二ノ宮杏菜(にのみやあんな)は、一体自分が何故こんなところにいるのか本当にわからなかった。  
 
 
 今日一日の行動を思い返してみても、普段となんら変わりはなかったはずだ。私は何にも悪いことして  
ないわ、という心持ちで、杏菜は冷たい地面に放心したように座り込み、他にどうすることもできずここ  
に至った経緯に思いを巡らせた。  
 杏菜はいつも通り、白いブラウスの上に裾の長い黒いニットを着ており、胸元にはグリーンのラインが  
入ったボリュームのあるリボンを蝶結びにしている。短いスカートから伸びる足を覆うハイ・ソックスは  
紺色で、足元はローファーという、毎日同じの通学スタイルだ。  
 
 が、今杏菜の目の前に広がる風景は、平坦な日常生活とはかけ離れた異様なものであった。杏菜は頭を  
抱え込む。どうなってんの、と思わず心中で高い声を上げる。今日もいつもと同じ八時半に母親に起こさ  
れ、鏡の前で念入りに髪を整えてから学校に向かい、退屈な授業を受け、昼食を食べ、居眠りをし、放課  
後は教室でお喋りをしてから帰路についた。こんな異常な事態に放り出される要素など、一分もなかった  
はずだ。  
 
 
 しかし。杏菜は気弱に顔を上げ、きつく瞬きをする。だがどれほどしっかり瞼を閉じ、夢から覚めるよ  
うにと期待をこめて力一杯開けようとも、視界は変わらないままだった。素っ気無く突き放されたような  
気分になって、固い地面に全身を投げ出して泣き出したくなった。  
 そんな杏菜を笑うように、瞳に映る荒涼とした黄色の大地には、冷たい砂埃が吹き続けている。杏菜は  
弱々しい表情になってそれを見つめた。  
 辺りをどれほど見回しても人の気配はなく、気温は肌寒い。さらに砂っぽい風が容赦なく吹き付けてく  
るので、自慢の黒髪はざらざらした感触を含んで、いつもの光沢を放つような艶やかさはすっかり失われ  
ている。これが頭を巡らせて追いつく範疇であれば、眼前の虚空を睨みつけて一言毒づくぐらいのことは  
してやるのだが、今はこんな場所に来るなど想像もしたことのない、現実味のない空間に一人置き去りに  
されている。生まれ持った気強さや能天気さも身を潜めて、杏菜は眉を八の字に下げ目尻に涙を滲ませた。  
 
 
 どれほど目を凝らして遠くを見つめても、水平線のようにただ地面が続いているだけで、突き出した岩  
や傾斜はあっても杏菜が求める類のものは一切なかった。道路標識でもビンでもゴミでも、自分の目に見  
知ったものがあるだけで、このどんな感想を吐いて良いかもわからない空疎な世界からずいぶん救い出さ  
れると思う。だがいくら念じようとも、何もない広々とした大地があり続けるだけである。いっそこの景  
色そのものがテレビのスイッチを切ったときのように横にぶれて真っ暗になり、気がついたら見慣れた自  
分の部屋にいるといいのだが、ありったけの意識を込めても辺りは揺らぎもしないまま、体表は固くざら  
ついた地面の感触を感じ続けている。  
 
 
 上を見上げると、鉛色の空があった。どんよりと澱んだ雲が、錆びついたようにゆっくりと流れている。  
杏菜は心の曇天を映し出しされたような気分になって、観念したみたいに声を上げてしゃくり上げ始めた。  
 
   
 その時、不意に何かが地面を駆ける音が聞こえてきた。耳に一筋流れ込んできたそれは、最初は単に  
地響きに似た唸りにしか聞こえなかったのだが、よく耳を凝らすうちに、何者かがこちらに近づいてく  
る音だとわかった。  
 
 注意しなければわからない程度のものだったが、見渡す限り同じ景色で、感覚が普段より鋭敏になっ  
ている杏菜はすぐに気がついたのだ。地獄の池に落ちた男が蜘蛛の糸に縋る気分で、その重々しい地鳴  
りを追い続けていると、次第にそれは大きくなり、やがて視界の端に、粟立つみたいに砂塵が広がった。  
 
 無心にそれを注視したら、砂塵の中心にいるのは上に人を乗せた馬の団体で、大きな体躯を支える  
四本の足が地面を蹴ることによって砂が舞い上がっているのがわかった。心を空っぽにして見つめてい  
ると、最初は小さな黒い点に過ぎなかったそれらはぐんぐん近づいてきて、気づいた時は自分の目の前  
で一斉に止まった。ブルルル、と鼻を鳴らす馬は黒光りしていて、今まで見たことのある動物の中で  
一番大きかった。  
 
 思わず圧倒されていると、その上にまたがった男が体を斜めにして、地べたに座り込んだ杏菜を興味  
深げに見た。先程まで先頭を走っていたその男は、汚れているが頑丈そうな皮で出来た服に硬そうなブ  
ーツを履いて、顔は四角くていかつい体格だった。顎から耳の後ろまで野卑な髭にびっしり覆い尽くさ  
れており、乱髪が風になびいている。  
 
 杏菜はぼんやりとした表情で、男の顔を覗き込んだ。見回せば、馬に乗るのは全員男であり、数えて  
みると七名ほどいるのだが、彼らは自分を取り囲むように円になっている。  
 
 再び円の中心の男に視線をもどせば、男は目をいやらしげに細めて杏菜の全身をじろじろと眺めていた。  
杏菜の肌を嫌な予感がひしひしと貫いたが、どうすることも出来ず、その精悍な顔つきのリーダー格と  
見られる男が、叩き伏せるように威圧的な語調で問いかけてきても、たどたどしく返事をするしかなかった。  
 
「おい、お前はこんなところで何をしているんだ!」  
 警察が、夜中に道端に立つ商売女を詰問するみたいな、辺り中に響き渡る力強い声だった。杏菜は思わず  
身を竦めながら、「わたし……」と弱く呟いた。  
「わ、わかんない、気がついたらここに………」  
 杏菜がすっかり脅えているのに、男は征服欲が満足したのか、口の端をにやりと上げて続けて言った。  
「おまえ、どこから来たんだ」  
「あの、わたし、家に帰ろうとしてたんだけど、いつもの道歩いてて、そっから猫を追いかけてて、  
それで、よくわかんないうちにここにいて」  
 
 言い終わったあと、杏菜はふと思い出した。そうだ、いつも通り友達と別れて帰り道について、  
遠藤さんちの白い塀に出たところで、塀から地面に軽やかに下りてきた猫が何かを咥えていたので  
好奇心にかられ追いかけたら、次の角を曲がったところでぱんっと何かに衝突したみたいに真っ白  
になって、しばらくして気がついたらここに倒れていたのだ。その時のことを丁寧に思い返すと、  
意識が途切れる一瞬前、誰もいない路地に出た自分の真正面に、白いドアのような四角いものを見た  
気がする。それに真っ向からぶつかり、いや飲み込まれ、いや潜り抜けて? ここまでやって来たの  
だろうか。  
 
 
 杏菜が呆然とした目で中空を見つめていると、男は馬鹿にした声を出した。  
「ふん、なんか知らんが呆けてやがるな。こいつ、どう思う?」  
「この女、『マヨイ』じゃないですか」  
 ふと聞きなれない単語が耳をかすめ、杏菜は顔を上げて男と目を合わせた。自分で意識しないうち  
に、すがるような弱々しい顔をしていたようで、男は完全に下の人間を見る目つきで杏菜を見下ろした。  
「そうだ、違いねえ。おい女、お前はいくところもないんだろう。ここじゃあ『マヨイ』は、見つけて  
拾った人間のものにしていいことになってるんだ。その道理じゃあ、俺が一番最初に見つけたお前を、  
俺のものにしたって文句はねえな」  
「ま、まよい、って?」  
「へへ、マヨイってのは、お前みたいに、どっから来たのか自分でもわからずにぼんやりふらついてる  
奴のことだ。どこからか迷い込んでくるから、マヨイって言うんだ」  
その意味を頭で理解し、噛み締めているうちに、男はさっと馬から半分身を乗り出して、下にいた  
杏菜を掬い上げた。  
 
