最近、どうも運がない。皆さんはこんな経験がないだろうか。  
 
寝る前に確かにセットした目覚ましが電池切れで鳴らなかったり、  
駅へ行こうとバスに乗ろうとしたら丁度、バスが出たところだったり、  
タンスの角に小指をぶつけたり、自動販売機のジュース買うために100円いれたらことごとく拒否されたり……。  
この前なんてホットコーヒーを買おうとしてボタンを押したら暖かいコーラが出てきやがった。  
ムカついて自動販売機をガンガン叩いたらポリ公に注意されるし……こういう時だけ出しゃばりやがって、税金泥棒め。  
とにかく、俺は最近とにかく運がない。そしてそれは当然、学校生活にも影響してくるのだ。  
 
「おーい、雑用係り。この教材道具を準備室に戻しておいてくれ」  
 
数学の授業が終わり、担任の秋山先生が教材道具の片づけを言付けする。  
もっとも、この俺は雑用係りではない。つまり毛頭関係ない。だから寝る。  
15分の休み時間があれば充分寝れる時間は取れる。  
そう思って目を閉じいい感じに睡魔が俺を誘い、闇の世界へと旅立った……。  
 
「あの、先生。今日は二人とも風邪で休みなんですけど……」  
「おっと、そうだったな……。それじゃ悪いが、お前と北口で戻しておいてくれ」  
「な、なんで私とこいつなんですか!?」  
「別にいいだろう、教材道具を戻すぐらい……それじゃ頼んだぞ」  
 
俺は今、日ハムの名野手になっている。  
新庄と小笠原とダルビッシュが俺と共に鍋をつついてる。  
夢にまで描いた光景だ。俺はダルビッシュと小笠原が肉の取り合いをしているのを尻目に、  
肉団子をほお張る。そう、これは夢だ……。だが俺の心は幸せでいっぱいだ。  
ふと見ると、新庄が俺を揺すっている。スキンシップのつもりだろうか?  
 
「ちょっと!起きなさいよ、明良!」  
「ふぁ…ふぁい……」  
 
俺が肉団子を食ってるにも関わらず、新庄は俺の方を揺すり続ける。  
何すんだよ〜♪ とでも反応してもらいたいのだろうか?  
俺はそんな初々しい恋人のような真似はできないというのに……。  
 
「起きなさいって!」  
「ふぁ…ふぁい……」  
 
しばらく肩を揺すっていた新庄が白い歯を見せる笑顔でバットを取り出した。  
……彼は一体何をするつもりなのだろうか?新庄は笑顔で俺の前まで迫ってきた。  
そして笑顔でバットを思いっきり振りおろし……って、なにをするだァー、新庄ー!!  
 
「起きろつってんのよ、この昼行灯!!」  
「ダルビッシュッ!!」  
 
目の前には新庄がおらず、変わりに友美の姿があった……。  
しかも片手には教材道具のでっかいコンパスが握り締められていた。  
 
「いってーな!何すんだよ!!」  
「先生に教材道具を片付けるようにって言われたのよ。あんたも来る!!」  
「す、すざけんな!なんで俺まで行かなくちゃいけないんだよ!」  
「今日、雑用係の二人が休みだから代わりにあんたと私に回って来たのよ」  
 
そういえば、今日出席取るときに女子の二人が休みだった気がする。  
田山だか山田だか、田中だか中田だか、とにかく影が薄い女子だ。  
係りが休みで俺にその仕事が回ってくるなんてやっぱりツキがない……。  
 
「めんどくさいから一人で行って来て……眠いし……」  
「か弱い女の子一人で、教材を持って行けっていうの!?」  
「全然か弱くねえだろ。そのでけーコンパスで俺を殴ったく……ぎゃん!」  
「いいからさっさと来る!!」  
 
そう言われ、強引に連れて行かれることになった……。  
やっぱりツキがない……。こうなったらさっさと終わらせて早いとこ教室にもどろう。  
 
「えーと、ここよね」  
「……おい!お前何ももってねーだろ!何かひとつ教材持てよ!!」  
「細かいことをいちいち気にしないの!」  
「……」  
 
結局俺は荷物もちかよ……。自分は何も持ってねー癖しやがって。  
さっさと教材置いて帰ろう……。そう思って、準備室の奥に教材を置く。  
 
「おい、ここでいいんだろ?さっさと戻ろうぜ」  
「はいはい、ご苦労さん」  
 
ったく、自分は扉の開け閉めをしただけの癖に……。と文句を垂れるとまた殴られるだろうから言わない。  
ふと見ると、友美が準備室の扉のところでポカンと突っ立っている。……何してんだ?  
 
