学校からの帰り道、吉沢信二は一緒に歩いている友人が、ふと自分を肘で突付  
いてくるのに気がついた。  
「信二、あれ見ろよ」  
友人は前から歩いてくる若い女の事を言っているようだった。女子大生くらいであ  
ろうか、やたらと派手な身なりの女である。  
 
「すごいエロボディだぞ。目のやり場に困るな」  
「ん、ああ、そうかな」  
信二は別段、どうでも良いような感じだった。女は胸元の開いたTシャツと、デニム  
のミニスカート、それにジャケットを蓮っ葉に羽織り、足元はブーツで決めている。  
今風の装いといえばそれまでだが、髪も赤茶けてあまり品の良い風体ではない。  
ただ、柔らかくカールのかかった前髪を物憂げに指で梳くと、素晴らしく整った顔  
が現れた。一目見て美形、それもかなり上等の部類に入る容貌だった。  
 
「おい、凄い美人だぞ」  
「そうかな」  
「なんだよ、お前。気取ってるのか?」  
「そうじゃないよ」  
はしゃぐ友人を横目に、信二はうつむき加減である。どちらかというと、こちらへ向か  
ってくる女と顔をあわせたくはないようだった。  
 
「信二」  
不意に女の声で、そう呼ばれた。友人はきょとんとして、辺りを見回した。今、この通  
りには自分たちと前から歩いてくる女しかいない。そうなると、声をかけてきたのは、  
派手なその女という事になる。  
「今、信二って・・・」  
「姉さんなんだ」  
吃驚している友人に、信二は説明してやった。友人がエロボディだの美人だのとはし  
ゃいだのは、何と信二の姉、裕香だったのである。  
 
「ごめん」  
友人はこれ以上無いというような情けない顔で、信二に謝った。気まずさが友情に  
ひびを入れないよう、一生懸命な様子である。  
「いいんだ。確かにちょっと派手だしさ」  
気にするなと友人の肩をたたく信二。実を言えばこんな事は慣れっこだった。  
 
何せ裕香はあの容貌である。口さがない奴らは、もっとえげつない言葉で姉を辱め  
る事があった。彼のように素直に謝るのは、根っからの善人だからであろう。信二は  
特に気にするでもなさそうだった。  
「何を男同士で、いちゃいちゃしてるの?薄気味悪いわね」  
裕香はジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、信二たちの前に立ちはだかった。  
年長者である事を嵩にきた、不遜な態度である。  
 
「いい所で会ったわ。一緒に帰りましょう」  
「姉さん、電車なの?」  
「そうよ。足代わりの男が都合つかなくてね」  
裕香は近くの大学の三回生。信二の通う高校はその付属である為、利用駅が同じだ  
った。普段は彼氏に大学まで送り迎えをさせているのだが、今日は都合がつかなかっ  
たらしい。  
 
「そっちの僕は信二の友達?」  
「はい、そうです。片山聡っていいます」  
「一緒に歩いてるって事は、あなたも電車通学ね。悪いけど、カバン持ってくれる?」  
「あ、はい」  
勢いに押されて、つい友人は裕香の鞄持ちをさせられてしまう。信二は俺が持つと  
言ったが、友人はいい、いいと押し頂くようにカバンを持った。顔を見る限りでは、別に  
嫌がってる様子でもなく、どちらかと言えば喜んでいる感じだ。  
 
「行くわよ」  
そう言って駅の方へ歩き出した裕香に続きながら、友人がこんな事を小声で言っ  
た。  
「お前の姉さん、辛口だな」  
「それで困ってる」  
「でも、美人だよ。男だったら、誰だって憧れるんじゃないか」  
「そうかな」  
「もっとも、俺はお前を羨ましくはない。何故かというと、弟だからだ」  
友人は鼻っ面を信二に近づけ、ふふんと笑った。  
 
「弟と姉じゃ、どうしようもないもんな。俺は他人だから、お姉さんに結婚を迫る資  
格がある。お前はお預けを食った犬みたいで、むしろ哀れだ」  
「その性格が、俺は羨ましい」  
信二はため息混じりに呟くのである。姉と弟。そんな事は他人に言われずとも分か  
っている。  
 
近所でも評判の美貌を持つ姉に、信二は恋心を抱いている訳ではない。ただ、姉  
が放つ色香などに寄せられる男が哀れかつ、鬱陶しいと思うだけだ。この片山と  
いう友人も、はや裕香の存在にぞっこん惚れ込んでしまった。まだ会って、数分の  
時間しか経っていないというのにだ。  
 
十数年間、生活を共にしてきた信二からしてみれば、姉の美しさは理解できるが、  
難ありの性格を知り尽くしているので、それほどの魅力を覚えなかった。信二的に  
は優しくて慎ましやかな女性が好みなのである。気の強い女は論外だった。しかし、  
他人はそうはいかぬようで、裕香を見るなり大概は恋に落ちてしまう。自分の社会  
的地位や財産などを放り出し、ただ求愛に励む。  
 
駅に着いた三人は、改札口をくぐってホームに立つ。電車を待つ客は案外いて、  
ベンチに座る事は出来なかった。  
「信二に片山君、あんたたち、しっかり私の脇を固めるのよ」  
裕香が突然、そんな事を言うので、信二は友人と顔を見合わせた。  
「どうかしたの?」  
「私、痴漢に遭いやすいのよ」  
「分かります、それ」  
「何ですって!」  
裕香はぎろりと片山を睨んだ。  
 
「いやらしい奴らがたくさんいて、空いててもわざわざ触りにくる奴もいるのよ。  
そんなのが現れたら、あんたたち、命がけで戦うのよ」  
「やなこった」  
「僕は戦います!」  
信二と片山の間には、明らかな温度差があった。  
「本当に困ってるのよ。でも、今日は安心ね」  
後れ毛を手で梳きながら、裕香は微笑んだ。その仕草がこれまでに見ぬ女らし  
さで、信二はちょっと驚いた。また、強気な姉にこういう面がある事も、これまで  
知らずにいた。  
 
電車が来ると、三人は最後尾の車両に乗り込んだ。乗車率は七割くらいだろ  
うか、席は空いていない。言われた通り、信二と片山は裕香を囲むようにして、  
乗降口に近い場所に陣取った。  
「立ってるのがしんどいわね」  
「あそこに座ってる婆さんを蹴倒してきましょうか」  
「よせよ、お前」  
懸命に姉の機嫌を取ろうとする片山を、信二は嗜めた。黙っていると本当にやり  
かねない勢いだからだ。  
 
一駅、二駅と過ぎた所で、片山があっと声を上げた。  
「俺、次の駅で降りないと」  
さも残念そうに言うので、裕香は笑ってしまった。彼女は、こういう男の稚気を嫌い  
ではない。  
 
「そうか、片山君は次で降りるのね。短い時間だったけど、楽しかったわ」  
「いや、何だったら、最後まで付き合いますよ」  
「私たちは終点まで行くから、帰りが億劫よ。もういいわ」  
「そうですか・・・」  
明らかに気落ちした片山に、何を思ったか裕香は頬を寄せた。そして、  
「お礼よ」  
と言い様に、軽い口付けを捧げたのである。  
 
(あっ!)  
片山もそうだが、驚いたのは信二も同じ。まさか姉がそこまでするとは思わなかっ  
たのだ。  
「お、お姉さん・・・」  
「可愛いね、片山君は。信二とは大違い」  
横目で我が弟を見ながら、裕香は言った。思わぬ僥倖を得た片山は、電車を降りる  
まで、ほとんど自室呆然の有り様で、それこそ雲の上を歩いて行くような足運びだっ  
た。  
 
再び電車が動き出した時、裕香は呟いた。  
「面白い子ね、片山君って」  
「ただのバカだよ」  
信二は自分が不機嫌になっている事に気がついた。何もあそこまでしなくても良い  
ではないかという思いが、胸中にあった。  
 
