昨夜の色事から一夜、俺のアズキと呼ばれて奴隷&ノアの兄生活が始まった。 
とりあえずハダカで横に寝そべっていた銀髪ヘアバンセミロング、全身に赤茶の 
幾何学模様なイレズミが入ったご主人様、エロネコのカナに毛布をかけたら、 
案外かわいい寝顔だったのでなんとなしに鼻先を突付いてみた。 
 
 …起きてた。引っかかれた。 
 
 悔しいから、昨夜の痴態を詳細に語ってみたら、 
 
 …気に障ったらしい。殴られた。 
 
 あれはノアの淫毒で理性が飛んでいたから甘えてしまったが、普段はもうすごい 
らしい。支配的な意味で。そこらへんの意味は、後々に分かるであろう。 
 昨日は闇夜に浮かんだ輪郭しか見えなかったが、カナの肌は健康少女的な小麦色だった。 
ワイルドで白髪健康少女か。悪くないね。と誉めたら、 
 
 …照れ隠しに、首絞められた。 
 
 
 とりあえずは衣類を身にまとい(カナ様用の予備無地シャツとズボンを貰った。微乳ネコだから俺にもわりと良いサイズ) 
子犬スタイルで丸くなっていたネボスケな空色の髪を生やした白竜のノアに、襟を折ったそれを着せてやり、 
何故かあった棒つきドロップ(隊長いわく、甘い物好きな隊員が居るらしい)をノアに与え、 
 そして、朝食の保存食のよくわからん生物による干し肉(食竜とか言ってた)を 
生産者に気持ち感謝しつつ頂いた。まずい。犬のエサか。いや、ここではイヌのメシ以下か。 
「ふぅ…まじぃ」 
「うぅー…」 
 どうやら男言葉のシャツ姿猫と麗しの白竜が持つ味覚は俺と大差はないらしい。 
これが美味とか言い出して毎日食わされるくらいなら 
そのへんの雑草がケーキか何かに見えてきても俺は納得できるね。 
「だが、日持ちする美味な物ってのは、やたら値が張るのだぞ」 
 なるほど。こっちにも経済が成り立っていることが垣間見えた。 
「ほれ、ツマヨウジ」 
 ああ、どうも。 
…えーっとですね。 
真っ白なツマヨウジなんですよ、歯に当たる部分は。 
でも柄の部分になんで人の小指ついてるんだああああああ!!? 
「う゛にゃぅ!?」 
 俺が飛び上がったため、俺の膝の上で飴玉を舌で濡らしていたノアが変な声を上げた。 
「あ、それ私の体。大切にしろよ」 
 はぁ!? 
 うおおおお、確かにカナの左手小指が取れて… 
断面に血はなく、CTスキャンに色ぬったようなのが見える! 
「いや骨だけ取り出すのめんどいし」 
 サカナの小骨飲み込むのは許せないってレベルじゃねーぞこれ! 
気色悪い!パス、パス!! 
「主人の指投げんな。…ん、説明してなかったか? 私は人外だと」 
 俺の膝に乗ったまま目を白黒させているノアを湯たんぽがわりに抱きしめて 
この妖怪に文句を垂れる。 
 いやネコミミついている時点で人外ってか 
クスクス笑ってますね確信犯ですかやっぱアンタ化け猫!? 
「…死ぬか?」 
 いやでもごめんなさい化け猫はナシですよね 
その指ヨウジの針で俺の喉を刺そうとしないで下さいごめんなさい 
 
「…私はな、この世界の基準となる獣人から見も、さらに人外ってことだ」 
 …さらに? 
「本当は、お前達ヒトと比べてちょっと魔法が得意で、けっこう体力がある。 
 …それだけの生物で、寿命もあるし、病気もするし、腕がもげたら痛くてショック死する。 
 だけどな、私は…私達は違う。医学と、魔法学と、生体化学で作られた、人造兵器さ…」 
 すっと、カナは空を見上げ、溜息を吐く。 
 …人造兵器…やたら『ベ』の付く妖怪人間三人組が一瞬脳内を小躍りしていたが振り落とした。 
「いずれそれに気がついて、お前がドン引きするだろうからな。 
 まぁ手放すつもりもないし、面倒ごとは最初に片付けてしまうか」 
 フフ、と彼女は自嘲的な笑いを放った。 
「そうだな、私達が『造られた』経緯でも話してやるか…」 
 
 
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 …ここでアズキからの一言アドバイス。 
次の点線区切りまでアホカナ説明を読み飛ばしても問題ない。 
細々とした設定キライなヤツは是非読み飛ばせ。 
なぜなら、結局俺が一行でまとめるからだ。 
 
 大陸の中心にて個人レベルの商才と調整資本主義による政策により、 
ネコの国は現在進行形で急速に発展を遂げている。 
 しかし、急な変革には必ず『取り残される』者が存在する。 
 …資本主義とは、前へ進む者を奨励し、取り残された物を切り落とす社会。 
 だが『オチコボレ』が生きていくには資本主義を否定した行動…犯罪をするしかなかった。 
社会発展に伴い、それが表面化するのは時間の問題。それは、ヒトの世界の歴史書から学べたこと。 
 王都こそ、マナ・マギステル候補の名と王位の犯罪取締りによる変動制のため 
積極的な姫達の治安活動により、表立った大きな犯罪はない。 
しかし、それは犯罪の消滅ではなく、悪人が地方へと移転したことを意味する。 
無論、地方の自警団程度では返り討ちに遭うような、デカい組織もある。 
 よって現女王フローラ様は、イワシ姫マナの名が届かぬ地方へと、 
軍とは異なるフットワークの軽さを重視した少数精鋭の取り締まり部隊を結集する事を考案なされた。 
 
しかし、最近の犯罪集団事情は特殊だ。 
 
 国境がキナ臭いと言われる噂は、ネコ情報部発だ。 
どこかでイヌが世界操作のために犯罪集団を名乗っている。 
いずれ国家規模のテロなどが起きれば、十中八九がイヌだろう。 
国民が有事、直ちにその事実を飲み込めるようにするための、下準備。 
 捕らえたイヌの下っ端諜報員は、末端ゆえあまり情報がないが 
いくらかの情報を編み合わせると、世界を操作しようとしている。 
…そのために、犯罪集団を振る舞い、そして身を捨てる。 
ただし、ネコの国家としては信用に足らないレベルの情報の編み合わせ。 
 クモの糸を張り合わせた上に浮かんでいるような虚像。 
しかし、フローラ様は『有り得る』と判断なされた。 
 
 軍からの供給を受けている犯罪集団は、とにかく厄介だ。 
ただの物量だけでなく、上に頭脳まで居るから。 
 いくらフローラ様が優秀な方であろうと、 
ボードゲームには必ず『駒を犠牲にしなくては勝てない配置』が存在する。 
特に、駒と駒の力が拮抗している場合には、だ。 
 いくら歴戦の兵士であろうとも、所詮はネコの子。重武装と戦略を持つ相手に、 
いつかは壊滅的なダメージを受けることは免れないであろう。 
 