「おい、早くドアを開けろよ」  
「ドア……取っ手が……取れてる……」  
「……ハァ!?」  
 
そう言って友美はドアの取っ手を俺に渡した。  
……とってがとっても取れちゃった。なんて蹴り飛ばされそうなギャグを言ってる場合じゃない。  
本当に取れている。見事に取れている。寸分狂いなく取ってはドアから外れていた……。  
 
「ど、ど、どーすんだよ!これじゃ俺たち出れねーじゃん!!」  
「そ、そんなこと言われたって私がはずしたわけじゃないし……!」  
 
とりあえず、俺はドアノブをドアに再びくっ付けられないか、ガチャガチャと弄くりまわす。  
しかし、当然のことながら取っ手はくっ付かない。……、そ、そうだ!アロンアルファ!  
アロンアルファでドアノブをくっ付ければ!さっそくアロンアロファを探そう!!  
 
「ア、アロンアロファ!アロンアロファを探せ!」  
「……それでくっ付ける気なんだろうけど、どっちにしろドアノブ回らないと思うわよ、それ……」  
「あ……」  
「あ じゃないでしょ!この馬鹿明良!なんとかしなさいよ!」  
 
俺が取ったんじゃないのに……。  
こーいう時って、なんで男が"何とかしろ"って言われるわけ……?  
 
俺は何かよい道具がないか、準備室の中を只管探し回ったが、使えそうなものは見つからない。  
窓から出てみようと思ったが、ここは3Fなので落ちたら怪我じゃすまされん……。  
準備室と他の教室を繋ぐドアは鍵が掛かっている……。まさに打つ手がない状態だ……。  
 
「……ま、いいか。そのうち誰か来るだろ。それまで寝て待ってようぜ」  
「じょ、冗談言わないでよ!次の授業に出られないでしょ!それにあんたとこんな密室で一緒にいるなんて絶対嫌!!」  
「うるせーよ!だったらオメーが何か出る手段考えてみろっつーの!」  
「よ、よくドラマとか漫画でドアに体当たりするのあるじゃない。アレやって」  
「……ハァ!?」  
 
次から次へと俺にムチャクチャな難題を押し付けやがって……!  
大体あんなのはドラマやアニメだから出来るんだよ!俺が体当たりしても骨が折れるだけだっつーの!  
 
「そ、そんなこと出来るか!大体、俺の体当たりでドアを無理やりこじ開けられるとでも思うか!?」  
「……ま、無理ね」  
 
そう納得されて、何とか体当たりを免れた俺。……しかし何か府に落ちない。  
確かに俺は、そこまで体力がある方じゃない……。どちらかというと頭脳派だからな。  
しかし、納得されたことがなぜかムカつく……。もうちょっと期待してくれてもいいんじゃね……?  
 
「はぁ……待つしかないか……」  
「そういうことだ、諦めろ」  
「……言っとくけど、妙な真似したらぶん殴るからね!」  
「誰がするか!大体俺は寝るっつーの。人が来たら起こせよ!」  
 
そう言って床にごろりと横になり、目を閉じる。  
……が、なぜか眠れない。普段ならものの1分で睡魔がやってくるのに奴は来ない。  
環境が違うからだろうか……?それともこの準備室の空気が悪いからか……?  
うまく眠ることができず、しばらくゴロゴロと転がっていると、友美の顔が目の前に……。  
 
「ほぁぁぁぁああーっ!?」  
 
思わず驚いて体を起こす。び、吃驚した……。  
俺があんな大声を出したにも関わらず、友美はぐったりとして寝息を立てている。  
……さっきあんだけブーブー言ってた癖に寝るとは、いい根性してやがる……。  
 
こいつが横で寝てるとなるとオチオチ寝ることもできん。  
俺は壁に寄りかかりながら友美を見下ろす。  
……こーしてみると、本当に顔だけは可愛いんだよな……。  
寝息を立てている顔を見ると胸の鼓動が高鳴ってくる……。……はっ!  
 