「何を拗ねてるの?」  
「別に拗ねてない」  
流れる車窓を見ている信二に、裕香が擦り寄った。  
「こうしてると、他人はどんな関係だと思うでしょうね」  
「痴女と、それに捕まった哀れな美少年」  
「バカね。どう見たって姉弟でしょう。顔も良く似てるし」  
「似てるかな」  
「そっくりよ。あんた、鏡見たことないの?」  
そう言った時、裕香はいつもよりやや優しげな笑顔を見せた。  
 
(姉さんって、案外、華奢かな)  
普段、こうやって寄り添う事がないので、自分の胸にすっぽりと収まった裕香が、  
信二には随分と小柄に感じた。だが、胸の膨らみや香ってくる女臭は、未だ知る  
事のない物である。信二は少し、動悸が早まった。  
「もしかしたら、恋人と思われてるかもね」  
「今しがた、俺たちはそっくりだと言ったばかりじゃないか」  
「他人はね、そこまで気に留めないわよ」  
 
裕香の手が信二の手を取り、腰周りへと誘った。  
「こうしてると、きっと恋人同士って見られるわ」  
「恥ずかしいんだけど」  
「そう?私はね、手ぶらでいる事の方が恥ずかしいな」  
裕香はわざわざ、ジャケットを捲って信二の手を懐に招いている。薄手のTシャツ  
一枚という軽装ゆえ、信二はすぐに姉の温もりを感じる事が出来た。  
 
「姉さん、ちょっと」  
「そろそろ混んでくるわ。私が痴漢に遭わないように、頑張るのよ」  
電車が次の駅に近づく時、空はもう暗くなっていた。ホームでは乗車待ちの客が  
溢れ返っているのが見える。信二は緊張した。  
 
裕香の予想通り、乗車率は急激に上がった。車内は通勤客で溢れ、立錐の余地  
も無いほどである。二人は更に寄り添い、弟は姉を守るように努めている。  
「信二」  
ほとんど聞き取れないような声で、裕香が囁いた。  
「触って」  
裕香を背後から抱き締めるような形で、信二はその言葉を耳にした。冗談などの  
類では無い事は、姉の濡れたような目で分かる。  
 
信二は黙って裕香をきつく抱き締めた。首筋に鼻を近づけると、何とも形容しがた  
い良い匂いがする。熟しつつある女特有の媚臭だった。  
(姉さん)  
信二は手を腰から尻の辺りへ滑らせた。デニム地のスカートは見た目より軽く、  
ちょっと抑えれば尻の割れ目までも探る事が出来た。生地越しでも柔らかくて、  
素晴らしい触り心地である。信二はほとんど無我夢中になった。  
 
右手で姉の尻の感触を楽しみつつ、左手を乳房へ添えた。無理に揉む事はせず、  
ブラジャーのカップを掬うように、擦る程度にした。ストレッチ素材で出来た物を身  
に着けているのか、手が触れても生肉の量感が良く分かる。一方、裕香は逆手で  
弟の股間を探り、若さをたたえた肉棒の形を確かめていた。  
 
姉弟は周囲に悟られぬよう、最大の注意を払いながら、淫らな行いに耽溺した。  
ズボン越しにでも肉棒をいじられると、信二はすぐにでも発射しそうになった。まだ  
異性との経験も無く、自慰しか知らぬ若者では、それも無理なかった。ただ、信二  
も黙ってされるがままとはいかず、思い切ってTシャツの中に手を入れて、生の乳  
房を触り始めていた。大ぶりで形の良い姉の膨らみを、この手で確かめたいと思っ  
たのだ。  
 
(姉さん、乳首が勃ってるな)  
着崩れを気にするでもなく、裕香は弟のしたいようにさせてやった。ブラジャーの  
カップがずれ、荒々しい触り方で乳首を捻り上げられると、眩暈のようなときめき  
を感じた。声を出さずにいるのがやっとで、ともすれば気を失いそうである。  
 
裕香は逆手に握った弟のそれを、欲しいと思った。今、これで女穴を満たして貰  
えれば、自分は天国へ行けそうな気がする。だが衆人の目がある車内で、そこま  
での事に及ぶのは不可能だった。終点までは後、十五分はあり、その間、裕香は  
この生殺しのような状況を楽しむ事にした。  
 
事ここに至っては、もう普通の姉弟には戻れないだろう。裕香は操を信二に捧げる  
つもりでいた。実を言うと、派手な身なりをしているものの、裕香はまだ無垢である。  
付き合っている異性はあっても、これまでに体を許した者はいない。更に言えば、  
唇だって許した事は無い。先ほど片山にしてやったのは頬への挨拶程度、口付け  
と呼ぶような、濃厚な経験はまだだった。それもすべて、信二に捧げる気でいたか  
らだ。裕香は自分の成長と共に、弟への愛情をも育んでいた。一番、身近にいる異  
性を愛してしまったのである。  
 
理由は簡単だ。血の分けた弟は他の男とは違い、自分をがさつな視線で捉える事  
も無く優しいし、姉さん、姉さんと慕ってくれる。見返りを求めぬ肉親の情で結ばれ  
た絆は、決して切る事が出来ないだろう。それが、裕香に安心と温もりを覚えさせる  
のだ。一生とまでは言わずも、せめて純潔を捧げる相手には相応しいのではない  
か。そんな思いが、いつもつきまとっていたのである。  
 
(姉さんは何を考えているんだろう。ただの悪ふざけか、それとも・・・)  
信二は今にも破裂しそうな心臓を抑えながら、姉の乳房を背後から抱え上げ  
ていた。電車が終点へ着いた時、もう自分たちはただの姉弟には戻れないか  
もしれない。今ならやめられる。どちらかが冗談だと言えば──  
 
このままでは、姉犯の鬼畜に堕ちてしまうという思いが信二にはある。そんな  
関係は許されるはずは無い。たとえ、互いの了承があったとしてもだ。その思い  
が気を引けさせたのか、乳首を捻る力が弱まった。すると、裕香は切なげな声  
で、  
「し、信二」  
更に一瞬の間を置き、  
「やめない・・・よ・・・ね?」  
と、搾り出すように言うのである。  
 
(本気なんだな、姉さん)  
信二は裕香の問いに答えず、首筋に口付けを捧げる事で返した。そうして時間  
が過ぎ、気がつけば終点はもう目の前である。  
 
ふと正気に返ったように、裕香が装いをあらためた。捲られたTシャツを整え、ジ  
ャケットの前を引き合わせる。着崩れたブラジャーは直す事が出来ないのでそ  
のままだ。それから信二の手を取り、電車がホームに着くと、  
「ずっと、一緒だよね」  
などと言うのである。  
「うん」  
信二はその手を強く、握り返した。この先、何があろうとも決して離さないつもり  
だった。  
 
 
週末、信二は片山の家へ招かれた。妙に熱心なお誘いで、信二はいささか面食  
らったのだが、是非とも遊びに来てくれというので、断る事が出来なかった。  
「よく来たな、美人のお姉さんは元気か」  
「元気だ。お前によろしくってさ」  
菓子折りを差し出しつつ、信二は片山の部屋に落ち着いた。泊まりの予定なの  
で、それなりの支度もしている。  
 
菓子折り以外にも信二はゲームを持ってきた。早速、始めようという時、不意に  
部屋の扉が開く。  
「聡。お友達、来てるんだって?」  
そう言って現れたのは、年の頃なら二十二か三、眼鏡をかけて黒髪を束ねた、  
見目麗しい女性である。  
 
「何だよ、姉貴。入ってくるなよ」  
「ごめんなさい。お菓子とジュース持ってきてあげたの」  
「置いてすぐ出ろよ」  
片山は疎ましげだったが、信二は突然、現れた美女に目を奪われていた。容貌は  
姉、裕香より少し劣るが、それでも十分、美人の部類に入る。特筆すべきはふくよ  
かな肉体で、どこからどう見たって旨味に溢れていた。  
 
