鬼さん人を惑わせる
鬼さん人を狂わせる
蔵を覗いたお姉さん
頭むしゃむしゃ食べられた
蔵に入ったお嫁さん
骨をがりがりしゃぶられた
蔵の中身は鬼の国
見るな触るな関わるな
逝ったが最後還れはしない
そこは鬼頭川鬼の蔵
「ももこお姉ちゃん、今帰ったの?」
歌を口ずさみながら鞠を突いていた女の子が気配を感じ顔を上げると、
セーラー服に身を包んだ少し年上の少女が近づいてくるのが見えた。
「うん、さっき部活終わったところ。綱手ちゃんは?」
「今日は第一土曜日でうちはお休みだからお手伝いなし。
後でせつらお兄ちゃんと豆まきするんだ。ここんちの豆まきって変わってて面白いし」
すると家の縁側から、眼鏡をかけた少年が二人に話しかけてきた。
「桃子ねえ、お帰り。茶入ってるけど飲む?」
「ありがと刹羅君。もらっとくね」
「あ、あとそれから兄貴が探してたわ、めっちゃ機嫌悪そうな顔で。なんか心当たりある?」
とたんに桃子は表情を暗くしてわずかに俯く。
「……私にはないよ。あいつが勝手に当り散らすのはよくあることでしょ」
湯飲みにお茶を注いでいた刹羅の背後から、細身の少年が顔を出す。
「そりゃあ変だな。俺のほうには思いっきり心当たりがあるんだが……」
「あ、とーじお兄ちゃんこんにちわー」
「うん、こんにちわ。いやぁ、綱手ちゃんはかわいいね、どっかの誰かと違って」
瞳児がセーラー服の裾をいじっていた桃子へ笑いかけると、
「ほんと素直だよね、回りくどいいやみを言う誰かと違って」
と桃子も冷ややかな笑みで返す。
「ねえねえとーじお兄ちゃんとももこお姉ちゃん、後で4人で豆まきしない?
ここの豆まき、『福はー内、鬼もー内』って言うんでしょ、面白いよねー」
しかしそんな綱手の肩を、刹羅ががしっと掴んで家の奥へ誘導する。
「兄貴と桃子ねえは大事な話あるから豆まきできないってさ」
「え、そーなの?」
「ま、とにかく俺らだけでやろう、な。ぶっとい寿司もあるし」
年少の二人は奥へ引っ込んだ後、廊下を歩きながら背後の二人を見やる。
「大事な話って何なのかな?」
「……お前にも話せない話だよ、多分」
「あ、わかった!ももこお姉ちゃんがお兄ちゃん家にやってきた記念だよ、きっと。
もうそろそろ、ももこお姉ちゃん来てから1年になるもんね」
「ああ……去年の三月だからそんなになるか。短いような、長いような1年だったな」
「昔はあの二人仲悪かったのに、今ではすっかり仲良しさんだよね」
さっきの険悪な空気を思い出し、刹羅は苦笑する。
「うーん、まあ……昔に比べりゃ、な」
「あ、いけない、二人のところに鬼の面と豆忘れてきちゃった。
これじゃ豆まきできないよ」
「……豆なら蔵にもあるし、俺が画用紙で面ぐらい作ってやるよ」
対して年長の二人は、探り合うように会話を進めていた。
「なんで午後まである部活の練習の途中で帰ってきたのか理由を聞かせてもらおうか」
「どうせ携帯で後輩から聞いて知ってるんでしょ?いやな奴」
悪態を吐く桃子に、つとめて冷静に瞳児は問いただす。
「俺は当事者に直接聞きたいだけだ。親父とお袋に約束したよな、
部活も勉強もちゃんとやって、学校では問題起こさないって」
瞳児達の父母の名を出されると桃子の険が少し取れ、彼女は目を伏せた。
「……おじさんとおばさんとの言いつけを守らなかったのは、悪いと思ってる。
でも、どうしてもあいつら許せなくて」
「連中に飲みかけのコーラぶっかけて逃げ帰ってきたのか」
「私の陰口ならいいよ。父さんのおかげで言われ慣れてるし、言われてもしょうがないと思う。
でもあいつら、私だけじゃなくて」
「俺らの悪口を言った、てわけか」
「そうだよ、おじさんも、おばさんも、刹羅君もいい人なのに!
