あの日、投げかけられた投網を食いちぎろうとして暴れたことを覚えている。金属の糸はあまりに強くて網目の間に指を通して泣きながら歯を立てた。  
薄い掌が擦りむけて血が滲んだけれども不思議と痛いとは思わなかった。柔軟に揺れる丈夫な檻の中で見上げた空は晴れ渡っていて白い入道雲が広がっていた。  
どんなに力を込めても千切れない網の格子の向こうでお日様が笑っていた。  
 周囲では迷彩の服を着た男たちが気味の悪い卑劣な笑みを浮かべてわたしを見ていた。緑のまだら模様の衣装を赤い返り血の飛沫で染めて白い歯を見せて笑っていた。  
その手の中の長いライフルや鉈が無慈悲な光を照り返していたんだ。わたしになす術なんてなかった。  
あれはまだ、十五にもならない頃。春の日差しが微笑む、焼け落ちた町でわたしは犯された。  
埃臭い澱んだ空気に男たちの汗臭い体臭が混じって鼻を突いていた。  
一人じゃない。何人も何人も何人も。入れ代わり立ち代り、何人の相手をさせられたかなんて覚えていない。  
始終軋むような雑音が頭の中で鳴っていた。  
 身体が裂けて壊れる、このまま死ぬんだと思った。胸やお腹にどろどろする温かいものが怖くて泣いた。  
顔にかかったぬめぬめする液体の臭いが気持ち悪くて吐いてしまった。  
口に突っ込まれた固くて脈打つものが喉の奥で嫌な汁を噴出してひどく咽た。  
「ユルシテクダサイ、ユルシテクダサイ」  
 片言のような言葉で哀願しても目の据わった男たちは許してなんかくれなかった。何も悪いことなんてしていないのに。あいつらは、笑ってた。楽しそうに笑ってた。  
 お腹の中で二本の固いものが荒れ狂っていた。内臓がおかしくなると思った。生臭い臭いに混じって嗅いだ鉄さびの臭い。あれはわたしの破瓜の血だったのだろうか。  
 いつしかわたしは気を失ってしまっていたようだった。わたしが再び意識を取り戻したときには男たちはいなくなっていた。  
空が暗いのは雲のせいだったのだと思う。太陽は見えなかった。天から降り注ぐスコールが剥き出しになったわたしの薄い胸に打ちつけていたのを覚えている。  
どしゃ降りの雨が引き裂けた服をぐしょぐしょにしてしまう。そしてぬかるみ始めた大地の泥に塗れてしまうのだ。  
身体中が痛くて、目が熱かった。  
 
*  
 彼女はエナメルのような赤いマウンテンバイクを立ち漕ぎに駆っていった。ひび割れたアスファルトの道を無骨なスパイクで引っかいていく。  
袖口の開いた白いジャケットは風に踊り、襟口から吹き込む気流が汗ばんだ肌の上を吹き抜けていく。その背中には赤い郵便のマーク。  
胸にはプラスチックの名札が縫い付けてあって「菱川輝美」と見て取れる。ぴったりしたハーフパンツを穿いた腰は宙に浮き血色の良い引き締まった左右の脚には交互に体重が打ち込まれる。  
 無人地区B-14。そこを抜ければじきに目的地に着くはずだった。  
 
 公孫樹郵便局の若き局員はほとんど人の住まぬゴーストタウンを駆け抜けていく。愛機「フェニックス号」は今日も絶好調だ。  
そのチェーンは上機嫌に滑らかかつ速やかな回転を示している。高速で走行するマウンテンバイクの乗り手からは二本の栗色の三つ編みが吹流しのように棚引いている。  
 死んだ町の寂静の中で彼女だけがいきいきと動いているのだった。もっとも生物が他にいないわけでもあるまいが密度の低いこの地域で鉢合わせすることなどめったとない。  
その代わりに頭上から照りつける晩夏の太陽が走る乙女に濃い影法師を付き添わせていた。  
 眼前に迫る十字路。行き当たりのコンクリートの壁。輝美は直前で前輪を軽く持ち上げて大地にやや斜めに叩きつける。ブレーキのかかった前輪からのパワーが赤いフレームを走り抜ける。  
衝撃で跳ね上がる後輪。ハンドルを胸に引きつけるようにして前輪をも持ち上げた。  
