこわごわと触った。晴夢が少し体を動かすと、驚いて指は引っ込む。  
「どうした、続けろよ。……もっと遠慮なく触っていいぞ、手の平いっぱいで」  
「うん……。……こう?」  
 手を大きく広げ、撫でるようにして上半身をくまなく触れた。しなやかな感触に、無意  
識に気持ちが昂ってくる。ふと、芽衣は晴夢の胸に顔を埋めると、五本の指を艶かしい動  
かし方で、放り出された内腿に這わせた。無骨な脚が咄嗟に震える。  
「ねぇ……」  
 またもや芽衣は鼻にかかった、懇願する声で、囁いた。広い肩に手をかけ、鼻と鼻が触  
れ合うぐらい顔を近づける。  
 
「くび。さわっていい」  
「……あぁ」  
 子供のような手で、遠慮なく長い首をまさぐる。その手つきは自然と下に下がり、胸元  
の、乳首の辺りを無造作に触る。  
 晴夢はじっとして、されるがままに任せた。芽衣は娼婦を思わせる目つきで、下から晴  
夢を覗きこみ、無邪気に赤い舌を少し突き出した。  
「耳、触ってみていいかなぁ? これで」  
「好きにしろ」  
 晴夢と目を合わせ、了解の合図であるかの如く頷く。そして、首周りに抱きつき、頭を  
斜めにして、晴夢の耳をつつくみたいにして舌で撫でる。それに飽きたら、唇で耳朶を挟  
み込んだ。熱い吐息が、耳の内部にまで入り込んでくる。  
 そのまま芽衣は舌を下らせた。後れ毛をかきあげて首筋を舐め、肩にまで差しかかる。  
すると今度は横に滑り、柔かい感触が晴夢の背筋を粟立たせる。  
 ぐっと、繊細な体がますます密着し、背中の裏側に置かれた手は妖しく動き、媚薬のよ  
うな髪の芳香が鼻先いっぱいに広がり、そして、  
 
 
「……っつ?」  
 
 
 不意に晴夢は呻いた。それまでの、温かく壊れそうなぐらい淫靡な感触はどこかへ逃げ、  
首筋に走った一筋の痛みに全ての神経は集中する。  
 目線を滑らせて下を見ると、芽衣は相変わらずのからかうようなあどけない瞳で、こち  
らを眺めている。その小ぶりな唇は晴夢の首筋をしっかり咥え、あの端に覗く犬歯が、深々  
と皮膚を貫いて体内へ侵入している。  
 それだけならいいのだが、芽衣が軽く空気を吸い込むと、晴夢の血がその小さな穴に一  
斉に集まっていくのだ。全身の血液があわただしく向きを変え、流れに逆らい上に昇って  
いく。その赤い水はすべて、食いついたままの芽衣の口内に流れ出、そのまま細い喉の奥  
へと吸い込まれてゆく。  
 結論は簡単だった。血を吸い上げられている。  
 こんな馬鹿なことがあるのかと、怒鳴りつけたくなった時には、すでに目の前は暗んで  
いた。汗が引いた直後と似た感覚で寒くなり、うまく力が入らず、指の先が言うことを聞  
かなくなる。そして目前の視界は雨の日のガラス越しの風景みたいにぼやけ、ふっとズー  
ムになったように近づいては遠のき、上から下へ、視点は滑っていった。  
 上質のシーツに思い切り頭が沈んだ時には、もう指一本すら動かなかった。芽衣の艶か  
しい体が、眩しい肌が、晴夢の体の上に纏わりついてきた。その瞳は淫猥で、悪戯が成功  
した時のように喜々としている。その眼を見て、やっと謀られていたことを理解した。  
 