あいつら、化け物一家に私が飼われてて、
手毬歌みたいにそのうち私がみんなに殺されるなんて言ってたんだよ!馬鹿みたい」
思わず瞳児の口からため息が漏れる。
「そんな馬鹿の言うことでいちいち腹を立ててりゃ、お前もそいつらと同レベルの馬鹿だよ。
馬鹿なお前を庇うためにあとで親父たちは頭下げなきゃいけなくなるかもしれないんだぞ。
そっちのほうが迷惑だろうが」
その言葉に怯んで、ますます桃子は表情を暗くした。
「そうだよね……本と私って馬鹿だ……私なんて、いなくなれば……」
「今、……なんて言った?」
瞳児の口調に含まれたわずかな怒気に、桃子の肩がピクリと反応し、
先ほどの言葉を慌てて取り消す。
「え……?あ、ごめん、今のなし」
「『私なんて、いなくなれば……』確かに、そう言ったよな?」
鋏でじょきじょき画用紙を切りながら、刹羅と綱手は鬼の面を作っていた。
「ももこお姉ちゃん来たばっかのころはさ、とーじお兄ちゃんお姉ちゃんの事よくいじめてたじゃない?
いつもは優しいのに、時々すごい恐ろしい目でお姉ちゃん睨んでて、なんか怖かった。
いくら好きな女の子相手に正直になれないからって、いじめちゃ駄目だよね」
「ま、兄貴の気持ちもわからんでもないけどな」
「えー、せつらお兄ちゃんはいじめっ子の味方?」
「そーじゃねーけど」
「じゃあなに?」
「それは……」
言えるわけがない。
あの桃子が、父親の作った借金で金貸しから逃げ回っていたことを。
この家に引き取られたばかりのころは精神的にかなり参っていて、自殺したがっていたことなど。
「まあ、好きな奴にいなくなられる事を想像したら、誰だって辛いってことさ」
「?よくわかんないや」
桃子は必死に首を横に振って否定する。
「違う、さっきのはそういう意味じゃなくて」
対する少年の顔は、ぎらぎらと怒りに燃えていた。
「俺に約束したよな。もう2度と『いなくなる』なんて言葉は使わないって」
「その、死んでやるって意味じゃなくて」
「意味なんてかんけーねーぞ。俺の前で消えるだとかいなくなるだとか
そんな言葉を使ったてめえが悪い。久方ぶりにお仕置きの必要があるな」
「な、なにを」
「ああ、ちょうどそこにいい道具があるな」
瞳児は豆の入った袋を見ると、ニヤリと哂った。
そして彼がその袋を眺めたとたん、細身の少年の姿は内側から膨れ上がるように巨大化していった。
古来より、人を化かす鬼の伝承は日本各地に存在する。
ある者は美しき女の姿で、ある者は見知った家族に化け人を欺く。
そして現代に生きる鬼の血を引く少年――鬼頭川瞳児とその家族もまた、
人を惑わす力を持ち、鬼の本性を身の内に隠す者の一人だった。
ただ彼らが伝承の鬼と違うのは、その力で人に害を加えず人の社会に溶け込んでいること。
……ただ瞳児は、一人の例外にだけその力を用い危害を加え続けてはいたが。
蔵へと豆を取りに来た綱手は、常日ごろ抱いていた疑問を刹羅に問う。
「手毬歌ではなんで蔵に鬼がいて女の子を食べちゃうことになってるの?
