「こらーっ! あなた達、教室で何てもの読んでるの!」
後頭部にガスッ、と硬いものをぶつけられて俺は目から星が出た。
「な、何しやがる……」
振り返った俺の目に入ったのは、黒板用の大型三角定規を携えたクラス委員長、高木恵美だった。
私立白樺中学、三年A組の教室。
放課後になって、生徒達は部活に帰宅にと、めいめいが教室を飛び出していく。
そんな騒がしい中、俺は悪友とともに自分の席に座ってエロ本を読んでいたのだった。
「放課後に何を読もうと勝手だろうが、委員長」
俺が言うと、恵美は目を吊り上げる。
「女の子が見たら不愉快になるでしょ!? そういうのをセクハラって言うの。読みたかったら家で読んだらいいでしょ!」
俺は舌打ちして席を立つ。
高木恵美は、絵に描いたような委員長。
規則にうるさく、何かというと目くじらを立てる。
だから、俺のように規則を守らない男達にとっては天敵のような存在であった。
恵美は、彼を嫌う一部の男子達に「鉄の処女」と陰で呼ばれていた。
今時、校則通りの三つ編みで、黒い大きなフレームの眼鏡をかけている。
もちろん、染毛などもってのほかだ。
スカートは膝の下にまで届こうかという長さで、およそ彼女から色気というものを感じることがない。
そんなわけで、恵美には浮いた噂のひとつも立ったためしがないのだった。
しかし、俺は前に一度、忘れ物をとりに教室に戻ったことがあった。
夜遅かったから、委員長も油断していたのだろう。
鍵も閉めずに教室で着替えをしていた。
半裸姿で、意外にも大きな委員長の胸、ふくよかな身体の曲線。肉感的なヒップを見て、俺は思ったんだ。
ああ、委員長も女なんだな、って。
それがよっぽど腹に据えかねたのか、以後、俺が何かやらかすたびに委員長の叱責を受けている。
目の仇、というやつかな。
俺が一番のはみだし者というわけでもないのに、最も委員長に怒られているのは俺なんだ。
ちぇっ、何をあんなにカリカリしているんだろうな。
「あんまり怒ってばっかりいると、ますます男が逃げるぜ」
しつこく叱られていた時、たまたま虫の居所が悪かった俺はそんなことを言
ったことがある。
俺は、委員長は激怒すると思った。
でも。
委員長はとても悲しげな顔をして、「そうね」とだけつぶやいたのだった。
なんだか深い罪悪感を覚えて、以後俺はそんなことを口にするのを止めた。
……もしかしたらだぜ。
委員長は誰かを好きなのかも知れないじゃないか。
もしそうなら、ひどく可哀想なことを言ってしまったものだ。
うーん、反省。
でもさ。
委員長が好きな男って、どんな奴なんだろうな?
きっとな、すごく真面目な奴に違いないんだぜ。
──俺とは似ても似つかないような、な。
さてここで、この学園のとてもイカれていて、超絶に素敵なシステムを紹介
したいと思う。
すなわち、「奉仕システム」だ。
三年生になると、この学校では学年でひとり、「奉仕委員」が選ばれる。
元々白樺学園は宗教色の強い学校で、「奉仕の精神」を教育のテーマに掲げ
ている。
奉仕委員というのはその具現者だ。
三年生の女子全員がクジを引き、ひとりが奉仕委員として選ばれる。
同時に、男子全員もクジを引き、奉仕を受ける者が選出されるのだ。
奉仕って何かって?
ぶっちゃけて言うと、フェラチオだ。
昔、信仰心の厚い女性が、病に罹った老人の膿を唇で吸い出したという。
それに因んで、欲望の膿を吸い出してもらうという……、その、なんだ、大
変素晴らしい儀式なんだ。
当然、男子達はどうしても選ばれたい。
だが、同時に奉仕委員が誰かというのも重要なポイントである。
美少女だったらこの世の桃源郷だが、まぁ、その、アレな子だったらむしろ
苦痛だったりするわけである。
そして、今年クジを引き当てたのは、俺なんだ。
奉仕委員も、その相手も名前は公表されない。
やっぱり、名誉に関わることだしな。
だから、今年の奉仕委員が誰か、俺は知らない。
今日、保健室に行って初めて対面するんだ。
そして、初めての奉仕が始まる。
ドキドキするぜ。
天国か、地獄か?