「うふふ。まだ頭ははっきりしてるでしょ? そんなに吸ってないから……」  
 美味しいジュースを飲み干した後みたいな顔をして、芽衣は若々しく磨かれた肢体を晴  
夢の身体に押し寄せる。晴夢は、からからになった喉から、絞るようにして声をひねり出  
した。  
「お……まえ……何……した……」  
「やだぁ、鈍いんだからぁ。分かるでしょう? 吸血鬼よ、吸血鬼。ドラマとかー、小説  
とかー、漫画とかー、色々あるじゃなぁい。でも実際見るのは初めてかな?」  
「……吸、血、鬼?」  
「そうなのぉ。芽衣って要するにその吸血鬼なの。だから晴夢君の血を吸って殺しちゃおうとしてるの。ごめんね」  
 屈託なく微笑み、小首をかしげた。晴夢は瞳を凶暴にしながら、まだ力が入らない指を  
震わせ、握ろうとした。が、小刻みに揺れただけで、思う通りにはいかなかった。  
「俺を、殺す、のか?」  
「そう。全部血を吸いきったら人間はヤワだからすぐ死んじゃうし、それに殺さずに帰っ  
て貰ったら困るのよね。晴夢君、芽衣が人間じゃないってこと誰にも言わず黙っててくれ  
る? 」  
 言いつつ、晴夢の胸を指でなぞった。砂の上に水で絵を描くみたいに、真っ白な指先が  
硬い胸の上を滑っていく。  
「いんや。百軒隣まで言いふらしてやる」  
 眼に力を込め、気丈に言った。芽衣は晴夢の胸に円を描くのを続けながら、くすりと笑  
った。  
「でしょう? そしたら皆にバレちゃうし、今時ヴァンパイアが生き残ってると知ったら、  
偉い科学者を名乗る人がウチに来て、連れて帰られて解剖されちゃうんだから。晴夢君も  
解剖されるのイヤでしょ」  
 桃色の唇を晴夢の胸に軽く押し付けて尋いた。晴夢はそれには答えず、上に乗る芽衣の  
目元を見据えたまま言った。  
「何で、俺を選んだんだ? お前に言い寄る男はいくらでもいただろ」  
「一番体が丈夫そうだったからよ。軟弱な男の血を吸ってもエネルギーにならないもの。  
ホントは、ふっと居なくなっても誰も怪しまないような子にしようと思ったんだけど、居  
なかったから、君にしたの」  
 そう言うなり、再び小さく穿った穴に歯を押し当て、躊躇いなく吸い込んだ。晴夢はき  
つく眉間に皺を寄せた。  
「うふん。苦しくはないでしょ? 血を吸われるって、そんなに悪いもんじゃないんだか  
ら……今まで死んでいく子に聞いてみたら、なんか、すーっと体の中の糸がほどけていく  
感じだって。うふふ、誰かが助けてくれると思っても無駄なんだから。家の人は明日まで  
帰らなくても怪しまないから、この館には誰も来ないわ」  
 残虐なことを気安く口に出し、芽衣は首を傾けて、あの愛らしい眼をした。  
 その顔を見て、晴夢の心の中に、発作的に荒っぽい怒りが噴出してきた。何で俺がこん  
な小娘にいい様にされなくちゃならないんだ、という、抵抗を通り越した、暴力的な反発  
だった。  
「おい」  
 低い声で芽衣の注意を引く。手に神経を張り巡らせ、懇親の力で握ってみる。指が動い  
た。そのまま勢いをつけて、全力で芽衣を撥ね付けた。抵抗できるとは全く想定していな  
かったのか、芽衣はあっけなくベッドの後方に尻餅をついた。  
「きゃっ!」  
 
「いい加減にしろよてめぇ!」  
「な、何よ、何で動けるのぉ……?」  
 凄まじい形相で自分を睨みつける晴夢を見て、芽衣は狼狽した。晴夢は首をゆっくりと  
回す。怒気の成せる業か、全身に活力が溢れ出てくるようだ。晴夢の顔を呆然と眺めてい  
る芽衣を見据え、冷たく言い放った。  
「フン、ヴァンパイアだかバンパーだか知らないが、男の力を甘く見すぎたんだよ、おま  
えは。どうした、さっきみたいに俺を殺そうとしないのか?」  
 一瞬、さっと血の気が失せた芽衣だったが、すぐに強気に睨み返した。  
「何よぉ、火事場の馬鹿力で立ち上がれたって、どうせフラフラじゃない! そんな状態  
で脅したって怖くなんかないんだか……ら……」  
 急に、語気が消え入りそうに弱くなった。その瞳は晴夢の腿の上側を注視している。晴  
夢が何気なく目を落とすと、丁度パンツに隠れて見えなかった部分に、傷を処置した痕が  
あった。  
「あぁ、そういえば、前椅子から釘が出てたから引っかかって怪我したんだ。その時に手  
当てしたまま剥がすの忘れてたな」  
 思い出して呟いた。ガーゼの上に貼ってある薄いテープは、十字の形をしている。それ  
を見て、芽衣は凍りつき、途端に泣き出しそうな顔をした。  
「? 何だよ?」  
「………うぁぁん! 来ないでよ、馬鹿!」  
 半泣きになり、ベッドから下りた。晴夢が後を追うと、青ざめて壁に背中をつける。晴  
夢は、やっとその理由を理解した。  
「お前、もしかして十字架が怖いのか? 吸血鬼だから?」  
「………」  
「ははん、これは思わぬ弱点があったもんだな。いくら威張ったって、それじゃあ処置な  
しだろ。さあ、俺を騙した罰だ。たっぷりお仕置きしてやる!」  
「だ、誰があんたなんかにぃっ!」  
 晴夢に肩を掴まれ怯みながらも、芽衣は瞬時の判断でその股間を思い切り蹴り上げた。  
間抜けな声を上げ晴夢はうずくまる。  
「何しやがんだ、てめぇ……! おい、待て!」  
「べーっだ! 鈍い人間なんかに捕まらないから!」  
 小気味良く言い捨て廊下に出ると、勝手知ったる家の中を迷うことなく駆けていった。  
 