それは瞬間的な出来事だ。  
 フェニックス号は舞い上がり、壁の上辺と水平になって宙を舞う。まるで棒高跳びの選手みたいに。しかしそのまま飛び越える気はなかったらしい。  
後輪の一点が越えつつあった壁の天辺を捉える。輝美は身を捻るようにして重心を起こし壁の上に立った。もっとも足を突いたわけではない。ただ後輪の一点のみを支えにバランスを保って揺れている。  
 まったく常人離れした運動神経だった。もはや超能力じみていると言っても過言ではあるまい。実際、特殊な血統を遠く引いているらしいという話は輝美自身、幼い頃亡父に聞いたことがある。  
 数年前に受けたゲリラによる暴行。本人にとっては決して幸福とはいえない最悪の事件おそらくあのときのショックが彼女の潜在能力を引き出す引き金になったのかもしれなかった。  
そのことは全くの皮肉としか言いようがないのだけれども彼女は普段そのことを忘却しているのが常である。そして曲芸まがいの運動は彼女をひどく楽しませた。  
「・・・っと」  
 輝美は自分が乗っかっている塀の向こうを打ち眺めた。やや傾斜の全体としては下り坂の風景。丘の上から見下ろしているような形だった。  
実を言えばそのためにわざわざ丘の上を通るコースを選んだのである。  
一番奥の方にはそれなりに太い川が流れ、その支流の小川や水路が迸るかのようにこちらにまで延びてきている。それと交じり合うようにブロック塀の敷居が迷路のように敷かれ、  
崩れたビルや腐った木造家屋が散らばっている。草に覆われている場所が多いせいかどことなく緑がかった、田園めかした雰囲気さえ漂っていた。  
「あ、あれ!」  
 目印を見つけて喜びの声を上げる騎乗の少女。その叫びの響きは優美でさえある。輝美のあだ名が「テルミン」であるのも単に語呂合わせではない。  
その独特の美しい声が幻の電波楽器テルミンを連想させるからだ。  
「もーちょっとじゃん!」  
高音質で幻想的な印象さえ与えるテルミンの声が周囲の大気に染みとおっていく。古色を帯びた厚いコンクリート塀の上に揺れる彼女の姿はさながらテルミン奏者の手つきに似ていたかもしれない。  
テルミンは電波の流れた空間を手先でかき混ぜて演奏するのである。  
 
さて彼女が見つけたのはそこから目算300メートル程度の位置にある小さな赤い屋根。ソーラーパネルで半分が青っぽくなっている。となりにちゃんと井戸もあったし極め着けには風車が回っていた。  
目を走らせればそのすぐそばの小川に水車が取り付けられている。  
 彼女はそれが目的とする一軒家に相違いないと判断した。  
「よっし!」  
 程よく疲れた身体に再び力が戻ってくる。筋肉繊維の中で沸き立つエネルギーに急かされるかのように輝美は車輪を滑らせるようにして再び地面に降り立った。  
 飛ぶように、跳ねるように。赤いエナメルの変則的な残像を残して疾駆するフェニックス号。もうどちらかといえば下りの道。この平野自体が緩やかな谷になっているのである。  
おそらくタイヤが転がっていくのはかつて山の一部だったに違いない大地。悠久の年月に侵食された、年老いた山脈の斜面。前進を阻むものなど何もない。  
カモシカが絶壁を舞うが如くまるでフラメンコでも踊るかのように駆け抜けていく。  
 爽天の下、人気のない世界を絶妙な操作で走り抜けていくのだ。  
やがて目の前に、まっすぐな見通しのいい下り坂が広がった。さっきの鳥瞰の際、遠目に見つけておいたルートだ。輝美はサドルに腰を下ろしペダルから足を外した。慣性で滑り出した身体は重力に委ねられる。  
 胸がすくような爽快さ。流れ飛ぶ景色。滑らかなギアの回転に合わせて後方へスクロールしていく世界。途中、緩やかな弧を描いて通過しちょっとした崖の淵をなぞっていく。  
