「ねーまさとき。わたしたち、ずっといっしょにいられるかな?」  
「そんなのきまってるだろ。おれとゆいとまいは、これからもずっといっしょだぜ。」  
「それはとてもうれしいな。そうすると、わたしとまさときとゆいと、さんにんでけっこんするということになるな。」  
「けっこんってさんにんでもできるの?」  
「けっこんとは、すきなひとどうしがするものだそうだ。だから、さんにんでもだいじょうぶなはずだ。」  
「ようし!おれがんばってふたりをしあわせにするからな!」  
「うん!よろしくねまさとき!」  
「わたしたちも、きみをしあわせにしてあげるからかくごしておけ!」  
 
 
 
むくり、と少年は起き上がった。  
「一体何年前の事を夢にみてんだ俺は・・・。」  
そう言って頭をかく。  
 
少年の名前は「高村 正刻(たかむら まさとき)」。高校2年生。とある理由で一人暮らしである。  
身長は160前後と低めである。ただし、顔はなかなか整っている。漆黒の髪と瞳が印象的であった。  
 
「さて・・・。ちっと早いが食事の準備をするか。何があったっけな・・・。」  
そういって、まずは顔を洗ってさっぱりしようとドアを開けると、何かとても良い匂いがした。  
台所の方からである。さらに、人の気配もした。  
 
「あいつらか・・・。まったく。」  
苦笑しながらそうつぶやくと、彼は着替えて台所へ向かった。  
 
台所で食事の準備をしていたのは、彼と同い年で、同じ学校へ通う、幼馴染の双子の少女であった。  
 
「よう、おはようさん。」  
「あ、正刻おはよう!って何よそのだらしない態度は・・・。起きぬけなのは分かるけど、もうちょっとしゃきっとしてよね。」  
「そういうな唯衣よ。私はこんな正刻も素敵だと思うぞ。」  
 
先に挨拶をしてきたのが姉である「宮原 唯衣(みやはら ゆい)」。身長は165前後。  
スレンダーな体つきだが、凹凸はしっかりしている。ちょっと気の強そうな瞳を持ち、美しい黒髪を見事なポニーテールにまとめている。  
 
妹の名は「宮原 舞衣(みやはら まい)」。身長は175前後とかなり高い。  
スタイルは抜群で、見事な体型をしている。クールで知的な雰囲気を持っており、長く美しい黒髪を、こちらはストレートにおろしていた。  
もっとも、正刻に対しては好意を素直にぶつけすぎるところがあるが。  
 
「で、お前ら今朝はどうしたんだ?特に朝食の用意を頼んだ記憶は無いんだが・・・。」  
「お母さんがね?おかずが余ったから持って行けって。ついでに朝ご飯の用意もしてあげなさいってね。」  
「うむ、まぁそれは口実で、私も唯衣も君に一秒でも早く逢いたかっただけなのだがな。」  
舞衣がそういうと、唯衣はかぁっと顔をあからめて必死に否定をした。  
「!!な、何を言ってんのよ舞衣!!あんたはともかく、わ、私はあくまで幼馴染の腐れ縁としてこいつを心配しているだけで、別にそんな・・・!」  
そんな姉の態度に、やれやれといった態度で答える舞衣。  
「そんなに照れるな唯衣よ。私を見習ってもう少し素直になれ。今時ツンデレは流行らんぞ?」  
 
こんないつものやりとりを見て、彼は思わず苦笑していたのだが、ふと真顔になった。  
 
「なんか・・・二人とも、いつも悪いな。本当にすまな・・・・むぐ。」  
 
そのまま喋ろうとしたのだが、姉妹二人から口に人差し指を当てられては喋れない。  
 
「正刻・・・いつも言ってるでしょ?こういう時の「ごめん」とか「すまない」とかは、いいっこなしにしようって。」  
「そうだ。私たちが言って欲しい言葉はそんな言葉ではない。君ならちゃんとわかっているだろう?」  
 
そう言って二人は正刻の目をじっと見つめてくる。彼は苦笑し、二人の指をどかすと笑顔を浮かべて言った。  
「二人とも・・・本当に有難うな。すごく感謝してる。これからもよろしく頼む!」  
 