 だから、盤面をひっくり返す強い駒があれば良い。 
ただし、一個の個体で完結すると、ネコの性質上暴走しかねない。 
それは、S級犯罪者とA級犯罪者はネコが最も多いという不名誉が世界に知られているように。 
よって複数で分散、分担し、お互いを制し、相互扶助して作戦をこなす形態が必要だ。 
 
 表向きは有志の軍人から選抜された私達は、 
手術台の上や試験管の中で『生まれた』。 
…ベースを没落貴族などから売られたネコに。 
武器としての能力は他の生物の能力を。 
補助生命装置として多量のヒトを。 
…便宜上の市民権を。 
 
作戦名は『絹糸の亡霊』…『Ghost In the Silks』 
国境と盟約を守る絹糸は、亡霊によって編まれる。 
 
 …それの、第一分隊。最北方面担当。 
 同じ性質の個体は存在しない、補完的編成された6人1組。 
それは、虹が単色でないことに例えられた。 
 
部隊名は『虹衣の乙女達』…『Rainbow Silk:Maidens』 
6つある分隊の、その一つ。それが私達だ。 
 
 
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 …長いッすねー。ノアが飽きて寝ちゃいましたよ。 
「そこかよッ! もっと他に反応の仕方があるだろう!?」 
 平たく言うと、王都以外が治安悪いから強いキメラ部隊造りましたってことじゃね? 
「いや、そうなんだけどさ…」 
 説明している間にレゴブロックよろしく 
小指がくっついて治った左手で頭を掻いているカナ。 
 想定外の反応にたじろぐ表情が面白い。 
「いろいろ突っ込むべき場所があるんじゃないのか!? 
 フローラ様って誰よとか、そもそもイヌの諜報部って何とか、むしろ他にも部隊あるのかよとか!!」 
 興味ないっす。とりあえず、俺がカナさんの奴隷ってのには変わりないんでしょ? 
「ぐうッ…!!」 
 どうもこの猫は、俺が想定外の反応をするほど気に入らないらしい。 
俺の一挙一動に喜憂する点ではノアに近い感覚があるが、 
しかし俺の膝の上でくぅくぅ寝息を立てる天使に毛を逆立てる猫ごときが敵う筈が無い。 
よし、その路線で突っ走ろうか。じだんだ踏むネコミミというのもなかなか乙な光景だ。 
「アズキ…たかがヒトの分際で…!」 
 そろそろ俺の名前はアズキじゃなくって、く『ガサリ』ずあきって覚えてく 
 
 ばひゅっ 
「ぐおおおっ!!」 
 
 悲鳴を上げたのは俺じゃない。カナの後ろに迫っていた、短パンだけで胸筋見せている黒猫の男。 
右肩に真っ白な…カナの骨色の矢が刺さって仰向けに倒れている。 
「うぐううう!クソ、何お前!?もうちょいで押し倒してお楽しみの種付けなのにいいい!!」 
 なんだコイツ。発言がぶっ飛んでる。 
「何者だお前は」 
 カナ様は既にそちらに向き直って、黒猫の腹筋をゲシゲシと蹴りながら尋ねる。 
「うぎょあ!?いやちょ、ぐぼぉ!!蹴らないで、蹴らないで息がぐほぉ!!!」 
 …あれ、足乗せられただけでもけっこうキツイ。 
蹴られたら吐きそうになるんだろうなぁ。 
「ゼイ…ゼィ…お前も、すごいな…いや、ってか何その腕げはぁあ!!」 
「私の質問が聞こえなかったのか? それと、私は今不機嫌だ」 
 おお、カカトでグリグリと…腕? 
 俺はノアを腕に抱えたまま二人の側面に回りこみ、そして理解した。 
…右手がですね、変形してます。ボウガンに。 
 
  ヒジから手首にかけて甲の側がぱっくり開き、 
 そこから骨でできた弓の骨組み(なんか変な言葉使いだな)が左右に張られ、 
 弦は筋肉だろうか、かなり張った筋が三連に連なっており、 
 うち1本は既に弾を放って緩み、2本は腕の中に骨のボルトを納めたまま張っている。 
 そして一滴たりとも血はで出ておらず、CGでしか見ないような白い骨とピンクの繊維が見える。 
 
 …キメラだからって、それはねーだろ。からくり人形かよ。 
 
 ロックバスターよろしく黒猫の腹を踏んだまま腕のボウガンで顔を狙うカナ隊長。 
…エロ猫が今、ちょっとかっこいい戦士してますよ奥さん。腕が裂けてるけどな。 
「…よし、足にもう一本打ち込めば、話す気になるだろうな」 
「いやわかった、わかったからごめんなさいごめんなさいああああ」 
 …俺に近い匂いを感じた。 
「まず、名は」 
「ケイ! ケイ=ガルフィス!」 
「よしケイ。私の背後で何を企んでいた?」 
「きれーなねーちゃんを押し倒さらいでか!」 
 どこの方言だよそれ。作者も正確性に自信が無いぞ。 
「…あー。お前、あれだろ。市役所にお尋ね者登録されてる、レイプ魔」 
「正解!いやー、やっぱ種付けってロマンじゃん? 本能に忠実に生きようよ彼女!」 
 隊長、この世界に強姦罪ってありますか。 
「あるな。そうだな、股間のソレを射抜けばもう悪いこともできまい?」 
「ごめんなさいごめんなさい突っ張ることが男の 
 たった一つの勲章をデストローイしないで下さいごめんなさい」 
「にゅー…」 
 ああ、黒猫変態ケイ=ガルフィスが騒ぐもんで、天使の昼寝が阻害されてしまった。 
個人的には万死に値する。口には出さないけど。 
「まあ、別に子チンピラ程度のランクだな」 
 
 ぱすこん 
「のへぁ!?…あ…ぁ…」 
「はにゃっ!?」 
 
 ケイの額に刺さる隊長のボルト。ただし、刃先が数ミリ沈んでいるだけだ。 
「にーちゃ、これ、しんだ?」 
 ノアよそんな不安そうな顔で膝の上からで見つめないでくれ。抱き締めたくなるではないか。 
「まあ、弓で毒を撃つことも出来るわけだ。 
 組織で計画行動してる様子ではなし、尋問する価値もない。しっかり眠ってもらった」 
 …俺を仕留めるときもそれで良かったんじゃ? 
「それじゃお前を麻痺らせたまま背後から股間をいじくったりできんだろうが。 
 まあ結果的には毒が多すぎて気絶させてしまったが…」 
 どっちにしろ食われたのかよ俺は。 
ガルフィスの肩と額からボルトを回収する隊長に若干の呆れを覚える。 
 …その人も食われちゃうんですかね。 
「面は良いが態度が気に入らないので却下。 
 ああ、私はこいつを担いで、地元の警備まで突き出す。 
 ついでだ、お前も一緒に来い」 
 腕のボウガンがパクンと閉じて、元の赤い幾何学模様の走った腕に戻る。 
「お前をちゃんと奴隷登録してやる。ワクチンの接種とかで、 
 こっちの世界の病気を防がないとな。お前らにとっては未知の病原菌だ。 
 …言っとくが、お前らヒトは虚弱だから獣人がただのカゼ引くときに 
 瀕死の高熱とかふつーに出るぞ」 
 …是非お願いします。 
「…ああ、だがその前に、だ」 
 へい、何でしょ。 
「お前は私を怒らせた。おちょくった代償は、支払ってもらおうかねぇ」 
 ああ、昨日の晩に見せられた淫妖な笑顔…怖いから舌なめずりしないで下さい。 
 
