「ねぇ、朝ごはん、どうだった、正弘君」  
「うん、スゲー美味かった、先生」  
「もう。先生は止めてよ。ちゃんと切り替えして、正弘君も」  
「ご、ごめん、ま、真紀子さん」  
「……真紀子って呼んでくれないの?」  
「だって、せん……真紀子さんだってくん付けじゃないか」  
「わ、わかったわよ。じゃあ。……まさひろ、朝ごはん、美味しかった?」  
手作りの朝ごはんの後の定番の質問、そして、さっきも同じ質問をしたはずなのに、真紀子の声は微妙に震えていた。  
「う、美味かったよ、ま、まきこ」  
正弘の声もわずかに上ずっている。  
ただ名前を呼び合っただけで2人の距離がさらに縮まった気がした。  
肌を重ねた昨夜よりも。  
「じゃあ、ご褒美」  
「う、うん」  
目を閉じた真紀子の唇を、正弘の唇がそっと覆った。  
 
「そろそろ勉強を始めましょうか」  
「えっ?」  
「受験勉強よ。石森君がせっかく私の家に泊まってくれてるんだから、こういうチャンスは精一杯使わないとね」  
「い、いや、だからね、先生」  
精神的に引きづられて先生と言ってしまい。  
物理的に引きづられて机の前に座らされた。  
「じゃあ、昨夜の石森君がいきなりキスしてきたところの続きからね。参考書の75ページ」  
「えーっと、先生」  
「はい、なんですか、石森君?」  
「どうせならキスの後の続きの方が……」  
「ちゃんと切り替えなさい。さあ、75ページの問題2からよ。  
 受験勉強にかぎらず、勉強って言うのは、まず毎日の積み重ねが……」  
「先生の体の勉強の方を優先したいんですが」  
「か、体の勉強ですって!?」  
「例えば、こういう感じに胸を揉み揉みすると」  
「いやん、やめてぇ。そこだめなのぉ」  
「気持ちいいんですか」  
「ああん。もう、わかってるでしょぉ」  
「どのくらい気持ちいいのかなぁ、って」  
「わ、わかんないのぉ、そんなのぉ。  
 まさひろが触ってる、って思ったら、それだけで、ああん、体がぁ、溶けちゃいそう、なのぉ」  
「へぇ。僕もせん……真紀子を触ってるとそれだけで幸せだなぁ」  
「ああっ、ああ! うっ、ううっ、うっ、ううっ」  
真紀子の喘ぎ声に鼻声が混じってきた事に気づき、正弘は視線を上げた。  
「……えっと、先生……どうして泣いてるの?」  
「……うっ、うう、だって、だって、あなただって分かってるでしょ。  
 あなたはちゃんと勉強すれば出来るのに、勉強しなくちゃいけないのに。  
 こんなコトばかりしてたら、あなたの為にならないわ」  
「い、いやその、それは……」  
「……もう、分かれたほうがいいかもしれないわね、私達」  
「昨日の晩に告白して、キスして、最後まで行って、朝ごはんもあんなラブラブだったのに、  
 チョットいちゃついただけで別れるって、そんな御無体な」  
「うん、お母様に言って、家庭教師も辞めさせてもらったほうが……」  
「ちゃ、ちゃんと勉強やります。やりますから」  
「ホント?」  
「ホント、ホント、マジにやりますって」  
「……こんな中途半端でやめちゃうの?」  
「えっ?」  
「あっ、ご、ごめんなさい。じゃあ教科書の152ページからだっけ」  
 

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