「初めて見る子ね。私、聡の姉で瑞希って言います。よろしくね」  
「僕、吉沢信二です」  
「行儀がいいわ。私、中学の先生やってるから、礼儀作法にうるさいの」  
物言いも穏やかで品がある。悪いが姉弟は出来がはっきりしていると、信二は思っ  
た。  
「さりげに自己紹介してるんじゃねえよ。さっさと出てけ!」  
「おいおい、片山。穏やかじゃないな」  
身内の事とはいえ、こういう時に黙っていられる信二では無かった。  
 
「吉沢君は優しいのね。聡とは大違い」  
ふふ、と瑞希が笑うとひどく愛らしい。教師をやっているという事は、自分よりも六つ  
か七つ年上のはずだが、仕草のひとつひとつが小娘のようで、少しも年齢差を感じ  
させなかった。  
 
「なあ、もう出てけよ。こんなブスに居つかれたら、気が滅入るぜ」  
「美人じゃないか、瑞希さん」  
「お前んちの姉さんに比べたら、月とすっぽんだよ」  
「あら、吉沢君、お姉さんがいるの」  
「そうだよ、すげえ美人だぜ。姉貴なんか目じゃないね」  
「やっぱり。何かお姉さん子って感じだものね」  
 
瑞希が目を細めて見るので、気恥ずかしさが信二を包む。実際、友人の姉と触れ合  
うのは難しいものだ。  
「なあ、ジュース置いたら出てけって言ったよな」  
「分かったわよ。じゃあ、吉沢君、ゆっくりしていってね。お夕飯は私が作るから」  
「ありがとうございます」  
居住まいを直してから、信二は頭を下げた。当たり前の作法のつもりだったが、片山  
は瑞希が友人に気遣いをさせたと思い、声を荒げていた。  
 
「あいつ、おかしいだろ?普通、弟の友達の所へ顔を出すか?」  
「いいお姉さんだと思うが・・・」  
「お前んちの裕香さんの方が、ずっといけてるぞ」  
片山の言葉は隣の芝は青いというような意味合いだと信二は思った。自分だったら、  
あんなお姉さんがいたら、楽しいだろうと考える。年が離れてるので、どちらかといえ  
ば母性を以って弟に接しているのだろう、瑞希の言動には大人の余裕が窺えた。  
 
信二と片山は瑞希が持ってきてくれた茶菓子に手を出しながら、ゲームに嵩じる  
事にした。テレビの前に並び、それぞれがコントローラを手にして点数を競い合い  
つつ、話などもする。  
 
「なあ、信二」  
「なんだ?」  
「実は俺、友達を家に呼ぶって滅多にないんだ。お前なら分かると思うけど、姉貴  
がいると友達呼びにくいよな。部屋に下着とか干してあって、女臭いっていうか」  
「ああ、分かる」  
「そんなお前だから、家に呼んだんだ。同類相憐れむって」  
「同病相憐れむじゃなかったか?」  
「細かい事言うなって」  
 
もしかして、今日自分をここへ呼んだのは、これが言いたかったからなのかもしれ  
ない。信二はテレビを見つめる片山の横顔を見て、そう思った。  
「お前さあ」  
「何だよ」  
「姉貴・・・裕香さんに欲情した事あるか?正直に」  
いつになく片山は真剣な表情だった。信二はこれが冗談でない事を理解し、  
「ある」  
と、短く答えた。  
 
「やっぱり、あるんだよなあ・・・まあ、俺もなんだが」  
片山は辛そうな面持ちである。  
「その割には瑞希さんに辛く当たってたな」  
「そうしないと、近寄ってくるから」  
「なるほどな」  
これも理解できると信二は思った。姉というのは、もっとも身近で瑞々しい女性だか  
らである。おまけに無警戒で、体の接触もある。弟はそれに敏感にならざるをえない  
のだ。  
 
「姉貴って絶対、俺を男と思ってないんだ。夏なんか風呂から出ても、裸でいるし。  
パンツ一丁でうろうろされた日にゃ、かなわないよな」  
「うちの姉さんはいつもだ」  
「裕香さんが?いいなあ、お前」  
「バカ。お前だって、瑞希さんの見てるんだろう」  
いつしか信二も饒舌になり、互いの姉についての論議になった。とりとめのない話  
は夜更けにまで及び、二人は友情を深め合うのであった。  
 
 
二、三日して、信二は裕香の自室へ呼ばれた。深夜零時を少し過ぎた頃だった。  
「手でしてあげるから、おいで」  
「うん」  
近頃、姉弟は両親が寝静まるのを見計らってから、濃厚な相互愛撫を楽しむように  
なっている。最後の一線はまだ越えていないが、これは単に両親へ二人の関係を  
気取られぬようにする為である。  
 
「ズボン、脱がすわね」  
「うん」  
裕香が信二の寝巻きを脱がすと、大きく反り返った男根が現れた。それを手でそ  
っと包むのが合図となり、今度は信二が姉の乳房を揉む。  
「ああ、気持ち良いわ」  
「俺も」  
ベッドへ並ぶように座り、お互いの性器を弄り合う。このやり方がもっとも理にかな  
っていた。  
 
このまま、姉を押し倒して下着をはいでしまっても、きっと拒まない。そんな思いが  
信二にはあるが、今の所は押し止められている。もし二人が一つとなり、激しく求め  
合えば階下にいる両親に気づかれる可能性が高いからだ。性交時には思っても  
みないほど、大きな音が出る。ベッドの軋む音、衣擦れ、喘ぎ声・・・まして人目を  
しのぶ恋であれば、軽率な行動には踏み切れなかった。  
 
濃厚な愛撫は口づけにも及ぶ。姉弟は舌を絡ませ、唾液を交換した。鼻と鼻で  
突付きあったかと思えば、頬を寄せて耳元で愛の台詞も捧げ合う。もうすっかり、  
お互いがお互いに夢中だった。  
「今度の休み、二人で示し合わせて、どこかへ行こうか・・・そこで」  
裕香が熱っぽく言った。  
 
「父さんたち、許してくれるかな?俺はともかく、姉さんは素行が悪いから」  
「うふん、言ったわねぇ・・・」  
やや伏し目がちの裕香が、握っている男根を激しく擦りだした。これをやられると、  
信二はたまらない。  
「姉さん、ティッシュ」  
「ふふ、今日は飲んであげようか」  
「いいの?」  
「いいわよ」  
 
裕香が信二の膝に身を預けるような姿勢を取り、男根を唇で覆った。そして、茎の  
部分を上下に擦りつけるのである。  
「ああ、姉さん・・・俺、やばい」  
「いいのよ、出しちゃいなさい・・・」  
姉の献身的な愛撫で、すぐに信二は達してしまった。裕香は目を閉じ、それをごくり  
と飲み干した。芳醇な旨味を頂くように、その余韻をいつまでも楽しむような風情だっ  
た。  
 
 
ある日、学校から帰る途中の信二の前に、大型の乗用車が停まった。運転席には  
眼鏡をかけた女が乗っている。  
「吉沢君」  
「あ、瑞希さん」  
はたしてそれは、見覚えのある顔だった。片山の姉、瑞希が助手席側の窓を開け、  
横に乗れと手招きしている。  
「話があるのよ」  
瑞希はウインクしながら言った。信二は辺りを確かめてから、助手席に乗る。  
 
「吉沢君、塾とかいいの?時間は大丈夫?」  
「大丈夫です」  
「ちょっと、遠出するからね」  
車は国道へ入り、速度を上げて郊外へと向かう。運転席の瑞希を見ると、グレー  
のスーツに網目模様のストッキングを身に着けていた。それがいかにも大人びて  
いて、信二の胸をときめかせる。  
 
(セクシーだな)  
スカートの丈も長すぎず短すぎずで、教師をやっているという彼女に相応しいもの  
だった。姉の裕香とはまた違う、熟した女の色香にあてられ、困惑気味の信二。  
「今日は、聡と一緒じゃないのね」  
「あいつ、先生につかまって何か手伝いをさせられてました」  
「ふふ。要領が悪いのよね、あの子」  
 