その言葉を聞いて、二人はとびっきりの笑顔を浮かべた。  
「まったく・・・。あんたの世話を焼けるのは私と舞衣くらいのものなんだから、ちゃんと感謝してよね?」  
「こちらこそよろしくだ正刻。あらためて惚れ直したぞ!!」  
 
その後、正刻が身だしなみを整えている間に、双子は食事の準備を進めていた。  
もっとも、実際に調理をしたのは唯衣で、舞衣は食器を用意したりする手伝いだけだったが。  
 
「舞衣はなぁ・・・。何で殺人料理ばっかり作っちまうのかねぇ・・・。」  
身支度を整えた正刻がテーブルについてそう言ったのに対し、舞衣はぷぅっと頬をふくらませた。  
見た目に反したこういう子供っぽい行動を時々とるのが舞衣の癖である。  
「今は確かにちょっとアレな腕だが・・・しかしな!今に見ていろ?いつか母さんや唯衣より料理の腕をを上げて、君をメロメロにしてやるからな!」  
「はいはい、こいつをメロメロはどうでもいいけど、あんたが私や母さんを料理の腕で追い越すのは正直無理だと思うけどねー。」  
そう言って唯衣は完成した料理を手際良くテーブルに並べていく。どれもかなり美味しそうだ。  
「舞衣。コーヒーを淹れておいて。これだけは私、あんたには勝てないのよねー。」  
「そうなんだよなー。唯衣が淹れたコーヒーも美味いけど、舞衣のが淹れたコーヒーは別格だもんなぁ。」  
「ふふっ、ありがとうな正刻。お礼に君のコーヒーには私の愛をたっぷり注いでやろう。」  
「んなもん注がんでいいから普通に砂糖とクリームを入れてくれ。」  
 
こうして賑やかながらも楽しく食事を終えた三人は、登校の準備を始めた。  
といっても準備をしたのは正刻だけで、双子は食事の後片付けをしたのだが。  
やがて、準備を終えた正刻が二人に声をかける。  
「よし、待たせたな。じゃあ行くとするか!」  
「ちょっと待って正刻。はい、これお弁当。残さずちゃんと食べてよ?」  
「おぅ有難うな。心配すんな、そんなもったいないことしねーよ。」  
「さて、では準備も整ったようだし、行くとするか。」  
「あいよ。さーて、今日も一日頑張りましょうかね。」  
「正刻・・・。おっさんくさいよ・・・。」  
「だがそれが良い!!」  
そんなやりとりをしながら三人は賑やかに学校へ向かった。  
 
 
三人は並んで学校への道を歩く。  
真ん中が正刻、その右に唯衣、左に舞衣といった形だ。身長差のせいで、ぱっと見た感じ、仲の良い姉妹弟に見える。  
 
しかしながら、少なくとも同じ学校に通う生徒でそう思うのは誰もいないだろう。  
何しろ宮原姉妹は目立つ。二人ともとびっきりの美少女なのに加え、それぞれが活躍しているからだ。  
 
唯衣は合気道部のホープである。男子でも彼女に勝てる者はいない。ポニーテールをなびかせて闘う彼女には男女問わずファンが多い。  
さっぱりした明るい性格で、さらに料理をはじめとする家事全般が得意なのも、その人気の理由である。  
 
舞衣は生徒会の副会長で、次期会長になるのは確実と言われている。さらには成績も抜群で、学年のトップ3から落ちたことは無い。  
運動神経も抜群で、生徒会の業務があるため特定の部活動には所属していないが、それでも助っ人を頼まれる事は日常茶飯事だ。  
当然人気も高いのだが、彼女は普段から正刻スキスキオーラを発散し、あまつさえ行動に移しまくっているので、男子からはある意味手の届かない存在と諦められている。  
もっとも、それでも告白しようとする連中は後を絶たないが。  
 