「きゃっ? な、なにすんのよ!」  
 軽々と抱え込まれ、男の前に荷物みたく置かれた杏菜が驚いて声を出したのを、男の唇が塞いだ。  
急な出来事に、杏菜は大きな瞳を激しく瞬かせた。ぬめった感触が口内を這い回り、汗じみた臭いが  
鼻から入り込んでくる。口を離すと男は冷たく言い放った。  
「お前は俺の所有物になったんだ、俺は今からお前のご主人様だ。俺のモノをどうしようと俺の勝手だ」  
「そ、そんなものになった覚えなんかないっ」  
 
 男の胸の中に抱え込まれたまま叫ぶと、周り中から弾けるみたいな笑い声が上がった。脇にいた  
痩せぎすの男が、馬の上から杏菜に向かって子供に言い聞かす声でこう言った。  
「お前が覚えがなくても、この国の法律でちゃーんと決まってんだ、わかったかい、お嬢ちゅわん」  
「それともここで一晩明かすかい、夜になりゃあ砂雑魚の餌食になって、朝には白い骨が転がってるよ」  
「大人しくお頭の言うこと聞いたほうがお利口さんだぜ」  
「マヨイの行く道なんて、男なら死ぬまで炭坑の中を這い回るか、ガスの出る洞穴に潜るはめになって、  
女ならせいぜい見世物小屋に売り飛ばされるか浮浪者の慰み者だぁ」  
   
ぽんぽんと下卑た揶揄が飛んできて、杏菜は抵抗もできずに言葉を失った。男らの話では、ここに  
いれば一晩も持たずに凶暴な生物の餌になる運命のようである。なら、少しでも長く生き延びるなら、  
この男に今は拾われるしか選択肢はなかった。  
 
 お頭と呼ばれた男はすっかり大人しくなった杏菜の顎を二本の指で掴むと、自分の方へ向けさせた。  
まじまじと好奇に満ちた目で杏菜の顔を眺め、口から乱杭歯を覗かせ、言った。  
「気の強そうな顔してるじゃねぇか、俺はお前みたいに顔が良くて聞き分けの悪いガキが一番好きだぜ。  
たっぷり教育して、男の偉さというものをわからせてやらなきゃいけねぇな」  
 ははははは、と下品に笑うと、馬の腹を足で蹴った。鳴き声を辺りに響かせ、馬は最初見たときと  
同じように、勢い良く走り出す。杏菜は男の腕に抱えられながら、この後に予想される苦難を想像した。  
 
 
 
 杏菜を拾った男らが馬を走らせ、数時間かけて辿りついたのは、そう大きくもないが活気のある街だった。  
砂が入るのが耐えられず、それでも何とか細く目を開いていると、不意にずっと向こうに豆粒みたいな建物の  
集まりが見えてきて、ついほっと息をついた。  
 
事態が何も好転しているわけでもないのだが、この砂ばかりの風景を長く見過ぎたため、人のいる場所に  
出れただけで一旦心が上向きになったのだ。空は鉛色が幾分暗く濃くなって、重苦しい色合いになっている。  
杏菜は灰色の風景に己の運命を映し出して睫毛を伏せた。  
今まで生きてきて、これほどまで不安で心細い気持ちになったのは初めてだった。  
 
 男らは街に入ると、ごみごみした通りを抜け、ある薄汚れたレンガの階段の前で馬からおりた。  
頭の男は杏菜を抱き抱えて地面に下ろすと、その細い階段を上った奥にある、暗くしけた雰囲気の  
店に無理矢理連れて行った。ガラスの破れたドアをくぐると、耳障りなベルがカランカランと鳴り、  
狭い店の真ん中には古びたカウンターが置いてあった。そこに腰掛けている年老いた男が、興味  
薄そうに二人を見上げる。丸い眼鏡をかけた、小柄な老人だった。  
 
「よぉ、今日は上玉を連れてきたぜ」  
 頭の男は、慣れた様子でそう声をかけ、杏菜をカウンターの前に突き出した。  
 老人は、んー、と呟きながら眼鏡の縁に手をかけ、杏菜を頭の天辺からつま先まで一瞥し、  
もごもごと篭った声で男に向かって、  
「なにやら奇妙な身なりをしてるが、これはマヨイかね、まだ変化してないようだがね」  
 と老成さが滲み出た声で言った。  
「おおよ、間違いなくマヨイだ。変化はこれから始まるんだろうよ、その前に俺が手をつけて  
飼いならそうと思ってな」  
「いくらお前さんが仕込んだところで、渡す金額は決められたぶんだけだよ」  
 ちっ、わかってらぁ、守銭奴のジジイめ、と毒づき、男は杏菜の腕を引いて店を出た。  
 
階段を下りて通りに出ると、下に残っていた男達が、入り口に馬を繋いでいる最中だった。  
「こいつ幾らぐらいでした?」  
「まだわかるかぁ、変化したあとにどんなんになるかわかりゃしねぇんだ」  
 素っ気無く言うと、杏菜の腕をまた乱暴に掴んで、今度は街の外れのけばけばしい外装の  
建物へ向かった。その扉をつま先で蹴って開けると、おい帰ったぞ、と胴間声を張り上げる。  
中からは貧相な成りの背の低い男が出てきて、お頭お帰りですか、と媚びた声で言った。  
 
部屋の中は乱雑に散らかっており、酒や情交を重ねた臭いが染み込んでいた。どうやら  
この男らの根城であるようだ。  
留守番をしていたらしい若い男は、横に立つ杏菜の顔をちらりと見、「こいつは?」と訊いた。  
おう今日拾った奴だ、と部屋の奥にずんずん進みながら男が答えると、へぇ、まだ普通の体して  
ますけど、もう売値は決まったんですかい、と先程の男らと同じようなことを質問した。  
 
「いやまだだ、あのジジイ足元見やがって、変化が起こっても抱けるナリしてたらあそこへ  
売り飛ばして、駄目なら見世物小屋に連れてきゃいいだけの話だ」  
「へーえ……こいつ今可愛い顔してるのに、変化が起こったら目も当てられない様になるってぇ  
こともあるんですからね、マヨイってのはわかりませんわ」  
 
 言いながら、奥へ消えていく杏菜の全身を邪気に満ちた目で眺めていた。頭の男は杏菜を  
一番奥まった部屋に連れて行くと、乱暴に背中を押して、床に敷かれた寝床の上に倒れ込ませた。  
 
 足を前方に投げ出して、脅えた目で自分を見上げる杏菜を、楽しげに眺めたまま、男は衣服を  
手早く脱ぎ去った。杏菜は露出した男の肌を目にして、ひきつるような声を出した。  
「へへ、怖いのか? 叫んで暴れたって誰も助けにゃ来ねえぜ、マヨイはここでは道端で腹を  
すかした野良犬と同じか、それ以下だからな」  
「あ………」  
 懇願する視線を投げかける杏菜に、下卑た笑いを浮かべた。  
 
「心配しなくたってお前も、すぐ一人前に床あしらいできるようになるさ。あいつらだって、  
今日は久々の根城に帰ってきて、さっき行ったあの店で好きな子を抱いてるぜ。あの店にいる  
メスどもの半分は、元はお前とおんなじマヨイだった。お前をあそこへ売った後は、俺も  
ときどき買いにいってやるよ」  
 絶望的ともいえる一言をあっさり繰り出すと、その屈強な体で杏菜を組み伏せようとした。  
杏菜は我を忘れて抵抗した。  
 