そしてハンドルと重心を逆にし滑らかな赤いS字型の軌跡を引いた。  
 そこから目的地に着くまでわずか数分。  
 それは鉄条網を張り巡らせてガードするには貧相な住まいだった。遠目には瀟洒に見えた家屋もまたどこか寂れて見える。  
「ほお、お前さんが?」  
 胡麻白髪の眼鏡をかけた老人がやや相好を崩して出迎えてくれた。やや腹が出ているが局長が写真で見せてくれた人に違いない。一歩下がってメイドロイドも控えている・・・ネコミミで和風の。  
割烹着に白いエプロンというシックなコスチュームである。  
「はい、公孫樹郵便局長の命で受け取りに参りました、菱川輝美と申します」  
「ワシは三宮銀四郎。で、後ろにおるのがカトリーヌ。ワシの優しい付き添いでよく働く家政婦で腕のいい調理人で極めて忠実な執事でずいぶんと  
有能な仕事の助手で孤独な心のせめてもの慰めで並外れて淫乱な愛人でペットで・・・」  
 三宮の口調が余りにナチュラルなので輝美は一瞬、彼が何を言っているのかを理解することが出来なかった。しかし0・5秒で目を皿にして顔を赤らめる。  
 
「よしなに」  
 ネコミミメイドのカトリーヌはにっこりと微笑んで三宮の言葉を遮るように強い調子で言った。その赤みがかった黒いショートヘアが微かに揺れている。紺色の割烹着の肩もまたプルプルと震えていた。  
端整で完璧な微笑の奥に怒りの感情が見え隠れしている。  
 当の三宮はと言えば照れ笑いしているのかおどけたような態度でいる。そしてそうかと思ったら唐突に口を開いた。  
「コイツは耳が弱いんですよ。噛んでやったりしますとな、うわ言みたいに『堪忍やぁ、堪忍やぁ』言いますからな。背中から胸から汗が滲んでこっちに分かるぐらいに火照ってきますからな・・・」  
 意表を突かれたカトリーヌは完全に面食らってしまった様子だったがすぐにこう告げた。  
「わたしの性向がどうあったとしましても、それはご主人さまの設計です。それに意味のないお話は人生を無駄にするばかりかと思いますが?」  
 ほとんど「冷静」と言ってもよいくらいの態度である。しかしその穏やかな表情に反して毒のある言い方であるには違いなかった。  
暗に「くだらないこと言っているとヌッ殺して残りの人生消滅させるぞ」という意味が込められているようですらあった。  
 三宮は楽しげにくっくと笑った。どうやらこの老人は好色漢でおまけに他人をからかう事が大好きな悪戯者らしかった。いや、むしろ変質漢とでも言うべきか。  
「あ、こちら、局長から預かって参りましたお手紙です」  
 輝美は事態が悪くならないうちにと上着の内ポケットから封筒を取り出した。唇の端にやや歪な固い笑みを浮かべている。常軌を逸した紹介に面食らってしまっていることが見て取れる。  
しかしこの程度でビビっていてはメッセンジャーなど勤まらない。場合によってはもっとイカれた連中を相手にせねばならないこともあるのだから。  
 おずおずと差し出された手紙を三宮が読んでいる間、カトリーヌは何事もなかったかのように佇んでいる。輝美にはそれがかえって恐ろしく視線のやり場に困ってしまう。  
そんな気詰まりな沈黙はたっぷり一分も続いただろうか。  
「ふむ! よろしい。案内しよう」  
 三宮はそう言うなり家屋の中に歩いていく。カトリーヌにも促され輝美はその後を追った。  
 問題のものは板張りの床の下、正確には地下の空間に収納されていた。簡素な鉄製の梯子を降りるとそこには一体の巨大な甲冑がうずくまっている。  
 外観は西洋式の甲冑に似ていた。立膝を突いて座り込んでいたけれども立てば全長三メートルほどか。オレンジ色の電球の灯に照らされたそれは磨き上げられた青銅の如き輝きを放っている。  
そしてその装甲には芸術的なまでに作りこまれた模様が金色の細い線で描きこまれていた。  
「これが・・・?」  
