本当は事故に遭う事より、遥かになんでもないはずの答なのに、ただ俺が嫌われるだけなのに。  
 
俺はそれを最悪の答としてしまう。  
 
だが、多分いやほぼ絶対、昨日のことが理由だ。  
則ち彼女は悩んでいた。  
そして悩みの相談相手に俺を選んだ。  
でいざ相談しようとしても、内容は彼女には言いにくいものだったんだろう。  
なのに頑張って言ってくれた。  
最初の一言から察するに恋愛関係の事だと思う。  
が俺が逃げた。  
 
本当に葵のことが大事なら話を聞いてやるべきだ。そして、そこからしかるべき答を出してあげるか一緒に悩むものだ。  
 
でも俺は逃げた。  
 
こちらの言葉に慌てようと、待ってやるべきだろう。  
だけど、その相談を聞きたくない俺は、その隙を使って茶化した。  
茶化し続けて、言い出す暇も無くさせ追い帰した。  
本当に最悪な男だ。  
 
そして悩みの持って行き口がなくなってしまった。葵は今もどこかで悩んでいるのだろう。  
探しに行くべきだと思う。でも行けない。  
探しに行っても見つけられないかもしれない。  
もし見つけられても、また葵を傷つけるかもしれない。  
 
それに葵はもう俺に会いたくないかもしれない。俺は行けない・・・  
 
逃げだと言われたらそれまでだけど。  
 
 
そのまま逃げて一日を終えようとしたときだ。  
葵の家の叔父さんから、電話がかかって来たのは。  
 
「はい、もしもし。岩松ですが」  
電話を取ると切迫した感じの葵のお父さんの声がした。  
「あ〜寮太君かい?安井だ」  
「はい、寮太です。叔父さんどうしました?」  
俺はイヤな予感を覚えた。  
「葵がそちらにお邪魔してないか?まだ帰ってこないんだが。」  
「え?まだ帰って来てないんですか?うちには来てないです。」  
「そうか、ありがとう。夜分失礼したね。」  
俺の責任だ。100%間違いなく。俺が探して見つけなくちゃ行けない。そんな自己満足な衝動に駆られた俺はこんな事を言っていた。  
「おじさん、僕も探します。いや捜させてください。」  
「しかしもう遅いし、「お願いします。」わかった。頼んだよ。」  
無理矢理許しをもらった。  
でもまだ帰ってないなんて。  
何も起きていない事を祈る。  
何も起きていなければ、いる所の見当はついている。  
よし行こう。  
俺はコートを羽織り全速力で走った。  
まず学校・・・  
 
いないな、次は葵と俺が昔よく行った、公園。  
 
いない。  
胸が痛くなってきた。  
大丈夫、たいしたことない。  
そう体に言い聞かせ、葵がいるところを探す。  
 
走りながら考える。今の葵が行きたいところ。悩んでる子が行きたいところ。  
 
神頼み?  
 
神って事は神社?  
うちの町内には八幡宮というそれなりに大きな神社がある。そこで遊んだりした記憶もある。  
多分そこだ。  
 
胸が痛い、体が休めと伝えてくる。  
今にもへたりこみそうになる。  
頑張れ、俺の体、葵さえ見つけれれば倒れてもいいから。  
 
よし、行こう。  
 
ここから神社は結構ある。全速力で15分はかかるだろう。この胸の痛みがある中でそんな事をしたらどうなるかわからない。  
 
でも早く行かなければいけないという一念が俺を動かす。  
早く行って葵に会って謝らなきゃ。そして相談でもなんでも受けてやろう。それが男だ。それがするべき事だ。  
そう考えて、俺は更に早く走った。  
 
心臓が痛い、肺が痛い。全身が休めと伝えてくる。でもこれは俺への罰だ。  
そう考えてシカトする。  
 
やっと八幡についた。  
葵は?  
 