「やっ、やだっ、やめてえ、放してっ!」  
 指の間を一杯に開き、振り出した手の平が、勢いでばちん、と音を立てて男の顔に当たった。  
手痛い反撃を顔面に食らった男は、怒気を滲ませた表情で口から泡を飛ばした。  
「何しやがる、この、糞アマがっ!」  
 男は杏菜の二の腕を硬い床にねじりつけ、白い脚の間に自分の体を割り込ませた。  
カエルが解剖台の上に引きずり出されたような格好で、杏菜は泣きじゃくりながら二本の脚を  
ばたつかせる。大きな体躯が全身に覆いかぶさってきて、あの野性的で下品な臭いが鼻腔を貫き脳内を埋め尽くした。  
 
男は荒々しい手つきで杏菜の服を剥ぎ取ると、床に散らばった黒い髪に顔を埋め、固い胸板を杏菜の体に擦り付けた。  
杏菜は悲愴な声を上げたが、その声は男の口内に飲み込まれて消えていった。  
 
男はぬらぬらとした唇を残虐に歪ませながら笑い、  
「聞き分けのない子供には躾が必要だな」  
 と言うと、杏菜を反対に引っくり返して、手元にあったシーツを裂いて両の手首に巻きつけた。  
そして体を起こしてふてぶてしく胡坐を掻くと、杏菜を片手で簡単に引き寄せる。手を縛られた杏菜は、  
身動きできずに、膝を曲げた体勢で男の胸元に倒れ込んだ。  
 
男は杏菜の首筋を掴んで顔を真っ直ぐ上げさせると、そのまま首から胸、胸から腹に向かって舌を這わせていった。  
全身を嬲られる感覚に、杏菜は片目をぎゅっと瞑ったまま、小さく体を震わせるしかなかった。  
 
「随分いい体をしてるじゃねぇか」  
 乳房を無造作に掴んでにじられ、その鮮烈な痛みに、杏菜は大きく体をびくつかせた。男は面白そうにそれを見、  
丸い尻をじっくりと撫でたのち、豊かな内腿に何度も指を往復させる。嫌悪と羞恥で吐きそうになったが、  
出てくる反応は、自分でも意外なほどに落ち着いたものだった。  
 
「ほぉ、大人しくしてるな」  
 黙って弄ばれる杏菜に向かって、男はからかうみたいに言うと、杏菜の体を床に下ろした。  
そして胡坐を掻いた膝の上に手を乗せて、自分の股間を指し「おい、ご主人様のものを綺麗にしろ」  
と慇懃に言い放った。  
 
杏菜は逃げだしたくなったが、逃げたところでどうなるものでもないのだろう。その無慈悲な現実が否応なしに  
頭に滑り込んできて観念し、目を細く潤ませながら、そっとその場にうつ伏せるようにして、男の股間に顔を近づけた。  
男は杏菜の頭に手を置き、自分のものに押し当てる。感じたことのない圧迫感が頭を覆い、杏菜は顔を上げたくなったが、  
意思に反してさらに下にやった。  
 
 すでに逞しく漲った男根に、男は自分の指を添え、杏菜が咥えやすいようにぐいと上向けた。鼻先につんと臭いが  
漂ってきて泣きたくなるも、それでも健気にそっと口を開け、小さな舌を突き出すと、男の先端に軽くかすった。  
男の身体がかすかにびくつき、さらに杏菜を押さえる手に力が入った。杏菜は顔を横にして、そそり立った男根を、  
横側からアイスキャンディーを貪るように舐めていった。  
 
 初めて見る男の男根が、間近で血管を浮き上がらせ聳えている。目を閉じることも出来ずに、視界を涙で  
ぼやけさせたまま、舌を動かした。男根から発される熱気が肌にびしびしと伝わってきて、生々しさが顔にぺったりと  
張り付き、自分がこうしている様を別の自分がどこか遠くで眺めているような奇妙な感じに襲われた。ふわりと目の前の  
景色が遠くなり、現実感が消失し、テレビの中で行われていることを傍観しているだけみたいな淡白な気持ちになってくる。  
 
「下手くそだな」  
 男が野太い声で言い、急速に周りの風景が再び自分の前に戻ってきて、現実に引き戻された。  
そうだ、これは現実なのだ。どこかもわからないよそよそしい世界で、自分は名前も知らない男に  
奉仕している。んっ、くっ、と、杏菜は短い声を苦しげに吐き、眉間に皺を寄せ、したくもない作業を  
懸命に続けた。目だけで上を見ると男は幾分つまらなさそうな顔をしているが、同時に杏菜の  
たどたどしさを楽しんでいるようでもある。  
 
「どうだ、しゃぶりがいがあるか、俺のものは」  
 そう胴間声で言われ、杏菜はどう答えていいのか見当がつかず、頭を小さく下に滑らせて  
頷いて見せた。男は下品に笑った。最初見たときより、男根はさらに大きく膨張し、  
いまにも破裂せんばかりに猛っている。  
 
 不意に男はぐっと杏菜の頭を下に押した。口が押し広げられ、太い男根が奥まで遠慮なく  
入ってくる。ぐぅっ、と息が詰まってつい舌で押し返そうとしたが、口内を占拠したそれは  
びくともしなかった。喉の寸前まで埋められ、ふぅっ、と息を漏らしながら、他にどうすれば  
いいのかわからないので、湧いてくる唾液を飲み込み、男のものを吸ってみる。  
 
そうだ、もっと強く吸え、と指図され、杏菜は言われるままに慣れない口淫を続けた。  
 
 床に這いつくばった格好で、杏菜は男の股間に顔を埋め、ひたすら時が過ぎるのを待っていると、  
やがて男はうっ、と短い声を上げた。熱いものが杏菜の口の中でほとばしって、喉にまで飛び込んできた。  
杏菜は思わず眼をいっぱいに見開いて、男の手の力がふっと緩まったので急いで顔を上げ、  
白い濁ったものをシーツの上に吐き出した。  
 
 げほげほと喉の奥から咳き込みながら、床に頭を着けて肩を震わせていると、  
立ち上がった男が杏菜を抱え起こした。男は最初と同じように仰向けに杏菜を寝かせると、  
二本の脚をしっかり抱えて左右に開かせ、その真ん中に自分の身体を入れてのしかかって来た。  
杏菜が目をやると、先程達した男のものは、すでにまた意欲満面に屹立している。  
いよいよ体中に恐怖が走り、叫びだしたくなったとき――  
 
 部屋の外で、なにやらもの凄い物音が響いた。何者かが壁を突き破ったかと  
思われるぐらいの、聞いたことのない轟音だった。  
 
 男は杏菜の脚を持ったまま、首を後ろへ回した。杏菜も、危険を一時的に忘れ、  
男の肩ごしに後方を覗きこんだ。  
 どたどたと向こうが騒がしくなり、ひゃあああ、とさっきの見張りの男が、  
尻尾を踏まれた犬みたいな情けない声を上げている。もう一度ばりばり、と壁が紙のように  
破れた音がし、そのまま静かになった。男は眉間に皺を寄せて、閉じられたドアを凝視している。  
詳しい状況は見ないことにはわからないが、いずれ家屋の一部が壊れていることは明白だった。  
 