「……くそっ、どこ行ったかわかんねぇじゃねぇか」  
 手早く衣服を身につけ、追いかけて部屋を出たときには、すでに周囲に人の気配はなか  
った。しばらく憤然として辺りを見回した晴夢だが、やがて一つ思いつき、階下へ下りた。  
 暗闇に包まれた廊下を手探りで進みながら、最初案内された部屋へと向かった。広間は  
少し扉が開き、そこから明々とした光りが漏れている。勢い良く扉を開けると、中には誰  
もいなかった。  
「どこ行ったんだ、あの親父? あいつなら隠れる場所知ってると思ったのに……」  
 一人口に出して呟きながら、晴夢は狗蔵の姿を探した。暖炉の中まで身をかがめて覗い  
てみているところへ、後ろから声がかかった。  
「こんな時間に、もしかして私をお探しかね?」  
 振り向くと、いつもの通り、悠然とパイプを咥えた狗蔵が体の後ろで手を組んで立って  
いた。晴夢は何気なく尋ねる。  
「おぉ、先生、丁度よかった。アンタの娘がこの館の中に身を隠しちゃってるんだけどさ、  
どこに居るか知らないか?」  
「知っているとも。だが、それを教えたところで、君は芽衣の元へたどり着くことができ  
るかな?」  
「どういう意味だ?」  
「こういう意味だよ。君は今ここでシヌ」  
 途端に狗蔵の顔つきが凶悪に変化した。目は釣りあがり、口は頬の真ん中辺りまで横一  
文字に裂けていく。鼻先が刃物のように前へ尖っていき、そして何より変化が著しかった  
のは、その全身を覆う体毛である。体中の毛の一本一本が、毛穴ごと大きくなったかの如  
く太く鋭くなっていった。そしてものの五分もしないうちに、そこには先程までの狗蔵と  
は似ても似つかない、生臭い息を吐く獣の姿が一匹あった。  
「狼、か」  
『ほほぅ、やはりわかるかね。物理は苦手だが動物には一般的素養があるみたいだね、夢  
野君。だがわかったところでどうなるものでもない、今君の人生はここですぐ終わるのだ  
からね』  
 狼に変化した狗蔵は、相変わらずもったいぶった口調で言った。その深く裂けた口には  
鈍く光る牙が隙間なく並んでおり、どんなに硬い鉱物でも噛み砕いてしまいそうだった。  
 低い声で唸り、今にもその柔軟な肢体を眼前の少年の胸元に飛び込ませ、喉を喰い千切  
りそうな狗蔵の様子を、晴夢は表情に変化をつけずに眺めている。  
 