車は信二の知らない街へ走っていく。かなり遠くまできたようで、ぼちぼち民家など  
も乏しくなってきた。またしばらく走ると高速道路沿いの寂しい道に出て、もう建物  
といえばラブホテルくらいしか見当たらない。毒々しい色使いの建物は、とにかく  
目立つように造られており、品などは望むべくもなく、高校生の信二には、まるで  
縁の無い場所のはずだが、  
「あ、ここに入るわよ」  
瑞希はハンドルを切り、いくつかあるうちの一軒を選んで入ってしまった。そして、車  
を駐車場に停めると、呆然と助手席に座っている信二に、早く降りてと急かしつける  
のである。  
 
「あ、あの」  
「大丈夫、大丈夫。フロントも無人だから、学生服でも入れるわ」  
そういう事じゃないと言おうとした信二の肩を、瑞希は抱いて歩き出してしまった。  
この強引さは、先日、初めて会った時の彼女からは想像出来ない事だった。  
 
部屋の選択は自動式になっていて、空いてる場所のパネルに触れると、鍵が出て  
くる仕組みになっていた。瑞希は慣れているようで、適当な部屋を選んでから、信  
二についてくるよう促した。  
「こっちよ、吉沢君」  
「あ、はい」  
前を行く瑞希のヒップが左右に揺れるのを見て、信二は困惑した。  
 
スカートにぴっちりと浮き出たパンティラインは何とも悩ましげだし、場所が場所で  
ある。ここは、カップルが性の営みを行う場を提供する建物であり、自分は男で瑞  
希は女。共にひとつの部屋に入れば、何が起こるか分からない。  
 
ちらと裕香の顔が脳内で像を結んだ。近頃、すっかり打ち解けた姉と、こういう所  
へ来られたらいいのにと、辺りを見回していると、  
「今、他の女の事、考えてるでしょ」  
いきなり振り返った瑞希が、右手の人差し指で信二の鼻を小突いたのである。  
「い、いえ、そんな・・・」  
「女の勘って鋭いのよ。甘く見てちゃ痛い目に遭うわよ」  
瑞希はまた信二の肩を抱いた。女性にしては大柄で、ほとんど身長も信二と変わ  
らない彼女は、目当ての部屋まで来ると、不意にこんな事を漏らす。  
 
「吉沢君が考えてるのって、お姉さんの事?」  
「え、いや」  
ずばり言われて、信二の心臓は凍りつく。まさか、片山が瑞希に何か言ったので  
は無いかと勘繰った。  
「実はね、この前、うちに遊びに来た時、あなたたちが話してる事、聞いちゃったの。  
ごめんね」  
瑞希は舌をぺろっと出し、笑った。その顔は悪戯で、どこか愛嬌がある。  
 
「吉沢君はお姉さんに欲情しちゃうんだ。ま、うちの聡もらしいけど」  
「軽蔑しますか?」  
「別に。むしろ私の場合、してやったりね。まあ、その辺の事は、中で話しましょ」  
瑞希は部屋の扉を開け、信二を中へ押しやった。毒々しい外観からは想像できなか  
ったが、室内は案外、良いセンスでまとめられており、なかなか落ち着ける趣になっ  
ている。  
 
「何か飲む?」  
「あ、コーラとかで」  
「私は一杯やろうっと」  
信二がコーラ、瑞希はビールをそれぞれ手に持ち、簡単な乾杯をした。応接セット  
は置いてあるが、二人はあえて円形のベッドの上に腰掛けた。  
 
「吉沢君は、お姉さんとやっちゃってるの?」  
「それほどでも・・・」  
信二は問いかけに曖昧な答えしか出来なかった。瑞希の質問が直接的過ぎて、答え  
られなかったのだ。  
「瑞希さんはどうなんです?片山と」  
「全然!気弱なのよね、あの子」  
「そうなんですか」  
「そうよ。私が裸同然でいても、汚いから隠せとか言うのよ。憎たらしいでしょ?」  
 
そういう気持ちは信二にも分かる。姉を性的な対象として見たくないからだ。だからあえ  
て、嫌悪感を持とうとする事で、自分を戒めるのである。  
「でも、それが本音じゃないって分かったのよね。吉沢君のおかげよ」  
濡れる眼差しで瑞希は信二を見た。まだ酔うほど飲んでいないので、彼女が何やら怪し  
い想像をしている事は間違い無さそうである。  
 
「ずばり聞くけど、吉沢君はお姉さんとセックスしたの?今度は曖昧な答えは無しね」  
「どうして、僕がそんな事、言わなければならないんです?」  
「だって、私と聡の橋渡しをしてくれた恩人だもの・・・色々と聞いておきたいのよ」  
瑞希は足を崩し、しなだれかかるように信二に寄り添う。  
 
「私があの子と・・・先週、どんな事をしたか、知りたくない?」  
「え、まさか・・・」  
「そのまさかよ。私、聡を誘惑したの。うふふ・・・」  
信二は胸騒ぎを覚えた。瑞希の言葉は、暗に弟と関係を持ったという意味を含んで  
いる。あの時の会話を聞かれていたとすれば、瑞希が大胆な行動に出た可能性が  
高い。  
 
信二は自分と姉の事もあってか、片山姉弟が契りを結んだとしても何の不思議も無  
いと思った。血の繋がりはあっても所詮は若い男と女、きっかけさえあれば互いの肉  
体を欲してしまうだろう。だから信二は、瑞希が信頼の置ける人間と見て、ありのまま  
を話す決意を固めた。それでなくとも教師が未成年をラブホテルに連れ込むという  
危険を冒しているのだ、冗談半分の話では済まなそうだった。  
 
「実は僕、姉さんと、キスとペッティングをしてます」  
「やっぱり。ふふ、いいわね。吉沢君のお姉さんって、凄い美人なんでしょう?」  
「片山が言ったんですか?」  
「凄く自慢げに、ね。ほっぺにキスして貰ったってね」  
あいつなら言いそうだと信二は笑った。もっとも、腹立たしさは覚えない。そういう  
稚気が片山の良い所でもあるからだ。  
 
「あの子、それまではつっけんどんだったけど、今は私に夢中よ。毎晩、ベッドに  
忍んで来て、姉貴、姉貴って・・・ふふ」  
「へえ」  
意外だと信二は思った。家庭内で姉弟が二人っきりになれて、誰に気兼ねなく体  
を重ねられる環境というのは、なかなか無いからだ。  
 
「どうやってるんですか?お父さんやお母さんに気づかれたりしないんですか?」  
「立ってしてるわ。私、後ろからされるのが好きなの」  
瑞希はベッドで濃厚な相互愛撫を楽しんだ後、机に手をついて後ろからの挿入を  
促すという。  
「ベッドと違って机は丈夫で軋まないし、第一、その方が興奮するのよ。ただ、後始  
末が厄介ね。あの子、中出しばかりしたがるから」  
「妊娠とか大丈夫なんです?」  
「薬飲んでる。逆に使用済みのコンドームなんて、親に見つかったら、言い訳がき  
かないでしょ?」  
「そうですね」  
 
片山姉弟の話は参考になるが、だからといってすぐに我が家で実践とはいかない  
だろう。あの裕香に机へ手をつかせ、後ろからやらせろとは言い辛いし、避妊薬を  
服用して欲しくもなかった。そこまでするくらいなら、自分が我慢すればよい。姉に  
精神的、肉体的に負担を強いてまで、交わろうとは信二には思えないのだ。  
 
「羨ましいなあ」  
「あなたたちだって、すぐよ。ちょっとの勇気さえあれば」  
そう言ってビールを飲み干し、空き缶を放り投げる瑞希。すでに酔いが回りかけ、  
目の縁が赤みを帯びていた。  
「そんな訳で、今日は特別に吉沢君に性教育の授業をしてあげるわ」  
「え?」  
瑞希が突然、着ている物を脱ぎだしたので、信二は目を丸くした。  
 