い、いかんいかん!何を考えているんだ俺は!  
奴は顔は可愛くても悪魔だ!一度動き出せば、連邦軍のモビルスーツの如く悪魔と化す。  
今は稼動してないからおとなしく見えるだけ……。あ、あぶねえ。騙されるところだった……。  
 
なんとか顔から視線をずらし、この状況を耐えようと思ったが……。  
視線をずらした先が悪かった……。視線をずらした先には、はだけたYシャツから……。  
なんというか……。まあ早い話が女が胸に装着するアレが見えて……。  
見ようと思ってみたわけじゃない。見えてしまったのだ。決してやましい心で見たわけじゃない!  
 
「なんでそんな格好してんだよ……。というか、下にTシャツくらい着ろよ……」  
 
俺はそう言って、寝ている友美に愚痴る。  
当然、奴には聞こえていない。返事は寝息だけだ。  
見まいと思っても気になって仕方ない。俺の視線は自然と奴の胸元へといく。  
……案外、こいつって胸が大きいんだな。谷間が見える……。  
男女の癖にこういうところだけは成長してやがるんだな。……はっ!!  
 
「ダルビィィシュー!俺に力を与えてくれー!!」  
 
俺はこんな"ちょっぴりエロくて馬鹿な男"なんてキャラじゃない!違うはずだ!  
意識してたまるか!あんな女の。友美など意識してたまるか!  
そうやって意識しないと思えば思うほど、どんどん気になっていく。  
 
「んぅ……んん……」  
「アチャァ!?」  
 
友美の寝言にビビッて思わず体の態勢を崩してしまう。  
そのまま俺の体は友美に覆いかぶさるように倒れこんだ。  
なんとか友美にぶつかる前に両手で床を叩き、最悪の事態を免れた……ように思ったその時。  
 
「んぅ……ん……んー!?」  
 
友美が目を覚ます、なぜこんな時に!?  
寝ぼけているのか目をこすっている。や、やばい……なんとか言い訳を考えないとやばい……。  
 
「ど、どうも。本日は天候がよろしく絶好の野球日和で……」  
「……」  
 
時が止まった。10秒程。  
俺は一瞬だけザ・ワールドを発動した。ただし、このザ・ワールドは本人も動けない。つまり意味がない。  
 
「い……いやああああああああああ!!」  
 
その後、どうなったのかはお察しの通りである。俺の頬に掌の痕がくっきりとついた。  
おまけにこいつの叫び声が学校中に響いたおかげで、閉じ込められていた俺たちの元に続々と人が集まってきた。  
おかげで脱出できたのは確かだが……その代償はあまりにも大きかった……。  
 
「友美を襲おうとしたらしいわよ」  
「やっぱりあいつは獣だわ」  
「最低の男ね」  
 
クラスの女子生徒が、俺に聞こえる声でヒソヒソ話をする。  
あれは事故なのに……不可抗力なのに……俺は何もしてないのに……。  
 
「いくらなんでも学校ではまずいだろ」  
「あいつのせいで俺たちまで獣と見られたらどうしよう……」  
 
そして、俺の派閥であるはずの男子まで俺を奇特な目で見てやがる。  
濡れ衣だ……確かに胸元を意識しちゃったのはあるけど濡れ衣だ……!  
 
「お前、友美の奴を襲おうとしたって本当か?」  
「いくらなんでもヤベーんじゃね?」  
 
そして、話をききつけ俺に面白おかしく話しかけてくる関根と山川……。  
 
「違うんだよ!アレは不可抗力だ!足を滑らせてたまたまそうなったんだよ!!」  
「とか何とか言って、本当は襲ったんだろ?」  
「獣じゃね?」  
 
こ、こいつら……。とりあえずムカついたので一発ずつ殴っておく。  
と思ったが、関根を殴ったら10倍痛いパンチが返ってくるので山川を二発殴っておいた。  
"なんで俺だけなんだよ!!"と文句を言っていたがシカトしておく。今はそれどころじゃない。  
この誤解をとくためにも、友美をなんとか説得しなければならないのだ。  
 
「おい!あれは誤解なんだって!足を滑らせただけなんだよ!本当だよ!」  
「うるさい、ケダモノ」  
「コラァー!少しは聞けよ!本当に不可抗力だったんだよ!誤解なんだよ!!」  
「近寄らないで、変態」  
 
