「あのー、みいちゃん。お願いがあるんですけど、いいですか?」  
真由子がそんな事を言ってきた事について、もう少し深く考えれば良かったのかもしれない。  
「んー? 別にいいけど? 一体何よ?」  
あああ何だってあんなに適当に返事をしたんだ昨日の私。  
いくらゲームがいいところだったからって、せめて内容を聞いてからにしてればこんな事には―――。  
 
「……ぃちゃん? ちょっとみいちゃんっ? 聞いてます?」  
「――ならなかったよなー。あークソ私はこんな所でなにやってんだ?   
少なくとも何か別にやるべき事がきっとあるはずなんだが――」  
「――……もー! 話し聞いてくださいよっ! 現実逃避禁止ー!」  
あーもう、うるせえなあキャンキャンとよー。  
「なんだよ、さっきからうるさいヤツだなあ」  
「みいちゃんは、買い物しないんですか?って聞いたんですっ」  
「……アタシが? ここで?」  
「そうですよ? 何でそんな変な顔するんです?」  
はっはっは。うわクソ今すげえ最大級におもしれえ冗談聞いたぞコンチクショウ。  
「…あー、その、なんだ。真由子よ」  
「はい」  
「……アタシが、女性用下着売り場で、なにを買えと?」  
そう。  
何の因果か、真由子に付き合って、こんなところに来るハメになっている。  
……泣きたい。  
 
 
 
『ふたつのむねのふくらみはなんでもできるしょうこなの』  
 
 
 
「……言っとくがなあ、自慢じゃないが、アタシの胸にブラジャーなんざ必要ないんだよ」  
もう見事なまでに真っ平らだからな。  
ちょいと前に真由子が言っていた、胸の辺りが固くなってきたとかふくらみかけで痛いとかも無いし。  
「つーかさー、ヒマなんですけどーまゆこサンー? アタシちょっと他所行って来て良い?」  
もうここから離れられるならなんでもいい。  
「え、だ、ダメですよ。わたし一人じゃ心細いから付いて来てもらったんじゃないですか」  
……そうなのだ。  
これというのも、来月に迫った修学旅行のせいだったりする。  
小学校六年間の締めくくり。一大イベント。  
だからって何でわざわざ『可愛い下着』を買いに来るのかね。  
しかも、『一人で下着売り場なんて恥ずかしい』って私まで付き合わせるし。  
「だって、あんまり子供っぽいのだと、恥ずかしいじゃないですか」  
いいだろ別に子供なんだから。そもそもだな、小学生が華美な下着なんぞ着けるのが間違いだろ。  
乳バンドなんざいつもの白いヤツで充分じゃねえか。破れてなきゃいいんだ、あんなもん。  
「……乳バンドって。一体いつの生まれなんです、みいちゃん」  
試着室のカーテンの向こうから真由子が言う。  
うるせえ早くしてくれ。  
なんかもー、ここは本当に駄目だ。ケツがむずがゆくて仕方ない。  
「はあい。……あのー? みいちゃん?」  
「なによ」  
「あのですね、変じゃないか、ちょっと見てくれません?」  
 
見ろ?  
何を?  
……まゆこの、乳をですカ?  
いやえーと待て待てちょっと(お)それはマズくないかイヤイヤ私ら女同士だろ(おっぱ)  
なに動揺してんだよ私いやでもそのブラジャーが本当に似合うか(おっぱい)どうかはやっぱり  
キャッカンテキな(まゆこのおっぱい)視点が必要ナワケでこれはなにもやましいことなんかない  
フツーの事で真由子の乳の育ち具合を(乳乳乳乳乳乳ー!)すこぶる確認してえー!  
「スイマセン失礼しますっ!」  
ガシャア! と試着室のカーテンを思い切り引き開ける。  
「わ、ちょっと、そんなに勢いよく開けないでくださいよ」  
………白地に、うすいピンクの小花模様の可愛らしい……、スリップ? を着ていた。  
「……………なにソレ」  
「なにって、可愛いでしょうー? このキャミソール。どうです? ちょっと派手ですかねー?」  
「……………ぶらじゃー、は?」  
「もう決めましたよー。このキャミとお揃いなんです。可愛いですよー」  
ニコニコニコニコ、ものすごく嬉しそうに照れくさそうに笑っている。  
その顔はすごく可愛い。可愛い、んだけど。  
「………なんでそんなに疲れた顔してるんです? みいちゃん」  
イヤ別に疲れたわけじゃないんだよ、ただちょっとがっくりきただけ。  
「だいじょうぶですか? これだけ終わったらちょっと休憩しましょうか」  
そだな。そうしてくれ。妙な期待しただけに、反動がきた。  
そのまま試着室から出ようとすると。  
「あ、待ってください、みいちゃん。こっちなんですけど」  
今着ていたものと、同じ柄で色違い――さっきのはピンクでこっちは青だ――のキャミソールを  
片手に、真由子が私の腕を掴んで引き止める。  
……なんか、さっきのより少しサイズが大きいような。うわすげえヤな予感してきた。  
 
