小雨の中、山中に怒声と罵声、そして銃声と悲鳴が響いていた。
「―――――そっちに逃げたぞっ!」
「ちくしょう!ジム、ジムっ!しっかりしろっ!!」
「ヒトのくせに、なめやがってぇ!!」
「回り込めっ!!絶対逃がすなぁっ!!」
正面の山道に不意に現れる犬面人身の化物に、榊原蒼馬(さかきばら そうま)は何の躊躇いもなくM16ライフルの弾丸をぶちこむ。
「ぎゃあああああ!!!!」
弾かれたように吹っ飛ぶ化物の死体を踏み越え、妹の手を引きながら獣道をひた走る。
何度も転びそうになりながら、妹の可憐は必死になってついてくる。正直、手を放した方が彼女にとっては走りやすい事は間違いないだろう。
だが蒼馬は、その手を放す気はなかった。
身長190センチの巨漢とも言える蒼馬と、150センチに満たない小柄な妹。
彼が本気で走れば、可憐の小さな歩幅では蒼馬に並走できるはずなどない。
だが、問題はそういうことではない。
この異常な情況で、たった一人の肉親、いや、それ以上にかけがえのない存在であるはずの妹の手を放すなど、彼には少なくとも考えられなかった。
そろそろ、残弾も少ない。
この一時間で十匹以上は撃ち殺してるわけだから、当然といえば当然だ。
あと、どれくらい逃げ延びられるだろうか?
そう思った瞬間、後方で爆音が轟く。
先ほど仕掛けた手榴弾のトラップに化物がひっかりやがったのだろう。これで少しは時間が稼げる。そう思った瞬間―――――。
「お兄ちゃん!危ない!!」
左真横から風切り音が聞こえた瞬間、蒼馬は思わず後ろへのけぞった。
寸前までちょうど顔面があった空間を、唸りを上げて矢が通過し、激しい音を立てて右の木の幹に突き刺さる。
倒れながら足のホルスターからピストル(コルト・ガヴァメント)を抜き、敵がいるとおぼしき地点に盲撃ちを二射。全て反射行為だ。
「ぐあっ!!」
化物は脚を撃ち抜かれ、木の枝から転がり落ちる。
しかし、さすがは化物と言うべきか、落ちながらも腰の剣を抜き、立ち上がろうとする。
その瞬間、蒼馬のコルトが火を噴く。弾丸は丁度、身構えた刀身に命中し、その長剣はざくろのように木っ端微塵になった。
―――――化物のクセに安物の鉄、使ってやがる。
コルトをホルスターに仕舞いつつ、素早く駆け寄り、弓を蹴飛ばし、M16の狙いをつける。
「待ってお兄ちゃん!」
「可憐!?」
「この人はもう戦意を失ってます。そんな人をこれ以上撃っちゃダメですっ」
「・・・・・・・・・・・お前、今の情況が分かって言ってるのか?」
―――――――確かに化物は怯えきっていた。
小雨で濡れそぼった尻尾が、股間を通して腹部に張り付き、寒気以外のものがもたらす震えに全身を覆われていた。
敵の眼前で負傷し、武器を失い、丸腰になった恐怖か。
いや、それ以上に蒼馬の装備するM16自動小銃の凶暴な威力を、仲間の死体で充分すぎるほど知っているからか。
とにかく、化物の眼は雨以外の水分で潤み、怯えと恐れ以外の感情は判別できなかった。
「お兄ちゃん!!」
「・・・・・・・・・・・両手を頭の後ろで組んで、ひざまずけ」
「やっ、やめろっ!殺すなっ、殺さないでくれっ!」
「五つ数えるうちに言われた通りにしろ!さもなきゃ撃つっ!!」
「妻と、妻と娘がいるんだよっ!」
「イチッ、二ィッ――――――」
「お兄ちゃん、ダメッ!!」
「ひいいいいっ!!分かった!分かったぁ!!」
化物は撃たれた脚が痛いのか、表情を引きつらせたまま蒼馬が指示した姿勢をとる。背中をがたがた震わせながら。
彼はこれでいいんだろ、と言わんばかりの表情で妹をちらりと見る。
「・・・・・・・・・・・・・・お兄ちゃん」
「助けて、助けてくれよぉ・・・・・・・・・・」
「これから俺が聞くことに正直に答えろ。そうすれば殺しはしない」
「ホントだな?ホントに助けてくれるんだな?」
「そいつはお前次第だ、化物」
蒼馬は、この奇妙な犬人間から五・六歩間合いを外してライフルを構えている。これ以上近付き過ぎると、とっさの場合反応しきれない場合があるからだ。
訊きたい事は山ほどある。と言うより、蒼馬の頭の中は疑問だらけだ。
――――――――ここはどこだ?
