「はらへったにゃー」  
「言わないで下さい。悲しくなりますから」  
 丸まった麦わらが転がる荒野に二人の人影がありました。  
 背の大きい方の人影は、銀毛に縞模様の女性のネコでした。彼女は簡素な皮鎧に身を包み、  
ネコネコ教団の聖印の入った槍を杖にしてのたのたと歩いていました。  
「にゃんでこうなったのかのかにゃー」  
「ニャンパラリ様が地図みて迷ったからです」  
 一刀両断に切り捨てた小さい方の人影は、小学校高学年ぐらいの外見の三毛猫のマダラでした。  
彼は簡素な麻布の服を身にまとい、大きなリュックを背負って主人の旅のお供をしているのでした。  
「トッテンパラリがちゃんと教えてくれれば迷わなかったにゃー」  
「『今度こそは迷わないにゃー』とかいって地図に触らせてくれなかったのはニャンパラリ様です」  
 このニャンパラリとトッテンパラリというのは教団からの洗礼名なので気にしてはいけません。  
「もう三日もサソリとネズミしか食べてないにゃー。飢え死にしそうにゃー」  
「安心して下さい。僕は三日も水しか飲んでないのにまだ死んでませんから」  
 明らかに年下の従者でしたが、泣き言一つ言わずに主人を励まします。発言内容は悲しすぎるものでしたが。  
「トッテンパラリは身体がちっちゃいから燃費がイイのにゃ!にゃーはもうそろそろ何か食べないと  
 死んじゃうにゃー!!」  
「そうは言われましても……おや?あれは……街?」  
「にゃんと!?」  
 トッテンパラリが指した先の山裾には、建物の影らしきものが確かにありました。遠すぎてよくわかりませんでしたが。  
「ご、ご飯だにゃー!!」  
 どこにこれだけの元気を隠していたのでしょう。ニャンパラリは全速力でその方向に駆けだしていきました。  
土煙すら上げて走り去る主人に、トッテンパラリはため息を一つついて小走りについて行きました。  
 
 
 街をあらかた探索した二人は、酒場でため息を付き合っていました。  
「誰もいないみたいですね」  
「そんなことはどうでもいいにゃー!なんで食べ物もないのにゃー!?」  
「どうやら廃棄された炭坑街の様です。引き上げの際に荷物はあらかた持って行ってしまったんでしょう」  
「それでもにゃーのために酒樽の一つも残しとけにゃー!!」  
 腹が減りすぎて怒りのベクトルが理不尽な方向に向かっていました。  
「でも、水は補給できましたし」  
「水だけで動けるのはアイアンキングと体内に常温核融合炉をもってるトッテンパラリだけにゃー!!  
 にゃーは何か食べない限りもう一歩も動けないにゃー!!」  
 自分の従者をハイテクサイボーグ呼ばわりして、ニャンパラリは拗ねきってしまいました。  
 こうなると梃子でも動きません。トッテンパラリは困り果てつつも、立ち上がりました。  
「じゃあ何か無いか探してきます。ここでお待ち下さい」  
「にゃー……」  
 さんざっぱら吠えて元気を使い果たしてしまったニャンパラリは、カウンターの奥にいく  
トッテンパラリを見送りつつ眠ってしまいました。  
 
 じゅー。という音を聞いたニャンパラリは目を覚ましました。気がつくとカウンターの向こうで  
トッテンパラリが何か料理をしていました。  
「にゃー!?なにか食べるものがあったにゃー!?」  
「今しばしお待ちを、すぐに第一弾ができあがりますから」  
「ばんざいにゃー!!」  
 ほどなくして、トッテンパラリが何かをお皿に載せてやってきました。どうやら揚げ物のようでした。  
「天にまします偉大な中略いただきますにゃー!」  
 飛び上がらんばかりによろこんでニャンパラリが、感謝の祈りもそこそこに揚げ物にかぶりつきます。  
 中身は食べられる野草やトカゲ程度の様でしたが、ふわふわかりかりの絶妙な揚げ具合、そして  
久々に食べる温かさがとっても美味しく感じられました。  
「おかわりにゃー!!」  
「はいただいま」  
 こんな調子で、久しぶりに満腹ならずとも食事が出来た二人は食後の白湯で一服しました。  
「にゃー。しかし、良く揚げ物なんてできたにゃー」  
「はい、キッチン下の倉庫に小麦粉がすこしと、ランタン用の菜種油が古くならずに残ってましたから」  
「にゃー?ランタン油!?……まあでもうまかったのにゃ。褒めてやるにゃ」  
「ありがとうございます」  
 こうして荒野のテンプラナイトは更けていくのでした。  
 
 おわり  
 

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