「もう一年になるんだね。」  
ご主人様が、窓の外を見ながらぼんやりとそんなことをおっしゃいました。  
「何のことでございましょう」  
わたくしは、本当に忘れていたのです。  
「君がこの屋敷に来たのは、ちょうど去年のこの日ではなかったかい?アリス。」  
「あっ…。はい。そうでございます、ご主人様。」  
「一年間、よく頑張ったね。」  
ご主人様は、とてもお優しい。  
わたくしの目を見て、いつもにっこりを微笑んでくださる。  
このお屋敷に来れてよかった、と何度思ったことでしょう。  
「ありがとうございます。ご主人様にお仕えできて、アリスは幸せ者でございます」  
深々とおじぎをしたとたん、ご主人様がクス、と笑われたのです。  
「アリスはまじめだね。」  
「あ、あのっ…す、すみません!」  
「どうしたの。僕は褒めているんだよ。」  
さあ、と言って、ご主人様はサンルームのソファから立ち上がられ、寝室へお戻りになられるとおっしゃいました。  
ここのところご主人様は、お母上が亡くなられ、後を追うように父君が亡くなられ、さまざまなお仕事に奔走されたのがお体に触ったのか、お疲れの色が濃くなっておいででした。  
お体を見ていただいたところ、過労と言うことだったものの、すこし精神的にお疲れなのではとお医者様も心配されておいででした。  
わたくしたちも、ご主人様のそばにおりながら、特別な力になることはできず、無力さをただ感じるばかりでございました。  
「ご主人様、寝室の御用意はできておりますが、お部屋が少し寒いかも知れません。わたくし、ストーブの火を見てまいります。」  
「いいよアリス。ベッドさえあたたかければ僕はそれだけで眠れるんだから」  
「でも…」  
「わかったよ、じゃあ一緒にいこう。」  
 
長い長い廊下を、ご主人様の後について歩いて行きます。  
このお屋敷にお住まいなのは、ご主人様だけ。50をこえる部屋が有りながら、たったひとり。  
これから冬なのに、寒くてなんだかお可哀相…。  
ギィっと重厚な扉を開くと、大きな天蓋付きのベッドと、赤々と燃える暖炉の火が目に入りました。  
「あたたかくてよかったよ、アリス。」  
「はい、ご主人様」  
「アリス、忙しくなければしばらく私が眠るまでそばにいてくれないか」  
そんなことは、初めてでございました。  
いつも凛としているご主人様ですから、そのような、まるでちいさなお子さまのようなことをおっしゃるとは夢にも思いませんでした。  
「わ、わたくしでよろしければ…」  
「そう。よかった。アリスがいいんだ、僕は…。」  
 
ご主人様は、わたくしより3つ年上でいらっしゃいます。  
いちばん年が近いと言うことで、お茶のお相手や、ゲームのお相手など、他のメイドには言いつけにならぬような事でも仰せつかってまいりました。  
けれど、寝室にはあまり入った事がなく、いつもはメイド長や執事が出入りしておりました。  
今日は成行きとはいえ、少々緊張してしまうのは仕方がありません。  
「アリスは、何か悩みごとがある時は、誰に相談するんだい?」  
「わたくしに悩みなどございません…。ですが、もしそのような時は、故郷の母に相談します…」  
「そうか。アリスのお母さまは御健在なんだね。」  
「す、すみません、わたくし……」  
「いいんだよ、僕は母がいないことをいつまでも嘆いているわけではないのだから」  
「申し訳ありません…」  
 
ご主人様がひろいベッドにお入りになるのを手伝いながら、わたくしは何度か謝りました。  
「ねえアリス。君はベッドをあたためたことはある?」  
「えっ…?ベッドをあたためる、ですか…」  
「そう、冷たいんだ…このベッドは。」  
「失礼しました、ただいま炭を持ってまいります!」  
後ろを向こうとした腕を、ご主人様がとても強いお力で掴まれました。  
「こんなことをいうのは卑怯だとは分かっている。」  
ご主人様の、まっすぐで、お強くて、でもどこかお寂しそうな瞳が揺れておられました。  
「わたくしがあたためるだなんて、そんな…いけません、わたくしはメイドでございますご主人様」  
「そんなことは分かっている。アリス。」  
わたくしの腕は解かれましたが、わたくしはそこから動くことができませんでした。  
いつもお1人で頑張っておられるご主人様が、わたくしのまえでしずかに涙を流されておられるのです。  
わたくしは、お咎めを受けても構わないと心に決め、ご主人様の御髪をそっと撫でて差し上げました。  
いつも陽の光を受けて柔らかに輝く御髪は、今日はすこし乱れておいででした。  
ご主人様は、わたくしにしがみつき、わたくしの胸で声を殺しながら泣いておられました。  
「すこしお疲れなんですわ…ご主人様…」  
ご主人様のベッドの中へ引きずり込まれることに、わたくしは抵抗できませんでした。  
わたくしが、少しでもお慰めできるなら…。  
 