 物音は一旦収まったが、気づけば、何者かがこちらに向かってくる足音がだんだん近くなってきている。  
音の主はそれを隠すつもりもないようで、短い廊下を大股で歩いてくる。そして勢い良くドアが開かれ、  
こざっぱりとした軽装の若い男が立っているのが、自分を組み伏せる男の身体の向こうに見えた。  
頭の男は、眉を顰めたまま杏菜から身体を放し、辺り中に響き渡る声で一喝する。  
 
「何だ、お前は!」  
「野盗ごときに名乗る名はない」  
 若い男はあっさりと言い、躊躇なく部屋の中へ歩を進めてきた。  
ブーツの底が床にぶつかるたびに音を立て、シーツの上に全裸で放り出されている杏菜をちらりと見ると、  
興味がないようで再び自分の前に立ちはだかる男に目線を戻している。  
 
杏菜が見た限り、身長は低くないがそんなに体格が大きいわけでもない。杏菜を犯そうとしていた男と  
正面から向き直っているが、どちらの方が強いかは歴然としているように見える。寝床から起き上がった  
男は白いシーツを股間に巻きつけ、分厚い胸板を前へ堂々と突き出し、無礼な侵入者を威圧するように  
睨めつけた。が、入ってきた男の方は飄然とその顔を見返している。  
 
「この根城に押し入ってくるなんざいい度胸だな、トチ狂ったのか若造」  
「いや、むしろ正常だ。単なる仕事だから」  
 まるで脅し文句を理解できていないように、若い男は何でもない風に答えた。  
頭の男はそういう態度が感に触ったのか、肉まんみたいな筋肉が盛り上がった肩を  
大きく揺らし、拳をつくってぽきりと指を鳴らした。  
 
「いい根性だ、この女といい最近のガキは生意気でしょうがない、大人の怖さって言うのを  
きっちりわからせてやらなきゃいけねえな」  
 そう言うと、二、三歩前ににじり寄って距離を詰め、その拳を迷いなく目前の男へ向かって  
振り出した。杏菜はぐっと目を閉じた。あの若い男が吹き飛ばされると思ったからだ。  
 
 瞬間、何かが床にぶち当たって弾き飛ばされた音がした。杏菜は全身を竦めて、  
部屋がびりびりと振動するのを感じながら、自分が殴られたように縮こまった。  
やがてそっと目を開けると、そこには意外な光景があった。  
 
 
 てっきり無残に倒れ込んでいると思われた若い男の方は、さっきと変わらない位置に  
立っており、自分にのしかかっていた大きい男が、視界から消えていた。杏菜が顔を  
動かすと、何とその男の方が、弾き飛ばされ部屋の壁に衝突したようで、体を  
くの字に折り畳んで床に突っ伏している。  
 
 何が起こったのかしばらくわからなかったが、杏菜が目の前の状況を整理している間に、  
若い男は杏菜をまたいでいき、慣れた手つきで部屋の奥をあさりだした。呆気に取られていると、  
男は棚の中から金貨と思わしき貨幣を発見したようで、それを懐にすかさずしまい込んだ。  
頭の男は、気絶しているのか動かない。  
 
 杏菜が男の行動を目で追いかけていると、部屋の入り口から「あのう……」とおずおずと声がし、  
小柄な老婆が中の様子を覗き込んできた。男は振り返って老婆に歩み寄り、こう言った。  
   
「お目当ての奴ならそこに倒れてるぜ、ほら、お探しのもんはこれだ」  
 そう言いじゃらじゃらと何かが詰まった袋を老婆の手の上に置いた。察するに、男が懐にしまったの  
とは別の金貨の袋のようである。  
老婆はみるみるうちに安堵の表情になり、男に向かって、有難うございます有難うございますと  
何度も頭を下げている。  
 
「これで仕事は終了だ、そういうことでいいな」  
「は、はい、本当に、あの時村にあんた様が通りかかってくれんかったら、村人一同破滅でしたです。  
有難うございます」  
 
 平身低頭で礼を述べる老婆に、男はもういいから早く出て行ったほうがいい、と言い、老婆は  
もう一度お辞儀をすると、素直によたよたと廊下を戻って去っていった。それを見届けた男は、  
改めて杏菜のほうに向き直り、杏菜の一糸纏わない全身をじろじろと観察した。  
 
 このまま行ってしまわれるのではないかという不安が脳をよぎったが、男は無言で杏菜の傍に  
よって来て、手を縛る布を外してくれた。思わず口からほっと息が漏れ、杏菜は男に礼を述べた。  
 
「どうもありがとう………」  
「お前、マヨイか」  
 男は素っ気無く訊いた。杏菜は頷いた。  
 間近で見れば、男は非常に美しい相貌をしていた。鼻が一筋すっと伸びており、  
瞳の色は薄い茶色で、女みたいに長い睫毛は、上下するたびに音を立てそうだった。  
無造作な黒髪が、整った顔つきに野性味を加えており、そのアンバランスさが魅力を  
最大限に引き出している。杏菜は少しの間その端整な容姿に見惚れていたが、やがて  
自分が裸なことを思い出してあわてて俯いた。  
 
 男は自分のマントを取ると、杏菜の肩にかけた。ふわりと薄い布が体を隠してくれ、  
杏菜はまたありがとう、と言った。それには答えず、じゃあな、と短く言って立ち上がると、  
男は部屋を出ようとした。  
 
「ま、待って」  
 杏菜は引き止めた。男は顔だけで杏菜を振り返る。  
「お願い、私、行くところがないの。一緒に連れてって」  
 
 男は、その願い出にしばらく返事をせず、黙って杏菜の顔を眺めている。  
杏菜は自分がすごく図々しいことを言った気がしてきて、後ろめたそうに  
身を小さくしながらも、二つの瞳で真っ直ぐに男の眼を覗き込み続けた。  
この世界で、今この人に取り残されてしまえば、もうあとは本当に  
何の救いも訪れない予感がしていた。  
 
 やがて男は口を開いた。よく通る、透き通った声だった。  
「なら勝手についてこい」  
 そうして、さっさと背中を向けて歩き出した。杏菜は嬉しさに顔いっぱいで  
微笑み、素早く立ち上がると男の後についていった。頭の大男は、二人が通り過ぎても、  
まだ目を覚まさずにその場に沈んだままだった。  
   
 部屋を出ると、入ったときとは比べ物にならないほど室内は荒れており、そこら中に壊れた物の  
残骸が飛び散り壁には穴が開いている。  
見張りの男は、顔面に殴られた跡をくっきり残し、眠るように気絶している。杏菜は呆れてそれを  
見ながら、前を歩く男に言った。  
 
「これ全部あなたがしたの」  
「ああ、仕事だったからな」  
「仕事?」  
 見る影もなくなった根城を後にすると、男は杏菜を街の反対側に連れて行った。その道すがら、  
簡単に説明した。  
 
「俺はああやって賞金首の奴らをぶっ倒して日銭を稼いでる。たまたまある村を通りかかると、  
あいつらが村中の金品を奪って行ったあとで、そこであの野盗を退治して金を奪い返すように  
頼まれたんだ」  
 ま、くだらない仕事だったけどな、と付け加える男に、杏菜は名を尋ねた。  
「助けてくれてどうもありがとう、貴方は何て言うの?」「俺は、レリィだ」  
 
 杏菜はレリィ、と口の中で反復しながら、内心女の子みたいな名前だと思った。  
この世界にそういう価値観があるのかは不明なので何とも言えないのだが。  
 
 レリィのほうは、杏菜に何も訊かないので、杏菜は他に何を尋ねて良いのかも  
わからず、ただ広い背中を追いかけ続けた。やがて質素な宿屋に到着し、杏菜は  
風呂にありつくことが出来た。ここでの日没は判りづらいが、すでに時刻は夜になったようである。  
 