 その反応を、狗蔵は嘲った。  
『あまりのことに声も出ないかね、夢野君。そんなに脅えることはない、今その恐怖を私  
が断ち切ってあげよう。私がこの姿でその生命を閉じてきた数々の人間達と同じようにね』  
 そこまで言うと、獰猛な牙から透明の涎を滴らせ、真っ赤な口を大きく開き晴夢に飛び  
掛ってきた。  
『喉元掻っ切ってやる、小僧ォ!』  
「うるせぇっっー!! ワン公の分際で人間様に楯突くんじゃねーー!!」  
 狗蔵の吼え声よりもひときわ大きい怒声が辺りを貫いた。そして何もかもが静止した後。  
そこには、限界まで開いた口に、喉笛の柔かい肉ではなく、硬い足の裏を突っ込まれ、そ  
の勢いで床に叩き臥された狗蔵が、情けなく横たわってた。晴夢は足首をいっぱいまで突  
き入れたまま、狗蔵の口の中でぐりぐりと左右に動かした。靴の下で長い舌が容赦なくに  
じられ、狗蔵は腹を上にして倒れたまま悶絶した。  
「おらどうした? 俺の喉元掻っ切るんだろうが、さっさと喰いついてみろよ、足なんか  
かじってんじゃねぇ!」  
 そう言い、一瞬浮かした足を全力で床に叩きつける。その痛みに狗蔵は、なりふり構わ  
ず悲痛な声を上げた。  
「あぁーん、そんなに足が好きならいくらでもかじらせてやらぁ。ほら、好きなだけ味わ  
えよ。美味いか、え? 何とか言ってみろ」  
『や……やめ……』  
「あぁ、聞こえねえなぁ? ワン公の分際で行儀が悪いんじゃねぇえか? お前の娘は俺  
をコケにしやがるし、どうやらお前ら親子は人間様に対する礼儀ってもんがなってねぇな  
ぁ! おらアイツは何処いったんだ? 喋らないと自慢の牙ぁ全部叩き折るぞ!!」  
 低い声で呪詛を吐きながら、ますます狗蔵の口内に深く足を沈める。その暴虐にとうと  
う狗蔵は、白状した。  
 
『め、芽衣は、多分屋根裏部屋にいる。あそこは安全だから、きっとあそこに隠れている  
に違いない』  
「屋根裏部屋だぁ? どうやって行くんだ、そこは? 嘘つきやがったら喉の奥まで足突  
っ込むぞ」  
『そ、そこの突き当たりの角を右に曲がったら、隅に隠し階段があるから、そこを上に行  
けば』  
「あっそ、ありがとよ」  
 素っ気無く吐き捨てると、ポケットに両手を突っ込んだまま、片足を引っこ抜いた。空  
中で汚れを落とすようにして振り、何事も無かったかの如く歩き出す。  
「ったく、ワン公の下品な臭いが染み付くとこだったじゃねぇーか。何から何までムカつ  
く親子だ」  
 更に暴言を一人吐き出す晴夢の後ろで、狗蔵は元の人間の姿に戻っていた。起き上がる  
と、怒りに燃える瞳で晴夢の後姿を視界に捉え、どうしようもない衝動に突き動かされ両  
手を振り上げ殴りかかった。  
「お、おまえだけは許さん! よく……も……」  
「あぁ、よくも何だぁ?」  
 自分に襲いかかる狗蔵の股間を、芽衣が自分にしたように、晴夢は強く蹴り上げた。言  
葉にならない嗚咽を漏らし、狗蔵は床に崩れ落ちた。  
「はん、それがお似合いだぜ。じゃぁな」  
そう言うと、晴夢は芽衣の所へ一直線に向かった。  
 
 
 晴夢は気づかない内にほとんど全力疾走しながら、狗蔵から聞き出した隠し通路を駆け  
上がり、芽衣が身を潜める屋根裏部屋を見つけ出した。  
 荒げた息を整え、乱暴に足で扉を蹴破ると、質素なベッドの上にぼんやりと座っていた  
芽衣が何よりも驚いたという顔をして身を固くした。晴夢の上に乗り微笑んでいた時の余  
裕は消えうせ、ただ怒りに充ちた侵入者を心の底から畏怖している。  
「な、どうしてここがわかったの……?」  
「おお、ずいぶんかび臭い部屋じゃねぇか。他の客室より質が落ちるようだな。贅沢なお  
前がこんなところに逃げ込むなんざ、よっぽど俺が怖かったのか」  
躊躇なく部屋に入ってきた晴夢は、芽衣と目を合わせながらゆっくりと追い詰める。芽  
衣は晴夢から身を守るようにして壁に背中をつき、部屋の奥へと後ずさった。  
「ま、おまえが俺に躾なおされる舞台としちゃあ、なかなかお似合いじゃねぇか」  
「ど……どういうこと?」  
 
