「俺ってさ、かっこいいのか?」  
「えっ?」  
何の脈絡も無しに突然聞いてきたのは私の幼馴染みである加勢隆太郎。  
そしてそれに対して動揺して立ち止まっているのが私、朝日瞳だ  
「なあ俺ってかっこいい?」  
私が立ち止まっているのに気付き振り向くながらもう一度同じ質問を繰り返してくる。  
「な、何言ってんのよ。あんたなんかがかっこいいわけないじゃない」  
早歩きで隆太郎に追い付きながらそう答える。  
「やっぱり。俺もそう思うんだよ。」  
そう言っていつもの笑顔を見せ、一人で納得して黙りこくってしまった  
「ちょっ、ちょっと結局何なのよその質問。」  
質問の意図が分からず、少し苛ついてしまう、それにちょっと嫌な予感がした  
「いや、ちょっとな。」  
そう言って言葉を濁す  
「ちょっとって何なのよ、気になるじゃない。ちゃんと言いなさいよ。」  
「んー、でもなあ。まあ瞳ならいいか。これは誰にも言うなよ。実はさ今日学校でラブレターをもらったんだよ。」  
「えっ?」  
その瞬間私の思考が停止する。  
 
 
「おい、瞳?大丈夫か?急に涙流したりして、なあ大丈夫か?」  
オロオロする隆太郎。それを見て、少し平静を取り戻した私は慌てて涙を拭う  
「な、何でも無いわよ。ちょっと目にゴミが入っただけよ」  
「こすっただけでゴミ取れるか?何だったら目薬貸すぞ?」  
「大丈夫って言ってるでしょ。それよりそのラブレターって誰からよ。」  
「ん?確か五組の黒川さんって人からだったと思う。」  
黒川さんって言えば、一年のころ同じクラスで仲良かったからよく知ってる。スタイル抜群で、性格も良くて誰に対しても分け隔てなく接する良い子だった。  
それに私なんかとは比べ物にならないほど綺麗で整った顔立ちの子だった。  
「それであんたはどうすんのよ、黒川さんと付き合うの?」  
恐る恐る核心に近付く  
「いやその子とは初対面だったんだよ。だからもしかしたらドッキリかもって思ってさ。」  
それで自分の顔がかっこいいか聞いてきたって訳ね。こいつらしいわ、本当に。やっぱりちょっとズレてるわね。  
 
「瞳は確か黒川さんと一年のころ同じクラスだったよな?外見は見れば分かるんだけど内面は分からないじゃん、それで黒川さんってどんな人だった?」  
黒川さんは冗談で告白するような人じゃない、きっと本気なんだろう。ここで私がそのことを言えばきっと隆太郎は黒川さんと付き合ってしまうだろう  
隆太郎とは子供の頃からずっと一緒で、その頃からこいつの隣は決まって私、それは高校二年生になった今でも変わってしない。今更誰かに譲れるわけない  
「黒川さんって見た目はああだけど本当はすっごい性格悪いの。裏では男女問わずみんなの悪口言ってるのよ、知ってた?」  
「知らなかった、全然そんな風には見えなかったよ。見た目はあんなに綺麗なのに性格はそんなに悪いのかよ。」  
隆太郎の顔は本当に驚いているようだった。  
ごめんね、黒川さん。他のものは譲れてもこいつの、隆太郎の隣だけは絶対譲れない。  
「でも黒川さんってめちゃくちゃ性格悪いんだな。」  
 
ちょうど私の家に着いたとき、ふいに隆太郎がそう呟くのが聞こえた。  
「どうして?」  
私は家の前で立ち止まってそう聞き返した  
隆太郎もそれに気付いて家の前で立ち止まる  
「だってさ、俺と瞳って付き合い長いけど、瞳が人の悪口言うの初めて聞いたもん。それに瞳はどんなに嫌われてる奴でも良いところを見付けてたじゃん。そういうところ俺、好きなんだぜ。それじゃあ、また明日な。」  
「えっ?」  
そう言って隣にある自分の家に入って行く隆太郎。私はそれを本日三度目の間抜けな声でしか見送ることが出来なかった。  
「おかえりなさい。あら、まあまあまた隆くんと何かあったの?」  
家に帰るとお母さんがいつものように出迎えてきた。  
「何にもないわよ」  
「嘘。だって瞳ちゃん顔真っ赤よ。」  
えっ?私は慌てて顔を触る。熱い。  
「やっぱり何かあったのね。何があったの?お母さんが相談に乗ったげるわよ。」  
「もうお母さんには関係ないでしょ、ほっといてよ」  
私はお母さんを振りきって二階の自分の部屋に入る。そのままベッドに倒れこみ隆太郎の言葉を思い出す。  
好き。隆太郎はLIKEの意味で使ったのだろうけど、それでもやっぱり幼馴染みから好きって言われるのは嬉しい。  
 