 輝美は半ば呆然として問いかける。  
「そうだ。これが局長に頼まれていたもの、改良型のオーガノンだ」  
 オーガノン、それは凶門の血を引く巫女だけが操ることが出来る機動兵器の総称である。  
「改良型・・・」  
「そうだ。主にコックピットの操縦系をより負担が少なく、効率的なものに作り変えた。昨今の状況は君も知ってのとおりだ。もはや今の世の中では軍も警察も当てにはならない。  
自衛のためにはぜひ一機欲しいとのことでな」  
 この混迷したほとんど無政府状態に近い世相では自警団や私設軍隊は決して珍しくはなかった。そして軍隊の多くが軍閥化したように各地の有力者が事実上独立した存在となることもありふれていた。  
公孫樹郵便局とて例外ではない。公孫樹郵便局長は今や一個の町の支配者に等しい立場にあり、地方の政治家たちをも牛耳っているのだった。  
 
「でもこれをどうやって運ぶんですか? 自転車ではとても・・・」  
 三宮はヒヒヒと笑う。その顔にはキチガイじみた表情さえ表れている。そして告げた。  
「君とて凶門の末裔だろう? たとえ傍系の傍系だとしてもな」  
 その言葉に輝美は当惑した表情を浮かべる。  
「確かにひょっとしたらそうなのかもしれませんけれど、確証はありません」  
 凶門の血を引く異能の者たちがいつの頃、どんなふうにして現れたのかもよく分かっていない。しかし直系の血統で目覚しい能力を持った者の他にも傍系の末裔が数多くいるらしいことは知られていた。  
輝美が幼い頃に死別した母親もまたそんな一人だったのだろう。  
「試してみるがいいさ。動かせるなら持って帰ればいい。動かなければ前金が無駄になるだけのことさね」  
 考えるまでもなかった。否応無しに輝美は頷かざるを得ない。  
 三宮が目配せするとカトリーヌがオーガノンの胸部を開く。まるで自動車のボンネットが開くように音も立てず上がる胸甲板。胴体の内部がそのままコックピットになっているようだった。  
「これは・・・?」  
 輝美はその内部を一瞥して絶句する。  
 ゼリー状の半透明のシート。身体をぴったりと沈め込めるかのような形をしていた。例えばお尻の形までが金型のように窪んで、股間の割れ目に当たる部分が浮き上がっている。  
「輝美さま、これを」  
 カトリーヌがいつの間にか白い布のようなものを手に携えていて輝美に差し出す。輝美がそれを広げると一枚の短い浴衣のようなものであることが分かった。  
「巫女服です。まず服をみんな脱いでそれに着替えていただきます」  
 輝美は眉間に皺を寄せてそれを見つめていた。見た目、ずいぶんと薄い生地のように見える。肌が透けて見えるのでないかと感じたのはあながち目算ハズレではない。  
「嫌なら嫌で良いんだ。前金をタダ取りした勘定になるわけだしね」  
 三宮はしゃあしゃあと告げる。輝美は少し思案して告げた。  
「席を外していただけませんか?」  
 輝美は一瞬、三白眼に三宮を睨んだ。  
「残念だがそうするよ。ま、カトリーヌが手ほどきしてくれるさ」  
 三宮はそう言って梯子を上っていき、地下室には輝美とカトリーヌ、そしてオーガノンだけが残される。  
「さ、どうぞ」  
 カトリーヌに促されるままに輝美は服を脱ぎ捨てた。気乗りのしない顔で下着姿になった輝美にネコミミの乙女がさらに注文をつける。  
「ブラとショーツもです」  
 巫女服姿は余りにもあられもないものだった。薄い生地からはお椀型の乳房の輪郭ばかりか乳首の形まで浮き出して見える。開いた襟口からは形の良い膨らみの上半分が露出していた。  
その淵からは桜色の乳輪が微かに覗いているほどだ。  
それに着てみてはっきりした事だが、巫女の白い肌着の丈はちょうど股下1・2ミリしかない。細く白い剥き出しの脚がすらりと伸びているのは良いとして  