 晴夢は悪しざまに口を歪めて笑うと、大股で一気に芽衣との距離を縮めた。芽衣が身を  
よじって逃げようとするのを素早く捕まえ、細い体をシーツの上に強引に沈めた。  
「こういうことだっ」  
「なっ、やめっ……」  
「さっきはよくも俺を嵌めてくれたなぁ、今度は俺がお前にハメる番だっ」  
「放して、放してってば! パパはどうしたのっ」  
 長い手足をばたつかせる芽衣を、上から組み伏せながら、晴夢は薄く笑った。芽衣は背  
筋が冷たくなるのを感じ、思わず大人しくなった。  
「あの犬野朗なら、俺がきっちり人間様へ対する礼儀ってものを教えてやったよ。だから  
今度はお前に教えてやろうってんだ」  
「そんなのいらないわよっ、馬鹿な人間のくせにぃーーっ! あんたなんか大嫌いっ」  
「ほほう、言ってくれるじゃないか。その人間に抵抗できず、恥ずかしい目に遭っていく  
お前が不憫でならないよ」  
 同情めかしてそう言うと、芽衣の衣服を無理矢理剥ぎ取った。下着を着けていなかった  
芽衣の白い胸が、突然空気に触れて身を竦めたようにして上下に揺れた。  
「や、だっ……」  
 顔を崩して泣き出しそうになった芽衣を見下ろし、丸い尻をじっくりと撫でる。芽衣は  
背中の毛穴が開いたみたく、身体中を悪寒が走った。既に、臀部を隠す短いショートパン  
ツしか、身につけているものはない。  
「やだっ、離してよぉ!」  
「駄目だね。今になって、許してやるもんか」  
 短く言い、芽衣の身体を粗暴な手つきで弄った。芽衣は整った顔を歪めて泣き出す。  
晴夢は呆れるぐらい柔かい腿の内側を堪能するように撫でながら、その様子を見て嬉し  
げに笑った。  
「いいねぇ、盛り上げてくれるじゃないか。お前の童顔が泣き濡れるのは、見てて何とも  
いえない気持ちになってくる」  
「ひっ、ひどい! 貴方、人間のくせに吸血鬼を犯すっていうの?」  
「うるせぇ、吸血鬼のお前に人間の倫理を説かれたくないなー!」  
 怒鳴り、芽衣の形のいい胸を強く握った。芽衣が苦痛に息を荒げるのを、面白そうに眺  
める。  
「んー、やっぱり大きいな。Dカップってとこか」  
「やだ、スケベっ」  
「お前もだろ? 演技だけであんな色っぽさを出せるかよ。この可愛い顔で、一体何人の  
男をたらし込んできたんだ」  
 芽衣の顎を二本の指で掴み上げ、耳元で囁いた。芽衣は元気良く反発する。  
 
「たらし込んでなんかないもんっ、アレは単に、みんな血を吸わせてって言っても言うと  
おりになんかしてくれないから、人間の男は馬鹿だから、ああやって騙しておけば一人残  
らずあっさり騙されて……」  
「ほぉ、その馬鹿な男に今お前は組み伏せられてるわけだ」  
 晴夢は言いながら、その舌を芽衣の耳に中に差し入れた。芽衣はつい抵抗を一瞬止め、  
大きく全身をびくつかせる。  
「んゃっ……」  
「気持ちいいか?」  
「やめてぇっ……」  
「ふふ、他人には平気で纏わりつくくせに、自分の快楽には免疫がないみたいだな。面白  
いじゃねえか、今日お前の身体に、男の良さをたっぷり刻み込んでやるぜ」  
 言うなり晴夢は着ているものを脱ぎ去った。芽衣はその一瞬の隙をついて、晴夢の身体  
の下からすり抜けた。が、華奢な足首を素早く掴まれ、膝をついて四つんばいになった体  
勢のまま身動きを封じられた。  
「ちょっ、放してよぉっ」  
 首を後ろに捻って、晴夢の眼に訴えかけた。だが晴夢は欲情を滾らせたまま、半裸の芽  
衣の白い肢体を隅々まで眺めている。芽衣は思わず顔を紅くする。  
「いい格好だな」  
「やだぁ、見ないでよっっ」  
「そうか、じゃあ見るのはやめよう」  
 晴夢は尻を突き出したまま嫌がる芽衣のショートパンツを、乱暴に引き摺り下ろした。  
下着も一緒に膝下まで下ろされ、桃色の花芯が隠すものもなく、卑猥な目線に晒される。  
芽衣が何か言う暇もなく、晴夢はその閉じられた花弁に舌を這わせた。芽衣は暴れようと  
する腿を抱え込まれ、犬の格好をしたまま嫌悪と羞恥で泣き喚く。  
 その様を加虐的な眼で見つつ、晴夢は芽衣の突起状の豆を甚振った。芽衣の意思に関係  
なく、自由をなくした体躯が思わず波打った。晴夢は苛めるみたいな声で囁く。  
「ふふ、人間じゃなくても、クリトリスは気持ちいいのか」  
「ぁゃっ、やだあぁっ……やめてよ、お願いだからぁっ……」  
「どうした、嫌なのか? 嫌ならしょうがないな」  
 
