<山姫さま>  
 
「迷っ……っちゃった……?」  
雅人(まさと)は、山の中でつぶやいた。  
自分の声の弱々しさにますます心細くなる。  
きょろきょろと辺りを見渡しても、今、山のどのあたりにいるのか全然分からない。  
春休みを利用して祖父母の家に遊びに来たのはいいが、  
穏やかな日差しと風に誘われるまま、  
家の裏の山から続いている奥山のほうに行ってみようと思ったのが間違いのもとだった。  
はじめて踏み入れる山道は意外と面白く、少年は誘われるようにして奥へ奥へと進んだが  
ふと帰り道を意識したとたん、突然山は牙を剥いた。  
帰り道は、ない。  
ないというよりも幾つもあるように見える。  
「……」  
少年は泣きそうな表情でもう一度あたりを見渡したが、  
いくつも分岐した山道は、都会っ子の少年が見分けられるほど甘いものではなかった。  
──夕暮れが近い。  
一呼吸ごとに空気が冷えていく。  
つい先ほどまで雅人に微笑みかけていた山は、  
今や、迷い込んだ少年の苦境も知らぬように冷酷で意地が悪い風貌を見せていた。  
「うう……。お腹すいたよぅ……」  
昼食を食べ損ねていたことを思い出すと、空腹はにわかに耐えがたいものになった。  
「なんでこんなところまで来ちゃったんだろう……」  
自分でも不思議なくらいに強く沸いた「山の奥へ行きたい」という衝動の代償は、  
夕暮れの深山で遭難しかけている自分だった。  
後悔と同時に、祖父母の忠告が思い出される。  
 
(――奥山には絶対に行ってはいけない)  
(――山を知らない人間は、絶対に迷うし、……なにより奥山には山姫さまがおられるでな)  
 
山姫(やまひめ)。  
奥深い山に住む妖怪、鬼、あるいは女神の類で、山姥(やまんば)の同族という。  
山姥と違い、紅い十二単に緋袴という目にも鮮やかな姿の若く美しい女の姿であるが、  
その恐ろしさは、山姥をも上回るという。  
なぜなら、山姫に微笑みかけられ、それに微笑み返してしまった人間は、  
首筋から彼女に血を吸われ、――そして二度と山を降りてくることはない。  
 
ついこの間、雅人がここに遊びきた夏休みも、近隣の山中で行方不明者が続出し、  
大掛かりな山狩りが行われたばかりだった。  
もちろん少年は、祖父母から聞かされた伝説を鵜呑みにしていたわけではないが、  
旧家の末裔である少年の家には、「捜索」のために、どこかからやってきた遠い血縁の人間が集まり、  
なにやら深刻に話し込んでいたのを見ている。  
(奥山には、何かがある)  
どう考えても、警察や村役場の捜索隊とは異なる雰囲気の  
「遠縁」の人間たちのことを思い出して、雅人はちょっと身震いした。  
あの人たちが怖いわけではなかったが、彼らがここにやってきたことには、何かしら理由がある。  
捜索者たちには、そう思わせる佇まいがあった。  
何か──すなわち、奥山の何か。  
(もしかしたら、本当に山姫さまがいるのかも……)  
先ほどまでの自分なら笑い飛ばしていた迷信も、今なら心の底に容易に入り込んでくる。  
黄昏時──逢魔が時には。  
(と、とにかく歩かなくちゃ)  
涙が出そうになるのをぐっと堪えて歩き出そうとしたとき、突然声をかけられた。  
「――どうしたの?」  
驚いて振り返る。  
ついさっき、辺りを見渡したときには、絶対にいなかった人影が、どきりとするほど近くにいた。  
「あ……あ……」  
その人影が「人」ではないことは、見た瞬間に分かった。  
たとえ、美しい少女の姿をもっていたとしても。  
 
人外の美少女は、白で出来ていた。  
その十二単(じゅうにひとえ)は、全て白色。  
だが、それぞれ異なる手の込んだ織りで作られた単(ひとえ)は、  
一枚一枚がそれぞれまったく別の白色に見える。  
襟元からのぞく首筋や袖から見える繊手は、さらに白く透き通るようだった。  
そして、少女の体と衣服の中で色があるのは、その髪と瞳と唇。  
地面まで届く直ぐい髪は、今洗いたてたような艶やかさな黒。  
そして同じく、吸い込まれるように澄んだ双眸も、漆黒。  
唇だけが、血に濡れたように紅い。  
何よりも、その人間離れした──人外の美貌。  
祖父母から聞いた話とは、身にまとう色が違っていたが、  
目の前の美少女が山姫であることを、少年は一瞬にして悟った。  
 
