僕は上嶋浩介。僕には仲の良い幼馴染みがいる。中野綾香って言うんだ。
お互いとも両親が共働きで昔からよく遊んでいた。何時のころからだろう。彼女のことを好きだと気付いたのは。
しかしなんと言ったらいいのか・・・彼女はとても傍若無人と言うか我が儘と言うか。
とにかく昔から彼女には振り回されるのが常である。
例えば今日も。
せっかく土曜だというのに嵐のようにやって来た彼女にたたき起こされた。
「突撃隣の朝ごはーん。」「すみません、うちは朝御飯は作らないんですよぉ。」
「じゃあ、作ろうか?」
ビックリして思わず、
「綾香が?」
って聞き返したら
「いや、浩介が。」
不当なしかし彼女の前では当たり前な返答が帰ってきた。
「・・・・帰ってください。」
「いいよ?朝御飯食べたらね?」
「・・・分かったよ。作りましょう。」結局口で勝てる訳がなく結局作るはめになった。惚れた弱味もあるけど。
たまにならまだしも、最近は土日になると我が物顔で上がり込んでくるのには少々手を焼いている。
少し遅め(と言っても9時だが。)の朝食を終えると綾香はこれまた我が物顔でテレビをみながらコタツで蜜柑を食べていた。今食ったばっかりだろぅ・・・。
まぁいいさ。どうせ言ってもきかないし。
僕もコタツに入ったら綾香がお茶を持ってきて、と催促した。
いや、茶ならならそこに・・・はぁ紅茶ですか。そうですか。
しばらく、コタツでボケーッとしてたら、綾香が
「ねぇ、浩介は彼女いないの?」
「はぁ?なに言ってるのさ。小中高と一緒で彼女いたことあった?だいいち、いたら今ここにいないよ。」「・・・そっか。ほしくないの?彼女。」
「う〜ん今はほしくない・・・わけあるか。めっちゃほしい。」
「そう。好きな人はいないの?」
「いるにはいるけどさ。」「ふ〜ん。見込みはありそうなの?」
「全然。」
「ふ〜ん。」
それっきり綾香は黙りこんでしまった。気まずいったらない。
「綾香は?」
「何が?」
「好きな人。いないの?」「いるけど、振られたも同じよ。」
「綾香を振るなんて大した奴だな。」
「しょうがないのよ。好きな人がいるんだって言ってたわ。」
「そっか・・・」
今度はこっちが黙りこむはめになった。
それから会話のないまま30分位過ぎたころ綾香が一旦帰るといって出ていった。その日はそれっきり、綾香は家には来なかった。
おかげで綾香が帰ったあと綾香の事ばかり反芻してしまって、その日は一日微妙な気分で過ごさなくてはならなかった。
次の日綾香が普段はしない化粧(リップぐらいは付けてるだろうけど)をしてやってきた。
「おはよう。出かけるから準備しなさい。」
「・・・まだ眠いんだけど。」
「いいから早く着替えてきなさい。五分よ。五分で来なかったら死刑ね。」
「解ったよ。」
渋々従う。だが内心ちょっと嬉しかった。綾香が僕を誘うことなんて滅多にない。だけど出掛けるなら電話くらいしてくれよ。
五分で着替えて綾香が向かったのはショッピングモールだった。中には映画館も入っている。
綾香はなぜか不機嫌そうで何が原因なのかは知らないがとにかく理由が気になった。
ショッピングモールを不機嫌そう一言も喋らずに徘徊したあと中にあるファミレスで昼食をとることになった。
気まず沈黙を打ち破ったのは綾子だった。
「昨日いってた好きな人って誰なの?教えなさいよ。」
「えっ、それはちょっと勘弁。」
「いいから言いなさい。私が知ってる人ならうまく行くようにしてあげるわ。」綾香はつまらなそうにそう言った。
「いくら綾香でも(寧ろ綾香だから)言えないよ。その人との関係が崩れるのは嫌だし・・・。」
「いいから言いなさいって言ってるのよ!人の気も知らないで。」
いきなり綾香が声をあらげた。
「ムリだよ綾香。」
