まゆとみいちゃん・場外編『日常或いは平穏な日々』
「…あの、さ? …なんか今日、機嫌悪い、ね? 真由ちゃん」
ある日のお昼休み。
むしゃむしゃとお弁当を食べていると、たかちゃんにそんな事を聞かれました。
……ふっ。
「……わかり、ますか」
「……なんていうか、そのー、…また、藤井君絡み?」
ふ、ふふふふふ。
「ええ。…ええ、そうです。そうですとも。…聞いて、もらえます? たかちゃん」
こくこくこくと何度も首を縦に振るたかちゃん。
いやですねえ。そんなに何回も肯かなくともよろしいのに。
――ああ、そうです。瑞穂ちゃんの狼藉の事でした。
――ええ、そうです。昨日の夜の事でした―――。
「なーなー、まゆー。オマエ、コレ出来るんじゃないか?」
夕食の後、TVを見ていたみいちゃんが、そんな事を言い出しました。
「えー? 何です」
「これ」
言われて、覗いたTVに映っていたのは。……安○大サーカス?
「……なんですって?」
「うむ。ちょっと『ク○ちゃんですっ☆』って言ってみろ」
「い――、イヤですよっ! 大体、似てませんっ!」
「まあまあいいから。オマエもどっちかっていうとこーゆーきゃる〜んとした声だし?
絶対やってみたら似てるって、さあさあ」
「イヤです」
「まーゆー」
「……絶対、イヤっ」
まったく、何考えてんですかっ、馬鹿馬鹿しいっ。
憤然として背を向けて部屋に戻ろうとします。まったく、付き合ってられません。
「うわっ!?」
背後から、どっしりと瑞穂ちゃんが圧し掛かってきます。
「……まゆー、やってくれよー、絶対似てるよー、やってよー」
耳元に口を近づけて甘えた声で囁かれます。
ひ、や、ちょ、ちょっと、くすぐったいから耳に息吹きかけるのやめてくださいーっ!
「わ、わかったっ! わかりましたよ、やればいいんでしょうっ!?」
やったー。と無邪気に喜ぶ瑞穂ちゃんを睨みつけます。
「……『ク○ちゃんです』」
「んー、もう一回」
「『○ロちゃんですっ』」
「もっとハイテンションでっ! 可愛くっ!」
「『ク、ク○ちゃんですっ☆』」
「……あー、思ったよりあんま似てないわ。もういいよ、じゃあな」
「ひどいと思いませんかっ!? 何度もひとをはずかしめておいてっ!」
「……あ、あー、そう……」
昨日の事を思い出し、行き場の無い憤りに拳を固く握りしめます。
「――俺のほうこそ、悲しい思いしたぞー」
……背後から、イヤというほど聞きなれた声がしました。
「……瑞穂ちゃん」
「――ホントになあ。絶対似てると思ったのになー。予想を裏切られたよ、似てなかった。がっかりだっ」
「……みいちゃん? 言いたい事は、それだけですか?」
……横目に、たかちゃんがお弁当の乗った机や周りの椅子をわたしから遠ざけて片付けてくれているのが
見えました。
……いい友達です。本当に。わたしには、もったいないくらいに。
……それに、くらべて。
このひとときたら、もう、ホントにーっ!!
「――まちなさいっ! みいちゃんっ! 今日という今日はもうぜったいにゆるしませんっ!」
「そんなに怒る事ないだろーっ。ちょっとした冗談じゃねえかよう」
「アレをちょっとした冗談で済まそうとするのはこの口ですかっ!?」
ほっぺを掴んで左右におもいっきり、むぎーと引っ張ります。
「ごうぇんごうぇんほれがふぁるはっらほんろにごうぇん」
「反省してますっ!?」
「ふぁみりひはっへ」
「アナタの口から神なんて出ても信用できませんっ!」
「ふぉうひはいひょー」
「……信じましたよっ!? ホントにもうしないでくださいねっ!?」
とりあえず、それで手打ちと相成りました。