まゆとみいちゃん・場外編『日常或いは平穏な日々U』  
 
「……まーゆー、まだかー?」  
うんざりしきってる。と、顔を見なくてもわかるくらいに、退屈そうな声が聞こえてきました。  
「あー、すいません。もうちょっとだけー」  
抗議の声を背中で聞き流して、店頭に所狭しと並べられた髪飾りたちとのにらめっこを続けます。  
これだとちょっと髪の色に合わないなあ。この花ピンのデザイン好みなんですけど。  
ウチの学校は結構校則がゆるいので、茶髪に染めてる子も多いのですが。  
……やっぱり、染めるのは卒業してからにしようと思います。我ながら固いというか、古い考えだなあとは思うのですが。  
春に卒業された彩先輩みたいな、ああいうのを緑の黒髪というのでしょうか。  
真っ黒な絹糸の滝みたいな、さらっさらのストレートヘアに、憧れがあるのです。  
……最も、わたしの背丈で腰まで伸ばすと、毛玉のお化けみたいになるので無理なのですが。  
今の、肩に付くくらいの髪の長さでも、座敷童子とか言われますし。  
彩先輩も、あれはだいぶ髪を梳いて軽くしてから、飾りピンを使ったり部分で結い上げたりして重く見せないように、  
工夫を凝らしておられましたしね。  
 
むう。今の髪型と色に合わせてブラウンとか黒系の色がいいんだけどなあ。  
ピンク系はちょっとかわいすぎる気がしますし。  
青とかグリーン系もクールな感じでカッコいいんですけどもー……。うーん、やっぱピンは保留。  
やっぱり、もう少しだけ髪伸ばそうかしら。アップにしてかんざしとか色々使ってみたいんですよねー。  
あー、この雫モチーフのかんざし綺麗だなあ。でもわたし、結い上げたら顔丸いの目立つしなあー、うーん……  
 
 
「まゆこ、まーゆこー」  
店頭に並べられた髪飾りを見ながら悩んでいると、肩を、ぽんぽん。と叩かれて振り向きます。  
「……あ、すいませんみいちゃん。もうちょっとだ、け……っ!?」  
「俺、これがいいなァ」  
……手に、下着のセットをぶら下げてみいちゃんが立っていました。  
「――なんですそれ」  
「いや、隣で売ってたンだよ。可愛いだろ、スケスケで。買ってやる。着ろ。で、今晩俺の部屋来い」  
「叩きますよっ!?」  
「……む。ピンクは気に入らねェのか。それじゃこっちの白でどうだ?」  
――全力で叩きました。  
慌てて売り物を元の場所に戻して、店員さんに頭を下げつつ、みいちゃんの腕を引っ張って急いでその場を去ります。  
うう。しばらく、あのお店行けませんよう、気に入ってたのにー。  
「なんだよ、俺買ってやるつもりだったのに」  
「言っときますけど、着ませんよッ!?」  
釘を刺しておかないと、勝手に買ってこられかねません。  
「……まったくもうっ。信じられません、なに考えてんですか、みいちゃんのおバカっ」  
「バカってなンだよ、失礼じゃねェ?」  
ぶちぶち文句を言いつつ足早に歩きます。  
 
「あーなーたーが! 妙なマネばっかりするからじゃないですかっ!」  
全く何の反省のカケラすらない一言に、思わず振り向きざまに怒鳴った拍子に、かく。とバランスを崩しかけました。  
「わ、ひゃっ!」  
「……っと!」  
幸い、さっきからみいちゃんの腕を掴みっぱなしだったおかげで、支えてもらう事ができ、転ばずにすみました。  
「あ、ありがとうございます……」  
「いーや。どういたしまして」  
しがみつく形になってしまったみいちゃんの腕を放します。  
「え、えっと。これから、どうします? みいちゃん、スニーカー見たいって言ってましたよね、靴屋さんは確か――」  
そういって、わたしが歩き出すと。  
「――オイ、まゆ」  
みいちゃんに、肩を掴まれました。  
「え? ど、どうしたんです?」  
へにゃっと、ごまかし笑いを浮かべながら聞くと。  
はーっと、溜め息を一つ吐かれて、「よいしょ」っと、問答無用で抱き上げられます。  
「って、うわあっ!? ちょっと、みいちゃん、何するんですっ!?」  
そのまま、スタスタと休憩ベンチの方に向かわれてしまいます。  
「……何するも何も。オマエ、足。どうしたよ?」  
そう言われました。  
う、バレてる……。  
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆   
 