――――――――何故、俺たちを追い回す?
そして何より訊きたい事。
――――――――お前らは一体『何者』なんだ?
すでに蒼馬たちは、この犬顔の追っ手たちが、悪趣味な仮面を被った単なる武装集団ではなく、人間にあらざる『本物の化物』である事を確認している。
この連中が、遺伝子操作によって誕生した、某国のバイオ兵士だとするなら、しかし、それでも納得はいかない。最新の科学で産み出されたはずの奴らにしては、装備があまりに貧弱すぎる。まるで百年前の屯田兵だ。
しかし、そんな事を訊いている時間はない。
幸い、この雨が自分たちの臭線をかなりの部分、消してくれるだろう。この犬顔連中の鼻が本当に犬並みだったとしても、その点は少し救いがある。
―――――――取り合えず、この場を逃げ延びるための質問が最優先だ。
「名前は?」
「・・・・・・・・・めっ、メッサーラ」
「じゃあ、メッサーラ君、まず質問その一だ。お前らの人数と規模は?」
「きっ、規模?」
「変にすっとぼけたりしやがったら、その場で殺す。いいな?」
「こっ、国境警備局の兵たちが、だいたい一個小隊から二個小隊・・・・・・・・・」
「もっと具体的に言え!」
「にっ、二十人強!」
二個小隊が二十人・・・・・・・・少ないな。編成の仕方が人間の軍隊とは違うのか?
いや、そんな事はどうでもいい。どっちみち、この犬コロの言ってる事も本当かどうか分かったもんじゃない。だが、本当だとすれば(その怯えきった眼が嘘をついてるようには見えなかったが)、まだ充分逃げ延びられる数だ。
蒼馬はもう、十人以上の追っ手をその手にかけている。つまり、残りは単純計算で十人ちょい。
―――――――いける。何とかなりそうだ。後は逃走のルートだが・・・・・・・。
「質問その二。―――――今お前、国境警備つったな。国境の方角はどっちだ?」
「え?」
「早く言え!」
「みっ、南だ!南に行けば川がある。そこを越えれば猫の国だっ!!」
「ねこのくにぃ・・・・・・・・・・・?」
可憐が思わず眼を丸くする。
「ねこって・・・・・・・あの猫、ですか?『ニャ−』って鳴く、あの・・・・・・・・・?」
「それ以外に、どんな猫がいるってんだよぉ!」
「うるせえ、怒鳴るなワン公!」
「ひっ、すいませんっ!」
「・・・・・・・・・・・信じたくはねえが、犬が二本足でヤリ振り回してる世界だ。首から上が猫になってる国があっても可笑しくねえ」
「でも、お兄ちゃん・・・・・・・・可憐、まだ信じられません」
「信じたくねえのはお互い様さ。でも、今はそんなこと言ってる場合じゃねえ。―――――メッサーラ!」
「へっ、へいっ!」
「これが最後だ。おめえが持ってる食糧、現金、全部出せ」
「お兄ちゃん・・・・・・・・・・・・・!?」
「この場を凌いでからもゼニはいるし腹も減る」
「でっ、でも、それじゃあ可憐たち、ドロボウさんになっちゃうよっ!?」
「どのみち俺は十人以上撃ち殺しちまってる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・俺だって、やりたくてやってるわけじゃねえ。分かってくれって言うのは・・・・・・・・難しいか・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・あの〜〜」
「何だよ?」
「昨日・・・・・・・給料日、だったんすけど・・・・・・・・・全額ってのは、勘弁してもらえませんか?女房に仕送りしなきゃあいけないんで」