「そう。どうせ私は浩介にとってみればとるに足らないような幼馴染みでしかないし、信用も出来ないってわけ?どうせとるに足らない幼馴染みよ。信用できない人間よ。悪かったわね!」
支離滅裂だ。めちゃくちゃだ。何をそんなに怒っているんだかさっぱりだ。
「そんなこと言ってない。大事な幼馴染みにそんなこと言わないよ。いいから少し落ち着きなよ。」
「・・・っく」
怒っていると思ったら泣いていた。
全く想定外だ。何で泣いてるんだ。
「ちょっと綾香。どうしたんだよ。今日ちょっと情緒不安定だぞ。」
「悪かったわね!情緒不安定よ。ヒステリックよ!」駄目だ。ヒネクレモードだ。しかし放っておくわけにはいかないので努めて冷静に
「ヒステリックなんて言ってないだろ?綾香を信用できないわけでもないよ。教えるから泣き止んでよ。綾香は笑ってる方が似合うよ。」
すると落ち着いたのか、コクンと頷くと
「ごめんなさい。少し取り乱しちゃった。」
「良いよ。それより料理来たよ。食べて気分を落ち着かせよう?食べ終わったら話すからさ。」
「ごめんね。浩介。」
それから綾香は少しはにかみながらゆっくりと料理を食べていった。
レストランをでていつもより少しゆっくりと帰り道を歩く。
綾香には途中の公園ではなすよ、と言ったのでこっちも覚悟を決めなければ。
何でこんな事になったのやら。今から緊張して心臓だけ月に飛んでいってしまいそうだった。
公園についてベンチに座り僕はゆっくりと話始めた。「綾香。僕の好きな人はね、我が儘で唯我独尊を地で行くような人で、でもそれをカバーしてしまえるほど可愛くて優しいそんな人だよ。」
「ふ〜ん。その人の本当に好きなのね。」
綾香はうつ向いたままといった。
「うん。好きだよ。」
「そうなんだ。・・・それで?誰なのよ。」
「ここまで来てなんだけどやっぱり言わなきゃ駄目かな?」
「言いなさい。言われたらこっちも諦めがつくわ。」「諦め?」
「こっちの話よ。いいから教えて。」
僕の心臓の鼓動はレッドゾーンに突入したようだ。バクバクいっている。それを誤魔化すかのように大きく息を吐くと僕は目の前の大切な人にその名前を告げた。
彼女の名前を。
彼女は最初頭に?マークを浮かべていたが、理解したとたんまたポロポロ泣き出した。
そうだった。綾香は泣き虫だったんだ。いつも強がっていたんだ。僕は愛しいその人を胸に抱き寄せると綾香は少し声を出して泣いた。
綾香は泣きながら返事をしてくれた。もちろんOKだった。
「ずっと、ずっと昔から好きだったよ。綾香。でも怖くて言い出せなかった。あの関係が崩れたらと思うと怖くて怖くてしょうがなかった。ごめんよ。」
「私もずっと昔から好きよ。でも私なんか興味ないんだと思ってた。お化粧しても、お洒落してみても浩介は怖いぐらいにいつもの浩介で、きっと嫌われてるんじゃないかと思ってた。面倒臭い奴だと思われてると思ってた。」
その時、彼女がどうして毎週毎週土日に家に来ていたのも僕に我が儘を言うのもなんとなく分かった気がした。
きっと不安だったんだ。
僕もそうだったように、互いの関係が薄れてしまうことに。自分勝手な解釈だけどきっとそうなんだろう。そうしたらなんだろう。優しい気持が関を切ったように溢れてきて、綾香が愛しくて堪らなくなった。
自然と互いの顔が近付きキスを交した。
唇が触れるだけの軽いキスだけど。爪の先まで痺れるような情熱と衝撃そして快感だった。綾香のことをキスしながらギュッと抱き締めた。誰にも渡したくない。僕の僕だけの綾香。もう、はなさない。
急に綾香が身じろぎ始めた。
「んーんー!」
唇をはなすと後ろに母さんが立っていた。
「浩介。アンタとうとうやったわね。」
「うわっ何でこんな時間にいるんだよ?」
「今日は午後休。まっ浩介もほどほどにしなさいよ。」
速攻親ばれって・・・
結局両方の親にもこの事は知れわたり、この後暫くこのことをネタに恥ずかしい思いを味わうこととなってしまった。