 そこの浴室は、杏菜の認識でいう露天風呂だった。周りは石で囲まれ、中からは  
白い湯気がゆらゆらと昇り大気に溶け込んでいる。杏菜はここに来てから初めての  
歓喜という感情をくっきりと感じ、大喜びで湯船に足を入れた。つま先から這い上がってくる  
熱い湯の流動する感触に、じわじわと感動し、口元から笑みがこぼれる。  
 
 男に嬲られた肌をゆっくりと湯の中に沈め、念入りに体を洗った。手入れを怠  
ったことのない髪を、丁寧に梳きながら砂を落とす。生まれ変わったぐらいの清爽な気分で、  
杏菜は肩まで湯に浸かったまま、思い切り手足を伸ばした。視界まで開けてくる気がした。  
 
 湯気の立つ前方を眺めていると、ふと、その中で灰色の影が動いた。影はざぶざぶと  
湯を蹴り、杏菜に近寄ってくる。そこから姿を現したのは、自分と同じで衣服を取り去った  
レリィだった。  
 
「何だ、お前もいたのか」  
 何気ない声で言われ、杏菜は拍子抜けした。が、異性にこの場所で鉢合わせするのは、  
あんなことがあった直後でも、大変なことには違いないので、咄嗟に腕で大事なところを  
覆って体を後ろへ向けた。  
「ち、近寄らないでっ」  
「何でだ? さっきまで裸でいたくせに、今さら恥ずかしいのか」  
 
 無神経に言い放ち、レリィは無遠慮に距離を詰めてくる。杏菜は泣きそうになり、自身を抱きしめたまま  
声を荒げようとしたが、突如体の奥底から湧き出てきた異常な感覚に、一斉に神経が集中した。どくん、どくんと  
心臓が早鐘みたいに鳴り乱れ、体中の毛穴が開き、血流が逆向きになって流れ出したように全身が  
落ち着かなくなって、意思とは関係なく震えだす。  
 
「あ………な、何、これっ」  
 うわ言みたいに口に出すと、無意識に立ち上がり、二、三歩よろめいた。ふらふらと湯船から這い出す  
杏菜を見て、レリィは全く表情を変えず、ごく当たり前の口調で「あ、変化が始まったか」と呟いた。  
 
 杏菜は体を震わせたまま、ゆっくりとレリィを振り返った。  
「へ、変……化?」  
 レリィは自分には関係ないといった様子で、肩を竦める。  
「『マヨイ』は、最初はみんな、ここの奴らと同じ普通のナリをしてるんだが、ここに来て数日の間に  
必ず『変化』して、それぞれ奇天烈な外見に変身するんだ。だから、マヨイと普通の人間との区別はすぐにつくのさ」  
 
 そうか。そういう意味だったのか。杏菜は湯船を出たところで地面に膝を着きながら、その説明を冷静に受け止め、  
やっと「マヨイ」という言葉の意味を理解した。見世物小屋。売り飛ばす。あの野盗の男の言っていたことの切れ切れが、  
一筋の輪になって繋がった。つまり、ここに迷い込んだ人間は、そういう運命にあるのだ。  
 
「あ――」  
 ぜいぜいと息を吸い込むと、開いた口から喘ぎ声が漏れた。身体の真ん中から泡立ってきて、全身の血が、  
何か別の液体に姿を変える。子供のようにその場にうずくまり、自分が何者かに変化する恐怖を感じていると、  
世界が回り出したみたいに不安定に視界がぐらついた。  
 
 変わる、変わる、私が変わる――  
 頭の奥でひたすら叫び声を聞き続け、目を閉じることもできず見開いていると、突然重しが除けられたみたいに  
ふっと身体が楽になった。  
 
 嵐が過ぎ去ったような感覚で、頼りない足元で立ち上がり、湯船に映った自身の姿を見れば――  
 そこには。  
 
「な、何これっ?」  
 
 杏菜が素っ頓狂な声を上げると同時に、レリィは湯船から出てきて、杏菜の隣に立った。  
「おお、それが変化した姿か。なかなか様になってるじゃないか」  
 
 裸のまま脇により、戸惑う杏菜に揶揄する目線を送る。  
 杏菜の頭からは、ピンク色の二つの耳が三角に突き出し、それと同じ色の尻尾が尻の上側に生えている。  
それは、杏菜の世界で言う、猫のものにそっくりだった。杏菜は口に手をあて、体をひねって自分の全身を見下ろした。  
 
「や、やだぁ、こんなのっ」  
 激しく狼狽する杏菜の内腿を、柔らかい毛が撫でた。意識しなくても耳はぴょこぴょこと動き、尻尾は自由自在にくねった。  
ある程度は自分の思い通りに動かせ、また感情の起伏に合わせて、勝手に反応するようである。  
 
 はははははは、とレリィは大きな声で笑った。その快活な笑い声は、すっかり黒く塗り潰された天空に吸い込まれていった。  
それがあまりに遠慮ない様子なので、杏菜は頬を膨らませながら意見した。  
 
「そんなに笑わないでよっ」  
「いや、悪い。俺もマヨイが変化したのは何度か見たことあるが、お前みたいに、変化のあった直後に元気よくわめいたり、  
ころころ表情を変えたりしてる奴は初めてだったんでな」  
 
 目力の強い双眸を細めて、レリィは楽しげにそう言う。杏菜は拗ねて唇を突き出し、首を後ろに回して自分の尻尾を  
じっくりと観察した。ふわふわした毛に覆われたそれは、手で握ってみるとほんのりと温かく、生き物であるかのように  
脈打っている。  
 
 強くて手に力を込めると、ちゃんと骨も通っているのが確認できた。次は、湯船の中の自分と目を合わせながら、  
ぱたぱたとはためく耳を触ってみる。指が触れると、最初は別の人に触られた感じで大きく反応したが、  
次第に耳と尻尾が自分の一部として一体化していくのがわかった。  
 
 それらが生えた以外は、特に変わったところはない。杏菜はほっと息をつきながら、湯に映し出された  
自分の顔を安堵の目で見つめた。  
 
「へぇ、よく動くんだな」  
 不意にレリィがその大きな手で、無造作に尻尾を握った。杏菜は思わずびくっと身を竦めた。  
背筋を指でなぞられた時と似た、ぞわぞわとした感じが這い上がってきて、  
「何するのっ」と甲高い声を出してしまった。  
 
 レリィは尻尾をしごくようにして、手を上下させた。内部の骨に指を当て撫でられる独特の感触があり、  
杏菜はその場にへたり込みそうになった。異物感と同時に果てしなく蕩けるような、感じたことのないものが  
体の中心を刺激する。レリィはそれを見透かしたように、先ほどとは違った感じで目を細めた。  
 
「ふふ、なかなか毛並みのいい獣だ……」  
 低い声で言い、杏菜の顔を自分の方へ引き寄せた。いとも簡単に顔と顔が触れ合い、唇が繋がれた。  
杏菜が一瞬のことで何もできずにいると、そのまま杏菜の細い体躯を、後ろから羽交い絞めにするように抱き寄せた。  
 
「んっ、ふっ」  
 レリィは慣れた舌つきで杏菜の舌を絡め取ると、無遠慮に弄った。苦しげに声を出す杏菜の口内に、レリィは  
自分の舌を躊躇いなく擦り付けていく。いやらしい肉の皿が動きを止め、そっと離れた時には、その間と間を、  
透明な唾液の雫が一筋垂れた。  
   
「な、なに………するの………?」  
 杏菜は子供みたいに一言訊いた。レリィは脇の下に手を差し込んできて、背中に回ったまま  
自分の体の自由を封じている。頑丈な手の一方が、ほどよい大きさの胸に当てられ、もう一方で  
滑らかな肌の感触を味わうレリィを、問いかける目で見つめると、彼はあっさりと言った。  
 