 
でも素直には喜べない。それは私があいつに嘘をついたから、ただ隣を譲りたくなかった私のわがままからの嘘。  
本当のことを言ったほうがいいのか、でもそれだと…ん〜って、そもそも何で私があいつへの告白でいちいち悩まなくちゃいけないの、隆太郎のくせに生意気よ。でも私はそんなあいつのこと…  
 
 
 
 
「瞳、ご飯よ〜。」  
ん、どうやら私は眠ってしまっていたみたい。  
「は〜い、今行く。」  
返事をして下に降りていく。結局答えは出なかった。  
「いただきます。」  
どうやら他の家族はみんな食べ終わっいたみたい、私一人の夕食。と、そこに母親が目の前に座ってくる。それもニヤニヤした顔で  
「何?」  
痺を切らした私が先に沈黙を破る。  
「別にィ〜。」  
明らかに何かあるのに持ったいぶっている態度。どう考えても精神年齢は私より低いだろう。  
「そう。」  
ここはわざとそっけなくするのが母親との長年の付き合いでわかったこと。  
「そんなにそっけなくしないで、もっと聞いてよ〜、瞳ちゃん。」  
そう言いながら私の隣に移動してくる。移動してくる姿はどっちが子供かわからない。  
「はいはい、何かあったんですかお母さん。」  
待ってましたとばかりに話始める。  
 
「実はね、さっき隆くんのお母さんから電話があって知ったんだけど隆くん、告白されたらしいのよ。」  
「そうなんだ。」  
おばさんのことだ、きっといつもと様子の違う隆太郎に気付いて問いただしたに違いない。  
「あれ?慌てないの?」  
予想と違う私のリアクションに、少々ガッガリしているようにも見える母の顔。  
「当たり前でしょ、何であいつが告白された程度で、私が慌てないといけないのよ。」  
「ふ〜ん、それでね隆くん、その子と付き合うらしいのよ」  
「う、嘘、一緒に帰ったときはそんなこと一言も言って無かっ」  
はめられた。案の定、母親の顔は最初のニヤニヤ顔に戻っていた。  
「あれ〜?隆くんのことじゃ慌てないんじゃなかったのぉ?」  
相手の神経を逆撫でするような言い方。私は少し苛立ちながら無言でご飯をかきこみ続ける。  
すると今度は急に真剣な顔になったと思うと、  
「まあ、さっきの告白を受けるって言うのは嘘なんだけどね。それはそうと瞳、あんた隆くんが告白されてたこと知ってたわよね?」  
「う、うん。」  
普段とは違う雰囲気に圧倒されて思わず頷いてしまう。  
「あんた隆くんが他の人と付き合ってもいいの?」  
「あいつが誰と付き合おうと私には関係ないもん。」  
母さんは溜め息を一つつきながら、  
「瞳、少しは自分の気持ちに素直になりなさい。あんた隆くんから告白されたとき、どう思った?」  
「別に。なんとも思わなかったわよ。」  
「嘘つきなさい、あんたが嘘ついてもママにはちゃんと、わかるんですからね。」  
「お母さんなんかにそんなことわかるわけないじゃん。第一、これはあいつの問題で私には全く関係ないの!」  
だんだんと興奮してくるのが自分でもわかる、なに熱くなってんだろ、私。隆太郎のことなんかで。  
 
「やっぱり気付いてないのね、あんた、嘘つくとき必ず耳たぶを触るクセがあるのよ、知ってた?」  
嘘、と言いかけたがいつのまにか私の手が耳たぶを触っていることに気付きその言葉を飲み込んだ。  
そして母さんは今度は優しい顔になって諭すそうに言葉を続けてきた。  
「いい、瞳。ここで自分に正直にならないと、一生あなたはこのことで後悔することになるわよ、それはちゃんと覚えておきなさい。」  
「……」  
「瞳、返事は?」  
「…はい。」  
ご飯を食べ終え、流しに食器を置く。  
「あっ、洗い物はお母さんがやっとくから。先、お風呂入っちゃってて。」  
そう言ったお母さんの顔は、また元の無邪気な子供の顔に戻っていた。  
「うん。じゃあ、先入るね。」  
私の頭の中は、ぐちゃぐちゃだった。お風呂で体を洗いながら、髪を洗いながらもずっと考えていた。  
私はあいつのこと本当は、どう思ってるのか、そして隆太郎は私のこと、どう思ってるんだろうか。  
――ザアァ  
真っ正面からシャワーを浴びる。水圧が強くて顔が少し痛い。  
「うぅ、私、わたしどうしたらいいの?隆太郎の隣も離れたくないし、嘘ついたままも、嫌。ねぇ!私どうしたらいいの?」  
 