「これね、今わたしが着てたのとおそろいなんですよー。  
 キャミとホットパンツのセットでね。みいちゃんも、試着してみてください」  
――予感的中。  
「イヤだ絶対にイヤだ。なんでンなモンアタシがわざわざ着なくちゃならねェんだっ!?」  
「えー、いいじゃないですか、部屋も一緒なんですし、パジャマ代わりにおそろいで着ましょうよー」  
「アタシゃ寝る時はTシャツに短パンって決めてんだよっ!  
 それでなくても、ンな下着みてェな薄っぺらいモン恥ずかしくて着れるかっ!」  
「そんなに薄くないですよう。それに部屋の中だけです。外に着て出るものじゃありませんし」  
「イ・ヤ・だっ!」  
「……せっかく修学旅行なのに……。みいちゃんとおそろいの可愛い部屋着にしたかったのに……。  
 ……みいちゃん、わたしとおそろい、イヤですか……?」  
「………………………………………………」  
 
買う事になった。  
 
 
「あ、やっぱり似合いますよー! すごい可愛いー!」  
「……………………………………………そうか」  
 
着るハメにもなった。  
 
 
帰りに、一階のフードコーナーでクレープを食う。  
「ハムエッグ。あ、チーズ足してもらうのって、出来ます?」  
横を見ると、真由子が真剣な顔でガラスケースの中のサンプルを見比べている。  
「……はーやーくー。さっさと決めなよー、まゆー」  
「うや、ちょっと待って……! ……ううん、ええと。……それじゃ、チョコバナナにします」  
嬉しそうに、クレープをパクつきはじめる。  
本ッ当、楽しそうにメシ食うよなァ、コイツ。  
「……まーゆー、ちょっとくれー」  
「あ、食べてみます? はい、どうぞ」  
真由子の差し出したクレープに、あ。と口をあけてかぶりつく。  
「……うっわ、甘ッ!」  
「そりゃそうですよ、チョコバナナですもん。それより、みいちゃんのも、一口ください」  
何故か私のかじった跡をじとりと見てから、言ってくる。  
「え、なんで?」  
「そ、そういう事いいますかあなたー! わたしの、一口どころじゃない量食べたくせにー!」  
「冗談だ。悪かったよ、……ほれ」  
 
大きく口を開けて待っている真由子に、自分の分のクレープを差し出す。  
……なんで眼ェつぶるかな。  
あんなに大口開けて。口ン中丸見えじゃねえか。  
……舌、可愛い色してるなァ、こいつ。赤ン坊みてェなピンク色だ。  
……くそ、無防備な表情しやがって。  
「……んぐ。塩味のもいいですね。チーズが美味しいー」  
口の端にケチャップ付いてるぞー。  
「ふぇ、どこですか?」  
ここだここ。手を伸ばしてケチャップを拭ってやる。  
「あ、ありがとうございます」  
指先に付いたケチャップ。一瞬迷ってから、ぺろりと舐め取る。  
「拭くもの、取ってもらえます? まだちょっと付いてません?」  
……全然気にした様子もなく、そんな事を言ってくる。  
ほれ。と机に備え付けの紙ナプキンを取ってやりながら、顔が赤らんできている事を誤魔化すように、  
残ったクレープに噛り付いた。  
 
 
チクショウ、何やってんだかな、我ながら。  
……私と真由子は女同士だっつーの……。  
 

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