「お前まさか・・・・・・・・・・・・・戦場にサイフ丸ごと持ってきてるのか?」
「どうも・・・・・・・・・・・面目次第もありませんが・・・・・・本部からの指令は国境地帯に紛れ込んだヒトのつがいをとっ捕まえろって聞いただけでして、こんな大事になるとは思ってなかったもんで・・・・・・・・仕事明けに仲間と一杯やりに行こうかってつもりで、その・・・・・・・」
「もういい分かった!万札の一枚くらいは残してやっから、ゆっくり取り出せ!」
「へっ、へいっ!」
「『ヒトのつがい』だと・・・・・・・・・・・・犬コロ風情が舐めやがって・・・・・・・・・ゆっくりだっ!ゆっくり取り出して、そうそう、・・・・・・・妹に放り投げろ。―――――可憐」
「はっ、はい」
「中身は?」
「結構、入ってます」
「金貨一枚残して、後はサイフごと預かっとけ」
「えっ、一枚だけっ!?」
犬兵士が悲鳴をあげる。
「だったら二枚だ、二枚残してやる。これで文句ねえだろ!」
「・・・・・・・・・・・・ごめんなさいメッサーラさん。このお礼はいつかきっと・・・・・・」
「いま殺さねえのがその礼だ。一月分の給料で、命が買えりゃあ文句はねえだろ」
「―――――はぁ、そっすね・・・・・・・」
「後を向けっ!早くっ!」
「はっ、はいっ!!」
蒼馬は、あたふたと後ろを向いたメッサーラの後頭部にライフルの銃把をイヤと言うほど叩きつけ、昏倒させた。
「とにかく南へ向かおう。国境を越えれば犬どもも簡単には追っては来れまいよ」
「でもお兄ちゃん、可憐が追っ手さんだったら、裏をかいて国境沿いに網を張ります」
「大丈夫だ。十人内外の人数で網をはれるほど短い国境線なんて、まず有り得ない。それにもし、万一網に引っ掛ったとしても、その程度の人数なら突破できる」
「でも、その人数が本当に十人だっていう保障はありません。そもそも、南にそんな国境があるなんていうのも・・・・・・・・・・・」
「いや、国境があるのは確からしい」
蒼馬はにやりと笑う。
その手には、たった今メッサーラの戦闘服から取り出したらしいマップがあった。
「この川が奴の言った国境線で・・・・・・さっき越えた峠がここだとすると・・・・・・・おいおい、ここからもう、そう遠くないぞ」
「お兄ちゃん・・・・・・・・・それじゃあ、可憐たち、助かるん・・・・・ですか・・・・・?」
可憐の表情に少しだが、確実に希望の色が灯る。
正直、まだそう言い切れるかどうかは分からない。この右も左も分からない世界では、東西南北の概念からして違うかも知れないのだから。
――――――だが、蒼馬は笑った。
この、その名の通りの可憐な妹に、例え僅かでも希望があるなら、それを与えてやりたかった。
「大丈夫だ。お前は・・・・・・・・俺が守る」
「お兄ちゃん・・・・・・・・・・・・!」
可憐が眼を潤ませる。
いつもいつも、どんな時でも頼れる兄。彼女にとっては誰よりも強く、逞しく、それでいて優しい、唯一絶対の存在。
「行くぞ。雨がやむ前に移動しよう」
「はい!」
「お兄ちゃん・・・・・・・・・・!」
可憐が息を飲む音が聞こえる。
コンパスで方角を割り出し、正確に最短距離を移動し、やっと森が開け、川の音が聞こえたと思った瞬間、二人の顔色は鉛色に変化せざるを得なかった。
――――――それは崖だった。