「吉沢君も脱ぎなさいよ」  
瑞希はスーツを脱ぎ、室内にあるクロゼットにしまい込む。信二の目には、ブラウス  
と白い下着、それに乳色の肌に良く似合う網タイツ姿になった、年上女性の御姿が  
眩い。  
「あの、僕、そういうのまずいかも」  
「どうして?」  
「それはもう、色々と・・・」  
まず姉の顔が頭に浮かんで罪悪感があるし、片山の姉という事も気になる。何より、  
中学校教師が高校生とそういう関係を容易く結んで良いのかが問題だった。  
 
「お姉さん、処女じゃないんでしょ?」  
「え、どうかな・・・?」  
信二はその辺の事を詳しくは知らない。裕香が異性関係については開放的だった事  
を考えると、それ以上、詮索する気にはならなかったので、本当は無垢である事を知  
らずにいる。  
 
「彼氏がいるような話、聞いてるわよ」  
「それは僕も知ってます」  
「だったら、吉沢君も覚えておいた方がいいんじゃない?いきなりだと恥かくわよ」  
大学までの送り迎えをさせる異性がいる事は、信二も知っている。今の風潮を鑑み  
れば、姉が処女でいる事は考えにくかった。瑞希の申し出はどちらかといえばあり  
がたいが、初めては姉とという思いもあるため、信二は戸惑う。  
 
「入れるところとか、分かる?入れてすぐにおもらししないっていう自信ある?初めて  
お姉さんとする時、恥かいたら一生悔やむかもよ?」  
「う〜ん」  
「勉強でも予習が大事なのは分かるでしょ?あら、私、何か先生っぽいわね」  
瑞希は胸をそらせて笑った。そう、彼女は教職にあるという立場を危険に晒してま  
で、自分に初手を教授しようと言ってくれているのだ。信二はその厚意を素直に受け  
る事にした。実際、近々起こるだろう姉との交わりの際に、恥をかいてはいけないと  
いう思いも、本音ではあるのだ。  
 
「じゃあ、お願いします」  
「うん。そうと決まったら、早く脱いで」  
瑞希がブラウスから肩を抜いた時、やたらと大きい乳房が激しく揺れた。フルカップ  
のブラジャーでないと、とても支えきれぬほどのそれは、何か高級な果物がかごに  
収まっているように見える。  
 
下半身に目をやれば、いい感じに脂の乗った腰に、やたらと股ぐりの浅いショーツが  
貼りついていた。繊細な織り方をなされた下着は大半の部分が透けていて、股布も  
極めて小さく、特に目を凝らさずとも、若草がふっさりと繁っているのがはっきりと分  
かるほど生地も薄い。そして、先ほど目を奪われた網タイツである。これはガーター  
ベルトで腰から吊られ、長い足に彩りを添えていた。  
 
(目のやり場に困るな、これ)  
比べては悪いが、裕香はこの辺りの色香がまだ足りない。乳房も大きいが瑞希には  
及ばないし、若い分、硬さが残っている。瑞希の乳房は弾力に富んでる上、非常に  
柔らかそうだった。多分、基本的に肉質が違うのであろう、体全体がふくよかなのだ。  
「じっと見られると、恥ずかしいわね」  
瑞希は肩まである髪をゴムでまとめ、優しく微笑んだ。肌全体が赤らみ、彼女も興奮  
気味であるのが分かる。信二も学生服を脱ぎ、パンツ一枚になった所で、大きくして  
いる男根の前に手をやり、気恥ずかしそうに佇んだ。  
 
「お願いします。僕、本当に何も分からなくて・・・」  
「うふふ、正直な子って好きよ。全部、私に任せて」  
こうして円形のベッドに誘われ、信二は瑞希の手ほどきを受ける事となった。初体験  
の相手は姉と決めてはいたが、買ったような安物の女でもなく、英知と母性に満ちた  
大人の女性に誘われた事は、少年にとっては望外の幸せと言えるかもしれない。  
 
季節の変わり目が近づいた頃、信二は片山に対して少し優越感を持つように  
なっていた。実はあれから、ずっと瑞希と関係が続いているのである。勿論、  
表向きはそんな思いをおくびにも出さないが、心中ではお前の姉の味を、俺は  
知っているのだとにやけたりもする。  
 
週に一、二度、瑞希は信二の携帯電話にメールを寄越してくる。その後、どこ  
かで落ち合い、郊外のラブホテルまで人目を忍んで行く。情事の際、瑞希は  
弟との事を良く話してくれた。相変わらず、二日と空けずに自分のベッドへや  
ってきては、身勝手な射精をするまで腰を振り続ける事などを、面白おかしく  
聞かせてくれる。  
 
始めは先生ぶっていた瑞希だが、近頃では女を喜ばせる技術に長けてきた  
信二にしてやられっ放しで、ほとんど立場が逆転していた。今じゃ瑞希の方  
が、信二と会うのを待ちわび、しつこいほどだった。その一方で、姉の裕香と  
もうまくやっていて、肉の交わりこそないが濃厚な愛撫でも十分に楽しめて  
いる。二人の女を上手く使い分けているのだ。  
 
そんなある日、信二は瑞希からこんな提案をされた。  
「今度さ、皆で温泉にでも行かない?」  
「温泉?皆って?」  
「私と信二。後は聡と・・・信二のお姉さん」  
呼び名も吉沢君から信二へと変わり、愛の奴隷となった瑞希は、今日もラブ  
ホテルで年下の男の機嫌を取るのに懸命だ。大人なぶんだけ割り切りも出  
来ていて、信二が姉と関係を望んでいる事を知っていても、特に何も言わな  
い。  
 
「そろそろ、お姉さんとしたいでしょ」  
「そりゃ、まあ」  
「いいんじゃない?あまり引っ張ると、ますますきっかけを逃すわよ」  
家庭内で出来ぬのなら、外で──簡単な発想だが、今まではそれがかなわなか  
った。瑞希が現れ、それほど急を要しなかったという事もある。  
 
「お姉さんは何か言ってるの?」  
「特に何も」  
「まさか、私たちの事、気づいてるとか」  
「いや、それは無いと思う」  
「だったら、余計にきっかけが欲しいわね。そうだ、いっそお姉さんに私と聡の事、  
話しちゃったらどう?」  
「え?」  
奇抜な発想に、信二は驚いた。  
 
「お姉さん、聡の事は知ってるんだし、あそこも姉弟で関係持ってるんだって聞かさ  
れれば、親近感も湧くでしょう。それぞれがペアになって、温泉に一泊でもどうかな  
って誘ってみれば?」  
「うーん・・・」  
「お姉さんを納得させられれば、誘うのは私がやってもいいわ。その方が、ご両親  
も安心するでしょうし。信二と聡は別口で遊びに行くと言えばいいわ。どう?」  
「さすが、先生。頭いい」  
「バカね。おだてても、何も出ないわよ」  
 
瑞希は豊満な肉体で信二を抱き、ベッドへ沈んだ。この時、信二は姉、裕香の事を  
考えていた。  
(そういう時期かもな)  
姉を抱く──瑞希の乳房に喰らいつきながら、信二は寝具の上で身悶える裕香の  
乱れる様を脳内で描いた。  
 
 
某日、吉沢家の前に大型の乗用車が停まった。信二は自室にいて、表で行われる  
やりとりを聞いていた。  
「私、片山瑞希と申します。裕香さんとは先輩、後輩の間柄で、今は隣の市で教師  
をやってまして」  
「あら、そうでしたか」  
見送りに出た母親が、にこやかに応対している。瑞希の立派な肩書きを知り、泊りが  
けで遊びに行くという事にも、何の心配も無さそうだった。  
 
「じゃあ、行ってくるね」  
裕香の声がして、車の走り去る音が聞こえたのを合図に、信二も自室を出る。玄関  
で会った母親には、友達の家へ泊まる事を告げておいた。  
「相手様に迷惑をかけないのよ」  
「うん」  
どの家庭でも、男が外泊するのには寛容だ。まさか母親も、この後、示し合わせて  
自分の娘と息子が合流するとは夢にも思わないだろう。  
 