本当は何にもいないのに」
「……この蔵は病院だったんだよ」
「病院?」
「そう、心の病を持つ人を治す施設だったんだ。
だからその患者さんたちを守るため、蔵には近づいてはいけないという歌だった。
でも、だんだんこのうちの富を妬んだ人たちの手で歌詞が改悪され、
俺たちの先祖は女の子を蔵の中にさらって人買いに売っていたってていうことになったらしいんだ。……わかる?」
「わかんない」
そこで、刹羅は小さく呟く。
「まあ、俺たちが鬼だってのは事実だし、あの人がここで女の子に悪さしてるのは確かだけど」
「へ、なんか言った?」
「……なんでもないよ」
「……お願い……やめて……」
「何を、だ?」
「豆、つままないで……」
少年が豆を摘むと、少女の体がびくりと震える。
『オヌの力』と呼ばれる幻惑術が、今彼女の精神を絡めとっていた。
ある時は2メートル近くある筋肉質な体躯を細く小さく見せ、
ある時は桁外れの運動能力を人並みの弱い物に感じさせる。
電磁波さえ狂わせるその術は、生物の感覚器官はおろか電子機器すら騙すことができた。
そして今瞳児が使っているオヌの力は、深い深い暗示の力。
そう、彼はオヌの力で、豆と彼女の肉体の一部の感覚を共有させていた。
彼が豆を摘めば、少女の敏感な部分が甘く激しく疼きだすようにしていたのだ。
「クリトリスをつままれるなんて、いつもやられてることだろう?」
ニヤニヤと笑いながら、少年だった鬼はその無骨な指で豆をこりこりと弄繰り回す。
「やだ……だめ、つなでちゃん……いるから、せめてかえってから……ああっ」
豆に加わる力が増し、少女は悲鳴を上げて悶える。
クリトリスに360度あらゆる方向から加わる立体的な快感。
腰が踊るように震え、声がすすり泣くようにあわ立つ。
「てめえが俺に何か要求できる立場だと思ってるのか?」
少女は目を瞑り脳を焼く愉悦を途切れさせようとする。
「ひっ、お願い……こんな、明るいうちからはだめ…………ひやああぁぁ」
鬼が指の間の豆を彼女の首筋に押し当て、擦り合わせた。
とたんに少女は内股になりながら地に伏す。
視覚を閉じても触覚で犯される。
目を閉じても駄目、下肢を激しい刺激が襲う今逃げ出すことも不可能だ。
涙目になりながら目を開けた少女の目の前に、
毛深い指に挟まれる二つの豆が移る。
少し間をおいてから、少女の体ががたがたと震え始め、
注射を嫌がる子供のようにいやいやと左右に首を振る。
しかし鬼はそんな脅えるさまを十分に眺め堪能してから、
その二つの豆をゆっくりと擦り合わせ始めた。
「ふあああぁぁぁっ」
自らの『二つのクリトリス』が接触し、摩擦するというありえない快感。
それは単体の豆をいじられる時の快感の2乗の破壊力であり、
幻惑術が使える鬼のみが可能とする淫技だった。
そんな激しい刺激に15歳の肉体が耐えられるわけもなく、すぐに限界が訪れる。
「やだ、だめっ、だめえええええぇぇぇっぇ」
もはや綱手の存在など忘れた桃子は、狂おしい鳴き声を響かせて意識を飛翔させた。
桃子の精神がようやくまともな人間並みの思考ができるほど回復した時、
すでに鬼はその部屋にはいなかった。
(開放された……の?)
ここ一週間は瞳児と刹羅の両親は仕事でいない。
そんな保護者のいない日に行われるお仕置きはいつも偏執的で長時間に及ぶのが通例だが、
それに比べてあまりにもあっさりとした終わりに桃子は戸惑っていた。
例えば2ヶ月前にうっかり自分はこの家を出るべきだと発言した時は、
半日近く気絶するまでじっくりと嬲られたし、
3週間前連絡もいれず夜中に帰ってきた時は
全裸のまま学校まで連れ出されて翌日まで愛液の水溜りが残るほど自分の教室でイかされ続けた。
そんな過去の罰に比べれば、今回の行為は格段に優しい。
(綱手ちゃんがいるから……かな?)
一息ついて、スカートの上から下着をそっと触ると、じんわりとした湿り気を肌で感じた。
(……濡れちゃった……)
何の気なしにそのまま近くにこぼれた豆を見つめる。
(こんな、小さな豆なんかでイかされるなんて……)
そしてそれを不用意に触った刹那、
「ひゃっ」
湧き上がる肉の戦慄きに叫び声をあげる。
(やだ……暗示、解いてないの……?)