グランドキャニオンもかくやという程の、たっぷり100メートル以上はある、垂直な断崖。そして、その下を轟々と音を立てて流れる、これまた川幅数百メートルはあろうかという大河。
「お兄ちゃん・・・・・・・・・どうしましょう・・・・・・・これじゃあ可憐たち・・・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・渡るしかねえ」
「お兄ちゃん!?」
「渡らなきゃあ、助からない。だったら渡るしかねえ」
「無理です!そんなの!そんなの絶対、可憐には無理です!」
「出来るさ」
「出来ません!」
「まず、この崖を降りる。そして向こう岸まで泳げばいい。一つずついこう」
「・・・・・・・・・・お兄ちゃんだけなら、もしかしたらこの崖を降りれるかも知れません。でも、でも、可憐には・・・・・・・・・・!」
「大丈夫だ」
蒼馬は装備を詰めたザックを下ろすと、中から一本の紐を取り出した。
「こいつで二人の体を結ぶ。その上で、俺がお前を背負って降りる」
「そんな・・・・・・・・・ムチャクチャです!お兄ちゃん一人ならともかく・・・・悪くすれば二人ともまっ逆さまなんですよ!?」
「大丈夫さ」
「でも――――――!」
「可憐」
「・・・・・・・・・・・・・・はい」
「俺が今まで、お前に嘘をついたことがあるか?」
「お兄ちゃん・・・・・・・・・・・・」
「守るべき者がいる時、人はそれだけ強くなれる。―――――――『北斗の拳』の台詞だ」
「―――――くすっ・・・・・・・・・お兄ちゃんたら・・・・・・・・・・」
可憐の表情が思わずほころぶ。
「こんな時に『北斗の拳』もなかったな。・・・・・・・・・じゃあ、行くか」
「・・・・・・・・・・・はい」
その瞬間だった。
背後の森から何本もの矢が飛んできたのは。
「可憐!」
蒼馬は妹の手を引き、とっさに樹を盾にして難を逃れる。
茂みの中から聞こえる息遣い、感じる気配・・・・・・・・・五・六匹。多くとも七・八匹。
この状態から一匹ずつ奴らを狙撃できるか?
手持ちの手榴弾で対処できるか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理、だな。
しかし、ここでこうやって膠着状態を続けていてもラチがあかない。
万一、奴らが援軍を前提とした足止め作戦をしているのなら、このままじゃジリ貧になるばかりだ。
唯一の救いは、ここが国境線である事だ。
もしも化物どもの弓隊が、向こう岸の崖から狙撃を仕掛けてきたら、二人ともハリネズミになるしかない。
だが、国境地帯である限り、その心配だけは必要ない。
―――――――と、なれば・・・・・・・・・。
「可憐、ここを動くなよ」
「お兄ちゃん、どうするんですか?」
「突っ込む」
「―――――!?」
「どのみち見つかっちまった以上、奴ら全員を始末しなけりゃあ、崖も降りれねえ。一匹でも残せば、頭上から矢を射掛けられちまうからな」
「・・・・・・・・大丈夫・・・・・・・ですよね・・・・・・・?」
「安心しろ。あんなショッカー怪人もどきなんざ、俺の敵じゃねえよ」
「――――うん、そうです、よね?」
「ああ」
「可憐はお兄ちゃんを信じてますから!」
その瞬間だった。
凄まじい速度で飛来した真っ赤な球体が、二人が盾にしている大木をかすめ、向こう岸の崖にぶち当たって大爆発を起こしたのだ。
―――――RPG!? 対戦車ライフル・・・・・いや、地対地ミサイル!?