家を出ると信二はまっすぐ駅へ向かった。そこに片山と瑞希、裕香が待っているは  
ずだ。そういう手筈になっている。  
「信二、こっちよ」  
車の後部座席に裕香がいた。運転席には瑞希、助手席には片山が座っている。  
「遅いぜ、信二」  
「悪い、悪い」  
片山は久しぶりに裕香と会い、昂ぶっているようだった。その気持ちが顔に良く出て  
いる。  
 
信二が後部座席に落ち着くと、車は発進した。行き先は隣の県にある小さな温泉場  
である。  
「うまくいったわね」  
と、瑞希。この計画の発案者だけに、上々といえる事の運びに満足げだった。  
 
「裕香さん、コーヒーいかがですか?冷えたのがあります」  
「ありがとう、片山君」  
早速とばかりに機嫌取りをする片山を、信二は冷ややかに笑う。実はこの中で、彼  
だけが裕香と信二の濃密な関係の事を知らされていなかった。無論、瑞希が信二  
と通じている事も知らない。  
 
温泉行きの話は瑞希の方から持ちかけられ、吉沢君も誘ったらどうかしらという段  
取りになっていた。その時、美人のお姉さんも誘ってみろと告げ足し、万が一にでも、  
脈があるかもしれないなどと嗾けたのである。片山はそれで何も誰も疑わず、熱心  
に信二をかき口説いた。お姉さんも是非と懸命になって言う様を、信二は笑いをこら  
えながら見ていた。  
 
そんな経緯から、この中で最も余裕のあるのは信二という事になろう。裕香は言うま  
でもなく、瑞希すらも手中に収めているのだ。今や片山は完全な当て馬で、悪いが  
三流役者といった風情にしか見られないだろう。  
(今夜、いよいよ姉さんと)  
初めての夜でも、裕香を喜ばせる技術は身につけたという自信が、信二にはある。  
夜通したっぷりと抱き、明日の朝までには完全に征服してみせるという気概に満ち  
ていた。  
 
出発から二時間ほどして、一行は目的地へ到着した。  
「着いたわよ。皆、降りる支度をして」  
瑞希は一旦、皆を降ろしてから車を駐車場へ回すといって消えた。とりあえず宿入  
りし、予約した名前で宿帳に記名する。  
「片山様と、吉沢様ですね。承っております」  
応対した女将は、名前欄の所にそれぞれ弟と書かれているのをちらりと見た。  
随分と仲の良い姉弟だと思いつつ、部屋へと案内をする。  
 
姉弟は二組に分かれ、それぞれ男と女で部屋を一つずつとった。いくら姉弟でも、  
年頃の男女が同じ部屋で寝泊りしては、いかにも怪しいからだ。瑞希は裕香と共  
に入室すると、  
「まだ日も高いし、ちょっと散策にでも出ない?」  
「いいですね」  
弟二人を放り出し、外出する事にした。そこで、瑞希は裕香の本音などを聞くつも  
りである。  
 
ひなびた温泉街は観光時期から外れているという事もあり、物静かであった。瑞希  
は裕香を傍らに置くようにして、茶店で一息つく事にした。  
「裕香さんは私といくつ違うんだっけ。私、二十四だけど」  
「あ、私、二十一です」  
「三つ違いか。ちょうどお姉さんと妹くらいかな」  
「そうですね」  
日頃の横柄な態度と違い、瑞希相手では裕香もやや大人しめ。また、そういう風に  
させる長じた女性の雰囲気が瑞希にはあった。  
 
「今夜、やっぱり許してあげるの?」  
「ええ、そのつもりです」  
「いいわね。頑張って」  
「はい」  
弟との交わりを望む女たちにしか分からない会話だった。他人が聞いても、意味は  
さっぱり分からないだろう。  
 
「私も聡と頑張るかな。そういえば、裕香さんはこれまで結構、遊んだの?」  
「え?」  
その問いに裕香は顔を赤くし、うなだれた。瑞希はこの態度に敏感な反応を示す。  
「もしかして、まだ・・・?」  
「はい」  
意外な事だった。なんとここにきて裕香の無垢が判明したのである。気まずさが  
瑞希を包む。  
 
宿で片山と卓球に嵩じていた信二に、電話が入った。着信名は瑞希になっている。  
「もしもし」  
「大変よ、信二」  
「どうしたの?」  
すぐ傍らに片山がいるが、あえて堂々と信二は電話に出た。まさか彼も電話の相  
手が、自分の姉だとは思ってもみないだろう。逆に声をひそめたりすれば、怪しま  
れる。瑞希、と名前さえ呼ばなければ、心配する事は無かった。  
 
「お姉さん、処女だって」  
「ええ、本当に?」  
「今、茶店のトイレからかけてるんだけど、本人の口から聞いたから間違いないわ。  
困ったわね」  
瑞希はこれまでに信二とたっぷり情交を重ねているので、罪悪感があるらしい。そ  
れも、裕香の事を遊び上手だと思っていた為で、無垢だと知っていたら、瑞希も信  
二に手ほどきはしなかっただろう。  
 
「だから、私が言うのも変だけど、童貞っぽく振舞うのよ」  
「分かった」  
「じゃあね」  
電話が切れても、信二はしばらく呆然としていた。  
(姉さん、処女だったんだ)  
てっきり女になっていたとばかり思っていた信二は、己の過ちを悔いた。もはや瑞希  
との濃厚な関係を清める術は無いが、はたして姉は自分が無垢でないと知ったら、  
どう思うのだろう。  
 
(何てことだ)  
駆け巡る胸の痛みは、張り裂けそうな心が悲鳴を上げているせいだ。信二は片山に  
声を掛けられるまで、ぼんやりと宙を見つめていた。  
 
 
夕食は四人で摂る事になった。料理はまずまずで、山の幸がふんだんに使われ、  
片山と裕香は箸が進んでいる。しかし、信二と瑞希は時折、目を合わせながら、  
気まずい時間を過ごしていた。  
(何とかしないとね)  
瑞希はそう考える。この姉弟を今夜ひとつにさせ、うまく丸める方法を模索してい  
るのだ。  
 
このままでは信二と裕香が気まずい初夜を過ごす事になろう。それは、瑞希に  
とっても良い事ではなかった。彼女にはどうしても、二人を自分と弟のようにする  
必要があるのだ。  
「ねえ、この後、皆でお風呂入らない?」  
ほろ酔いの瑞希が、裕香に酒を勧めながら言った。  
 
「ここ、混浴あるの?」  
と、片山。彼はすでに姉犯の男で、別段、瑞希と一緒に入浴する事に異存は無  
さそうだ。  
「さっき見たら露天の部屋風呂があって、なかなか風情が良いのよ。家族客を  
想定してるみたいで、かなり大きいわ。四人で入っても平気よ」  
「う〜ん、俺たちはともかく・・・」  
片山は信二と裕香を見た。信二はこれを、瑞希の助け舟と思った。何か仕掛け  
がなければ、こういう展開には持って行き辛い。  
 
「俺は別にいいけど」  
「私も。湯浴み着を着ていけば、大丈夫」  
「じゃあ、決まりね」  
瑞希は浴衣の袖を取りつつ、もう一度、裕香に酒を勧めた。多少なりとも酔って  
いてくれた方が、この後に起こる出来事を受け止めやすかろうという判断からだ  
った。  
 
夕食後、四人はすぐに露天風呂へ移動した。瑞希の言う通り、部屋には大き目の  
岩風呂が設えられており、葦で組まれた目隠しが外界からの視線を遮っている。  
女性陣は共に湯浴み着を着用、男たちは股間に手ぬぐいを巻いただけの格好だ。  
「いい感じよね」  
「本当に」  
瑞希と裕香は風呂の縁に腰掛け、酔いで火照った体を冷ましている。どちらも豊満  
な肉体に玉のような汗が光り、相当に艶かしい。  
 