――ザアァ  
その瞬間、溜め込んでいたものが溢れ出すのがわかった。  
 
 
 
 
「お風呂、空いたから。」  
母親にそう告げ、二階に上がろうとする。  
「泣いて少しはすっきりした?」  
「うそ、声漏れてた?」  
驚いて、振り返る。  
「その顔見ればわかるわよ、でもやっと答えが出たみたいね。」  
「うん。」  
「じゃあ幸運を祈ってるわね。」  
「うん、ありがと、お母さん。じゃあ、おやすみ。」  
そう言って二階に上がり部屋に入る。そして私は携帯を取り隆太郎にメールを送る。  
――コンコン  
しばらくして窓を叩く音がした。来たみたいだ。深呼吸を一回して窓を開ける。  
「ごめんね、こんな遅くに。」  
「ん?いーってそんぐらい、気にしないって。それより話って何だ?」  
時刻が時刻だけに早めに用件を聞きたいらしい。ここまで来たら後戻りはできない、さあ言うのよ、私。言いなさい。  
「うん。あのね黒川さんのことなんだけど。」  
「黒川さんがどうかしたのか?」  
「黒川さんがすっごい嫌な人って言ったけどね、本当はすっごい良い子で性格も優しい子なの。それでね、それでね、私、隆太郎の隣を譲りたくなかった、だからそんな。嘘ついちゃったんだ、ごめんね、本当にごめん。」  
 
言葉を入れられないように一気に喋った。でもこれでいい。隆太郎に嫌われても本当のことだけは伝えたかったから。  
「なんだそんなことかよ。話があるって言うからドキドキしてたのに。」  
「えっ、えっ?どういうこと?」  
予想外の隆太郎の返答に気が動転してしまう。  
「だから、黒川さんのことが嘘っていうのは、最初っからわかってたってこと。」  
「何でそんなことわかるのよ、あんた黒川さんとは会話したことないんでしょ。」  
「俺が十何年お前と付き合ってると思ってるんだよ。瞳が嘘つくときの癖ぐらい知ってるって。」  
「じゃあ黒川さんの話が嘘って知っててあんたは…」  
だんだんと怒りが込み上げてくる。私の苦しみは何だったの?  
「あの〜瞳?その黙ってたのは悪かったけど―「うるさいっ!」」  
「最低、私がどれだけ悩んだか知ってるの?もうあんたなんて知らない、黒川さんと付き合っちゃえばいいのよ!この馬鹿、アホ、早く出てってもうあんたの顔なんて見たくない。出てって、出てってよ!」  
隆太郎を部屋から追い出し、枕に顔を押し付ける。さっき涙を流し切ったと思ったのに、涙は止めどなく溢れてきた。  
 
 
――ピピピピピ  
機械音が頭に響いてくる。  
泣き疲れて寝てしまったらしい。我ながら情けない。  
しかし習慣とは恐ろしいもので精神は疲弊しきっているのに、体は無意識の内に学校の準備を始めている。  
でも学校に行く途中も、着いてからも、そして授業中も周りの声は全く頭に入ってこなかった。  
途中、友達も心配して話しかけてきてくれたようだが、頭に入って来ず、気のない返事しか返すことはできなかった。  
そして気が付いたら放課後になっていた。帰ろう、そう思い靴箱で靴を履き変えていると男子の話し声が聞こえてきた。  
「ぉいっ聞いたか?……さんの告白。まさか加勢に……とは信じられないだろ、加勢のくせに。」  
ふいに聞こえてきたのは隆太郎の話題。どうやら黒川さんの告白の話のようだ、よく聞き取れはしなかったがおそらく二人は付き合うことになったのだろう。おめでとう、加勢と黒川さんなら末永く付き合っていけるだろう。  
私はそう思いながら、フラフラと家路に着くのだった。  
 
 
 
家に着いて最初に母親が何か言ってきた、しかしそれすらも頭に入って来ず、そのまま自分の部屋に入る。昨日と同じようにベッドに倒れ込む。心の底から絞り込むように呟く。  
「隆太郎…。」  
 
 
何時間経ったのだろうか。いつの間にか外は真っ暗になっていた。  
何もする気になれない、私はこれからどうするのだろう。私は並んで歩く隆太郎と黒川さんを見て笑って祝福できるだろうか、たぶん今はとてもじゃないけどできない。もしかしたら一生できないかもしれない。  
――コンコン  
えっ?  
ガバッと、身体を起こす。  
嘘、だよね。ただの空耳と思い込もうとするのにダメ押しのようにもう一度窓が叩かれる音がする。  
急いでカーテンと窓を開ける。  
「よっ、元気か?」  
そこには捨てられた子犬のようにブルブルと震えた隆太郎だった。「ちょっ、あんたいつからそこにいるのよ、早く部屋に入りなさいよ。」  
「おう、悪いな。じゃ、上がらせてもらうわ」  
隆太郎を部屋に入れ、窓を閉める。外は吐く息が白いほど冷えていた。  
「ごめん、隆太郎。今、何かあったかい物持ってくるから。」  
こんなに寒い中にいて風邪でも引かれた、私のせいみたいじゃない。  
「動くな!」  
後ろに振り返ろうとすると、突然隆太郎に命令される。  
「何?突然どうかしたの?」  
「瞳の顔見るとちゃんと言えないかもしれないから、そのままの格好で聞いてくれ。」  
 