「マヨイは、最初に拾った奴のもんだが、そいつを倒した奴に所有権は移動するんだ。だからお前は  
俺の物だ、つまり何をしようと俺の自由だ」  
「な……なんで、あなたは………」  
 ぐるぐると混乱する頭で、舌たらずに言葉を発する。ふふ、と残虐に口の端を上げてレリィは笑う。  
 
「俺はそこらへんの女を強姦する趣味はないがな。こうして立派な人外に化けたお前を見てたら、  
無性に犯したくなってきた」  
 
 ほら、どうだ? とレリィは、目のすぐ下で脅えたように小刻みに動く杏菜の耳を掴んで  
引っ張った。杏菜は堪えきれずに眉に皴を寄せた。何ともいえない感じが、体中を震わせる。  
尻尾が勝手に動き、杏菜の足の間をくぐって、膝下へ巻きついた。その先端はレリィの  
ふくらはぎを撫でている。毛玉が当たったみたいな感触に、レリィは気持ちよさそうな目をした。  
 
「はは、面白いぐらい動くな、この動物の耳も尻尾も」  
 笑いながら、さらにくいくいと耳を弄ぶ。杏菜は耐えられず悲願した。  
「や、やだそれ、放してよっ」  
 
 放してよぅ、ともう一度言う。じっとしておこうと思うのに、尻尾は杏菜が脅えたり  
身を震わせたりするのに合わせて活発に動き、そこら中をくねりまわる。その様子に  
珍しそうな目線を注ぎながら、レリィは女を口説く時の顔に戻って、杏菜の顔の横に  
ついているほうの耳に口を近づけ息を吹きかけた。びくん、と素直に体が波打つ。  
 
「ふぁっ」  
「こっちの耳も、気持ちいいか」  
 大人の男の声を出し、レリィは戸惑いを隠せない杏菜の顔を横目で見つつ、耳たぶに  
舌をかすらせた。初めて受ける愛撫に、杏菜は片方の目をきつく瞑った。それを余裕のある  
態度で観賞しながら、レリィはさらに己の舌を杏菜の耳の中にくぐらせる。鼓膜の傍に  
直接熱い吐息が入り込んできて、なまめかしい動きが縦横無尽に狭い穴を這いまわった。  
 
「やだっ、やめてよっ……」  
 弱弱しく杏菜は訴えた。自分ではもっと毅然とした声を出したいのに、思うようにできない。  
尻尾が陸に上がった魚が跳ねるようにぴくぴくと震え、レリィの足にいちいち当たった。  
 
「はは、正直だな」  
「っ、嫌だ、放してっ……放せっ……」  
「そんな汚い言葉を使う子はお仕置きだ」  
 言うなり、再び杏菜の口を唇で塞ぐ。ふぅっ、と息の塊が、レリィの口の中へ吐き出された。  
 
 レリィは混ざり合う唾液を、音を立てて飲み込みながら、杏菜の脚の間に指を伸ばした。  
杏菜は否応なしに身を固くするが、レリィは構わずに長い中指を閉じた割れ目に沈み込ませ、  
他の指全体で花弁を撫でた。  
 
「うぁっ、やだっ、やだぁっ」  
「ここは変化してないのか、なかなか味な変身をするじゃないか」  
 一人でそう言って笑うと、そのまま手を上に移動させ、黒い茂みに埋めた。揉むしだくようにして  
細い毛の感触を楽しみつつ、耳元で杏菜に囁いた。  
 
「可愛いぜ、尻尾の毛がピンクなのに、ここは黒いのが面白い」  
 杏菜は羞恥に耳まで真っ赤に染めた。レリィはまた杏菜の閉じた花弁に、自分の指の腹を当てると、  
何度も往復させた。ざらついた指が大事な部分に容赦なく擦り付けられ、杏菜は息を呑んだ。  
快楽とも嫌悪ともつかないものが混ざって溶け合い、華奢な全身が小動物のように細かく震える。  
やがて指の先を花弁の中へ埋めると、レリィはぬめった内部をぐちゃぐちゃと掻き回した。  
 
「んぁっ、やぁっ」  
 思わず声を上げる杏菜を楽しげに見下ろしたまま、レリィはおもむろに指を引き抜くと、  
どこに目当てのものがあるのか完全に見知った風に、そのまま指を上へ滑らせた。ふっくらと  
盛り上がった花弁の周辺を、押すようにして揉み、花びらを上へ引き上げる。すると指先に  
豆粒状の突起が触れ、レリィは目だけで笑うと、肉の鞘に包まれたそれを、指で掻き分けて  
剥き出しにした。その小さな芽をいやらしい手つきで弄られたら、  
杏菜は嬌声に近い物憂い声を出すしかなかった。  
 
「いやっ、あっ、あっ、はぁっ……」  
「どうだ、いい気持ちだろう」  
「くあっ、あぁんっ、そ、そんな、こと、ないっ……」  
 苦しげに、レリィの腕の中で体をびくつかせる。ぴーんと、糸が張ったみたいに尻尾が  
真っ直ぐになり、それをレリィは自分の手の中に収めた。短い細かい毛が生えているのを、  
愛らしげに眺めてそっと撫でる。そのまま杏菜の体の前に手を持っていき、杏菜の敏感に  
なっている部分へ、それをぐいと押し当て前後に滑らせる。にぁっ、と子猫のような声が  
杏菜の喉から飛び出てきた。  
 
「にゃっ、ああぁっ、ふぁっ」  
 自分自身の一部が、花弁に擦りついてくる、その柔らかい淫靡な感触に杏菜はすすり泣くみたいに鳴き声を上げる。  
ケバ立った毛が花びらの外側を繊細に撫でるのは、無骨な指が暴れるのとはまた違った悦楽があった。  
にぁにぁと杏菜が猫の声を出すのを、レリィは完全に動物を見る目をして、優しげに微笑み、杏菜の肢体を片方の手で  
弄りながら、首筋に顔を近づけて舌をなぞらせた。  
 
「はぁんっ」  
 生温かくぬらりとした感触が、鎖骨の裏側をかすり、そのまま体中に広がっていく。レリィは尻尾から手を放すと、  
杏菜の太腿を下側からがっしり掴んで、ぐいと横に引き上げた。もう一方の手は丸い乳房を揉んでいる。杏菜は、  
屈強な力で自由を奪われているため、抵抗することもできず、されるままにされた。  
 
 レリィは立ったままの体勢で、杏菜の脚の間に自分のものをあてがい、杏菜の体を下ろすようにして、花弁に深く沈める。  
「っ、ひぁっ、いっ、ぁっ」  
 杏菜は顔を歪めて、手をばたつかせた。だがレリィは細い矮躯を捕まえたまま、さらに後ろから体を密着させ、  
ずぶずぶと根元まで杏菜の中に自分自身を埋めた。杏菜の足はがくがくと震え、体の中心に走る激痛に、その場に  
立っていられなくなる。  
 
「やだっ、いあぁっ、いた、いたいっ、いたぁっ」  
 つま先が宙に浮き、杏菜は持ち上げられた格好で、レリィの腕を振り解くようにして全身を激しくよじらせる。  
だがいくら嫌がって暴れようとも逃げ出すこともできず、レリィは動じない様子で「何だ、初めてか」と呟いている。  
杏菜は思考の追いつかない頭で、たどたどしく首を下に振る。  
 
「お願い、いぁっ、つっ、放して、放してぇっ」  
 頭の上に二つ突き出した猫の耳は、びくびくと細かく震えながら前に折れている。尻尾は下にぶらんと垂れ下がって、  
末期の動きを繰り返す芋虫みたいに、元気なく宙をうねる。  
 