「ももこお姉ちゃん、いるー?」
「あ……綱手ちゃん……」
ここでようやく、自分が壮大に果てた時このあどけない少女が
この屋敷のどこかにいたかも知れないということを思い出した。おどおどしながら桃子は問う。
「あのさ、変な声……聞こえた?」
「え?私せつらお兄ちゃんと一緒に蔵にいたからなんにも聞こえなかったよ?何の声?」
「ううん、何でもない」
蔵の中なら、何も外の物音は聞こえない。桃子は、その事実を身をもって知っていた。
いや、桃子の知識と経験を正確に言い表すならば、「蔵の中でどれだけ大声を出しても外には聞こえない」
事を知っているのだが。そこで、桃子はいやなことを想像してしまう。
「ねえ、その、刹羅君といっしょにいて……変なこと……されなかった?」
「え、別にせつらお兄ちゃんはいつものように優しかったよ?」
思わずほう、とため息を吐く桃子。
(まあ、あの刹羅君がそんなことするわけないか……)
ようやく初潮の始まった中学生にあの優しい刹羅がそんな真似をするわけがない。
(ああ……私がこんな妄想しちゃうのも、刹羅君を疑ってしまうのも全部あいつのせいだ……!)
「で、とーじお兄ちゃんに言われて来たんだけど」
「え、な、なに?」
想像していた人物の名を上げられて、思わず素っ頓狂な声を上げる桃子。
「豆まきしてもいいよね?」
「え、だ、駄目よそんなの!」
今はできることなら豆のない世界へ行きたいぐらいなのに。
「え、あ、だめ、ちょっと待って」
「えへへ、そんなこと言ってやる気満々じゃない」
「へ?なにが?」
「なにって、お面」
そこでようやく桃子は、自らの視界が不自然に狭まっていること、
それが鬼の面をつけているからであろうことに気づく。
(あいつだ、私が呆けている間にあいつが――――!!)
あの男は何も知らない綱手に豆まきをさせ、間接的に桃子を辱めるよう仕向けていたのだ。
「じゃ、いっくよー」
無邪気に綱手が叫ぶとその手に枡を構えて桃子に近づいてくる。
なみなみと豆が入った枡を持って。
「ひ、いやああああああ」
狂気のような悲鳴をあげ、桃子は走り出す。
(逃げなきゃ、逃げなきゃっ!)
このままもし彼女が豆を投げてきたら、どんな衝撃が襲い掛かるのか。
二つの豆を擦り合わせるだけで彼女の身体は臨界点を突破したのだ。
大量の豆をぶつけられ、耐えられるわけがない。
いやそれ以前に、大量の豆を枡から掬い上げるところを目撃するだけで、
彼女の下半身はぐちゃぐちゃになるだろう。
しかし、廊下へ出た桃子は更なる絶望に打ちひしがれる。
そこには、床一面に大量の豆が撒き散らされていた。
「あいつっ……!」
「どうしたの、桃子お姉ちゃん?なんか、さっきから様子変だよ?」
ごくありふれた節分の光景も、暗示をかけられた少女の目から見れば地雷原と同じだ。
もしこの豆の中を突っ切ったとき、彼女の足が、あるいは背後から迫る少女の足が
擬似クリトリスを踏みつければ、人一人分の体重が桃子の敏感な部位を襲うことになるのだ。
恐怖に震え後ろを向いた桃子の目に、
「いっ」
何十粒もの豆を握り締めた綱手の握りこぶしが映る。
「いやあああああああぁぁっぁぁぁ」
急速に下半身の一点が爛れた熱を帯び始める。
心配する声を振り切るようにして綱手の横を走りぬけ靴下のまま玄関を飛び出る。
しかし屋外にも、豆のトラップは仕掛けられていた。散りばめられた、豆、まめ、マメ。
まるでガードレールのように、玄関の両脇から蔵の入り口まで2本の豆の垣根が伸びる。
結果桃子は、その真ん中の何もない空間を走るしかない。
後ろから何か叫びながら綱手がついて来ているようだが、もうどうでもよかった。
風が吹いて枯葉が豆に触れるだけで、悪夢のような快感に身悶えしてしまうのだから、
ただただ豆のない場所へ一目散に走っていくしかない。
それがあからさまな誘導と気づく余裕もないまま、蔵の方へと走る。
(はやく、蔵の中へ……!)