友美の奴はまったく聞く耳を持たない。  
なんで態勢をちょっと崩しただけでこんな目に会うの……?  
もはやツキがないとかそんなレベルではない。のび太だってもうちょっと運があるぞ。  
 
「おい、北口!教育指導室までこい!」  
 
別名ヤクザ先生の蓄鬼が竹刀をピシピシと床に叩きつけながら俺を呼ぶ。  
まさか何もしてない俺に対して体罰与える気じゃねーだろうな……?もしそうなったらPTAにチクってやる……。  
 
「せ、先生!アレは不可抗力というか足元がお留守だったというか、体がお留守だったというか……」  
「いいから来い!」  
「嫌だァァァ!俺は無実だァァァァ!!」  
 
蓄鬼にずるずると引きずられる……。ああ、終わりだ俺の学園ライフ……。  
きっとこの後、教育指導の先生に竹刀で1000発殴られた後、親に通報され、近所に知られ……。  
学校では、"強姦魔"とか、"変態"だとか罵られ、虐められるんだ……。  
近所のガキンチョに、"やーい!変態変態!"とか言われて虐められるんだ……。  
さようなら、俺の青春……。さようなら、北海道日本ハム……。  
 
「だ、だから!アレは不可抗力でしてね、わざとじゃないんですよ!」  
「……」  
 
俺は必死に弁解をする。とにかく、濡れ衣を晴らすには自分が無実だということを必死に伝えなければならない。  
神にすがる想いで、身振り手振りで俺が無実だということを説明した。  
 
「……なるほどな」  
 
蓄鬼は、すくっと立ち上がる。や、やばい、引っぱたかれる……!  
そう思って身構えるが、蓄鬼は俺を素通りしガラガラと扉をあけ、どこかに行ってしまった。  
あれ……?放置プレイ……?今のうちに逃げようかと思ったが、逃げたら余計怪しまれるだろうからやめといた。  
そして10分後、俺の緊張が最大級に達したとき、蓄鬼が戻ってきた。  
 
「今回のことは許してやるとのことだ。牧田に感謝しておけよ。もう二度とこんな騒ぎを起こすな!」  
 
そう言って、蓄鬼は俺を教育指導室から追い出した。  
……なんかしらんが俺は助かったようだ。必死の祈りが神に通じたようだ。  
ありがとう、神様!ありがとう、日本ハム!ありがとう!  
俺は心の中で神と日ハムに感謝しながら教室に戻った。  
教室に戻ると、すでに放課後の時間になっており辺りには誰もいなかった。  
 
「やっと開放されたの?ご苦労さん」  
 
……否、違った。一人だけ居た。もっとも居てほしくない人物が一人だけ……。  
 
「と、友美!なんでオメーがいるんだよ!早く帰れよ!!」  
「あれー?そんな口利いていいのかな?誰のおかげで助かったと思ってるの?」  
 
クク……この野郎……。さては俺に貸しを作ろうという魂胆だな。  
大体、元はと言えばお前があんなところで寝るのが悪いんだろうが……。  
いや、それ以前にドアの取っ手が取れなければあんなことにはならなかったんだ。  
いや、それ以前に影の薄いアホ女子二人が休まなければこんなことには……。  
いや、それ以前に……。人生は後悔の連続というが、今がまさにそれだ……。  
 
「す、すざけんな!大体、オメーがあそこで寝るのが悪いんだろうが!」  
「あ!?何その言い方!私を襲うとしたのはあんたでしょうが!」  
「だから、あれは不可抗力だって言ってんだろうが!誰がテメーみたいな女を襲うか!!」  
「いーや、あんたならやるわ!」  
 
だんだん腹が立ってきたぞ……。  
そもそも、なんで俺がこんな目に会わなきゃいけないのだ?納得できん。  
人に荷物を持たせ、ギャーギャー騒ぎ立てて、無防備な格好で眠りこけて……。  
おまけに、クラス中から変態扱い。俺が被害者だと言いたいくらいだ。  
 