 レリィが杏菜を突き上げると、杏菜の意思に関係なくびくんと尻尾は後ろに揺れた。杏菜は懇願する瞳で、  
レリィを見上げた。その表情を、鼻先を突っつけるようにしてじっと見つめながら、レリィは冷酷に口の端を上げて  
ふっと笑った。  
 
「人間のお願いなら聞いてやらないこともないが」  
 そう言い、とめどなく涙を零した杏菜の頬をぺろりと舐めた。杏菜は眉間を険しくしたまま、鼻をすする。  
「お前はけだものだからな」  
 素っ気無い言葉に、杏菜は、ちがうっ、と哀れな声で反抗する。  
 
「私は人間よ、私はっ」  
「いいや、違うね。お前は単なる俺のペットだ。人間様のすることを嫌がるなんて、とんでもない我侭だ」  
 こう言い放ったレリィの瞳は、爬虫類みたいに感情を宿さない様であり、またぎらぎらと氷の下で炎が  
燃えているようでもある。  
 
「っぁっ、あぁっ」  
 子供のように泣く杏菜の尻尾をレリィは手に取り、あやすみたいに愛撫した。しかし、柔かい表情とは裏腹に、  
腰を容赦なく突き動かし続けながらである。レリィは尻尾の先端を二人の繋ぎ目に近づけると、杏菜を貫いている  
肉棒に、頼りないふわふわとした毛をぽんぽんと当てた。  
 
「っ、んっ」  
 思いがけない感触に、レリィは髪の匂いを嗅ぐように杏菜の頭に顔を埋めたまま、杏菜の中に自分の熱い濁りを  
ぶちまけた。杏菜は、人形の糸が切れたみたいに、その場に崩れ落ちた。目を細めて、肩で息をする。  
 
 地面に垂れた尻尾は、蛇がうねる要領で弛張を繰り返している。耳はすっかり前に倒れ、微かに震えるだけである。  
レリィはかがみこむ杏菜の背後から、その耳に舌をつけて舐め、先端を唇で咥えた。ふぁんっ、と杏菜は痛みも忘れて  
大声を出す。  
 
 杏菜の耳を噛みながら、レリィは面白そうな目で、その様子を楽しんだ。杏菜は、陵辱された苦痛が残る中で、  
それ以上の甘美な感覚に、眉間に皺をつくって戸惑うように息を荒げた。  
「気持ちいいのか?」  
「っ、はっ、へ、変な……感じ……」  
 
 無意識に答える。じゃあこっちはどうかな、と言い、レリィは杏菜のくねくねした尻尾を握った。指先をわずかに  
動かしながら、力強くしごいていく。「ふぁっ、にゃ、にぁぅっ」と杏菜は嬌声を上げた。レリィの指が弾くようにして  
尻尾を撫でるたびに、言葉に言い表しがたい渦が体の中に巻き起こる感じだった。  
 
「にぁ、にぁんっ」  
 レリィの手の中で、尻尾は喜んでいるみたいに、勢い良くうねる。頭の上の耳は息を吹きかけられると、ばたばたと  
強く反応した。レリィは単なる人間の娘を犯すのとはまた違った感情を宿した瞳で、可愛い猫だ、と呟いた。  
 
「にゃぁん?」  
「よし、じゃあ、四つんばいになれ」  
「ど、どうして?」  
「獣にはその格好が一番ぴったりだからだ」  
 横柄に言い放ち、レリィは杏菜の前に立ちはだかると、困惑した眼前に自分のものを突き出した。杏菜は息を呑んだ。  
 
「どうした? 舐めろ、お前の仕事だ」  
 どこかで聞いた台詞を吐き出すレリィに、杏菜は反抗する。「嫌よ、いやっ、どうして私が」  
「どうしてだと? お前は人間以下のけだものなんだぞ、拒絶なんか許されると思ってるのか。  
偉そうに」  
 
 そう言うなり、杏菜の鼻先にぐいっと天を仰ぐ男根を突きつける。思わず目を瞑る杏菜の頬に、  
ぺちぺちと生温かいものが押し当てられる。やだっ、と短く言うと、レリィは恐ろしく冷たい目をして  
杏菜を睨みつけた。  
 
「や、やだ……」  
「いやだ、とは大きくでたもんだな。嫌だの嫌じゃないの、そんな要求は対等な人間同士がするもんで  
あって、単なるペットのお前にそんな権利はない」  
 
 何気なく残酷な言葉を放ち、レリィは誇示するみたいに自分のものを杏菜の目の前にちらつかせる。  
杏菜が目を逸らそうとすると、髪の生え際を野蛮な手つきで掴み上げられ、観念しておそるおそる  
唇を開くしかなかった。半分ほど開いた口に、一気に凶暴な棒は入り込んでくる。  
 
「んぅっ、んんっ、くぅっ」  
 レリィはさらに根元まで口の中へ押し込むようにして、杏菜の小さな頭を手の平で固定した。  
杏菜は地面に手をつき、もう片方の手はレリィの尻の後ろに回す。レリィのものに透明な唾液が  
ねっとりと絡みつき、湿った柔かい感触が這い回った。  
 
「上手だ、いいぞ」  
 満足げにレリィは言った。杏菜は喜ぶわけにもいかずに、涙を滲ませ苦しげに吐息を  
漏らしていると、やがて喉に熱い塊りがぶつかった。それでもレリィが口の中のものを  
引き抜かないので、そのままそれを奥へ滑らせるしかなかった。  
 
「んっ、ぅっ」  
 ごくん、と音を立てて、杏菜の細い喉が上下し、胃の中にレリィの吐き出した欲望を  
流し込む。レリィがゆっくりと腰を引くと、肉棒の先端と杏菜の舌の先の間に、つぅっと  
一筋の糸が出来た。  
 
 杏菜の目がだんだん焦点を失ってきたのを愉しげに眺め、レリィは四つんばいになったままの  
杏菜の後ろへ回った。無防備に空気に晒された白い臀部を、円を描く手つきで撫でる。不意に  
ざらついた指が初心な肌をなぞり、杏菜は大きく体を震わせた。ピンク色の尻尾が跳ねるように動き、  
レリィの腰の裏側に擦り付けられた。  
 
「ふふ、相変わらず元気がいいな」  
 柔らかい毛の感触に目を細めながら、レリィは目の前でしなやかにくねる尻尾を根元から捕まえた。  
「にゃぁぁっ」  
 
 嫌がるとも喜ぶともつかない声が杏菜の喉から搾り出され、尻尾は逃げ出すようにしてレリィの  
手の中で暴れる。レリィはその反応が気に入ったのか、しばらく尻尾の先端がばたばたと虚空を  
切るのを嬉しそうに見た。  
 
「さて」  
 ふとレリィは言い、片手に持った尻尾をぐいと上に引き上げる。隠すものもなく、杏菜の花弁が  
露わになった。もう一方の手で尻を掴み、レリィは自分の肉棒をそこへゆっくりと挿しいれた。  
閉じた花びらが無理矢理開かれ、ぐぐっ、と窮屈な道を熱いものが割って入っていく。  
杏菜は身をよじらせた。  
 
「んぁっ、にゃっ、ぬい、抜いてぇっ」  
「駄目だ」  
 短く答え、レリィはますます深く腰を杏菜の内部に沈めた。しっとりとした柔らかい感触が自身のものを  
包み込み、それはレリィを押し返すようにひくひくと伸縮する。  
 
「うぁっ、あんっ、にゃぁあ……」  
 杏菜は下を向き、地面を掻き毟るみたいにしてぎゅっと指を握り、懸命に耐える。レリィは腰を前に  
突き出してはそっと引く動きを繰り返しながら、握った尻尾を丁寧にしごいた。はぁ、にゃあんっ、と  
杏菜は高い声で鳴いた。  
「やっぱり、猫は猫だな……」  
「にぁ、あっ」  
 