 そう言いながら、表側をまんべんなく唾液で濡らし、中にまで差し込んでいた舌を、一  
筋の糸を引いて抜いた。  
 そうして次は、芽衣の小刻みに震える尻に手をあてがい、己の猛ったものを入り口に押  
し当てた。芽衣は全力の力を込めて、それから逃れようとした。が、シーツの上に突っ伏  
した芽衣の太腿を横に大きく開くと、晴夢は容赦なく芽衣を貫いた。ぱぁん、と体内で何  
かが弾け、芽衣は喉から声を振り絞った。痛々しい悲鳴が一筋、寂れた館内に反響する。  
「やだぁっ、いぁっ、い、た、いっ……っ……」  
「あれも嫌、これも嫌、注文の多い奴だな。慣れないなら痛いに決まってんだろ、我慢し  
ろ」  
 晴夢は身体を動かしながら、芽衣の毀れるように揺れる胸を愉しげに眺めつつ、冷たく  
そう言い放った。ずぶずぶと、さらに晴夢の熱い棒が、奥深くまで侵入してくる。生まれ  
て初めて味わう異物感に、芽衣は子供のように甲高い声で叫び続けるしかなかった。  
 晴夢は心地良さそうにそれを聴き、脆い膜をこそげ落とすみたく、内部を引っ掻き回す。  
「い、やぁっ、放してっ……」  
 言いつつも、芽衣はすでにぐったりとして、晴夢の手を払いのける気力も失せたようだ  
った。しばらく経つと、晴夢は芽衣の中から自身を引き抜いた。一筋、紅い血が垂れてい  
る。  
「へぇ、吸血鬼でも、初めてなら血が出るんだな」  
「………」  
 短く笑うと、晴夢は言い返す体力もない芽衣を裏返し、今度は先程まで自身が収まって  
いたところの上にある、小さな穴に舌をあてた。突如、割り込んできた生々しい感触に、  
芽衣は声を上げる。  
「な、何するの……?」  
「気持ちいいことさ」  
 晴夢は眼だけで笑んだ。固くしこらせた舌を、綺麗な菊状を描く窪みに挿し入れ、中で  
うねらせた。臓器の裏側を舐るような感覚が芽衣の体内を荒れ狂う。不快とも快楽ともつ  
かない、何ともいえない気分だった。  
 そして、その後晴夢が何をしようとしているのか気づいたときは、消耗も吹き飛び嫌が  
った。  
 
「やだっ、駄目ぇっ、お願いやめてえっ!」  
 だが晴夢は動じず、逆に喜びながら芽衣を押さえつけた。  
「嬉しいねぇ、もっと泣き叫んでいいぜ、そっちのほうが気分出る」  
「あ、悪魔っ!」  
 毒づく芽衣を自分の膝の上に座らせると、晴夢は腰を前へ動かし、細い道に凶暴なもの  
を沈めた。裂けるような痛みが身体の中心を走り、芽衣は自分が声を上げていることすら  
気づかず、その衝撃に身をよじらせた。晴夢は花弁と変わらぬ激しさで芽衣を貫き、柔か  
い内部がそれを必死で受け入れる。まるで破裂せんばかりの苦痛だった。  
「やだーっ、放してってばぁーっ」  
「いいぜ、その泣き声。何たって明日まで、ここで何があっても誰も怪しまないし助けに  
もこないんだからな。一晩中愛し合おうぜ?」  
 芽衣が言った言葉をそのまま返し、晴夢はいっそう深く突いた。芽衣はひときわ悲痛に  
声を上げ、絶望と屈辱を持て余しつつ、叫んだ。  
「酷い、あっ、あんたなんか人間じゃないんだからーっ!」  
「お前もだろ。同じ人間じゃない奴同士、仲良くしようぜ」  
 晴夢は何でもない口ぶりでそう言い、芽衣の泣き声が辺り中に響く中、陵辱は一晩かけ  
て行われた。  
 