「う、うん。」  
いつもなら反論するところだが、いつもとは違う真剣な隆太郎の口調に圧倒される。  
隆太郎の深呼吸する音が聞こえる。  
「瞳。俺、瞳のこと好きだ。ずっと俺の隣にいて欲しい。俺の隣はお前しかいない。」  
目の前が真っ白になる。心臓も呼吸もありえないぐらい早くなってきている。でも、  
「何言ってんのよ、あんたは黒川さんと付き合うことになったんじゃないの。」  
そう。隆太郎は黒川さんと付き合うことになったはずなのに。  
「黒川さんからの告白は断った。」  
「嘘。だって黒川さんは性格も良いし、スタイルだっていいし、文句のつけようがないくらい美人なのに。もしかしてまた私をからかってるの?」  
「からかってなんかいない、俺は真剣だよ。黒川さんは確かに美人かもしれない、でも俺はお前が好きなんだ。」  
「私なんか黒川さんみたいにスタイルも良くないし、顔だって普通だし。私なんか全然ダメきゃっ」  
突然後ろから抱き締められる。  
「それでも、それでも俺はお前が好きだ。」  
突然の隆太郎の行動に私の中で塞き止められていたものが溢れてくる。  
 
「ぐすっ、私なん、か嫉妬深くてひっく、隆太郎に、も素直になれないのに、そんな、そん、な私なんかで、も、ぐすっ、好きって言っ、てくれるの?」  
泣きながら隆太郎に本音をぶつける。  
「あぁ、好きだ。側にいてほしい。瞳はどうなんだ?俺のこと、好きか?」  
最後の部分は明らかに語気が弱い。きっと隆太郎も不安なんだろう。でも私の答えは決まってる。涙を拭き、隆太郎の方に振り返る。  
 
 
 
 
 
 
 
 
「―――俺のこと、好きか?」  
今までの会話からフラレる可能性は高い。でもこれを言わなきゃ一生後悔するし、黒川さんにも悪い。瞳がゆっくりと振り返ってくる。一瞬のはずなのにすごくゆっくりに見える、心臓は限界を越えて脈打っている。  
「やっぱり無理だよな、お前のことむぐっ」  
言葉を何かで遮られた。いや、その何かというのはわかってる。瞳の口唇だ。  
「プハァッ、お前いきなり何してんだよ。」  
やっと口唇同士が離れる。おそらく俺の顔は真っ赤だろう。  
「う、うるさい、これが私の返事なの!」  
なんだよそれ、ていうか瞳も顔真っ赤だし。  
「あのできれば、口で返事をしてもらいたいんだが。」  
告白の返事がキスとは、いくらなんでも大胆すぎるぞ。  
 
「何言ってんのよ、ちゃんと口で返事したじゃないのよ。文句ある?」  
なんかヤケクソみたいだけど、瞳は瞳なりに素直になった結果なんだろう。  
「わかった。じゃあ今から俺と瞳は恋人同士だ。」  
「ま、まあ、そういうことになるわね。」  
「じゃあ、その今度はいきなりじゃなくてお互い同意の上で、したいんだけど。」  
とりあえずちゃんとキスはしときたい。  
「何言ってんのよ、私たち今付き合い始めたばかりなのよ、そんないきなり、し、したいとか言われても困るし。」  
「頼む。俺が好きならさせてくれ。」  
ずるい言葉だけど、こう言わなきゃきっと瞳はキスさせてくれないだろう。  
「……わかった。でも、恥ずかしいから、ちょっと目瞑ってて。」  
「マジで?わかった、しばらく目瞑っとく。」  
ヤバい、緊張してきた。落ち着け俺。ここで失敗すれば末代までの恥だ。落ち着け。精神統一しろ。明鏡止水の心だ。よし、だいぶ落ち着いてきた。  
「もう、いいよ。」  
ゆっくり目を開ける。そこには目を閉じて口唇をちょっと突きだして待ってるぅ―ってそこには明鏡止水の心を一瞬で破壊する光景が広がっていた。  
「ヒトミサン、ヒトミサン、アナタハナゼシタギスガタナノデスカ?」  

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