そして、白と黒と赤だけで存在する人影は、にっこりと笑った。  
つられて少年が笑い、――恐怖に青ざめた。  
祖父母に教わった伝説を思い出して。  
──山姫に微笑みかけられ、微笑み返した者は、  
──首筋から生き血を吸われ、二度と山から戻らない。  
 
「……あ…あ……」  
少年は金縛りにあったように立ちすくんだ。  
山姫は、微笑を浮かべたままゆっくりと雅人の首筋に朱唇を近づけた。  
「……!!」  
その牙が少年の頚動脈を引き裂──かなかった。  
ちゅっ、という音を立てたあと、山姫の唇は雅人の首を離れた。  
「……え?」  
「微笑み返してくれたわね。――これで、貴方は私の物。ついていらっしゃいな」  
血を吸うことなく身を翻した乙女のことばに、少年は抗いがたいものを感じた。  
音もなく山道を歩き始めた山姫を追って、雅人は歩き出した。  
あたかも吸血鬼のしもべとなった被害者が、主人に盲目的に従うかのように。  
 
「――あの……」  
返事が返ってくるとは思わなかったが、  
雅人は、1メートルほど先を歩く乙女の後姿に声を掛けずにいられなかった。  
「なあに?」  
先ほどは気が動転してわからなかったが、山姫の声は少年が想像したものよりも、若い。  
茶目っ気すら感じる華やいだ声は、どこか浮き浮きとしているようにも思えた。  
神秘的な美貌と装束をのぞけば、まるで、少し年上なだけの少女に思える。  
「き、君って……山姫……さま?」  
「そうよ。当たり前じゃない」  
あっさりと帰ってきた声に、少年は一瞬絶句する。  
「……血、吸わないの?」  
「……吸われたいの?」  
くるりと振り返った美貌の中心にある二つの澄んだ瞳が、雅人を貫く。  
どきり、と少年の心臓が高鳴る。  
「あ、あ、……い、いや……」  
「そう。よかったわ。私、姉さまたちと違って赤いの、嫌いなの。――ほら」  
裾に手をかけた乙女が、それをぱっと引き上げたのを見て、雅人はわっと、声を上げて驚いた。  
「なあに、変な声を出して?」  
「あ、い、いや、何でもない……です」  
山姫の動きに、スカートめくりを連想したなどとは言えず、少年は口ごもった。  
奥山に住まう人外の乙女が持ち上げたのは十二単だけで、  
その下にあるのは下着ではなく、袴だった。  
──純白の。  
山姫は、白一色の十二単の下に、これも白い袴をつけているのだ。  
「緋袴を穿く姉さまたちは、赤いのが好きだから血を吸うみたいだけど、私は白が好き。  
だから、血は吸わない。貴方からも別なものを貰うわ」  
袴の色は、好んで口にするものに関連するのだろうか、そんなことを言った山姫は、  
ぱっと裾を下ろすと、また歩き始めた。  
「ど、どこに行くの……?」  
「私の家に決まっているじゃないの。貴方、お腹がすいているんでしょ? おいしい御飯、ご馳走してあげる」  
 
山姫の言う「家」は、遠かった。  
途中、何度も分岐した山道を通る。  
黄昏時は、先ほど少年に見せた冷淡さとはうって変わって、  
また穏やかな黄金色の世界を見せていたが、  
あまりにも長い時間を歩かされて、少年は焦った。  
「あの……どこまで行くの?」  
「もう少しよ。疲れたの?」  
「ううん」  
確かに、疲れてはいない。  
歩く気力も心の奥底から振り絞らなければならなかった先刻と違って、  
一歩一歩が軽やかに前に出る。  
「そう。この「道」は、私の物だから、貴方にも負担をかけないはずだわ」  
奥山の支配者は、踏みしめる土に魔法をかけることができるのだろうか。  
足の裏から伝わる感触は、どこまでも優しいものだった。  
「……だけど……」  
ぐう、と少年の腹が鳴った。  
いかに協力的とは言え、道は空腹までは癒してくれない。  
「我慢なさい、もう少しなんだから」  
山姫がそう言ったとき、少年は、道から少し離れたところに木の実を見つけた。  
「あ、ヤマモモ……」  
祖父母の家の庭にも植えられているそれは、少年にとって馴染み深いものだった。  
だが、見たこともないくらいに大きく育ったそれは、  
季節はずれの赤黒い実をつけていなければ、きっと別の木だと思ったことだろう。  
「おいしそう……」  
祖父母の家で甘酸っぱい実を食べた記憶が、空腹の少年に行動を取らせる。  
思わず駆け出して実をもごうとした。  
山姫が振り向いて、悲鳴を上げた。  
「――だめっ! その木はまだ私に懐いていないのっ!」  
 