そんな人気者と行動を共にする正刻は、昔から羨望と嫉妬の対象だった。  
しかし、彼自身がそれを苦痛に感じたことはほとんど無い。  
幼い頃は、周りから冷やかされて恥ずかしく思った時もあったが、しかし彼女らと一緒にいることが彼にとっては何より楽しく、幸せなことであった。  
ゆえに、周りから何を言われようが彼は二人から離れようとは思わない。嫌がらせも気にしない。  
もっとも、舞衣の行き過ぎた愛情表現には多少辟易しており、あまりいちゃいちゃするな、といつも言っている。  
舞衣はそんなことを言われようと態度を変えはしないが。  
 
もっとも、最近はそういった正刻に対するやっかみも減ってきた。それは、彼自身がいわゆる「変わり者」に分類される人種であると、知れ渡ってきたせいもある。  
 
その「変わり者」である理由の一つが、今彼らの間で話されていた。  
 
「ところで正刻・・・。まさかとは思うが、今年もあの件を提案する気か?」  
「当たり前だ。あれを成し遂げるのは俺の悲願だ。たとえ今年が駄目だとしても、俺は来年も必ずやるぞ。」  
「あんたってば本当に変態よね・・・。幼馴染じゃなかったら、とっくに縁を切って半径5メートルには近づかないわ。」  
 
彼の悲願。それは・・・図書館に18禁コーナーを作るということだった。  
 
正刻は図書委員をしている。彼らが通う高校には、大きな図書館がある。司書もいるくらいだ。  
さらに、通常図書委員というのは簡単なことしかしない場合が多いが、ここの学校では違った。  
図書館の貸し出し業務や掃除はもちろん、新しく入れる本の選定や、今ある本の管理、入荷した本のチェック、パソコンへの登録など専門的なことまで任される。  
もちろん全てまかせっきりという訳ではない。そのために司書がいるし、他の業務をする人もいる。図書委員でも、必ずそういったことをしなければならないわけではない。  
しかし、このシステムは本好きには魅力あるシステムであり、それを目当てに入学する者もいる。  
かくいう正刻もその一人であった。  
そして彼には常日頃不満に思っていたことがある。それが18禁ということであった。  
俗に18禁と呼ばれるモノは、むしろ18未満にこそ必要なものだと彼は考えた。  
そこで、新しい本の入荷の選定の際に、そのことを提案したのだ。  
 
結果は・・・いわずもがな、であった。しかもそれをネタではなく本気でやろうとするあたりがもうアレだ。  
そんなこんなで、彼は「宮原姉妹のおまけ」から「学校一の変わり者」にランクアップしてしまった。  
 
黙っていれば、彼自身もかなりの美形なのに、それをこれっぽっちも感じさせない。あるいはそれも、彼の魅力なのかもしれなかったが。  
 
そんな微妙な空気を振り払うかのように、唯衣が正刻に話しかける。  
「ま、あんたの変態的計画はどうでもいいけどね。ところで明日の夜は空いてる?」  
「まぁ空いてるけど・・・。どうした?」  
「父さんと母さんが、一緒に食事しようって。父さんはまた新しいお酒を買ったから、晩酌に付き合ってほしいみたいよ。」  
「まぁ明日は土曜だし別に構わんが・・・。しかしおじさん・・・高校生を普通に酒に誘うなよなぁ・・・。」  
「まぁ良いではないか。父さんも、男同士で飲みたいんだろう。ついでに泊まっていけば良い。」  
「それって朝まで飲めってことか?お前らも少しは付き合えよ・・・ってやっぱいい。むしろ君たちは飲まないで。お願いだから飲まないで下さい。」  
 
正刻の脳裏に、誤ってこの二人に酒を飲ませてしまったこと時の事が蘇った。正直、二度とあんなことは起きてほしくない。いや、起こさせない!  
 
彼がそんな決意をしていると、学校に到着した。  
「そんじゃお前ら、またな。」  
「うん!あんたも授業中居眠りしちゃダメだからね?」  
「まぁ安心しろ。クラスが別でも、君が居眠りをしたらすぐに膝枕をしに行ってあげるからな。」  
「勘弁してくれよ・・・。」  
そういって、三人はそれぞれのクラスに分かれていった。  
 
 
正刻は教室に入ると、親しい友人たちに挨拶しながら自分の席へと向かった。  
ちなみに彼の席は一番窓側の列、その真ん中あたりである。  
自分の席に着いた彼は荷物を机に入れながら、後ろの席の少女に声をかける。  
 