対面には片山と信二が湯に浸かった格好でいる。こちらは男の生理で、股間が見  
苦しい状態になっているので、揃って苦笑い。酒をたしなんだ女性陣とは対照的に、  
いかにも少年らしい反応だった。  
 
四人の相関図をあらためて見ると、信二を中心に裕香、瑞希、そして片山となる。  
このうち、直接的な肉体関係を有しているのは、信二と瑞希、片山と瑞希。間接的  
には、信二と裕香である。また、相姦の事実を知るのは瑞希を頂点に、信二と裕香  
が三角形を描く形になる。一人蚊帳の外にいるのが、片山だ。  
 
信二としては瑞希との関係を、誰にも悟られてはならない。元々が火遊び程度の  
予定だったのだ。本命は言うまでも無く裕香である。事前の調整で、一旦は別々の  
部屋を取ったそれぞれの姉弟は、深夜に入れ替わる手筈になっている。そうでなけ  
れば、この旅行を計画した意味が無い。ただひとつの誤算は、ここへきて裕香が無  
垢だと判明した事である。瑞希は話の中で、裕香が処女を弟に捧げたいと願ってい  
ると聞き、驚いた。そこまでの思いが無ければ、信二が事を終えた後に、弟を裕香と  
交わらせようと考えていたからだ。  
 
それで、四人の相互関係図が出来上がる。一生、隠していかなければならない  
秘密を共有するパートナーだ。これほどの固い絆には、ちょっとやそっとではめぐ  
り合う事が出来ないだろう。  
 
「本当に気持ちがいいわ。ねえ、裕香さん。湯浴み着なんて野暮じゃない?脱ぎま  
しょうよ」  
「え、ええ?」  
「私は脱ぐわ」  
瑞希が急に湯浴み着を脱ぎ、対面にいる片山の目の前に放り投げた。  
 
「何やってるんだよ、姉貴!隠せってば!信二、お前も見るなよ」  
「す、すまん!」  
片山は慌てふためき、湯浴み着を信二の顔に被せた。その慌てぶりが可笑しいの  
か、瑞希は腰に手を当て、  
「見て、裕香さん。あの子たち、あんなに驚いて」  
などと言い、声高らかに笑うのである。  
 
それに対し、隣にいる裕香は面白くなかった。瑞希が湯浴み着を脱いだ瞬間、信二  
がその豊満な肉体を凝視したからだ。年頃の少年ゆえそれも仕方が無いが、彼女  
にしてみれば嫉妬心も沸くというもの。色香では負けるかもしれぬが、美しさでは自分  
の方が勝っている。そう信じて、裕香も湯浴み着を脱ぐ事にした。  
 
「じゃあ、私も」  
「おおっ!」  
と、叫んだのは片山。よもや裕香の素肌がその目で拝めるとは、予想だにしなかっ  
たであろう。すると、今度は信二が片山の頭を抑え、  
「見るな!」  
と、取っ組み合いに持ち込んだ。片山はいじましく素っ裸になった裕香を横目で見つ  
つ、信二と力比べを展開する。どちらも互いの姉の素肌を見られ、いきり立っていた。  
 
「あなたたち、そんな意味の無い争いはやめて、こっちへいらっしゃいよ」  
瑞希が手招くと、弟たちは力比べを止め、それぞれ姉の傍らについた。二人とも  
大きくなった男根を隠さずに、ありのままの状態を見せつけている。  
「いやね、聡。すごく大きくしてるじゃないの」  
「だってさ・・・」  
片山は横目で裕香を見た。素晴らしい肉体が、そこにはある。  
 
「裕香さん見て勃起したのね?正直、妬けるわ」  
瑞希は片山を風呂の縁に座らせ、自分も跪いた。そして反り返る男根に手を添え  
たかと思うと、一息にそれを飲み込むのである。  
「ちょっと姉貴、裕香さんと信二がいるのに・・・」  
「いいのよ。あの二人だって、そういう仲なんだから」  
弟の男根を咥えたり放したりしながら、瑞希は言った。  
 
「え、マジ?本当かよ、信二」  
「あ、まあな」  
「なんだ、気を揉んで損した。だったら姉貴、もっとやってくれ」  
「分かったわ、うふふ」  
ぎりぎりと張力に溢れる片山の物を、瑞希は深々と飲み込む。時に吸い、舌先で  
尿道をほじくるように舐める仕草は、誰がどう見ても淫らとしか言い様が無かった。  
 
「見られると興奮する・・・裕香さんも近くにいるし・・・」  
片山に見つめられ、裕香の胸は張り裂けそうになった。前もって聞かされてはいた  
が、実際に目の前で姉弟が濃厚な口唇愛撫に興じる様は、この世の物とは思えぬ  
ほど艶かしい。確かに裕香と信二も、間違い無くああいう行為に耽っていたのだが、  
客観的に見るのとでは随分と温度差を感じた。  
 
「信二・・・」  
裕香がぴったりと信二に寄り添う。不安と期待が混じったような瞳で、片山姉弟と  
信二を交互に見つめ、何か決意めいたように時々、頷いたりもする。  
「お二人さんは、寝室へ移動したら?お布団が敷いてあるわよ」  
瑞希がそう言うと、裕香と信二は手を取りあって風呂場を後にした。  
 
(瑞希さん、わざとああいう風な形を取ったんだな)  
ハプニングを装い裕香をたきつけるのが、瑞希の狙いだと信二は確信した。目の  
前で自分たちが交われば、興奮ですぐにでも裕香と信二が求め合うと思ったの  
だ。実際、その読みが功を奏して、二人は寝室の闇の中へ溶け込みつつある。  
 
「信二、いいよね」  
「うん」  
襖を開けると枕元に微かな火の気、それと懐紙が箱に詰められていた。完全に、  
その為に設えられた雰囲気である。これも、瑞希の仕掛けである事は間違い無  
い。  
 
掛け布団を剥いで、二人は横になった。もとより服は着ていないので、面倒が無  
い。裕香が下になり、信二が圧し掛かっていく。  
「私、初めてなの・・・」  
「うん」  
それ以上の事を、信二は言わなかった。黙って姉を抱けば良い。それだけを考え  
る。  
「あっ!」  
形の良い乳房を手ですくい、乳首を甘く噛むと、裕香が低いため息を漏らす。  
信二はそのまま顔を移動させ、下半身へと挑む。  
 
これまでに瑞希から伝授された技術で、信二は裕香の女をこじ開けた。少しだけ  
潤んだ二枚貝には決して指では触れずに、唇と舌を使って口に入れたぶどうの皮  
を剥くようにする。若草には鼻息で微妙な刺激を与え、指は尻穴付近で別の悪戯  
を行うのがそのやり方だった。その上で、充血し始めた肉芽に舌を巻きつけるが  
如く動かし、軽い眩暈を覚えていただくのである。瑞希は決まって、そのやり方で  
一度目の絶頂を楽しむ。  
 
「あっ、信二・・・いつもと違う」  
家で相互愛撫を行う際は、階下にいる両親の存在を気遣う必要がある為、どうし  
ても音を立てまいとする。しかし、今日はいくらでも音を立てて良い。喘ぎ声だって  
出しても良いのだ。信二は姉の嬌声を聞きたいが為に、必死で愛撫をする。  
 
「やだ!い、いきそう・・・やめて・・・ああっ!」  
普段は出せぬ声が、裕香の口から放たれた。そして、足の先をぴんと伸ばしなが  
ら、激しい絶頂を得たのである。  
「いけた?姉さん」  
「・・・うん。でも、こんなの・・・どこで覚えてきたの?まさかとは思うけど・・・」  
「ごめん。実は瑞希さんに・・・片山には内緒だけど」  
「そう・・・でも、そんな気がしてた・・・」  
 
はあはあと息を荒げる裕香の言葉に、怒りの色は無い。ただ、何かを取り逃がし  
たように、残念そうな顔をしただけだった。  
「俺、姉さんが処女だって知らなかったから」  
「それも、瑞希さんに聞いたの?」  
「うん。さっき」  
「何もかも、あの人の手ほどきなのね。まいったわ」  
いっそ、その方が清々しいと裕香は笑った。  
 
