日が昇り、寒く暗い夜も陽気な朝へと変わりつつある。  
俺は麻布のシャツの上に岩竜のなめし皮のコートを着込んで、  
よくわからない生物が吐いた糸らしいジーンズで寒気を防ぐ。  
朝食の準備をしている。  
 
 全く、ご主人達はいつもサカナだ。  
いや、ネコだからそれが普通なのだが…  
野菜食いてぇ。雑草じゃなくって!!  
 
 飯盒の中身が出来上がったことを確認して、  
一つずつ降ろしていく。6人分作ってるんだよな?俺、六人分作ってるんだよな?  
だけどなぁーんで飯盒が20個無いと間に合わないかって?  
ご主人達は戦闘能力だけじゃなくって食欲も規格外なんだよ。  
キメラだから組織が崩れやすいため多く食って新陳代謝に間に合わせるとか何とか、  
小難しいこと言うが要は俺の仕事が増えることに代わりは無い。  
 
「うにゅー…はぅ。おにーちゃん、おはよー…」  
 おお、我が心のオアシスが目を擦りながら永き眠りよりお目覚めになられた。  
俺の横で子犬みたいに丸くなって寝ていたのに。  
 真っ白な爬虫類のウロコで覆われた肌、淡い空色のもふもふ頭髪。そして後頭部から突き出した二本のツノ。  
獣人仕様の尾穴でも小さすぎるからヒト用ジーンズを前後に来てチャックからシッポを出している。  
 
 こいつは卵の時からはじめてのあんよ、羽の生え変わりまで見て来た。  
俺実質ヤンパパだけどパパって言うのも恥ずかしいから「おにーちゃん」だって。  
そっちのほうが小っ恥ずかしいのだが、萌えるからよしとする。  
 
「おう、ノア。もう少しで用意できるぞ」  
 折り畳み机の上にまな板を載せ  
その上で慣れた手つきで刺身を作って醤油に漬けて行く俺。  
 こんなん半年前の俺じゃねえ。  
…まぁ割と楽しんでるからいーけどさ。毎回死にかけるお約束付きで。  
 
「そっかー、おにーちゃんもタイヘン…ノアが手伝うと、まな板割れちゃうもんね」  
 そうさ、こいつも十分規格外なんだけど可愛さも規格外だから  
断じてご主人様たちと同類ではない。混ぜるな危険。  
 
「お前はザツだからなぁ。もーちょっと物を労われ」  
「はぁーい…ふぅ」  
 ぐーっと両手を上で組みながら背伸びをするノア。  
釣られて背中の4枚の羽根…プテラノドンのアレみたいな構造の…が広がり、朝日を反射する。  
 ちなみにノアの服は特注でシャツなどの背中側は開いており、それを上からホックでポッチン止めしてある。  
簡単に外せないと、いざって時に飛べないし、いちいち破くワケにいかないからな。  
 今日も我が妹は間違いなく美しいことを確認しつつ、  
先に作った玉子焼きを片手で切りながら  
反対の手で醤油に漬けた刺身を回収していく。  
 …外道な料理法だが美味ければ文句言う人は、ここにはいない。  
 
「んぐぅー…♪今日も朝日だ、元気が旨い。」  
 出た。我が主にして最強のサドネコ、『虹衣隊隊長カナ』。  
カナ様と呼ぶべきかと思ったが、呼ばれなれてないから気持ち悪いので隊長と呼べ、との命を受けている。  
朝は弱いらしく、軽く意味不明な言葉をほざきながら深呼吸している。  
そのまま空気が喉に詰まっておっちんじまえ。  
 思えば、落ちてきたときにコイツと出会わなければノアとラブラブ生活を…  
送れてたのかなぁ。野垂れ死んでいた気もする。  
まぁ仮定の話は無駄だから考えないでおこう。  
 そいつが、馬車…竜が引いてるけど…の中から、とすんと飛び出てくる。  
 
「アズキ、飯は?」  
 桶に移したご飯withお酢を折り畳み団扇で扇ぎながら返す。  
「まだです。もう少しお待ちください」  
「遅い。罰金」  
ビシっと指を俺の目の前で指しながら言い放つ銀髪のネコミミ。  
勢いで前で二つに分けただけの雑な髪が揺れる。  
 
 朝に弱いくせに今日に限って早起きなことを心底(笑)憎みつつ  
フザけた返事であしらっておく。  
 
「えぇー……ジャ○プ買えないじゃん」  
 いっつも俺の小遣いはギリギリ。しかもこの憎たらしいネコの気分次第で上下する。  
忌々しい。ああ忌々しい、忌々しい。  
 
…ノアの「はぅ〜、後生です、許して〜」という声をBGMにしながら、エロ隊長に出会った日を思い出す。  
 
  理不尽な世界にいるには、理不尽な理由がある。  
 簡単に言うと俺は元の世界に返れないけど、  
 元の世界からはこっちへ何かの弾みで『落ちて』くることがある。  
 それは生物に限らず、路上に少年誌が落ちてたりロケランが落ちてたりするわけだ。  
 
「こらぁ〜、あんまりアズキ君をいじめちゃダメだよぉ?」  
 幼い声で隣のテントから出てきた小柄でサラサラ金短髪の猫人、『アル』が出てくる。  
ちなみにテントは竜車に全員が寝られないから在るだけで、移動時はおしくらまんじゅうしてる。  
 