「よ、おはようさん鈴音。」  
「おはよう正刻!んふふー、しかしキミ達は朝からラブラブだねぇ。見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうよ!」  
「あのな・・・。俺はただ幼馴染達と普通に登校しただけだろうが!下らねーこというな!大体俺達がそんな関係  
じゃないことは、お前もよく知ってるじゃねーか!!」  
「そんなに怒らないでよぅ。ちょっとしたスキンシップじゃないかぁ。そんなに邪険にされちゃうと、ボクショックのあまり  
泣いちゃうよ?」  
「お前がこんな程度のことで泣くタマかよ・・・ったく。」  
 
そう言って頭をかく正刻のことを、まるで猫のように目を細めて「にひひー」と笑いながら見る少女。  
 
少女の名は「大神 鈴音 (おおがみ すずね)」。正刻とは中学からの付き合いである。ついでに言うなら、彼とはその時から  
ずっと同じクラスだ。  
身長は160前後。さらさらの髪をショートにまとめており、眼鏡をかけている。全体的にスリムな体つきだが、決して痩せぎすという訳ではない。  
陸上部に所属している彼女の肢体は、むしろ鍛え上げられてしなやかであった。その表情とあわせると、まるで猫のようである。  
 
こいつめー、うりうり、とちょっかいをかけてくる彼女の相手をしながら、しかし正刻はこれはこれで良いか、とも思っていた。  
 
彼女と初めて出会ったのは中一の時であったが、その頃の彼女は今とは真逆であった。  
まったくの無表情。眼鏡の奥の瞳に感情は感じられず、ただ一人で本を読んでいた。  
体からは周囲を拒絶する雰囲気を発散しており、まさしく孤独、であった。  
 
しかし、正刻や唯衣、舞衣達と様々な出来事を経験するにつれ、彼女に変化が起きてきた。  
本好きであったが同時に走ることも大好きだった彼女は陸上部に所属し、少しづつではあるが、周囲とコミュニケーションを取るようになった。  
さらに中三の時には生徒会会長にも立候補し、同じく立候補していた舞衣と熾烈な選挙戦を戦い、僅差で勝利。この時の選挙戦は、いまだに語り草  
となっている。  
 
それらを正刻は同じクラスで、ずっと近くで見てきた。  
過去の彼女を知る正刻は、現在の明るい彼女を見て感慨にふけることもあった。  
もっとも・・・。  
 
「そりゃそりゃ!うりー!」  
・・・人差し指で彼のほっぺたを過度にぐりぐりしてくる彼女を見ると、少しはあの頃のような落ち着きもあった方が良いなぁ、と思ったりもするのであった。  
 
「このアマ・・・。ちょっとは落ち着けってーの!!」  
ぐりぐりしてくる彼女の指を払い、顔面を鷲?みにする。  
「きゃん!ちょ、ちょっと正刻!女の子相手にアイアンクローだなんてあんまりだよぅ!」  
「うるさい!お前が調子に乗りすぎるからだろうが!ちっとは反省しろ!」  
「ごめーん!反省してますぅ!だからこの手を離してくださいご主人様ぁ!!」  
「!?バ、バカ!誤解されるような発言をするな!!」  
 
あわてて正刻は手を離す。鈴音は開放された頬をすりすりしている。  
「いたた・・・。まったく酷いねキミは。大体これくらいのスキンシップで怒ることないじゃないか。舞衣なんか、もっと過激なこともしてるじゃないか!なんでボク  
だけアイアンクローを食らわなくっちゃいけないんだよぅ?」  
「舞衣を例にだすな。大体、俺は別に色々してくることを許しちゃいないんだぞ。」  
「それでも結局許しちゃうんでしょ?まったくキミは舞衣に・・・いや、あの二人に甘いねぇ。・・・羨ましいなぁ。」  
最後の言葉は殆ど言葉にならない呟きだったので、正刻には聞き取ることは出来なかった。  
「ん?なんか言ったか?」  
「べっつにー。・・・あ、先生きたよ。ほらほら前を向いた向いた。」  
不承不承前を向いた正刻の背中を、鈴音は猫のような、そして優しげな顔で眺めていた。  
 

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