 
「そういうワケで、今日は縛ってみようと思う」 
 どういうワケだよ。そしてそのヒモ、明らかに背中の虚空から出てきましたね。 
またアレですか筋繊維の束ですか。 
「ご名答。背筋の一部だ。まあ、ちょっとくらいなら自力で再生できるので問題ない」 
 軽く10メートルはありそうですが。ものすごい細いけど。エンピツ? むしろムチだね。 
「いろいろ体いじくって強度が上がったからな。細くても十分縛れる」 
 そっちじゃねえよ、というかどこに10メートル入ってますか。 
「まあ、背中もいろいろ仕込んでる。これも、捕縛用にもともと背中にスペース確保してあるわけだ」 
 …さいで。 
「というわけで、」 
 ピッチャー、振りかぶった。 
「素直にしばられなッ!」 
 投げた、いやそのムチを振り下ろしてそれは痛そうだうおおおおおお 
シュルルルルッ 
 
 …あれ? 
今、明らかに俺のほうにムチ10mが振り下ろされたのだが、 
少なくとも俺は衣服を着たまま全く変化がないようだが… 
 しかし、異変に気がついたのはノアが目を丸くしながら俺にこう伝えたからだ。 
「しむらー、そで!そで!」 
 …うん、既に縛られてまして。 
袖からあのムチがカナ隊長の手元に伸びて、服の下から全身縛られてた。 
一歩動こうとしたら、バランスを崩して、ズデン、と腹から土の上にこけた。 
 …スノボでふわっとした雪の上ですらキツいのに…いてぇ。泣きそう。 
「あらら。まあ、おとなしくしてな。楽しませてもらうぞ」 
 ああ、まただよ。俺を上から覗き込む、企んだ顔。 
「やっぱ大事なのは主導権だな、縛って男に言うこと聞かせるのは快感♪」 
 あーあ、空を見上げる目がイっちゃってるよ。 
…ん? 空が見える? 
 いや、隊長、ここはマズいですって! 
「なんで」 
 そこに見えるのは、舗装道路でしょ!? 
「だから」 
 誰かが通ったら絶対に見られます!! 
 …ああ、にっと笑いやがって、こいつ… 
「だろ?」 
 露出狂かよ!! 
 
「ん…じゃ、お約束通りひん剥くか」 
 ああ、もう隊長、俺に形振り構ってませんね。人差し指からカッター出てますよ。 
 …俺の体は、ぶっちゃけ中肉中背というか、ガリガリでもないが胸筋もマトモにない。 
まあ、不健康そうじゃない程度にオタク体型ってことだ。 
「はわわ、にーちゃ!」 
 胸元から突きつけたカッターがバリバリと上半身のシャツを切りつけて、 
俺の貧弱な体を日光の下に晒す。 
 幼女のノアはその痴態をあたふたとしながら見ているだけ。 
「ふむぅ、やはり昨晩触った感覚そのままだなぁ」 
 ちょっと残念そうな顔された。やたら悔しい。 
「んー…(元)童貞君をいきなり踏んづけても感じたりしないよなぁ」 
 それはもう真性の領域はいってないと無理ですね。Sの申し子って嫌だなオイ。 
「それじゃ、初心者入門でサービスするかな♪」 
 
 急に天地が入れ替わる。いや、俺が上下回された。 
と同時に、背中にやらかーい感触が。 
「んー、暖かさは十分だな、ヒトってのは」 
いつの間にか地面に仰向けに直されていた俺の背中側に入り込んだ 
 カナ様が上半身裸の俺を、ぎゅーっと抱きしめて。 
 …てちょっと、俺は人形か何かかよ!恥ずかしいよ! 
 俺の首の後ろから耳元へ隊長は答える。 
「ん、これはお前がノアにしてやった事だろう? ノアは喜んでいた様子だが」 
 …そうだ。俺はノアをカワイイお人形さん的な扱いをしている所がある。 
で、ノアも俺に抱っこされると、実に可愛らしくも恥らいつつ俺の膝の上を堪能していた。 
「ノアちゃんとおーんなじだぞ? ノアはお前のペットだが、お前は私のペットなんだからな♪」 
 ぐうっ! 俺は思わずノアに助けを求めて視線を向けるが… 
 
 ああっ、おめめがキラキラしてるよ! うらやましいビーム飛んできて痛い痛い!! 
何お前、もしかして俺にペッティング的なことされたい願望あんの? 
いかにお前がそう生まれたからってそれは人として認められん! お父さんは認めんぞ!! 
「よし、ノアちゃんもアズキおにーちゃんに痛くされないように、 
 ちゃーんと加減教えてあげるから、見守ってあげな♪」 
 
 そう言いながら、カナ様の右手はだんだんと俺の長ズボンに迫る。 
俺のわき腹から、ヘソの上を撫ぜて、そして直下。 
「つっかまえた♪」 
 俺の分身の根元を人差し指と親指で掴みながら、 
鬼ごっこで好きな男子を捕まえた活発な女子の声を出す。 
「たっぷり時間はあるんだから、焦らず行こうかねぇ」 
 いや、俺的には一秒でも早く済ましてあの路面から見知らぬ目線が現れないことを切に願うね。 
「いいじゃないか、新世界見れるぞ?」 
 そんなのアンチATいらねぇよ。ひとりマトリックスしてろこんチクショウ。 
 しかしまあ、その力強くも繊細な指使いでくにくにと俺の息子をいじられたら、 
ふがいなくも起ってしまう。クソ、何で俺は男なんだ。 
「私に遊ばれるためだな、間違いない」 
 その間にも、俺を揉み扱く右手は徐々に根元から竿へ、そして亀頭へとねじり寄って行く。 
背中に女性のやわらかい双丘を感じながら、股間にやさしい刺激を送られて 
何も感じないほど人として終わってはいない、俺のさび付いていたオスの感覚が徐々に油を差されて潤滑になる。 
センズリしたこと無いと言えば嘘だが、最近は虚しくてしょうがないから全然ご無沙汰だった。 
 久しくも心地よいその感覚に、俺の息は徐々に荒く、心拍数と共に増える。 
「ん、なんだ、ちゃんと感じれるじゃないか。 
 昨晩のお前はヤケに冷静だったからそーいう奴なのかと思っていたが?」 
 あの時はレイプだしナイフ喉に刺されてたし、唐突過ぎて頭の中がグチャグチャでしたからね。 
そんな気持ちよいとかそーいうことよりも、どう生き延びるかで必死でしたので。 
「…ってことは、だ。」 
 隊長は、自分の頭髪をクルクルといじりながら、俺の耳元で尋ねる。 
「今は、安心してくれてるのか?」 
 