繊細な恥毛の端が見え隠れしているのは如何なものだろうか。  
 
「これって・・・サイズが合ってないんじゃ?」  
 しかしカトリーヌは至極取り澄まして答える。  
「いいえ? それでよろしいはずですが。 とてもよくお似合いですよ?」  
「でも・・・」  
 輝美の抗弁はそこまでだった。突如歩を進めたカトリーヌがその柔らかい唇で素早く彼女の声を封じたからだ。  
「ん、むぅぅ・・・」  
 それと同時にカトリーヌのきめ細かな指先が輝美の敏感な部分を弄っていた。  
「んっ、んんん!」  
 やや高い、波のような悲鳴が地下室に小さくこだまする。まるで羽でくすぐられているような感覚に呻く輝美。しかしカトリーヌは手を休めはしない。肉襞を掻き分け淫裂に添った線を執拗になぞっている。  
「ん! ん!」  
 引っかかれたバイオリンの弦のような短く鋭い呻きが漏れる。カトリーヌの中指の第二間接が輝美の陰核の下を刷り上げたからだ。  
それは決して力任せのものではなくむしろ微かに触れるようないたわるようなタッチだった。  
しかし執拗な愛撫にほぐれた守りの皮が徐々に捲れ上がり秘核がはみ出してきてしまう。  
「ウ、ぅゥう〜ぅ、んんんぅぅ〜」  
 輝美の呻きが次第に甘たるい響きを帯びていく。長く尾を引くように抑揚する音色を漏らして身を揺らす輝美。こそばゆいような妙に先鋭な感覚に反応してか次第にそこが固く膨らんできている。  
襞肉の鞘に納まりきらないほど。魔物のように苛む指先の感触に混じってそのことを自覚せざるを得ない。頬や首筋だけでなく充血していく秘裂全体が妙に赤みを深めていく。  
(ああぁ? な、なんかで、でちゃう・・・)  
 輝美は自分の深奥から何かがあふれ出してくるのを感じた。閉ざされた肉の通路を染み出すようにして伝ってくる。引っかかるような胎内の感覚に頭の中が混乱してしまう。  
(あ、や、やめ・・・)  
 輝美は心の中で哀願した。しかし数センチ先にあるカトリーヌの目は冷ややかだ。カトリーヌの指先はそれを促すようにひっきりなしにこね回し指の腹だけでなく滑らかな掌全体を使って秘部全体を揉みしだくようにしてくる。  
 愛撫される輝美のかかとは時々宙に浮き、その膝とふくらはぎが微かに震えている。そしてカトリーヌの舌は輝美の唇を割り、その口内の粘膜を玩んでいた。混ざり合った唾液に塗れた舌がもつれるように蠢いている。  
 銀紙を噛むような異様な感じが秘部に溢れ、下腹部がどこか痺れたような具合になる。輝美は震える瞼を半ば閉じるようにして口の端をわずかに歪めている。  
「ぅヴ・・・?!」  
 そのとき一粒の粘性の雫が輝美の肉の裂け目に溢れ出した。それは熱を帯びた恥部を潤し、感覚を倍加させる。それは今やあからさまな快感となって輝美を苛んだ。  
カトリーヌの愛撫はいっそう遠慮のないものになり微かな水音さえも聞こえてくるほどだ。  
 薄暗い地下の密室に二人の乙女の生々しい吐息が響いている。  
 逃れよう、押し離そうとする輝美の動きは艶かしく、むしろ悶えている様子に見える。背中を汗ばませ、身をくねらせる輝美の腰をカトリーヌの細い腕が捉えて支えている。  
その割烹着の袖の感触は汗ばんだ薄い衣越しに伝わり奇妙な感覚を促すかのようだった。  
すでに輝美はトロトロに濡れていた。カトリーヌはやや上気した、慎ましやかにも扇情的な視線で輝美の細められた、震える眼を覗き込んでいる。  
 
 ふいに愛撫が止む。輝美はようやく、カトリーヌの肩に手をかけて強引に引き離した。そして唇を開放されると同時に叫ぶ。  
「な、何するんですか!」  
 その声はどこか上ずっており、呼吸もまた荒い。その唇の端からはさっき途切れた涎の糸が付着している。しかしカトリーヌは袖口に口を拭って事も無げに答えた。  
「準備体操のようなものです」  