「アル様、お早う御座います」  
「おっはよ〜♪」  
 にーっと猫だけど犬歯を覗かせてこちらにブンブンと手を振る。  
本当は最年長らしいけど魔力の影響だとかキメラだとかで見た目は○学6年生。  
これが身長と同じサイズの鉄のカタマリ持つんだもんな〜。世も末だ。  
 いや、純粋な腕力ならクソ隊長が最強だけど。  
 
 そんないつもの風景を流しつつ、  
あらかじめ刻んでおいた、ノリとタマゴとネギを手コネ寿司の上にまぶす。  
 
「ご飯ですよ〜」  
 フライパンの底をおたまで叩くという、古典的手法でネボスケな他のご主人様たちを起こす。  
「はうぅ!?」  
 …ノア、毎日これしてるのに、何でいつも驚くわけ?立ち位置が俺の背後って近すぎ。  
まー見返れば美人が常備なのは神様からのギフトに違いないので目を見開いたノアを堪能しておく。  
 
「あらー、まー、できたの、ですのー?」  
「…うるさい…静かに起こせ…」  
 ノンビリしてるのが縁なしメガネの茶髪お姉さんなココ様。  
朝に限らず不機嫌そうなご姉妹でそっくりなメガネなしのナナ様。  
お二人とも豊満な胸をお持ちだがある意味作り物。  
まぁ全身作り物っちゃーそうだけど、実際触っても全く分からんからいーけどさ。  
 
「あれー?、ファナはー、どこかしらー?」  
「…先に起きていたと思ったが…」  
 あれ、そういえばファナ様はどこに?  
とか考えながらオカズのレンコンを切ろうと…あれ、切れてる。  
 
「あぁ、ファナ様、おらしたんですか。」  
「…」  
 すぅっと、俺の隣の虚空から黒い長髪のファナ様が現れる。  
この人は実体を持たない。いや、そのへんに分散して浮いてるんだけど見えない。  
「…ぅ。」  
 ちょっとだけ声を出して3ミリくらい頷く。  
もう慣れたけど最初はとにかく心臓に悪い人だった。  
だってそのへんから幽霊みたいに出てくるんだぜ?いや、幽霊みたいなもんだけど。  
 
「さぁて、みんな飯だ。ノアも今日は、隊員としての初食事だな!」  
 無駄に元気な隊長殿がノアの肩をボンボン叩きながら大声を出す。  
「はぅ、よ、よろしくですー」  
「あらー、もうずっと、つきあいは、ながいんだからー」  
「改まらなくっても大丈夫だよ、ノアちゃん♪」  
「…既に、仲間だからな…」  
「…ぅ。」  
 
 …ここらへんの経緯は非常に込み合っているので、割合する。  
俺達の馴れ初めが気になるなら、そこに置いてある俺の日記を覗いてくれ。書きかけだが。  
エロよりストーリー重視だぞー?  
http://www.degitalscope.com/~mbspro/userfiles_res/database/721.txt  
 
「アズキ、誰と話しているんだ?」  
「お空の向こう」  
「アホか」  
 
 
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 さて、俺は先ほどから独楽のようにクルクル回りながら  
総じて鬼食いなご主人様達のオカワリに答えつつ、  
合間を縫って自分用に確保した皿の中身を口に押し込む。  
 …なにこの忙しい食事ふざけてるの?  
これが日常だもんなー、俺って一体……  
 
「げふぅ、美味かったッ!満腹!」  
 女らしさを欠片ほどしか見せない隊長の下品なゲップをきっかけに、  
「ひさしぶりに、おなか、いっぱいですー」  
「…ご馳走様」  
「はふぅ、おにーちゃんおつかれさまー」  
「…ぃ…ぃ」  
「また腕を上げたね、アズキ君♪」  
 
 隊長が自分の骨で作ったツマヨウジを仲間に配りながら  
「しっかし、腹八分目に作れと言っただろう?ちょっと多いぞ。」  
「…あ、俺、ロナ様の分も作っちゃった……!」  
 
 空気が、重くなる。  
 
 ロナ様は…もう、いない。  
 
「…そっか。アズキちゃんは、ロナのこと、忘れてないんだね」  
「…やさしい、ですねー」  
 アル様とココ様が、俺にフォローを入れる。  
「…お前は、お前のできる事をした。だから、良い…」  
「…」  
「はぅ、はぅー…」  
 
 今でも、思い出す。ロナ様が、形を失った、最後の瞬間…  
 
 この竜のコートが、その形見。  
 
 気まずい沈黙が、続く。  
 
「…さて、そろそろいつものアレ、するか?」  
 隊長が話題を変えようと試みる。  
「あ、あぁ、そうだったね!」  
「わぁー、たのしみ、ですー」  
「…クク…」  
「…!」  
 
「はぅ?いつものって、何ですか?」  
 状況の急な転換を飲み込めないノアが、尋ねる。  
「分かっているだろう?食後の『ジャンケン』だぞ」  
「はにゃぅ!?ノアもですか!?」  
「そうだぞ。お前はもう人権を認められ、そして隊員だ。これは隊員の義務だぞ!」  
 ノアににやりと白い歯を見せ、そして俺を色っぽい目で流し見る。  
 
 …どうかノアが勝ちますように。  
 
「はぅ、でも、でも!」  
「あきらめる、ですよー」  
「…お前のおにーちゃんは、もうお前の『奴隷』だ…」  
「状況を楽しまなくっちゃ♪」  
「…ぅ。」  
「さぁ、いくぞッ!」  
 
『最初はグー!』  
 
『じゃーん』  
 
『けーん』  
 
『ポン!』  
 

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