 …… 
 
「そうかそうか、あはは、カワイイやつめ♪」 
 その股間を貪る右手と自身の頭を掻いていた左手で、俺はぎゅっと抱きしめられる。 
…不覚にも、暖かい。 
 
「益々気に入った。ちゃんと面倒見てやるぞ。 
 …まずは、はちきれそうなお前さんのチ○ポからだがな」 
 揉んでいたその右手が、その円柱の中心方向から平行方向への扱きへと変動する。 
 …うぐっ、懐かしくも虚しい思い出の上に、カナ様の顔が上書きされていく。 
「さて、今日はノアちゃんの『教育実習』も兼ねるかな」 
 …いかん、ノアのことを忘れていた! 
その時、ノアは… 
 …俺の又の間にちょこんと座り、ズボンの中で蠢く膨らみを凝視していた。 
「さあ、ノアちゃん。昨日は私が手伝ってあげたけど、 
 ちゃんとお前だけでご主人様を満足させてあげないとな?」 
 その刹那、カナの手の動きが止まって右手が根元で待機したかと思うと、 
左手が一瞬で俺のズボンのジッパーを下ろし、そして右手が出口へを俺の剛直を解放する。 
「はにゃ…にゃぁ…!」 
 お天道様の元へ晒された俺の穢れしバベルの塔は、 
太陽の様に明るい空の申し子、白竜の眼下へと捕らえられた。 
「ノアちゃん、ちゃんとお勉強して、おにーちゃんをどうすれば気持ちよく出来るか学ぶんだぞ?」 
「あ…あぃ…」 
 
 すみません、幼女に何教えてるんすか 
「お仕事」 
 いや、ノアは俺と違ってヒトじゃないでしょ!? 
「私は人造兵器だ。国家の都合で人権を持ってるが、本来は無い。…ノアは何だ?」 
 …人造兵器、と思われる生き物、です… 
「つまり、モノたるお前の所有物はモノだから、つまりノアは私のモノだ」 
 いや、でも! 
「無理に住民登録しようと役所に連れてっても、研究対象として解体させるのがオチだぞ」 
 うぐ… 
「約束したろ? 『ノアの面倒も見る』って。…こんな極上の媚薬、毎日タダで手に入るなら安いものさ」 
 …算段してたのかよっ!ヒトデナシがっ! 
「うむ、私はヒトデナシだ。くく」 
 ああクソ、ちょっと隊長に惚れそうになった俺がバカだっ! 
 
「…じゃあノアちゃん、ほら、見なさい?」 
 この人外猫は俺の竿を、カリを中心に執拗に扱き攻める。 
「ほら、ここが赤く筒状に出っ張ってるだろ? 
 これがカリって言ってな、ここに手とかが引っかかると、男の子はきもちいーんだぞ」 
「きもち、いい?」 
 とろん、とした目付きで俺の男根を凝視し続けるノア。 
「やってみな?」 
「あぃ…」 
 すうっと、白肌幼女の両前足が俺の分身に伸びる。 
ふわりと、どのように扱うのかを知らないその手は、ただ包み込んでいる。 
「それをだな、擦るんだ。上下に。ほれほれ」 
 そしてその手にこの変態猫はいらぬ知識…俺の理性的にな!…を与え、 
俺の息や震える太股の動きを察してか、少しずつ、確実に、女の手つきに変わっていく。 
 それを止めさせるべき俺の理性も、その真剣だがどこか遠くを見ているような 
小さくも従順な、俺を一直線に想うその手付きに溶かされて動かなくなる。 
「はは、おにーちゃんも腰がガクガクになって透明なお漏らしするほど気持ちいいってよ?」 
「うにゃっ♪」 
 すりすりと優しく包み込む前立腺液にまみれたノアの両手に俺の息子を預け、 
そして隊長が俺の腹筋から胸にかけてすっと撫ぜる。 
 背筋を何かが駆け抜ける。 
 股間から弾けそうになる。 
「よし、次はお口で練習だ」 
「あぅ?」 
 エロネコの意を解さない白竜の子は、 
先走りでグチョグチョになりながらも扱き続けていたその手を始めて休めた。 
直前まで迫っていた感覚がそこで止められてしまう。 
「さっきアメちゃんあげただろう? あのカンジで、ペロペロしてあげるんだ。 
 噛んじゃだめだぞ、痛いからな」 
「にゃ、にゃう…はぃ…」 
 ふんふんと、匂いを嗅ぐノアの鼻息が俺の分身に掛かる。 
そして舌先が、尿道を根元から鈴口に掛けて、舐め上げる。 
唾液と先走りで濡れたそれに鼻息が掛かり、心地良い冷たさ。 
「いい子だ…そのまま続けなさい」 
 俺を縛って背中から囁くのは、俺の欲望。 
そして俺の股間に刺激を送るのはそのはけ口。 
歯車の壊された理性が、ギシギシと痛がる。 
そして俺は、達する。 
 
「にゃぅ!?」 
 淀みなく真っ白なその顔に、 
俺の穢れた白濁が注がれて。 
青空にも負けないその髪に、 
俺の欲望が吐き出されて。 
「よく出来ましたー♪」 
 あまーい征服感と、ほんのり苦い背徳感に酔ってしまう。 
「ノアちゃん、こっちおいで?」 
「にゃう?」 
 俺を縛って背中から布団がわりしている隊長が、自由に動けるノアを呼ぶ。 
「お顔キレイにしなきゃな?」 
「うにゃ!? にゃにゃーーー!!」 
 …隊長の舌が、ベロベロと汚れたノアの顔を舐め回す。 
この状況においてエッチじゃないとか弁明するのもアレだが、 
なんというか子供の動物同士がじゃれ合う様に…いや、一方的にじゃれるように 
何だかアホカナはたのしそーにノアの顔を嘗め回してやがる。 
嫌がるノアに不覚にも萌えた俺は死ねばいいのに。 
 
「…んじゃ、教育実習はここまで」 
 うう、やっと開放された… 
「ん? 始まったばかりじゃないか」 
 …はい? 
「私は100人切りのカナだ。剣の腕も、男遊びもな。その私がまだ一回も、だぞ?」 
 にーっと、憎たらしくも惚れ惚れする屈託の無い笑顔を、小麦色の顔から放つ。 
 