 からかわれても言い返すことが出来ず、尻尾が愛撫される心地よさと、火傷するほど熱い棒が自分の  
奥を突いては戻る慣れない感覚に、杏菜は細い肢体をくねらせた。白い背中が浮き上がり、闇の中に  
にゃあんっ、と猫のようであり人間のものでもある甘い声が細々と流れ続ける。レリィが緩急をつけた  
動きを繰り出していると、だんだん杏菜に変化が訪れてきた。花弁の内側に硬い肉棒を擦り付け、内部を  
深いところまでえぐるたびに、じわりとぬめった汁が湧き出してきて、少しずつレリィのものに絡みついた。  
粘膜のぶつかる水っぽい音が辺り中に響き、レリィは口の端を上げて低い声を出す。  
 
「滑りが良くなってきたな」  
「にぁっ、ぁっ」  
「初めてを犯した男に、後ろから貫かれて、喜んで応えるなんて、やっぱりお前は人間じゃない、  
いやらしいケダモノだ」  
「ちぁっ、ちがうっ、にゃぁっ、んっ」  
「違う? 違うんなら、この溢れ出てくる蜜は何だ。おしっこか?」  
 レリィは結合部に指をくぐらせた。透明な温かい液体がしっかり絡みついた。  
 
「ふぁっ、にゃ、わかんにゃっ、いっ」  
「そうだろう、お前は単なる人間以下の動物だからだ。何もわかるわけないんだ」  
「そんなこと、な、あっ、ぁぁっ」  
「そんなこと、なんだ? 言いたいなら言ってみろ、言えないだろう、言えるわけないんだ。  
人間の言葉なんてわからないだろう」  
 意地悪に吐き捨てて、下から突き上げた。杏菜はびくんと素直に身体をよじらせる。  
 
「ふぁっ、にゃあんっ」  
「悔しいなら何か喋ってみろ」  
「あ……あっ、にゃっ、にぁんっ」  
 途中で深く中を刺激されながら、杏菜はたどたどしく喘ぐ。レリィは口を歪ませて笑う。  
「ほら、人間の言葉なんて使えない、お前は単なるメスネコだ」  
 
 否定したくても出来ず、杏菜は頭が次第に霞がかっていくのを他人事のように感じ、短い声を切なげに上げる。  
レリィはペットを見下ろす視線で杏菜を眺め、尻尾を放した。解放された尻尾は、杏菜の体が快楽を受け入れるのに  
合わせて、びくんと張ったり、根元から振れたりした。その先っぽがレリィの胸の中に飛び込むと、細い毛がレリィの  
固い胸元をなぞるみたいに撫で、乳首の辺りに何度も触れる。思わずにまりとしてしまうような独特の感触が、一定の  
間隔でこすりつけられる。見れば杏菜の耳はびくびくと、いかにも堪えきれないという風に揺れている。  
 
「そういえば、お前の名前は何ていった?」  
 唐突に尋ねられ、杏菜は呂律が回らない舌を必死に動かして答えた。  
「あっ、あん、にぃやっ、なっ」  
「にぃな?」  
 レリィは自分の体の上で躍っている尻尾を手のひらでこするように弄びながら、訊き返した。  
「ちがっ、わ、わたしは、あんっ、にゃなっ」  
「そうか、ニィナか」  
 
 誤解したまま納得するレリィに、訂正する言葉を持たず、杏菜は体の底から何かが昇りつめてくるのをうっすらと  
感じ、ひたすら喘ぎ続ける。「ニィナ、お前は今日から俺のペットだ。わかったな」そう言われ、杏菜はがくがくと  
頷いた。  
 
 満足げに笑い、レリィは杏菜の身体を引き寄せるとありったけの力を込めて突き入れた。  
「ふぁっ、にゃぁああんっ」  
 
 口を限界まで開き、杏菜は小さな爪で地面を引っ掻いた。レリィが杏菜の尻尾を強く握ると、杏菜は耐えられずに  
一気に昇りきった。一段ときつく締め付けられ、レリィも後を追うようにして、熱いものを杏菜の中に発した。レリィが  
手を放すと、杏菜の体はずるずると滑り落ち、地面にべったりと臥せた。波のように全身が上下する。  
 
 脚の間からは白いものがつたって、腿に流れており、尻尾はゆっくりと中空に弧を描いている。頭の上の耳は、ぱたぱたと  
前後へはためいている。  
 ニィナ、と名づけられた、もとは杏菜だったものは、初めて達した余韻を噛み締めるように、横になってぐったりと尻尾を  
振り続けた。その真ん中をレリィは捕まえ、感触を楽しみながら指の中で弄ぶ。  
 
「ニィナ、なかなかいい名前だ。おい、これからは俺の言うことをちゃんと聞くんだぞ、わかったか」  
 脇にかがんでそう言うと、杏菜(ニィナ)の髪に指を指し、そっと撫でた。杏菜(ニィナ)は気だるそうに瞳を動かし、  
レリィの茶色の目を覗きこんで、ゆっくりと、だが確実に頷いた。レリィは満足げに笑むと、「よし、まずは――」と  
形の良い唇を動かして言う。  
 
 そして視界はぶれ、暗闇の中に砂嵐が走り、杏菜は深い眠りの中に引きずられるようにして意識を落とした。  
 そっと目を開けると、見慣れた自分の部屋だった。ベッドの上で、きちんと服を着て寝ていた。  
 
 杏菜はおもむろに身体を起こすと、本当に自分の体が確かめるように、全身を手のひらで触った。どれほど疑って  
確認しようと、今朝と全く変わりのない杏菜であり、腕にも脚にも傷一つない。あの時男に剥ぎ取られた制服はどこも  
破れた箇所すらなく、紺色のソックスが少し捲くれているだけで、スカートもブラウスも普段通りだった。ローファーは  
履いていなかった。  
 
 妙に白けた気分で、あそこでの体験を一つずつ思い返す。夢とも思えなかったが、何一つ確かめようのないことだった。  
あの砂だらけの大地の固さ、野盗の根城の酸い臭い、処女喪失の痛み、大きな手が全身を這い回る感触、どれもありありと  
浮かんでくるが、それも全て夢の見せた、虚構の出来事だったのだろうか。  
 
 釈然としない気持ちで、ベッドから起き上がろうとすると、ずきんと鮮烈な異物感が股間に走った。今も何かが膣内に  
突き刺さっているみたいな感じがする。  
 ああ、夢じゃない、と杏菜は息をついた。すると、淋しい気分が無性に湧き上がってきた。もうあそこには戻れないのだろうか。  
部屋の壁にかかった時計を見つめて、杏菜は自分でも予期しなかった虚無感を噛み締めた。  
 
 ふと最後に聞き取れたレリィの言葉を思い出した。  
 まずは、首輪をつけなきゃな。首輪。首輪。  
 自分があの人のものだと証明する、一番の目印。首輪、買ってくれるって言ったわよね、と杏菜は心中で何度も呟いた。  
 
 そしたらだんだんと胸の底から温かくなって、わくわくしてきた。まだ首輪をもらってないってことは、もう一度あそこにいけるんだ。  
またレリィに会えると思うと、本当に嬉しくなった。  
 
 あそこでは杏菜は杏菜じゃなくてニィナになって、人間ですらない、一匹の動物に成り下がる。  
好きなだけ己の獣を解放していいんだ。それを受け止めてくれる人がいるのだから。  
 杏菜は自分の首に、分厚い首輪が窮屈にきらめくのを想像しながら、満ち足りた気分で部屋から出て行った。  
 
【END】  
 
 

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