いた。  
 
こっちを見て驚いている。苦労かけさせやがって。  
息を吸い込み大声を出した。  
「葵〜、こっち来いよ〜。もう見つけてんだ、逃がさねぇぞ〜。」  
「今そっち行くよ。」  
葵が小走りでこっちに来る。  
「寮君ごめんなさい。」  
いきなり葵が謝ってきたことに戸惑いを覚えつつ問い返す。  
「なんで葵が謝るんだ?」  
「だって。学校サボっちゃったし、夜遅くまで帰らなかったし。今も寮君にこんなに迷惑かけちゃったし。それにねぇ遼君大丈夫?」  
「そんなことなら大丈夫だよ。学校なんてサボるためにあるんだし、俺に迷惑なんていくらかけてもいーの。そもそも今回は俺が主原因みたいなものなんだから。俺は全く問題ないぞ。」  
最後の問いには虚勢を張った。  
「な、なんで遼君のせいなの?」  
「ほら、なんか昨日俺に相談しようとしただろ。でも俺が茶化して言わせなかった。だからこんな事したんだろ。  
本当にごめん。」  
俺は言いたい事、そしてするべき事をすることができた。  
 
「なんで遼君が謝るの?  
私が悪いのに?  
勝手に遼君に告白しようとして。  
遼君に好きな人いる?  
って聞いて、それに予想外の答が帰ってきたから、勝手に慌てて、揚句の果てに逃げただけなのに?  
ねぇ、なんで?  
悪いのは私なのに?」  
 
俺は葵の言い出した一文に気を取られてほかの部分を全く聞いてなかった。  
頭の中が真っ白になった俺が出せたのは  
「あ、葵が、俺の事好きって本当?信じてもいいの?」  
こんな答だった。  
葵もそれを聞かれてから初めて気付いたらしく、一気に顔を赤くしていった。  
 
 
「本当だよ。信じていいんだよ。」  
そして聞かされたのはこの一言だった。  
 
本当に本能的に、葵を抱きしめてしまった。  
葵の体はとっても暖かくて小さかった、あと言うべき事はただ一言だ。  
今なら言える。  
 
「俺も・・・葵の事が大好きだ!」  
 
言えた。  
 
「ねぇ、キスしようか?」  
葵はおずおずとそんな事を口にして目を閉じた。  
そして俺は葵の柔かそうな唇に自分の唇を重ねた。  
 
 
 
私は今神社にいる。  
うちの町内ではかなり有名な八幡宮という神社だ。  
今日学校をサボった。  
 
昨日、遼君と夕食を一緒に食べた。  
それ自体はたいした事じゃない。  
よく遼君とは一緒に夜ご飯を食べている。  
ただその時にあることが起きた。  
 
私は遼君の事が好きだった。  
だから私は今の微妙な関係が嫌だった。  
もっと遼君に特別にしてほしく、優しくしてほしかった。  
 
そのために、  
この微妙な距離を近づけるために、  
私は告白しようとした。  
でもその度胸は私にはなかった。  
だから遠回しに聞いた。好きな人がいるかと。  
そして彼は躊躇してこう答えた。  
いる、と。  
 
私は戸惑った。  
好きな人がいるかと聞いておきながら、いると返ってくる状況を考えていなかった。  
 
いるわけがないとタカをくくっていたのだ。  
片手落ちもいいところだった。  
だから醜く慌てた。  
その後、私は家に逃げ帰った。  
遼君から見たらただの変な奴だろう。  
そのことにも落ち込む。  
 
その後も私は悩んだ。  
明日どんな顔をして、どんな話を彼とするべきか。  
 
もうこの想いは諦めていた。  
好きな人がいる彼の心には入って行けない。  
そんなことは私には出来ない。  
 
そしてそのまま私は学校をサボった。  
さらにこんな時間になっても家に帰らないでいる。  
本当に遼君に迷惑かけて、お父さんに心配かけて、私何やってるんだろ。  
そんな事を考えていたときだった。  
 
こっちに駆けてくる遼君が見えた。  
「葵〜、こっち来いよ〜。もう見つけてんだ、逃がさねぇぞ〜。」  
そして遼君の声がした。  
私はこう答えた。  
「今そっち行くよ。」  
私は遼君のところへ行きながらも迷っていた。  
でも嬉しかった。  
遼君が探しに来てくれた。  
こんな時間なのに。  
そして私の事を見つけてくれた。  
それだけで私は嬉しかった。  
後は何をするのか、するべきなのか、それだけだった。  
 