 こっから先は、隊長があまりにも玄人過ぎて記憶がぶっ飛んじゃったのでよくわからん。 
 兎に角、怒らせた罰として朝から昼時まで野外で縛り上げられてこってり絞られた。 
いやもう、誰かに見られまいかと気が気じゃなかった。そこは覚えてる。舗装道路横のキャンプで青姦はねーだろ。 
結局、視線はノアが両手で目を覆いつつスキマからしっかり覗いていたそれと、 
俺が中で寝ていた馬車…いや、竜車を引いているらしい岩のような肌の竜がこちらに頭をもたげていただけだ。 
 シながら聞かされたのは、自身の酵素を自在に操って有毒化したり、体を変形させたり、 
幾何学イレズミは魔洸筋肉ブースターだとか言ってたけど頭にはいんねぇ。 
 
 …で、朝から『お仕事』をこなしつつ、疲れて眠ったノアをキャンプに残して(岩竜が見てるから大丈夫らしい) 
隊長はガルフィス(変態黒猫)を担いで役所へ、俺もワクチンついでにこの世界に合った衣類だの、 
ノアの幼児具だの、マトモな食料だのを買出しに、最寄の町へ向かうこととなった。 
 
 
 
「いらっしゃーい」 
 カランカラン、と書店の鈴が鳴る。案外この世界は人間世界と変わらない。 
まあ魔法で開いたり西部劇っぽい入り口だったり、古代テクノロジーなんかも俺の射程内なのだが、 
とりあえず物々しさよりもどこか懐かしいような感覚が案外気に入った。 
「おや…見慣れない顔だねぇ。主人のために買出しをするヒトはいくらかいるが」 
 オス猫の店主が俺に話しかける。どうしてこの世界のオスとメスの大多数は、こんなにも姿が異なるのだろうか。 
「さぁー、何でだろうねぇ。ま、おかげでヒトは総じてオンナっぽく見えるから、 
 オスメス問わず可愛く見えて、得してるんじゃないかねぇ」 
 首に取り付けられた俺の新しい、青く染められた革輪に銀色のタグを取り付けた奴隷認識票をいじりつつ 
俺が極度のピカソ顔じゃなくて良かったと軽く先祖と仏様に感謝しておく。 
「伊達食う虫も好き好き、ほら、アンタの世界でもブッサイクな…パグだっけ? 
 好きなやつは好きなんだろ? そりゃ、美形のトイプーだのが受けが良いらしいけどさ」 
 …ご主人、意外と上の世界に精通してますね。アキハバラとかにふつーにいるでしょ。 
「あっはっは。いやいや、単に落ち者の本も取り扱っているもんでね、 
 ちょっとした知識欲から、上の情勢を読ませてもらってるよ。コイズミ閣下はお元気で?」 
 もうアベさんになりました。 
「おやおや。ところで、何をお探しで?」 
 もう俺の着替えになりそうな中古のシャツだの(やぶけても良いやつ沢山買えってアレって意味ですか隊長) 
ノアの哺乳瓶だのも腕の袋に下げて、あとは育児書とか全く料理をする気が無い素材を丸食いなご主人様に 
付き合うつもりは無いので料理本とかも探している。 
「育児書は三列目の中央、料理本はその右隣だな。 
 …ところで、あの姐さんかい? ご主人様ってのは」 
 ああ、確かにいたよ、立ち読みしているご主人様が。エロ本コーナーだがな。 
 …カナ様、何をしていらっしゃいますか。 
「何って、そりゃいいナニを物色してるんだ。それと、私の名を呼ぶのは床の中だけだ。隊長と呼べ」 
 …ひょいとその手にある本の中を覗き込む。 
 
 「ソラヤ君、ぼく、もう、もう…!」 
 私の奴隷は忌々しきライバルが飼っている少年の菊門に 
 その剛直を壊れた魔洸エンジンのごとく叩き挿れ… 
 
「うむ、何時見てもマナ文庫は…」 
 オスばかりで交わっている本をレジの横で鼻血流しながら読むのは止めて頂けませんか。 
「なんで」 
 世間の風当たりってかご主人の目線がきついです。 
「風で体に穴は開くまい。穴を埋めるモノは歓迎だが。ほらほら、シッシッ」 
 軽く手で世間の本音たる俺を払いのける隊長殿。しらねっと。このヤオイ猫めが。 
 
 
 …キャンプまで両手一杯になんとか収めた荷物を担いでいくのは、 
引きこもり一歩手前な俺の脚には重労働だ。肩で息をしながら調理道具だの何だのを引きずっていく。 
 
 既に、キャンプの竜車には先客がその乗り口に腰を掛けていた。 
ただしノアではない。ノアは朝食を解凍するのに使用した焚き火の側で腹を空に向けて昼寝している。 
―――こんにちは、アズキちゃん。 
 声がした。しかし目の前に居る灰色の長髪を後ろに伸ばした巨乳黒服猫女性ではない。なぜなら、唇が動いていない。 
俺は思わず音源を探ろうと、視覚よりも聴覚を優先した。テノールの音源を捜す。 
―――うふふ、目の前にいるじゃないの? 
 なにやら表紙に複雑な文様…呪紋の書かれた本を片手に読んでいた女性が、こちらに微笑みかけてきた。 
 …どちらさまで? 
―――虹衣隊のキャンプ防衛担当、ロナよ。よろしくね。 
 はじめまして。…いや、防衛担当? どちらにいらっしゃいました? 
―――そうね、会話するって意味じゃ、はじめましてよね。 
 ぱたりと、本を閉じて立ち、竜車の口から飛び降りる。 
 しかしまあ、この人はどこから声が出てるんだ? 何だか全方向から声がするような感覚がする。 
―――私は声帯がおかしいから、魔法でお話するの。 
 ああ、テレパシーか何かですな。また宇宙的な。 
―――けっこう科学的な原理よ? まあ、正味テレパシーと同じだけどね。 
 そのままロナさんは、ノアの寝ている焚き火横の岩へ腰掛けて、 
可憐な細くも白い指で、眠れる白き子竜の背中を撫ぜる。 
 つまり、世界の裏側でも話せたり、こっちが念じると伝わったり? 
―――あはは、それは最上級の通信魔法ね…でもそんなの、私の余命かけても習得できないでしょうね。 
   私のこれは、送信だけ。目に見える距離程度までね。 
   耳は普通だから、あなたが声を出さないとあなたの考えは分からないの。 
 ああ、つまりやたらハイフンを最初に使う文体だとロナさんの発言なんですね。 
―――? 言ってる意味が分からないのに、なんだかそれで正しい気がするわね。 
 
