ガチャ
電話が切れた。
もう一回遼君の胸音を聞いてみる。
トクットク、トク
さっきより格段に弱い。今も遼君の命は削れていってる気がする。
「遼君いっちゃ駄目。お願いだから逝かないで。」
私はそう呟きながら遼君の手を握っていた。
彼の手はまだ冷たかった。
ピーポーピーポー
何処からかサイレンが聞こえてくる。
「遼君、来たよ。救急車来たよ。もう少しだからね。」
「安井さんですか?」
「あ、彼が安井です。私は岩松です。」
「失礼ですが、あなたは安井さんの?」
「とっ友達です。」
「解りました。あなたも来て下さい。」
彼等は遼君をテキパキと運んでいった。
そしてそのまま病院に連れて行かれた。
病院に着くとお医者さんと看護婦さんが沢山待っていた。
そして遼君はそのまま連れていかれてしまった。
処置室の前で待っていた私の前に一人の医師が出てきた。
「遼君は大丈夫なんですか?大丈夫ですよね。」
しかし医師は冷たい顔でこう言った。
「危ないかもしれません。ご親族を呼んでください。」
目の前が真っ暗になった。
私のせいだ。私が、私が遼君を殺したんだ。
私はそこまで考えて、また気付く。
また私は私自身の事しか考えていない。
電話しなきゃ。
私はお父さんに電話した。
プルプルプル
「葵かっ。今何処にいる。早く帰ってきなさい。」
「今、大成病院。遼太君のお母さんに電話して。遼君死ぬかもしんない。」
私は事実だけを伝えた。そうじゃないと・・・
「は?何で遼太君が死ぬんだ?」
お父さんの答は至極当然のものだった。
「わ、私をね、見つけようとしてね、無理して走ってね、心臓を壊しちゃったのっ。だから私が…遼君を殺したのっ。」
「葵っ!落ち着きなさい。事情はよくわからんが、遼太君のお母さんと一緒に行くから、落ち着いて待ってなさい。わかったか?」
「は、はい。」
ガチャ。ツーツー。
お父さんの怒った声なんか久しぶりに聞いた。
でも少し落ち着けた気がする。
これで遼君のお母さんが来れる。
でも、遼君のお母さんになんて事情を説明すればいいんだろう。
遼君が昔から胸を痛がっていたのは言った方がいいのかな?
でも勝手に言われたくないだろうし・・・
じゃあ何で倒れたかは?健康な男の子が走った位で倒れる訳ないし・・・。
「葵っ」
お父さん達が来ていた。考えているうちに結構時間が経ったらしい。
「葵ちゃん、大丈夫?」
そして遼君のお母さんにそう聞かれた。
なんでみんな私の事を心配するの?
今一番つらいのは遼君なんだよ。
だから遼君の心配をしてよ。
私はそんな事を思い、速く遼君の所に行ってもらおうと言った。
「私は大丈夫です。早く遼君の所に行って上げてください。」
「そう?わかったわ。」
おばさんは、お医者さんの所へ行った。
お父さんはおばさんが処置室に入って行ったのを見ると、私に向き直ってこう言った。
「で葵、何があったんだ?順を追って説明しなさい。」
「はい。今日私は家を出た後、学校に行かなかったの。で遅くまで家に帰らなかった。
ここまではお父さん知ってると思う。
そしたら遼君が探しに来てくれて、見つけてくれたの。
だけどその時にはもう顔色がすごく悪かった。でも遼君が大丈夫って言うから気にしなかったの。
でも本当は辛かったみたいで、そのあと一緒に帰ろうとしたら倒れちゃったの」
わたしはここまで一息に言った。
「まず一つ。何で学校を休んだか聞きたい。がお前も年頃の娘だ、なんかあったんだろう。明日、ちゃんと学校に行くならそのことについては聞かないでやろう。しかし遼太君が倒れたことについては別だ。今お前が言ったことに嘘偽りや隠し事はないな。」
「今言ったことに嘘はないよ。」
ゴン
いきなりお父さんに頭を殴られた。
痛い。
「今回はこれで許してやる。きちんと事情を安井さんとお医者さんに言うんだぞ。」
ガチャ
「先生ありがとうございました。」
おばさんが処置室から出てきた。
「安井さん。うちの馬鹿娘が、本当に申し訳ありません。」「ごめんなさい。」
お父さんと私は謝った。
「いえいえ、うちの遼太が勝手に変なことしただけですから、大丈夫ですよ。本当に逆にご迷惑をかけてしまって」
「おばさん、遼君はどうなったんですか?」
「とりあえず、峠は越したと。多分大丈夫らしいですよ。」
「そうですか。よかった〜。」
遼君の無事を聞いて自然と笑みがこぼれてしまう。
「心配してくれて、ありがとうね。だけどもう遅いからね?」
「それじゃあ失礼させていただきます。ほら葵帰るぞ。」
本音を言うと帰りたくない。遼君が起きるまでいて、そして謝りたい。
でもそんな長いこと居られても迷惑だろう。
「それじゃあ失礼しますね。」
「今日はありがとうね。面会謝絶じゃなくなったら連絡するから、お見舞いに来てね。」
「はい、失礼します。」
そういって私たち親子は帰った。
今、私は遼君の病室の前にいる。
あれから遼君からの連絡はなかなかこなく、もう10日も経ってしまっていた。
遼君と10日も会わなかったのも久しぶりだ。
コンコン
扉をノックする。
「どうぞ〜。」
遼君の声だ。声を聞いただけでも、心に暖かいものが溢れてくる。
それに声を聞いた限りじゃ余りつらそうじゃない感じなのも私を安心させてくれる。
「葵だよ、入るね。」
ドアは音もなく開き、
そして私に衝撃を与えてくれた。
「よぉ葵。元気してたか?」
声ではわからなかったけど遼君は凄くやつれていた。
私が遼君をこんなに苦しめたのだ。
その事に、私は私を憎む。
「そうだ葵。ごめんな。あの時急に倒れちゃって。」
また、遼君は謝ってくれる。悪いのは私なのに。
本当に優しい人。でももう少し自分を労ってほしいとも思う。
「ううん、大丈夫。そもそも私の為に無理してくれたんでしょ。逆にありがとうだよ。それより遼君の方が心配だよ。大丈夫なの?」
「俺は大丈夫。心配するな、そうそう死にやしないよ。それより、うちの親とか学校で怒られなかったか?」
「ま〜た、遼君は人の事をを心配してる。私はみんなに良くしてもらってる。
だからお願いだから、強がらないで。
私には本心を言って。
遼君を支えてあげたいの、ね?」
何故かとても長い沈黙が私たちを覆う。
私、何か変な事を言っただろうか。
でも遼君はなにかを言いたそうに、でも言いたくなさそうにしてる。
「ぁ・・・も・・・で」
遼君が何かをぼそぼそと言ったような気がする。。
「うん?遼君なにか言った。」
「葵、もう来ないで。」