母屋から蔵まで半分といった場所に来たとき、後ろを着いてきた綱手がひときわ大きな声を上げた。
そして何か大きな物が倒れる音が響く。
0コンマ数秒後、桃子の脇を何かが飛来するのを、スローモーションのような動きで桃子は視認していた。
それは、大量の豆。
桃子を追った綱手が転び、そのまま枡の中身を盛大にぶちまけたのだ。
(あ……)
一瞬が豆が体の脇をかすめ飛んでゆくゆっくりとした映像を見ながら、
桃子は呆けたように表情を緩めた。
続いて起こる、床と、地面と、桃子の体への豆の接触。
「あああああああああぁぁっぁぁああああああああっっ!!」
1秒にも満たない時間の間に起こる、クリトリスへの連続刺激。
まるで何十発もの弱いデコピンを淫核に受けたような地獄のような鋭い痛みと、
その後にじわじわと訪れるクリトリスが溶けるような不思議なむず痒い快感。
天を仰ぎ、両手を握り締め、お尻を突き出しながら、
少女は屋外で盛大に上りつめる。
そして転んでいる少女が顔を上げる前に大きな影が桃子を蔵の中に引きずりこみ、、
蔵の扉を閉めたとたん、しょわわ〜〜〜〜
と水音を立てながら少女は失禁しながら気を失った。
「もう、どうにでもして」
鬼の腕の中で、意識を取り戻した少女は諦めたように呟いた。
自らを抱きしめる図太い腕の主のぎらついた欲望を肌で感じながら、彼女はもう全てを捨てた。
少女の体が床に敷かれた布団の上に放り投げられるが、
彼女はほとんど反応しなかった。
自らを慕う女の子の近くでイかされお漏らしをし、クリトリスを秒間数十発のスピードでノックされた。
心も体もこれ異常ないほど疲労し、磨耗している。
もう、どうにでもなれ――――桃子はそんな風に捨て鉢になるのもしょうがない話である。
鬼の筋肉質な体が、か細い少女の体に覆いかぶさる。
腿は彼女の腰ほどもあり、掌は彼女の頭全体を塞ぐほどの大きさだ。
全ての体の部位が彼女のそれを一回り上回っており、
まるで子供が大人に悪戯されるかのような光景だった。
もちろんそのペニスも大きく、20センチもの長い肉棒がびくびくとそそり立っている。
すると、鬼はひとつの箱と袋を用意し、その中から風船と豆を取り出した。
その荒々しい指が豆を摘み上げただけで
「ひあぁ……」
と桃子は掠れるような嬌声を上げてしまう。
ああ、また豆だ。
また豆を、体に擦り付けられるのだろう。
でも、もういい。抵抗するのもだるい。
飽きるまで、私を好きにすればいい。
「はひぃ……」
しかし、鬼は、豆を弄くる事をせず、風船の中に詰める。
樹脂の上に落下する感覚だけで、甘い声が漏れる。
しかし……
(……何をしようとしているの?)