「おう、ロナ。今日は大丈夫だっけか」 
 ああ、隊長様がお帰りになられた。結局その右手にホモ本持って帰ってきたのかよ。 
道中隠そうとして袋にでも入れる恥じらいは無いのかこのバカ猫は。 
 ロナさんはにっこりと皇太子様的スマイルと共に、軽く隊長の方へ手を振った。 
「…ん、ただいま」 
 …? 俺の方には声がしなかった。一度に複数の対象には伝えられないのだろうか。 
「おう、自由に使ってくれ。…好きな時に。 
 ああ、アズキ。これがロナ。私と同じく人外の戦士だ」 
 先ほど説明を頂きましたけどね、ずっと居たみたいな口調です。 
「そりゃずっと居たさ。この竜車牽いてるのはロナだぞ」 
 …え、まさかあんた、あの岩みたいなドラゴン? 
―――ピンポーン! 
 小さくまとまった高校生のような笑顔をこちらに向けてきた。 
―――擬竜化【ドラグーン】 
 ロナさんの体が、ゴキリと音を立てる。 
着ていた服は前をホックで止めていただけらしく、体の膨張にしたがって外れていく。 
透き通るような肌は、徐々に灰色にくすんで、そして岩盤のような割れ目が走る。 
ほんの十数秒の間に、骨格が四つんばいになり、肥大化し、岩のようなウロコになる。 
「ガフゥ。」 
 そして俺の頭の中に響く歌手のような声とは正反対の、低く重い吼え声を発した。 
―――私もね、キメラなの。この竜のような体になったり、戻ったりね。 
 …ってことは、アレ見てましたか。 
―――君もけっこう楽しんでたみたいじゃないの? 野外プレイ。 
 …飛びてぇー、3階くらいで十分だから飛びてぇー。 
 
「…さて、紹介が済んだな。私はちょっと水浴びしてくる。アズキ、この本を奥に仕舞え」 
 ありがたくもない同性本を投げ渡され、俺はしぶしぶ竜車の中へと入る。 
この竜車、入り口が前後にあるタイプだ。当然前のほうは手綱を持つ者が座る台があり、 
そこが邪魔だから力の無い俺は後ろからしか登れない。だが、そこで問題が発生した。 
 筋 肉 痛 の 襲 来 だ ! 
 いでぇ! 昨晩は半日も歩いてたから何時か来るはずなんだけど今頃来たぞこれはっ! 
 その場で彫刻になる俺。こんな貧相な彫刻は砕かれて学校の白線にでもしてしまえ。 
 微動だたりともしない俺に、ノアが擦り寄ってくる。 
「にーちゃ、どしたのー?」 
 今ノアが愛らしい瞳で俺の膝ぐらいしかないハイハイ姿勢から見上げているはずなのだが、 
残念なことに足の筋肉痛に気がついた瞬間、一斉に全身がそれに襲われている状態だ。 
目を細めて純白の天使を観賞している余裕がない。 
 グラフィックボード未対応の設定で出力を試みたため 
モニターが受け付けてないようなパソコンのように、俺は一切の動作が出力できない状態だ。 
 すると、背の高い入り口に手を掛けたまま硬直している俺の後方で、 
ドシン、ドシンとゆっくりとした、しかし重たい足音が聞こえてきた。 
―――あはは、面白い子ねー。ほら、乗りなさい。 
 股の間から、あの岩のような顔が割り込んでくる。 
無理やり動かされている足が痛すぎて声も出ない状態のため、されるがまま首を突っ込まれる。 
 …そして、すっと首まで突っ込んだ後にそのまま頭を持ち上げ、 
俺はロナさん(竜)に跨っている状態となった。 
 その隙にノアはてててーっと四つ足走行で岩竜の尾まで駆け、背骨を伝って俺の背後まで来た。 
「にゃははは、たかいのー、たかいのー♪」 
 上昇する首が楽しいのか、俺の背中にもたれながら両手をブンブン振って喜ぶ白竜。 
 
―――はい、どーぞ。 
 そのままカーテンの中へと下ろされた。 
 有難うございますロナさん。死ぬかと思いましたよ… 
―――え、ヒトってそんなことでも死んでしまうの? 
 いやいや、これは比喩ですよ。 
―――もー。私達は人間には詳しくないから、びっくりさせないでね。 
 すみません。 
 謝罪を示しながら、俺は岩のような頭にのっかったノアを 
痛みで引き千切れそうな腕を使って抱き上げ、 
ノアを俺の横に下ろして食料木箱に座って体を休ませる。 
 
 
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 ハイここで脱獄に成功したケイ=ガルフィス様がとーじょおおおお!! 
王都の牢獄からも独力で脱走したオレに言わせればド田舎の監房なんてチョロいね。 
 そうさ! オレの股間を走る煮えたぎった血潮と二つの袋に収まった熱いパッションは 
何時如何なる時もあまねく美女の子宮にロックオンさ! 
 よって挿れてない女性を残したままこの地を離れるなぞありえんのだよキミ! 
たとえ腕がボウガンに変形しようとも毒を発射しようともな! 
 とりあえずはあの化け猫キャンプ前にまで草葉の陰を伝いながら来たのだが… 
ぶっちゃけオレはなーんも考えてねぇ。ちょいと格闘と寝技が立つだけ。 
 逆に言えば、あいつはボウガンという遠隔武器である以上、インファイトに持ち込めば 
オレにも勝算があるはずだ。むしろオレはその無鉄砲さで押し倒して通して来た。 
 たとえ国家犯罪者だろうとマギステルだろうと何物も俺の思想は止められない!世界にエロスあれ! 
 
 …まあ、高いテンションでそのまま突入しても距離がある以上迎撃されちまう。 
ここは、タイミングよく近距離から背後を取れるようにもうちょい情報収集をと接近してみた。 
 ちっ、何だよ竜車の後ろ側から岩竜が首突っ込んでるだけじゃねーかよ。 
 あークソ、あの女は中かなぁ…でも中途半端に接近すると、 
今カーテンから首引き抜いた竜が気がついて襲ってきそうだ。 
どしたもんかなぁ… 
 …とオレはいかに多くの子孫を残すかというスコアアタック攻略法を考えていると、 
目の前の灰色の竜に、変化が起きた。 
 
 全身のウロコが徐々に透き通り、白く気高い色へと変色する。 
四速の骨格はどんどん小さくなり、それは人の形を成す。 
唯一灰色が残ったのは、その頭髪部と…恥毛部。素っ裸。 
 …結論。超美人! 勇気ビンビン股間ギンギン射程内よしゲットオオオオ!!! 
 
―――守衛罠【ガードトラップ】 
バシィィィン 
 ッてあああああああいたいいたいいたあああ!! 
 