「そこのヒト科のオスとメスどもぉっ!!次は外さん!死にたくなければ、今すぐ武器を捨てて投降しろっ!!」
―――――何だ!?何だ!?今の攻撃は一体なんだ!?
いかに蒼馬でも―――――この人ならざる者たちが闊歩するムチャクチャな世界が、本当に現実だったとしても―――――いまの怪奇現象が魔法による『攻撃呪文』だとは、さすがに想像を絶した。
「・・・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・・・・・・今の・・・・・・・・・・なに・・・・・・・・?」
可憐が紙のような顔色で蒼馬を見つめる。
だが・・・・・・・・この愛すべき妹の慄然とする表情こそが、逆に蒼馬をパニックから救い出すよすがとなった。
――――――しっかりしろっ!俺がうろたえてたら誰がこいつを、可憐を守るんだ!?
今の攻撃が一体なんだったのかは知るよしもない。
だが、一つ言えるのは、あれを食らったら・・・・・・・例え食らったのが盾代わりにしているこの大木だったとしても、確実にあの世まで吹っ飛ばされるであろう、という予測。
ならば次にわくのは、疑問。
連射はきくのか?
威力は今のが最大出力だったのか?
今のを使える奴はあと何人いる?
――――――仕方ねえ・・・・・・・・。
「可憐」
「はい」
「少し危険だが・・・・・・・手伝ってくれ」
「可憐に、できる事があるんですか?」
「ある」
「可憐に手伝える事なら・・・・・・・・何でもします」
蒼馬は、敵が潜んでいるであろう森から目を離し、ゆっくり可憐を振り向いた。
今から彼が妹に頼もうと思っている事は、ハッキリ言って危険極まりない。できる事なら自分がやりたいくらいだ。だが、そうはいかない。何故なら、妹とは別に彼自身がやろうとしていることは、絶対に妹にはできない事だからだ。
「今から俺が指示したら、全速力でダッシュしてくれ」
「ダッシュ?どこに?」
「―――――――崖だ」
「・・・・・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・・・・・・・!」
「俺を信頼してくれ、可憐」
蒼馬の眼差しが、あまりに予想外の指示に呆然とする可憐を射抜く。
「・・・・・・・・・頼む」
やがて、妹の瞳にも光が戻ってくる。
「――――――分かりました。可憐は・・・・・・・・お兄ちゃんを信じます」
「早くしろぉっ!あと五秒以内に両手を挙げて出て来ねえと、本当に焼き殺すぞっ!!」
――――――どっかで俺が使ったような台詞を使いやがる。
「やれるもんならやってみろぉ!この犬っころどもが!!」
蒼馬は言うが早いか樹から飛び出し、M16を一斉射させる。
「行け、可憐!!」
「はい!」
弾かれたように可憐が断崖に向かってスタートを切る。
「逃がすかぁ!」
術者が空中に赤い球体を浮かばせる。
―――――――やっぱりな!
例え、どれほどの速度で飛来しようとも、眼で追える以上は狙える。そして狙える以上は・・・・・・・・・!
その瞬間、赤い球体が太陽光のごとき真っ白い光を放って弾け飛ぶ。
蒼馬が、赤い球体の、まさにいま発射されようとしたその瞬間に撃ち抜いたのだ。
蒼馬はというと、トリガーを引いたその瞬間に振り向き、可憐と同じく崖に向かってスタートを切っていた。そして五・六歩で可憐に追いつき、彼女の腰に腕を回し、最後の一歩をなんの躊躇いもなく空中へと踏み出す。
その後方で起こる大爆発。恐らく追っ手の犬たちは、術者を含めて誰一人生きてはいないだろう。
そして二人は、互いにしっかと抱き合いながら、逆巻く大河に飲み込まれていった。
――――――――――――to be continued.