「……あー、こりゃひでェな。真っ赤になってんじゃねェか」  
ベンチに座ったわたしの足を見て、みいちゃんが呟きました。  
「……ごめんなさい」  
うう。  
せっかくみいちゃんと、お買い物に行く。という事で、気合入れてオシャレをしたのはいいのですが。  
「とりあえず、もう履くなよ。コレ」  
足元に脱いでそろえられたミュールを指差して言われてしまいます。  
……おろしたてのとっておきのキラキラミュール。  
すごく可愛くて、特別のおでかけ用にと思って今までとっておいたのがアダになりました。  
最初のうちは、少し歩きづらいかなあ? くらいだったのですが、小指の付け根あたりがだんだん痛くなってきて。  
結局、水ぶくれ寸前。くらいの靴擦れになってしまいました。  
我慢していたつもりだったのですが、結局みいちゃんにはバレてしまっていたようで。  
休憩スペースのベンチに座らされ、靴を脱がされてしまいました。  
で、わたしの足の状態を確認してから、みいちゃんは、なんだか急に黙り込んでしまいました。  
……きっと、呆れてるんだろうなあ。  
「……あ、あのう、みいちゃ、」  
ん。とわたしがおずおずと声をかけるよりも早く。  
「まゆ。オマエちょっとここで待ってろ。さっき、1階に薬局あったろ。俺、ちょっと絆創膏買ってくるから」  
こくこくこく。と、そのまま何回も肯いてしまいます。  
スイマセン本当に。ごめんなさい。  
「いいか、動くんじゃねェぞ」とだけ言い残して早足で行ってしまいました。  
 
……はあ。  
駄目だなあ、わたし。みいちゃんに迷惑ばかりかけて。  
罪は無い。と解っていても、ついついミュールと自分の足に恨めしい視線を向けてしまいます。  
「……ふう」  
八つ当たりだなあ。とは自分でも思います。  
でも、せっかく。せっかく、その、みいちゃんとこういう関係になって初めてのお出かけって事は、  
要するにこれがあの、は、初デート。というヤツなので、可愛い所見せたいなーって、髪も服も靴も  
頑張ったつもりなのに、靴擦れなんかして、迷惑かけちゃって。  
――あ、駄目だ。  
鼻の奥が、きゅう。と熱くなってきます。  
我慢、しないと。帰ってきたときに泣いてる所なんて見たら、きっとみいちゃん、びっくりしちゃいます……。  
俯いて眼をしぱしぱさせて、涙を吹き飛ばしていると「ちょっと、ここ座っていいかなー?」と、  
横から声をかけられました。  
ちょっと驚いて顔を上げると、わたしより少し年上くらいに見える男の人が、にっこり笑って立っていました。  
「は、はあ。あの」へどもどと、とっさに返答できずにいる間に、ベンチの隣に座ってしまいました。  
「ねえ、どうしたの? 足。ケガ?」  
「え、あ、はい。靴擦れしちゃって……」  
なんだろう。ずいぶん人懐っこい人だなあ。  
「あー、痛そうだねえ。大変だ。良かったら、オレ、送っていこうか? なんだったらさあ、  
 こんな落ち着けないトコじゃなくて、どっか静かなところ行かない? オレ、いい店知ってんだよねー」  
 
え、いや、あのう。  
……何なんでしょう。初対面だっていうのに、いきなり。  
――ひょっとして。これは、いわゆるナンパ。というやつだったりするのでしょうか。  
い、いやいやっ。わたしなんかにそんな意味で声をかけてくる人がいるとは思えませんっ。  
ちょっと過剰に親切な人なんでしょう、きっとそうです。  
「い、いえ。申し訳ないんですけど、結構です。今、ちょっと連れが薬局に絆創膏を買いに行っているので……」  
「え、誰か一緒に来てるんだ? 友達? あ、それともカレシとか?」  
 
か。  
彼氏。って。  
ぼふ。なんて音を立てて火を噴いたのではないかと思うくらい、一気に顔が熱くなっていきます。  
「え、あ、あの。か、かかか、彼氏。って言いますか、あの、その、何ていうか――」  
「――スイマセンが。そいつァ、俺の連れなんでね。隣、退いちゃァくれませんかねェ?」  
いつのまにか、もうずいぶんと耳に馴染んだハスキーな声が頭上から降ってきます。  
 