「寝込みを襲うなんて、いやらしいあんたがやりそうなことよ!」  
 
……プツリ。  
俺の中で決定的な何かがキレた。  
 
「……じゃあ、俺が本気で襲った時の怖さをおしえてやろーか?」  
「はぁ!?な、何言って……っ!」  
 
言葉と同時に体が動いていた。  
俺は友美を力任せに押し倒し、羽交い絞めにする。  
友美はなんとか逃れようと、必死にもがいていたが所詮は女の力。  
本気になった俺の力に敵うはずがない。  
 
「ちょ…ちょっと……。じょ、冗談でしょ……?」  
「あ?さんざん好き勝手言っておいて今更何言ってんだ?」  
 
俺は友美の制服に手をかけ、力任せにボタンをはずす。  
次に、Yシャツの上につけているリボンをはずす。……残るはYシャツだけだ。  
Yシャツのボタンに手を掛け、一番上からプツプツと順番に外していく。  
 
「や、やめて……やめてってば!!」  
「お前が言ってるのはこういうことだろ?ああ?」  
 
Yシャツの隙間から見える、ブラジャーが俺を刺激する。  
思わず暴走してしまいそうになるが、それだと本当に強姦魔になってしまうので必死に自粛する。  
いくらキレていても、それくらいの理性はある。これは単なる脅し。  
 
「……お前、案外、胸が大きいんじゃねえか?……それともパットでも使ってんのかよ?」  
「い、いや!見ないで……!お、お願い……もうやめて……」  
 
ブルブルと子犬のように震えて懇願する友美。……冗談じゃない。  
きちんと謝罪するなら許してやるが、この程度じゃまだ甘いってもんだ。  
俺はYシャツのボタンを全部はずすと、そのままYシャツを広げ、友美の上半身を露出させる。  
 
「……下はどうなんだよ?」  
「あ、明良、やめっ…! やめっ…!もうこれ以上は…… お、おねがぃ……だかっ……」  
 
……最後には泣き出しやがった。泣いたぐらいでやめ……って、本当に泣いてる!?  
し、しまった!ちょっとやりすぎたかな!?  
俺も少しノリすぎて演技のつもりが多少マジになっていた……。ちょっと反省。  
 
「……泣くくらいなら、最初から人を挑発するんじゃねえよ……」  
「だってっ…… ひっく… こんなに怒るなんてっ…… ひっく… おもわなっ……」  
 
両手で目を擦って泣きじゃくっている。  
正直、ここまでするつもりはなかったのに……。俺の良心がズキズキと痛み出す。  
今回は俺は悪くないんだから堂々としているべきだが……でもやっぱやり過ぎたかな……?  
 
 
「悪かったよ…。もう泣くなよ。二度としないよ……。だけど、お前も二度とあんなこと言うんじゃねーぞ」  
「うん……」  
 
俺は友美の体を起こし、ハンカチで涙を拭う。  
その涙を拭うたびに俺の良心がズキズキと悲鳴を上げる。  
正直言って、友美が泣く姿はあまり見たくなかった……。  
 
 
「大ッ嫌い!!」  
「いってー――――!!」  
 
そう思って俺の良心が痛んだのはほんの10分!  
10分後、泣き止んだ友美はイキナリ俺にビンタをくれやがった!いや、当たり前かもしれんが!  
やっぱりもっと泣かしておくべきだった!人生は後悔の連続というが、このことだ!!  
 
「今回のことは、ゴリゴリ君10個でゆるしてあげる。はやく買ってきて」  
「ハァ!?つーかこのクソ寒い時期にアイスかよ!」  
「言うこと聞かなかったら、明日みんなにばらすからね」  
「く……っ!ちっくしょー!買えばいいんだろ、買えば!」  
 
人を変態とか強姦魔とは言わなくなったが、高飛車なことにはかわりねえ……!  
結局、あいつに貸しを作る形になってしまった……。  
いや、それどころか、弱みすら握られてしまったんじゃねーか?なんという不運……。  
くそ、いつかまた絶対泣かしてやる……!  
 
「ふんっ!ベーっだ!乙女を辱めた罰よ!アイスで妥協する心優しい私に感謝することねっ!」  
 
ム、ムカツク……。  
なかしちゃる……いつか絶対なかしちゃる……。  
とりあえず、俺は友美に買ったゴリゴリ君の袋をあらかじめ全部明けておくという、  
とてもショボイ嫌がらせをして鬱憤をはらしておいた。  
 

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