 全力で駆けつけるオレの両側の地面が盛り上がり、 
瞬時に二枚の厚さ数センチの岩盤を生成してオレをハエ叩きのように挟み込んだ! 
ネズミ捕りにはさまれたネズミかよオレは!!首から上しか出てないし!! 
左右の肩から挟まれたからオレの体は半回転して岩盤に胸と背中を押し付けた状態だ。 
 灰色の女性は地面に落ちていたホックのみで止められた黒の服を身に纏う。 
―――あなたも懲りないのねぇ。というか人外も射程内? 
 音源はどこですかとにかく美しさに種族の壁はねぇよ美人さん! というわけでヤラセロ。 
―――性急な人ってキライよ? そこで大人しくしててね。 
 放置プレイですか姉ちゃん! よしきた待つぞコレ! いや待てない何故なら痛いから。 
「…あ、お前またいるのかよ」 
 おお!?我が主目的たる白髪の子宮持ちが怪訝な顔して湖の方角から来た種注がせろ! 
つーか水浴び後ですかね!? 濡れた全裸で公道前歩けるって相当遊んでますな姐さん。 
「…ん、こっちは任せて遊んどけ、ロナ。あとカラスじゃない行水言うな」 
 竜車の中へ灰色の長髪をなびかせながら消えていく優雅な灰色お姉さん。 
 
「ふむ…どうしたもんかね」 
 姐さん暇を持て余しているんならオトナの遊びしませんかい? 
「さて…その熱烈なアプローチに免じて受けてやろうか」 
 ん!? まさか俺、すっごい痴女をターゲットしちゃった? 
いや、俺は早く挿れられるんなら何でもいーけどな! 
 でもとりあえずはこの岩盤の魔法罠どーにかしてくんないかな。 
「それはできんなぁ。束縛プレイとか趣味だから」 
 しかも変態かよ。まぁオレはスプラッタと汚物以外はオールオーケーだがな! 
 銀髪ヘアバンセミショートは自らの犬歯で指先を傷つけたかと思うと、 
その指をオレを挟む岩盤の真ん中あたりに押し付ける。 
 ジュウジュウと音を立てて溶解される岩盤。そして岩盤ごとオレのズボンも溶かされたが、 
不思議とオレの毛および皮膚は全くダメージを受けていない。 
 …そのままオレのサオとタマだけを開放する。このさい何で血が岩を溶かすかに興味はない。 
俺の脳はそんな下らない事ではなく子孫を残すことを最優先で演算しなくてはならないからだ。 
「おお、流石にオス猫は…ヒトとは比べ物にならんほどイイサイズしてる」 
 照れるね、そんなに誉めないでやってくれ俺の自慢の息子を。 
「トゲがあって、これにかき回されるのも優しいヒトのアレとは正反対で燃えるねぇ♪」 
 別段、オレのイチモツは特別な形状しているワケじゃない。 
この銀髪がそんな評論できるってのは異種族ともやりこんでるな。 
「うん、ちょい飛ばしてみるか」 
 動けないオレの息子に手を這わせる銀髪。 
その指の一本一本が、別の生物かのように擦り、絡みつき、締め付ける。 
おお、この女すげぇ…オスのツボ押さえている…相当場数踏んでるな? 
「たぶん人数は3桁いってるねぇ」 
 マジかよ。いや、俺は4桁までもう200程度だけどさ。 
「じゃ、素人じゃないんだ…本気でいいかい?」 
 立ちんぼしてた女が姿勢を低くして首が動かないオレの視界から消え、 
恐らく息子の前に鋭い目つきの、小麦麦色の顔を晒して言い放つ。 
「…じゃ、早速イっちまえ♪」 
 
 女は、オレのカリに爪を立てる。 
…ところで、あんたは背中掻くとき、どうする? 
肉をかっ裂くつもりで掻く? オレは撫ぜるようにかな。 
まあつまり、ツメでカリを力強くも適度に痛みを制して擦られたら、 
そりゃもう百戦錬磨のオレですら未知の領域だ。 
しかも、左手の指五本で、全方位から、包み込まれて不規則に擦られて、 
オレ自身の先走りでどんどん滑らかになって、シュリシュリと加速してきて、オレのボルテージも… 
「おっと、まだ許可しない」 
 うぐっ!? 尿道を右の手で根元から押さえられて射精を封じられた! 
こみ上げる絶頂感が遮られ、長くも手入れの届いたツメの間で律動する。 
 それでもツメは休まることを知らず、射精感で一瞬力を失いかけた分身を維持する。 
「む、まだまだ下準備しただけだぞ?」 
銀髪がオレの射精を封じたまま舌で息子を包み込んだ! 
一応は絶頂の直後であるのに、その舌とツメの刺激により 
封じられてしまったオレの尿道と精巣の間にどんどんと 
次の子種が打ち出されてはジャムってる。 
 オレ、ちょっともう、いや、これは…! 
「どうした? どーして欲しいんだ?」 
 にーっとヤスリ舌を這わせたままオレを見上げる銀髪。 
彼女が何を言わせんと欲するかは分かるが、だが一度もオレは彼女を攻めていない。 
このままでは種付け士の威厳に関わる。決して折れるワケにはいかん。 
「なかなか強情なヤツめ…素直に女に突っ込みたいんだろ?」 
 ご推察のとおり。快楽を貪るのも悪くは無いが、 
俺の主な目的は世界中のネコを俺の家族で埋め尽くすことだ。 
だが、しかし、ぶっちゃけ出したいのだが、俺のプライドが… 
「…お前はアホだなぁ。拘束状態でどーやって奪うんだ?主導権。」 
 
… 
 
「…考えてないのかよッ!」 
 いえあ! 
 
 
---------------------------------------- 
 
 
 ロナさんが竜車から首を抜き、そのシルエットだけになると。 
ゴキゴキという音と共に、カーテンの影は竜から、ヒトへと移る。 
 …一瞬、その人影が横を気にしたと思ったが、すぐに屈み込んで 
布を拾い、そして身に纏った。 
 
―――私もお邪魔します、っと。 
 いや、ここはロナさんちなんだから、むしろ俺のほうがお邪魔してますよ。 
―――んー、私ってほとんど外で竜車牽いてるから、あんまり中に入らないのよね。 
 カーテンからすっと入ってきたロナさんは、そのままノアを挟んで俺の横の木箱に腰掛ける。 
ノアは二人が座った木箱と木箱の間でテディベアみたいにはふーんと落ち着いている。 
 …でも、寝るときくらいは竜車には入るでしょうに。 
―――そーでもないのよ。牽引している生き物の居ない馬車なんて、そうでなくとも夜盗の獲物よ。 
   ちゃーんと番をする者がいないとね。特に、見た目がキツいのが。 
 確かに、あの岩石の塊が敵意を持って突撃してきたら、それはもう恐怖そのものであろう。 
でも、隣で守ってくれる存在なら、これほど心強いものはないでしょうね。 
―――うふふ、ありがと。 
 にっこりと俺に微笑みかけるロナさん。 
あーあ、カナ…いや、隊長殿にもロナさんみたいにおしとやかそうだったら万々歳だったんだがなぁ。 
―――平和主義だけじゃ、ぶっ飛んだ思考回路の 
   犯罪者さんは倒せないからね。カナはあれでいいのよ。 
 徹底的にエロい方面でもですか。 
―――エッチなことしている間は、苦しいことも忘れられるのよ。 
   カナちゃんは、私の苦しみも忘れさせてくれるし。 
 そういや、虹衣は全員女だとか言ってたな。…もしかして? 
―――うん、コンプリート。 
 …さいで。 
 