「じゃあ、いよいよ次は・・・」  
「俺が姉さんを女にする時だ」  
信二は裕香とぴったり体を重ね、これまでにない濃厚な口づけをした。じっくりと  
時間をかけ、姉の体臭を嗅ぎ、乱れた髪を手で掬い、それでも伝えきれない情熱  
は性器にこめて、ぶちまけるつもりだった。  
 
「いいよ、信二」  
「うん」  
裕香はそっと膝を開いた。恥ずかしいという感情と、破瓜の恐怖が身を焼くような  
気がする。信二の男根にはこれまでにも何度も触れてきたが、この狭い通路に  
招くとなれば話が違ってくる。裕香は体を硬くしないように努めた。  
 
「うッ!」  
「入っていく・・・」  
肉傘が花弁を掻き分け、裕香の胎内へしずしずと埋められていく。破瓜の瞬間は  
もう、目の前だった。  
「う───ッ!」  
「姉さん、頑張って。もう少しだから」  
裕香は泣いた。鋭い痛みのせいもあるが、はっきりと弟の体温をそこで感じる事  
に感動を覚えていた。嬉し泣きである。  
 
「あッ、あうッ」  
「姉さん」  
「信二、抱いて!強く!」  
男根はほぼ全部、裕香の胎内へ収まった。内部では異物を拒む動きと招く動き  
が合致し、反応的な収縮運動を開始する。  
「い、痛ァ───ッ・・・し、信二!」  
「もうすぐ終わるから、姉さん!」  
抗うような動きをする裕香の体を抑えながら、信二は射精した。子種はすべて  
姉の中に放たれ、粘液が膣内を満たしていく。  
 
「どうだった?」  
「凄く痛かった。洒落にならないくらい」  
裕香は目元にたまった涙を指で掬いながら言った。  
「これ見て、血が」  
「本当だ。あっ、俺のにも」  
裕香の尻の下には破瓜の印が赤く点々と落ちていて、信二の男根にも水で溶い  
たような薄い血の色がこびりついている。紛う事無く、生娘の証しだった。  
 
「そんなに痛いの?」  
「うん。しばらく、セックスしたくないくらい・・・本当に気持ち良くなるのかしら」  
姉弟がそんな会話をしていると、寝室の襖が音も無く開いた。見ると、片山姉弟が  
裸でそこに立っている。  
 
「おめでとう、裕香さん」  
「ありがとう、瑞希さん」  
「やったな、信二」  
「ああ」  
遅まきながら願いを果たしたという事で、四人は再び席について乾杯をする。全員  
が裸だが、もうそんな事はどうでも良かった。  
 
「これで俺たち、秘密を共有する間柄になったわけだ。ひとつ、これからもよろしく  
頼むぜ、信二」  
「ああ」  
共に姉犯の身、世間に知られては肩身が狭くなる。しかし、決して壊れぬこの絆  
をいかにして秘匿していくかが問題になってくる。すると、  
「そこで、提案があるんだけど」  
瑞希がぱっと手を上げ、座の視線を奪ったのだ。  
 
 
数年後の某月吉日、ある結婚式場で世にも珍しい合同結婚式が開かれていた。  
会場の掲示板に記された家名を見ると、吉沢家、片山家と名前がそれぞれひとつ  
ずつ、しかし、花嫁と花婿が二組いるのである。そのからくりはこう。  
 
吉沢信二、二十二歳は、片山瑞希二十九歳と結婚、そして片山聡二十二歳が、  
吉沢裕香二十六歳と結婚する事になっていた。要するに互いの姉を伴侶として、  
今後の人生を歩むのである。信二は大学卒業後、役所へ入社、勤勉な公務員  
として働いている。片山も大学を出てから、地元の商社へ就職、裕香は大学で  
教員免許を取得し、瑞希と同じ中学校で教鞭を取っていた。  
 
分かりやすく言うと姉交換という事になるだろうか。しかし、これにはまだ裏が  
ある。まずはこれから挙式を控えた花嫁たちの様子から──  
「私、おかしい所、ありませんか?瑞希さん」  
「大丈夫、可愛いわ。私の方はどう?うまく化けられてる?」  
「そんな、狸じゃないんだし」  
裕香と瑞希は同じウェディングドレス姿で、お互いの身なりを確認し合っていた。  
特に瑞希は年齢的な事もあり、化粧を気にしてばかりいる。  
 
純白の花嫁衣裳はどちらにも良く似合っていた。間も無く挙式が始まるが、控え  
室には新郎の信二と片山も一緒である。  
「なあ、信二。どっちが綺麗だと思う?」  
「どっちも」  
「相変わらず、優等生的な答えだな」  
この二人も誰に恥じる事のない、立派な肩書きを今や備え、若輩ながらも結婚  
を反対されるような事は無かった。まして、相手が良く見知った姉同士とくれば、  
幼なじみが結婚するように、友人や肉親も惜しみないお祝いをしてくれた。  
 
二組の若夫婦はすでに住まいも決めてある。隣町に出来た新築マンションを  
二部屋、続きで借りてあるのだ。そこで、信二は姉、裕香と住む。片山は瑞希  
とだ。そういう段取りになっていた。仲の良い若夫婦二組が、頻繁にお互いの  
部屋を行き来する事は自然だし、まして姉弟であれば、親密な交際をしていて  
も、誰も不思議には思わないだろう。そこまで読んでの計画だった。  
 
いずれ、お互いの姉に子供が出来る事だろう。その時、産まれた赤子は戸籍上  
は血縁から離れる事になる。裕香が孕めば、それは片山家の子、瑞希が孕め  
ば吉沢家の子。だが、育てるのは本人たちだ。そういう取り決めがすでになされ  
ていた。  
 
これで信二と裕香は大手を振って、一生、一緒に生きていける。瑞希と片山も  
また然り。偽装結婚と言われれば聞こえも悪いが、二組の姉弟が幸せになる  
為には、これ以外に方法が無かった。  
「そろそろ行きましょうか、片山君」  
裕香がそう言って腕を組もうと肘を突き出した。また、瑞希も、  
「じゃあ、信二。私たちも」  
そう言って、信二と肩を並べた。  
 
控え室を出ればそれぞれの父親に送られ、二人の姉はバージンロードを歩く。  
それから夫、すなわち弟たちに引き渡され、後を宜しくと願いを託すのだ。奇妙  
な関係は、ここから幕を開ける事となる。  
「なあ、信二よ」  
「なんだ?」  
「今でもたまに思うけど、本当にこれで良かったのかな」  
「何を今さら」  
片山の不安は分からないでもない。信二は特に茶化す気にはならなかった。  
 
「姉さんたちの、幸せそうな顔を見れば、分かるだろう」  
「それもそうだな」  
「何があっても、俺たちはずっと一緒にやっていける。まあ、間違い無く瑞希さん  
のペースになるだろうが・・・」  
ここまでの経緯はほとんど、瑞希の手管によってなされてきた事ばかり。思えば  
してやられっ放しのような気はするが、結果として全員が幸せになる方向へ事が  
進んでいるので、信二たちに文句は無い。  
 
あの日、信二が初めて姉を抱いた後、この計画を発案した瑞希は今、嬉しいわ恥  
ずかしいわで、顔を赤く染めている。  
「私、三十路直前でお嫁にいけて良かった!ただでさえ、若い夫もらったって、  
友達に冷やかされてるのよ」  
「いいじゃありませんか。今時、七歳違いくらいは普通ですって。ねえ、あなたたち  
もそう思うでしょう?」  
「うん」  
「ああ」  
四人は顔を見合わせて、大いに笑った。その瞬間、式場内にあるチャペルの鐘が  
福音を奏で、白い鳩が一斉に庭から飛び立つのが、廊下の窓の外に見えた。  
 
 

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