並んで歩く隣に居るのは、穏やかな表情の彼。
温厚な彼は滅多な事じゃ怒らなくて、あたしは彼の笑顔を見るたびに安心する。
ちっちゃな頃から、何かやらかすのはあたしと決まっていて、彼はそんなあたしに巻き込まれながらも、いつものんびりとしたペースで付いてきてくれた。
なのに。
「ごめん、いつまでもくっついてちゃ駄目だよね」
不意に彼がそう呟いた。
「……え?」
何を言われた分からなくて、足を止めたあたしは彼を見つめる。
数歩先を歩いて彼も足を止めると、躊躇いがちにあたしを見つめ返した。
「僕らももう良い歳だし、幼馴染みだからって、あんまり君にくっついてると迷惑だろ?」
「そ…そんな事あるわけ無いじゃない!いきなり何言ってるのよ!」
「だって……」
あたしの剣幕に押されたのか、彼が口ごもる。
口を閉ざしたら駄目になってしまうような気がして、あたしは彼に歩み寄るとその胸元をガシと掴んだ。
「アンタはずっとあたしと一緒に居なきゃ駄目!それとも、一緒に居たくないの?」
もしも頷かれたらどうしよう。
そう考えはしたけれど、これだけは絶対譲れない。
彼はあたしの勢いに目を丸くして瞬きを繰り返すと、やがて困ったような笑顔を浮かべた。
「……そんな事ないよ」
シャツを握る私の手に自分の手を沿え、やんわりと引き剥がす。
かと思うと、彼は唐突に私を引き寄せると、力強く抱き締めた。
「っ!?」
「そう言ったからには、ちゃんと覚悟しておいてね」
真っ赤になって身動きが出来ないあたしの頭上に、穏やかな彼の声が降る。
「保守…させて貰うからさ」