結論は簡単だった。  
謝ろう。昨日逃げた事を謝り、今日迷惑をかけた事を謝ろう。  
 
「遼君、ごめんなさい。」  
「なんで葵が謝るんだ?」帰ってきた言葉は本当に意外だった。  
でもなんで?と聞かれたならちゃんと説明しよう。  
 
「だって、学校サボっちゃったし。夜遅くまで帰らなかったし。  
今も遼君にこんなに迷惑かけちゃったし。遼君大丈夫?」  
でもその何故かは最後まで言えなかった。  
彼の顔を見てしまったから。  
 
顔色がおかしかった。  
青いなんてものじゃない。真っ白だった。  
今にも何かが途切れてしまいそうに見えた。  
でも表情は元気そうに見える。  
「そんなことなら大丈夫だよ。学校なんてサボるためにあるんだし、俺に迷惑なんていくらかけてもいーの。  
そもそも今回は俺が主原因みたいなものなんだから。  
なぜ俺?俺は全く問題ないぞ。」  
「なんで遼君のせいなの?」  
「ほら、なんか昨日俺に相談しようとしてただろ。でも俺が茶化して言わせなかった。だからこんな事したんだろ。  
本当にごめん。」  
私の中の何かが飛んで言った、この遼君の言葉によって。  
その後はただの感情の発露だった。  
「なんで遼君が謝るの?  
私が悪いのに?  
勝手に遼君に告白しようとして。  
遼君に好きな人いる?  
って聞いて、それに予想外の答が帰ってきたから、勝手に慌てて、揚句の果てに逃げただけなのに。  
ねぇ、なんで?  
悪いのは私なのに?」  
彼は止まっていた。  
 
 
「あ、葵が、俺の事好きって本当?信じてもいいの?」  
私はそう言われてから自覚する。  
一気に顔が赤くなるのがわかる。  
いつのまにか私は告白していた。  
 
「本当だよ。信じていいんだよ。」  
そんな言葉がすらすらと口から出る。  
でも本心だ。  
たとえ断られてもいい。後は答を待つだけ。  
断られるだけと分かっていても。  
 
 
「俺も・・・葵の事が大好きだ!」  
そう言って彼は私の事を抱きしめた。  
なんで?他に好きな子がいるんじゃないの?  
そんな疑問が湧いてきた。  
けど、今は好きといわれたことの嬉しさの前に消し飛んでしまった。  
幸せだ。  
私は何かに浮かされていた。  
「ねぇ、キスしようか?」  
こんな事を言っていた。  
また顔が赤くなるのが解ったけど、恥ずかしさを隠して目を閉じる。  
彼に更に強く抱きしめられて、唇が一瞬触れ合う。  
遼君のはちょっと硬い感じがした。  
「遼君大好き!」  
そういってさらに飛び付いた。取っても幸福だった。  
 
 
 
 
 
 
 
 
でもすぐに幸感は終わった。  
 
ドサッ  
 
遼君が倒れた。  
私が飛び付いた勢いを止められずに倒れた。  
そういうのが適切な表現だろう。  
 
胸を抑えてる。  
 
「どうしたの、遼君。大丈夫?」  
そういって彼の体を揺する。  
でも反応はない。  
彼の顔色だけが悪くなっていく。  
手を握ってみる。  
冷たかった。  
まるで氷を触ってるみたいだった。  
 
顔色と手の冷たさとが合わさって、今にも遼君の命が消え去っていくような気がする。  
「遼君おきて、ねぇ起きてよ。」  
返答はない。  
 
遼君を助けなきゃいけない。  
救急車!  
事ここに至ってやっと救急車を思い出した私は、すぐに119に電話をかける。  
「はい、救急センターです。」  
「きゅ、急患です。八幡に、は、早く来て下さい。早くお願いします。」  
「落ち着いてください。患者の氏名、年齢、性別と症状を教えてください。」  
「はい。安井遼太、16才、男です。症状は・・・胸を抑えてます。」  
「脈は?」  
遼君の胸に耳を当てて聞いてみる。  
ドドックドク ドドッ ドク  
明らかにおかしい脈拍だった。  
即座にそれを伝える  
「おかしいです。」  
「解りました。直ちに向かうので一緒にいてください。」  
「わかりました、早くお願いします。」  
 

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