俺は期待に胸をふくらませ、ゆっくりと保健室の引き戸をスライドさせた。
そして、閉じる。
どうやら奉仕委員はカーテンの奥に仕切られたベッドの上にいるようだ。
「入るぜ」
俺はなるべく彼女を驚かせないよう、落ち着いた声を出すよう心がけ、足音
を立てながらゆっくりと近寄っていった。
シャーッ
カーテンを引く。
「こんにち──」
挨拶しようとした俺は硬直した。
「な!? 岩瀬くん!?」
俺の名前を呼んだ彼女は、明らかに動転していた。
だが、俺も同じように動転していたんだ。
「な、おまえは……」
と俺は言う。
「今年の奉仕委員なの……か?」
彼女は目を大きく見開いたまま、小さく頷いた。
まいったよ。
まさか、まさかな。
今年の奉仕委員が、委員長、高木恵美だったなんて──
俺は、夢にも思っていなかったんだぜ。
「……どうするよ?」
俺と委員長は、真っ白なベッドに並んで腰掛けている。
保健室には非常に気まずい空気が立ち込めていた。
「どうするって、するしかないんじゃない」
委員長はそっぽを向いたままぶっきらぼうに答える。
そりゃそうだよなぁ。
よりによって、委員長がクラスで一番嫌ってる俺がクジを引き当てるなんて
な。
なんという運命の悪戯だろうか。
「わかったよ、委員長。その……、さっさと済ませてしまおうぜ」
俺は立ち上がって委員長に背を向けると、カチャカチャと音を立ててベルト
を外した。
◇
委員長の前に俺が立ってペニスを突き出す。
委員長は、床に膝をついて俺のものに顔を近づけた。
彼女は汚いものを見つめるように眉根を寄せる。
「に、匂うわよ。ちゃんと、洗ってるの?」
「当たり前だろ! そこは、そういう場所なんだよ!」
「なんか、カブトガニの裏側みたいな形……」
「か、形と匂いを楽しんでないで、さっさと咥えろよ」
俺が言うと、顔をしかめたまま委員長は俺の亀頭に舌を這わせた。
「あ、あわっ」
なんだ、この気持ちよさは……!!
俺は始めての快感に喘ぐ。
「そんなに、気持ちいいの?」
「お、おう。たまらんな……」
委員長はぺろぺろと、棒つきキャンディーを舐めるように舌を激しく滑らせ
る。
俺は猛攻にタジタジ。
「あら、岩瀬くんも案外可愛らしい所があるのね」
と、委員長は亀頭に口づけながら言う。
「う、うるせえ。委員長こそ、エロ本読んだくらいでピーピー騒ぐくせに、
チンチンをペロペロ舐めまわしやがって……」
「こ、これは仕事だから仕方なくやってるのよ!」
彼女は顔を赤くして、俺のペニスをパクリと口に含んだ。
「おおおおおおおおうっ!」
俺は意味のわからない唸り声を出す。
敏感な粘膜がぬめりに包まれて揉みこまれ、背筋を未曾有の快感が走る。
「そ、そんなに気持ちいいの?」
「す、すごいぞ。すごすぎるっ」
俺が悶えると、委員長は満足そうな表情になって、ずずず……っとさらにペ
ニスを吸引していくのだった。
なんだか委員長は、フェラを楽しみはじめているような気がする。
普段は虫も殺さないような顔をして本ばかり読んでいる委員長。
その彼女が、激しく俺のペニスを吸引している様はなんともエロい。
いつも俺がやっていることを叱ってばかりの委員長だが、はっきり言って、
今彼女がやっていることの方がよっぽど過激だよな?