一年前の今日、初めてお顔を拝見して以来、わたくしはずっとご主人様が好きでした。  
こちらから思いを打ち明けることなど、できるわけはないのに。  
お茶の時間、お夜食の後のチェスの時間、毎日ではないもののお声をかけていただけるのが嬉しかった。  
ワインセラーをお見せいただいた時も、うす暗い部屋に二人きりになることに、どれだけ緊張したことでしょう。  
自分のはしたなさに落ち込んだり、またご主人様の優しさに触れて元気になったり…  
そんなことの繰り返しで、今日まで来られたのでございます。  
 
広いベッドの中で、わたくしに覆いかぶさるようにしながら力一杯に抱き締めてくださるご主人様。  
しばらくするとおちついたのか、わたくしにふわりと優しくくちづけてくださいました。  
「ご主人さま…」  
「ごめんアリス…」  
「そんな…ご主人様が謝るなんて…いけませんわ…」  
「アリスの事がどうしても頭から離れなくて…ずっとこうしたくて…」  
フリルのついたエプロンは取り払われ、黒いワンピースのファスナーを下ろすご主人様の手にぞくっと震えてしまいました。  
やがてワンピースが抜けて、わずかに残ったものを、優しく撫でるようにご主人様が剥いでゆきます。  
ひんやりとした手の感触に、思わず…  
「あっ……」  
「ごめん、手が冷たくて…」  
「い、いいえ…だいじょうぶですご主人さま…」  
「アリスの肌はさらさらして気持ちがいいね…。それに、いい香りがする」  
くるくるとご主人さまの手が身体中を這い回り、わたくしは感じるままに声を出してしまいました。  
「あ…ぁ……っ、ご、ご主人さま……っ」  
 
「アリス…」  
最後の布が取り払われ、ご主人様はわたくしの茂みにゆっくりと指を差し入れてゆきます。  
あつくて、心が破裂してしまいそうなくらい…  
「ああぁんっ……」  
「いい声だね、アリス…」  
ご主人様は少し嬉しそうに、長い指をすすめて来られます。  
身体中の熱がそこへ集中してゆくのがわかります。  
もう、わたくしはどうすることもできず…ただ、狂ったおもちゃのように何度もご主人様を呼び続けます。  
「わ、わたくしだけこんな……ご主人さま、も……あっ…!!」  
寝巻きを脱がれ、傾いた陽にご主人様のからだが陰になっておられました。  
細いのにこんなに逞しいなんて…。  
何度もわたくしの唇を吸われ、胸に顔を埋め、足を絡ませるご主人様が、いつもと随分違って、すこし怖いようでもありました。  
初めて経験する、大人の男性…  
「アリス…君は、初めてだよね…?」  
「は、はい…もちろんでございます…」  
恥ずかしくて、もう言葉になりません。  
「アリス、好きだよ…ずっと好きだった…」  
ご主人様はそう囁かれると、その優しさとは裏腹に、その力強い部分をわたくしに押しあてられました。  
鈍い痛みと、それに続く引き割かれるような痛みに、わたくしはご主人様にしがみつくしかありませんでした。  
「ご、ご主人さま…っ!!」  
「すこし我慢して…アリス…痛いだろう…痛いだろうけど…もう少し……」  
「はい……あッ!!!」  
 
熱くて、太いものが何度も何度もわたくしの中を往復し、痺れるような甘い痛みを残してゆきます。  
互いの蜜がくちゅくちゅと音を立て、ご主人さまがとおくでわたくしの名を何度も呼んでくださいます。  
「アリス…アリスっ!!」  
ふっくらと大きくなった胸をご主人さまの大きな手に包まれ、心地よい刺激に我慢しきれなくなった声がますます大きくなってゆきます。  
「ああっ、ご主人さまぁっ……!それ…以上は……はぁんっ…!!」  
「う……ッ!…ア…リス…っ!!」  
鈍い痛みがやがて甘い痛みに変わり、甘い痛みは激しいまでの官能を呼び覚まし…  
わたくしは、ご主人さまに何度となく突かれながら、絡み合った脚を解くことができませんでした。  
もっとご主人様によくなっていただきたい。  
その一心で…。  
 
やがて、激しいご主人さまの動きが一瞬止まり、すぐにドクン、ドクン、と痙攣したようにわたくしの中が弾けました。  
とろりとした感触が、わたくしの脚を濡らしてゆきます。  
「ご主人さま…おなかが…あつくて……」  
「アリス…」  
ご主人様は、わたくしを力一杯抱き締められ、何度も、何度もキスをしてくださいました。  
ご主人さまをわたくしの肌が、ぴたりとくっついて、その柔らかさに酔ってしまいそうです。  
初めての事なのに、全然嫌なことはありませんでした。  
 
それからは、お茶の後やお休み前にご主人様の寝室へ出向くことが多くなり、その度にご主人様はわたくしをベッドの中で抱き締めてくださるようになりました。  
この前は、朝のお茶をお持ちした時にも…  
でも、それはまたこの次のお話といたしましょう。  
 

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