 
 翌日。すべてのものに健全な朝の陽射しが平等に降り注ぎ、夜が開け切った後の清爽な  
空気が辺り一面を充たしていた。  
 晴夢がまばゆい光りの中目覚めると、隣で真っ赤に眼を泣き腫らした芽衣がこちらを伺  
っている。芽衣は身体を起こした晴夢の腕に自分の腕を巻きつけると、一言こう呟いた。  
 
「……昨日は、よくもやってくれたわね」  
 その語調は怒っているというより、一晩を過ごした者が初めて目を合わせた時の照れく  
ささがあるように思えた。晴夢は頭を掻き、昨日の出来事を整理しながら取り合えずこう  
言った。  
「何だ、怒ってるのか? まさかまだ俺を殺すとか、そういうのを」  
「ううん。もうそんなこと考えてないわ。だって自分の夫となる人間を殺しちゃったら、  
未亡人になっちゃうし」  
「へえ、夫。……夫?」  
 違和感のある単語に晴夢が思わず聴き返すと、芽衣は眩しい笑顔で爽やかに告げた。  
「そう。番播一族には、初めて唇を交わした者と結婚しなければならない掟があるの。晴  
夢君はその習わしに従えば、芽衣の夫よ」  
 すらすらと流れ出てくる言葉に、混乱した晴夢は頭を抱えうずくまった。が、次の瞬間  
勢い良く頭を起こすと救われた気持ちで晴れ晴れと答えた。  
「何言ってるんだ、俺はお前と唇を交わしてなんかいないぞ!」  
 確かに、昨日の一連の流れでも、キスはしていなかった。だが芽衣はそれに対し、あの  
いつもの動作で小首をかしげ、愛らしく笑って言った。  
「うん。でもねぇ、さっき晴夢君が寝てる間に、芽衣がキスしちゃったの。だって、もう  
芽衣は晴夢君以外の人と結婚する気なんてなかったんだもん」  
 あのすべての男が魅了される、蕩ける笑みである。そのあどけない笑みと、簡単な返答  
を聴きながら、晴夢は再び考え込んだ。  
 つまり。  
「……俺は、今日から」  
 泣きそうな声だった。そんな晴夢に嬉しそうににじり寄ると、芽衣は首の後ろに腕を回  
し、無邪気に言った。  
「そう。ね、せっかくだからちゃんとキスしよ……いいでしょ?」  
 長い睫毛の瞳がたおやかに潤う。白く眩しい肌は陶磁器のよう。ウェーブの髪は、柔ら  
かく流れる。  
 晴夢は真顔でその爛漫とした顔を凝視し、言った。  
「――あぁ、そうだな」  
 そして、芽衣の身体ごと自分に引き寄せた。細い顎を上に向かせ、人形のような唇に強  
く自分の口を押し当てる。舌と舌が繋がり、唾液が混じった。  
 恍惚とした顔をしている芽衣を、しばらく間をおいて突き放すと、ベッドの隅に散乱し  
ていた服をすかさず手に持って、部屋を出た。  
「どこ行くのよっ」  
「俺はお前と結婚するなんざ真っ平御免なんだよ! 俺の夢は世界中の女と遊ぶことなん  
だからなっ、じゃーなっ」  
「人間の女なんか相手にしなくていいじゃない、芽衣一人で充分だってば! 待ってよぉ、  
逃がさないからぁ!」  
 芽衣は地団太を踏み悔しそうに言うと、ベッドから跳ね下りてその後を追いかけた。  
 
 
 朝日が振り込む屋敷の中、一階の広間では昨日から狗蔵が同じ体勢のまま、世の無情を  
嘆いていた。  
 
 TO BE CONTINUED?    
 お終い  
 
 

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