随分と長い時間、委員長は俺のペニスを口に含んで舐めている。
「岩瀬くん……」
彼女が言った。
「私で、ごめんね」
「え? 何が?」
俺は驚いて訊ねた。
「その、これを楽しみにしていたんでしょう? なのに、私なんかでごめん
ね」
「な、何を言ってるんだよ」
「いいの。男の子にとって魅力がないことくらい、私、知ってるのよ」
少しだけ、低いトーンで言う委員長。
「そ、そんなことないよ。委員長は魅力的だぜ」
「ウソ」
「ウソじゃない。それに、嫌なのは俺じゃなくて委員長の方だろう? 奉仕
するのはおまえなんだから」
委員長と目が合った。
彼女は目を伏せた。
「私は──嫌じゃないわ」
と、委員長は言った。
「え……」
言葉が途切れる。
「岩瀬くんなら、嫌じゃないわ」
と言って、また委員長は俺の亀頭を唇で強く絞め上げた。
うぅっ、気持ちいい。
「なぁ、委員長。それって、どういう意味だよ?」
彼女は上目遣いに潤んだ瞳で俺を見つめる。
「あなたになら、どんなことでもしてあげるし、どんなことをされてもいい
わ。
そういうことよ」
委員長って、こんなに可愛い女だったかな?
いつもどうでもいい事で目くじらを立てている印象しかなかったが。
俺の股間に顔を埋める委員長。
俺は、その頭をそっと撫でてやった。
彼女は返事の代わりに、俺の鈴口を吸う。
俺は次第に追い詰められてきた。
「い、委員長。もう、俺、イクよ……」
彼女は俺を見て、さらに激しく亀頭を舐めまわした。
「ぐ、ぐ……イク。委員長──恵美、イクッ!」
精液がペニスの根元から噴射され、彼女の顔を直撃した。
「きゃっ」
委員長はびっくりして尻餅をついた。
その顔に次々と精子の弾丸が命中し、彼女の眼鏡は白い粘液で汚れていった
のだった。
あれから、数日後。
俺は昼休みの屋上に立ち、下からは死角になる場所に位置を占めている。
そして、学ランのズボンも下着もずり下げられており、俺の股間には委員長
が吸い付いているのだった。
「ん、ちゅぷ……、んン、ちゅぱっ」
淫らな水音を立てながら彼女は俺のペニスを唇で絞めている。
そして舌は、休みなしに俺の亀頭を舐めまわしているのだ。
「恵美、イクぜ」
俺がそう告げると、委員長は首を振りはじめる。
激しい刺激。
俺は委員長の口の中にたっぷりと精液を吐き出した。
彼女は喉を鳴らしてそれを飲み干していく。
そして、「ぷはっ」とペニスを口から出した。
「毎日しているのに、いつもあなたのは濃いのね」
「うん、すぐに溜まってしまうんだ」
「これじゃあ、毎日してあげないといけないわ」
委員長は、そう言って俺の裏筋を指ですぅっと撫でた。
学校の規則で行う奉仕は、一度だけ。
あれ以来、毎日行われている彼女のフェラチオは規則ではなく、自由意志だ
った。
「エロ本を読むのはダメでも、学校でフェラチオするのはいいのかい、委員
長」
俺は、この可愛い女を少しだけいじめてみたくて、そう口にした。
案の定、彼女は真っ赤になる。
「うるさいわね。これは、ただの仕事の延長なんだから」
そう言い募る。
「それに……、こんなにすぐに溜まってしまうんじゃ、放っておいたら、他
の女の子に手を出すに決まっているもの……」
委員長は、俺の鈴口に唇を近づけ、尿道に残っていた精液を吸いだした。
俺は彼女を引き起こし、抱きしめる。
「あ……」
と俺の胸の中で赤くなる委員長。
相変わらず、教室の中では俺に対してうるさい叱責の多い彼女。
でもどうやら、それは委員長の不器用な愛情表現みたいだぜ。
そんな子供っぽさも、なんだか愛らしく感じられる。
こんなきっかけから始まる恋があってもいいのではないだろうか。
俺は、委員長にキスをした。
彼女は茹でダコのように真っ赤になる。
いつもフェラチオをしているというのに、不思議なものだ。
そして彼女は、目を瞑ってされるがままになった。
とても、幸せそうな顔になる。
ああ、そうなんだ。
何を隠そう、これが俺達のファーストキスだったんだぜ。
おわり