「じゅんび、たいそう?」  
 輝美は半ば肩で息をして問いかける。  
「はい、予めある程度の興奮状態にあったほうが良いかと。オーガノンは意識下の世界と心を繋げることで始めて起動できるのですから。」  
「意識下の、世界?」  
 輝美は状況が飲み込めず、思わず何度も鸚鵡返ししてしまう。  
「無意識の底に沈められた、原初の生命力のようなものです。人は皆、その心の奥底でこことは違う世界に繋がっているのです。その力を解放するためにはある種の精神状態が必要なのです」  
 カトリーヌは耳をピクリとだけさせて懇寧に説明する。そしてその手は輝美の透き通った液体に塗れていた。  
輝美には真意が理解できず、戸惑った表情は消えない。その心中を知ってか知らずかカトリーヌは促した。  
「ではシートへ」  
 輝美は心底に困ったようにカトリーヌを横目に見た。  
「でも、ちょっと待って・・・あの突起は・・・」  
 よく見ればゼリー状のシートのお尻に当たる隆起部分が二箇所ほど隆起している。  
「お掛けになれば分かります」  
 カトリーヌは微笑んで次の瞬間輝美をくるりと回転させる。穏やかな表情とは裏腹に異論を挟む暇だに与えようとしない。そのままコックピットに押し込むようにして強引に掛けさせようとする。  
「ちょ、ちょっと・・・!」  
 輝美は抗おうとしたが不意打ちにバランスを崩して倒れこむ。それにさっきの愛撫で妙に力が抜けたようで抵抗することも困難だった。カトリーヌは上から輝美を押さえ込むようにして逃れることを許さない。  
そしてその手は輝美のお尻の下で蠢いている。  
 残忍なカトリーヌの手はシートの飛び出した異物の位置を調節している。もがく輝美にもそのことは分かったが如何とも抵抗しがたい。ぬるぬるしたそれがお尻に触れる度に力を込めるが体勢的にもはや如何ともしがたい。  
「あ! ダメ!」  
 柔らかくてぬめりを帯びた突起が会陰にさまよい先端が窪んだ穴に押し当てられる。  
 
「そんな・・・!」  
 叫んだときにはシートに深々と腰掛け、ぬめった突起が秘奥と菊座の部分にあてがわれていた。  
 次の瞬間、装甲がバタンと閉まって真っ暗になる。どろどろとしたものが体中を包んでくる。  
「ちょ、コレ! イヤぁ! ちょっとぉ!」  
 まるでイソギンチャクに捕まった熱帯魚のようだった。体中をドロドロしたものが包み込み無数の触手が体中を嘗め回しているような感覚。異様なものが全身の毛穴に浸透してくる。  
先鋭化した肌がざわめき輝美は深い湿った吐息を漏らした。  
「うぁッ! あ、これ? ぁおぅ?!」  
 突如として股下の隆起が膨れ上がって逃れることの出来ない彼女の二穴に強引に侵入してくる。通常は締められている筋肉をこじ開けて意思を持っているかのようにくねりながら入り込んでくるのだ。  
「あぉ、うぁ、ンッ、ぅうう・・・?!」  
 輝美は暗闇の中で一人悶えた。敏感な入り口を陵辱的に苛みながら奥にまで潜り込んでくるゼリーのような異物。それは彼女の下腹の奥底で疼いていた。  
「ぅっ、ぅん、ぅ、ぅあ、ぁ、ぁ・・・」  
 ひどく官能的な鼻声で呻き続ける輝美。普段の会話では押さえられている肉感的な響きがそのまま喉から漏れ出している。全身の毛穴から汗が噴出してきていることも分かっていた。  
昼の日常とは違ったまるで夏の夜にまどろんでいるような錯覚。  
どれくらい経っただろうか。一時間くらいだったのかもしれないし、ほんの数秒だったのかもしれない。狂った時間感覚の中で終わりなき快楽の中で彼女の脳裏に古い記憶が甦ってきた。  
それは意識下の封印した呪わしい過去。そうだ、あれも夏の日だった。  
 

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