―――で、でね。アズキちゃんに、頼みがあるの。 
 目線を俺から逸らして床の木目を見ながらもじもじとするロナさん。 
…いや、俺の仕事が何かは分かってるし、昨日はヒトの利用方法も説明受けましたけど。 
さすがに不貞行為はマズいかと。 
―――ううん、そっちも…いえ、そっちじゃないの。 
 …へ? 
―――あなたの、首のタグ。見て? 
 …俺の名前と日付が書いてありますね。 
―――裏よ、裏。 
 …ああ、書いてあったよ。所有者欄に。『公-特-団:虹衣の乙女達』 
―――つまりね、アズキちゃんは、みんなの所有物なの。 
 …隊長が? 
―――うん、みんなを、その、平等にって… 
   あのね、私達って、なんで同性ばかりかっていうとね、 
   その、『駆け落ち』しちゃわないように、なの。 
   存在が国家の所有物だから、逃げちゃわないように。 
   だから、あんまり男の人とは仲良くなる機会がなくて… 
 …カナ隊長はバリバリですけど。 
―――カナちゃんは不特定多数相手で、 
   深い関係を持たないように自分で気をつけているから… 
 …案外、苦労してるんですね。 
 
―――うん。でもね、私の場合は、まずね…その… 
 
―――『オトモダチ』から、初めてもらえないかな? 
 …はい? 
―――わたしだってね、恋してみたいの。ふつうに、男の子とお話してみたいの。 
   それでもね、やっぱり最初は、オトモダチからでしょ? 
 …まあ、確かに過程すっとばしてアレってのは無いですよね。 
―――カナちゃんもわたしと同じようなものだけど、 
   彼女の場合は過程が苦手というか、のめり込まないように避けてきて、 
   もっとストレートに生きてきたから。 
   …わ、わたしの場合は、キャンプの防衛のためにずっと動けないし、 
   拷問…あ、エッチなのも、カナちゃんが全部やっちゃうし、全く経験がないの… 
   エッチも、お話するのも… 
 なるほど。 
―――いつか、奇跡が起きるなんて信じていたこともあった。 
   でも、絶対にそんな人はこないの。わたし達は呪われた存在だから… 
   だから、あなたに… 
 …わかりました。それ以上言わないで下さい。 
 
俺は、ロナさんの消え入りそうな表情を見て、耐えられなかった。 
そんな悲しい顔をされたら、俺は困る。すごい、困る。 
そんな初対面の人にワケの分からんことを言われたら 
ふつう拒否るんだけどさ。 
 なんかここで俺が断ったら、悪者みたいじゃん? 
 …それと、正直なところ。隊長の、 
あの真っ白な巨剣が俺の首を掻っ捌くシーンを幻視したってのも否定できない。 
 
 じゃ、俺とオトモダチになって下さい。 
―――うん! 
 
 俺に微笑みかけて。でもカナ隊長に向けたような整った笑顔でなくて。 
にぱーっと装いの無い笑顔だった。ああ、ちょっとまぶしいかも。 
 
「うにゅ!? ノアも! ノアもオトモダチほしいー!」 
 俺たちの会話を聞いて、ノアがロナの胸に飛びついて駄々をこねる。 
―――あはは、じゃ、ノアちゃんも、ロナとオトモダチになってくれる? 
「にゃ! …あ…」 
 くるっと、俺のほうの顔を見た。 
…そうか、ノアは主人を守る人造生物だから、俺に許可を求めているんだろうな。 
 ノア、お前の好きなようにしなさい。 
「はい、にーちゃ! ノアは、ロナの、オトモダチ!」 
 ぎゅーっと豊満なロナさんの胸に顔をうずめるノア。 
…ちょっとうらやましいとか思ったりもした。 
 
 
---------------------------------------- 
 
 
 外に出てみると、なんか岩盤で出来たトラバサミに、朝隊長を襲った黒猫が挟まれて 
…隊長にそのまま食われてた。 
 だから隊長、舗装道路の横で素っ裸になってよくわからんやつと 
交わらないで下さいってかいる! 
いるからギャラリー! 草原の茂みから数人と 
舗装道路から今見なかったことにして通り過ぎる人とか! 
「燃えるからよしとする♪」 
「ひ、ひからび…る…」 
―――いっつも、こうなの。 
 このさいギャラリーは背景として放置しても、 
ガルフィスだっけ? そいつなんかガクガク痙攣して(首と股間しか見えないが) 
今にもポックリひょうたん島しそうですね。 
「うむ、ちょっと5発ほど飛距離測定して、10発口でして、30回ほど中に出させてやったのだが」 
 そりゃ死ねるわ。流石だぜ百人切りの隊長! 俺たちが思いつかないことをやってのけてやがる! 
ってかそんなに続けたらふつう起たなくなって無理じゃ? 
「だから、これ」 
 隊長は透明な粘性の有る液体の入った小瓶をつまんで軽く振る。 
 …えーっとですね、もしかしてそれって、アレですか? 
「うん、ノアの。ちょっと寝てる間に」 
 てめぇ! 俺のかわいい妹をどこのネコの骨とも知れん奴の文字通りダシにしおって! 
くやしい! でも言うと死んじゃうよ俺! 
―――死にはしないけど、同じ目には遭うでしょうね。 
 最優先でご遠慮願いたいねそれは。 
 
―――あ、カナ? 
「何だ」 
―――あと2秒でタイムリミット。 
 
 ボロリ、と岩盤が突如崩壊して、黒猫の足が自由になったかと思うと 
「アタックチャアアアンス!!」 
 黒猫のガルフィスがすかさず、まだ上半身部分が自由でないまま走り出す。 
てか逃げるのかよ。アタックチャンスなのに。 
…下半身のズボンに穴開いてそっからおッ起ったモノ晒しながら上半身モノリス男が駆けて来るんだ、 
そりゃ対向車線にいる一般女性が悲鳴を上げながら飛び退くのも無理は無い。 
 このまま逃がしたら、一般人に被害でそうだなー。性的な意味で。 
「逃がさんさ」 
 スッポンポンのアホネコがさらりと前髪を左右に分けて視界を確保して 
…うん、右手はボウガンだけど、左手は長弓なのね。 
 
  掌側が手首から肩にかけてぱっくり開いて、 
 そこから長大な骨が…さすがに間接の都合だろう、途中がくっ付いてないけど 
 筋繊維でしっかりと張ってカバーしてある、そんな弓骨。 
 そして矢は、三連ボウガンと異なり、一本だけ。 
 いや、ヒジのあたりで二本に割れてたんだけど、 
 今くっついた。必要ならくっつくんだろうな。 
 でもボウガンと違って自動で打ち出す機構が見当たらない。 
 と思ったらそこはアナログなのかよ。 
 自分の左手の根元を右手で掴んで、ひっぱって矢を放った。 
 
 ばすん 
「むぎょっ!?」 
 どさり 
 
「…制圧完了」 
「かんりょー♪」 
 …やれやれ。 
 
 とりあえず、俺に友達ができた。 
紹介する、ロナさんだ。灰色の髪した巨乳の、読書好きな落ち着いたお姉さん。 
…最終目標は既に達しているとも言えるアホ隊長と同じってのが気がかりだが。 
俺にそんなことを悩む権利はあっても解決する力が無いので、考えるのはやめることにした。 
 
 
続く。 
 

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