「あー、カレシ帰ってきちゃったかー。残念ざんねんっ」  
そういって、早足で男の人は行ってしまいました。  
はふう。と、知らず知らずのうちに詰めていた息を吐き出します。  
ああ、緊張した。やっぱり、見知らぬ男の人はちょっと怖い気がしてしまいます。  
何故かずうっと無言のまま、わたしの手当てを終えると。  
「―――帰るぞ」  
おもいっきり不機嫌な声で言うと、ぐいっとわたしの腕を掴んで歩き出してしまいました。  
うう、やっぱり怒ってるんでしょうか。怒ってます、よね。  
上手く言葉を挟むタイミングを掴めないまま、デパートから出て、駅までの道を歩き出します。  
「……あの、ごめんなさい。みいちゃん……」  
泣かない。と決めたはずなのに、語尾がぐしゅりと鼻声になってしまいます。  
さっきまでむすりとしていたみいちゃんが、慌てて、  
「あ、あー、その、なんだ。……別にオマエが悪いワケじゃアねェから、怒っちゃいねェけどよ。  
 やっぱ、ちょっとの間離れてるだけで、あーいうのが寄ってくるのはマズイだろ、だから、その」  
「……変にはりきって、なれない靴なんて履いてきて、迷惑ばっかりかけてごめんなさい……!」  
見上げると、ものすごーく変な顔のみいちゃんがじいっとわたしを見下ろしてきます。  
「――とりあえずな、肯定しろよ。ああいう時は」  
……ほへ?  
むう、ひょっとしてなんか噛み合ってないのでしょうか、わたしたち。  
「足とかな、そういうのは割とどうでも良いンだよ、俺ァ。  
 俺がむかついてンのはな、あのナンパ男に対してだ」  
まだむすっとした調子で苦々しく吐き捨てるような口調で言われます。  
「オマエもな、ああいう時はちゃっと肯定しとけよ。   
 『彼氏っていうかー』じゃなくてなァ、オトコ待ってるからあっち行けって、はっきり言えよなァ」  
また、むすッとした顔でそっぽを向きます。  
――ひょっとして、ヤキモチ、なのでしょうか。コレって。  
思わず、くすくすと笑いが漏れてしまいます。  
……なんか、みいちゃんがかわいい。  
笑っていると、ぎろりと怖い顔で睨まれます。  
 
「……笑うなよ。言っとくがなァ、俺ァかなり嫉妬心強いほうだぞ?」  
「はあい。……でも、多分ナンパとかそんなんじゃなかったと思いますよー?   
 だって、わたし。今まで一度もそんな声かけられる事ってありませんでしたし」  
たぶん、靴擦れしてたのが見えたんじゃないでしょうか、ちょっぴり過剰に親切な人だったんだと思うんですけど。  
わたしがそう言うと、みいちゃんは大きく溜め息をつきました。  
「……自覚ゼロか。こういう自覚無い無防備なのが一番危ねェんだよなァ。まったく……」  
どういう意味です。と反論しかけた所をぎろりと睨まれます。  
「つーかな、真由子。俺らヤル事やって、しかもこうやってデートになんぞ来てンだからな、  
 彼氏かどうか聞かれたくらいで、あんなにオタオタすンなよなァ。  
 それとも何かァ?俺が恋人って他人に言うのがそんなに不満か?」  
「そ、そんな、そんな事ないですっ! た、ただちょっと恥ずかしかっただけで……」  
うう、みいちゃんが意地悪です。そんなに怒る事ないのにいー。  
ぐいぐいとわたしの手を引いて歩いていたみいちゃんが、急に立ち止まってしまいました。  
勢い余って、背中に顔をぼふっと、ぶつけてしまいます。  
「み、みいちゃん? どしたんです……?」  
――あれえ? なんか、よく見たらいつのまにか裏通りに来ちゃってるような――?  
……なんというか、妙にけばけばしい看板や壁の建物だらけです。何とも言えず不安になって、  
すぐ横の建物の入り口をよく見ると、『ご休憩:3時間5千円より』などと書いています。  
「……えっと? み、みいちゃん?」  
恐る恐る顔を見上げると。  
「……とりあえずな。オマエがそんなに彼氏彼女の自信が無いンなら、自信が付くようにしてやろう。  
 俺って親切だよなァ、なあ、真由子?」  
――あくまが、そこにいました。  
「い、いやあっ! 昼間から、こういう所はいやあ――っ!」  
「うるせー騒ぐなアホまゆこ。綺麗な部屋探してやるから喚くな。……楽しまなきゃ、損だぜェ?」  
なんでそういう勝手な事ばっかり言うかな、この人は――っ!  
 
ドナドナよろしく引きずられて、ラブホテルの部屋に連れ込まれてしまいます。  
…………うう。  
いくら前に身体を重ねた事があるとはいえ、初デートでこんな所に連れ込もうって人と付き合ってて、  
ホントにいいのでしょうか、わたし…………。  
 

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