2回も脳を融かされた桃子には鬼の行動が理解できない。
こんなところで風船など持ち出すはずがないという基本的なことに頭が回らない。
それがコンドームであるということに気づいたのは鬼がそれをペニスに装着した後だった。
肉と人口の薄皮の狭間に、何十粒もの豆が入るようにして。
そこまで見て、クリトリスに熱いペニスの脈動を感じて、ようやく少女は鬼の意図に気づく。
「う……あ……」
何もかも諦め黒く塗りつぶされていた彼女の瞳が、恐怖による狂気の炎で埋め尽くされる。
今から行われるであろう行為のおぞましさに、その歯ががちがちと音を立て始める。
「おあああああああああああああああああっ!!!」
10秒後には臓腑の奥底から吐き出すような悲鳴をあげ、床の上を這いながら逃げようとする。
相手が体だけでなく、心まで鬼である事を忘れていたのだ。
「どうにでもしていいんだろ?」
豆が巻き込まれたコンドームを身に着けた鬼は、嗜虐的な笑みを浮かべて彼女に近づく。
這い回るといっても、クリトリスを殴打された余韻が残りろくに動けない体だ。
そんな彼女を布団の上に連れ戻すなど、
彼女の太ももぐらいの太さの二の腕を持つ鬼には造作もないことだった。
「だめだめだめっ、ほんとにだめ、しぬ、しんぢゃうしんぢゃうそんなのしんじゃう!!!」
涙をこぼしながら少女は正気を失い首の筋肉が千切れそうな勢いで首を左右に振る。
しかし鬼は、一片の躊躇もなく少女の内へと入っていった。
「っっっっぁぅっぅっっっっっぅっっっ!!!」
鬼がペニスをぐいっと彼女に突き刺すと、獣でなければ聞き取れない高音の絶叫がほとばしる。
何十ものクリトリスがペニスとヴァギナに挟まれたまま擦り上げられるという超絶的快感に、
わずか数センチの摩擦で白目を剥きがくがくと際限なく少女は震え続けた。
「くはぁぁっ」
快楽のとどまらぬ少女の全身を鬼がゆっくりと抱きしめる。
限界を越えた少女の頭から分泌される脳内物質が、彼女の全身を性感帯に変えたため、
硬く大きく逞しい筋肉が皮膚を押しつぶすだけで少女の体はびくびくと戦慄く。
その耳元で、鬼がくすぐるように囁く。
「しんでしまえ」
意志が消えた。
「なっ、なにをぉっ!」
「俺の前から消えてしまうぐらいなら……俺の手で、よがり殺す」
「あ……ああああぁぁ」
理性が飛んだ。
「俺の傍にいることだけしか幸福を感じなくしてやる。
俺を受け入れた時だけしか喜びで満たされないようにしてやる。
俺の前から消えるぐらいなら、死んだほうがましだと思えるぐらい快楽の虜にしてやる」
矜持が死んだ。
鬼の囁きに、彼女の中の人間性が一つ一つなくなり、後には劣情を求める獣性のみが残った。
「あ……ああ、して、して、ころして、つきころしてぇぇっっ!!」
獣の声は、もはや意味を成さなかった。
ただ性欲に従い、吼えるように求めるのみ。
鬼は、彼女の中で抽出運動を開始する。
「しぬしぬしぬしぬひぬひぬひぬうううううううぅぅぅぅぅぅっっっ」
数秒置きに、少女の体をアクメが襲う。
彼女の両腕は関節が固定されたかのように挿入された時から
同じポーズをとったままでただただ痙攣し続け、
その瞳孔は極限まで開ききり眼球全体がレム睡眠時のように
高速でがくがくと上下左右へ滅茶苦茶に揺れ続ける。
もはや彼女の姿は、狂人のそれに他ならなかった。
「しぬっ、しぬぅしぬぅしぬっしぬいきすぎてしぬううううううぅぅぅぅぅっっっ」
そして彼女の内で、鬼が真っ白な福を解き放つ。
しかし鬼の体力は一度や二度の射精で萎える事がない。
「ごりごり、ごりごりしてえ、わたしのクリでなかをごりごりかきまわしてええええぇぇぇぇ」
その夜、朝方まで蔵の中に少女の嬌声がこだまし続けた。
翌日目を覚ました桃子は、よろよろとした足取りで蔵を出る。
まるで雲の上を歩いているかのように、足の裏がふわふわとしている。
見るものも聞くものも、ブラウン管の中の出来事のように現実感が伴わない。
(ああ……私はまた犯されたんだ。体も心も、ぐちゃぐちゃに)
「ももこお姉ちゃん、大丈夫!?」
と、いきなり背後から青い顔をした少女が飛びついてきた。
「きゃ……え、どうしたの、綱手ちゃん?」
「あのね……昨日の夜、ここの家からものすごい悲鳴が聞こえてきたの!」
「え……?」
「私が転んで気がついたらお姉ちゃんいなくて、
せつらお兄ちゃんが大丈夫って言ってたけど気になってたら、
夜中にあの手毬歌みたいに『しぬ』とか『ころして』とか言う女の人の声が聞こえてきて、
ももこお姉ちゃんが歌のようにに食べられてるのかと思って気が気じゃなくて」
「え、え、え」
「それでお父さんやお母さんに警察呼んだほうがいいかなっていっても全然聞いてくれなく……
どうしたの、ももこお姉ちゃん?」
真っ赤な顔をした桃子が、蔵から出てきて生あくびをする少年に詰め寄る。
「ど、ど、ど、どういうこと!」
「何が?」
状況が飲み込めず怪訝な顔をしたり、赤くなったり青くなったりしている二人の傍に
咳払いをしながら刹羅が近づきそっと上を指差す。
「窓……開いてる」
呆然とする桃子の傍を通り抜け刹羅は綱手に近づき、
頭を撫でながらそっと安心させるように呟く。
「あれな、テレビの音だよ。昨日俺が映画を大音量でつけてたから」
「え……そうなの?」
「ああ、だってほら、あんな女声兄貴も俺も出せないし、
あんな高い金切り声桃子ねえのとも違うだろ?」
「それは……そうだけど」
「だから、そんな脅える必要はないぞ。それよりあの蔵の窓開けたの綱手か?」
「あ、……ごめんなさい、昨日蔵に入ったとき空気悪かったから開けといたけど、
そのままにしてたみたい」
「駄目だぞ、ちゃんと閉めとか」
刹羅と綱手のやり取りはぱしっという乾いた音で遮られる。
刹羅が振り向くと、桃子が瞳児の頬に平手を食らわせていた。
「か……確認しなさいよ窓ぐらい!もういや、こんなの!
絶対出てく!こんなとこ、出て行ってやる!」
「ほう、出て行く……つまり、俺の前からいなくなるってことか」
一瞬瞳児がすごむと桃子は怯んだが、すぐににらみ返してつかつかと正門のほうへ歩いていった。
「絶対、絶対出てく!」
それだけ叫ぶと、後ろも振り返らずに門をくぐっていった。
「おい兄貴、なんか今回桃子ねえ本気っぽくないか?」
「そんなことより、庭の豆を掃除したのはお前か?」
「ん?そりゃそうだろ、あんなものほっといたらカラスとか野鳥が食いに来てフンまみれになるし」
「正門前は、掃除したのか?」
「あー、敷地外まではやってないや。あとでやっとくか」
「そいつは結構」
瞳児がにやりと笑うのと、正門前から桃子の甲高い悲鳴が上がるのはほぼ同時だった。
程なくして内股で顔を真っ赤にした桃子が蔵の前に戻ってくる。
「カラスが……啄ば……」
息も絶え絶えにうわごとを呟く少女の腕を、瞳児ががしっと掴み取る。
「さっき言ったな、『ここを出てく』と3回も」
とたんに桃子の赤い顔が、サーと青くなる。
刹羅は綱手の腕を掴むと引っ張るようにして彼女を蔵の前から移動させる。
「昨日の豆残ってるから食ってけよ」
「じゃ、ももこお姉ちゃんたちも」
「また二人で大事な話があるってさ」
そして残された桃子も、その腕を瞳児に引っ張られ、蔵の中へと引きずり込まれる。
「3回言ったから、昨日の3倍すごいお仕置きだな」
「いやっ、ほんと二日連続であれの3倍とか普通に死んぢゃ」
ばたんと蔵の戸と窓が閉じると、広い庭に静かな静寂だけが残るのだった。
「でもよかった、ももこお姉ちゃんが食べられてなくて」
「……現在絶賛捕食中だと思うが……」
「へ、何か言った?」
「いや、なんでも」
終わり