「痛っ……!」  
伸ばした手が、鋭くとがった小枝に傷つけられる。  
少年は驚いて手を引っ込めた。  
勢い良く手を伸ばしたけれど、身の手前にこんな小枝があったとは気がつかなかった。  
少年はゆっくりと手を伸ばして、――またも小枝に肌を裂かれた。  
「……何、これ……」  
「「道」に戻りなさいっ! その木はまだ私を主と認めてくれていないの!!」  
山姫の狼狽しきった声に、少年は振り向く。  
わさっ!  
背後で、何かの気配がした。  
少年は背中の「それ」を確かめることなく、本能的に前に逃げた。  
「道」に戻った瞬間、「それ」の気配は消えた。  
恐る恐る振り向くと、ヤマモモの巨木は、先ほどと同じように静かに佇んでいるだけだった。  
「……」  
「――よかった。あの木は、姉さまに一番懐いていた木なのよ。  
だから、人間には良い感情を抱いていないわ。  
貴方を容易に殺すことが出来る力を持っているのよ」  
その言葉が嘘でないことを、少年は瞬間的に理解していた。  
奥山には、人智を超えた存在がいくつも存在する。  
山姫がいるのなら、人間を殺せるヤマモモの古木も存在するだろう。  
「あの……姉さまって……?」  
少年は、山姫の言葉に出てきた人物に興味を抱いた。  
「……私の前のこの山の山姫。――もう身まかられてしまったけれども……」  
その辛そうな表情に、少年は口を閉ざした。  
山姫も、目を背けながら沈黙している。  
ぽたり。  
二人の間に落ちた静寂を破ったのは、少年の手から落ちた、血の雫だった。  
「……あっ!!」  
山姫が見る見る青ざめた。  
 
「血……、赤いの……、嫌あぁっ!!」  
山中に、山姫の金切り声が響き渡った。  
「え……」  
人外の美少女の突然の狂乱に、少年は目を丸くした。  
思わず、駆け寄ってなだめようとする。  
「嫌っ、嫌っ、近寄らないでっ!!」  
山姫は後ずさりして少年を拒んだ。  
吸血の女神は、少年が手の甲から流す僅かな血に、猛烈な拒否反応を起こしていた。  
「……はやく、これで、傷をぬぐってっ!!  
わたしに、血を見せないでっ! 赤いのを見せないでっ!!」  
山姫は、今にも向こうへ駆け出してしまいそうな及び腰になりながら、  
それでも袖を振って純白の布を取り出した。  
少年に投げつける。  
受け止めた少年が、手の傷にそれを当てると──見る見る傷がふさがった。  
血をぬぐうと、そこには傷跡一つ残ってない。  
「消えた? 赤いの、消えた?」  
声は、地面のほうからした。  
山姫は、しゃがみこんで震えていた。  
目をつぶり、黒髪の頭を自分の手で抱え込んで、少年に質問している。  
「うん……消えた」  
いかなる力なのか、血をふき取ったはずの布は、純白のままだ。  
今さっき、自分がヤマモモの小枝で傷付けられたことが、  
まるでなかったような現状を見て、少年は目を丸くした。  
──もうひとつ、まるで何事もなかったようなことがある。  
少年の返事を聞いたとたん、山姫はすっくと立ち上がった。  
雅人の手の甲を見て、そこに傷──血がないことを確認すると、  
山姫は、くるりと向きを変えてまた歩き始めた。  
「どうしたの? 付いていらっしゃい」  
人外の美少女のあまりの変わり身の早さに、少年は、もう一度目を丸くしてから、  
駆けるようにしてその後を追った。  
 
──家、と言うのはつつましい表現だった。  
山姫の住まいは、山中に立てられた御殿だった。  
瓦葺も真新しい屋敷は、誰がどうやって建てたものか想像もつかない。  
その一室、青畳が香る部屋で、雅人は、泣き出しそうになっていた。  
山姫は、約束どおりご馳走を用意してくれた。  
何百畳あるか想像もつかない大広間に並ぶ膳の上には、  
山の珍味がずらりと揃えられている。  
見るからに美味しそうな食べ物の数々を前に、しかし、雅人の空腹は収まらなかった。  
 
「……食べられないよう、こんなの……」  
少年は、恨めしげに膳の上を見つめた。  
そこにあるのは、皿にのっている白い餅。  
だが、どんな搗(つ)きかたをしたものか。  
餅は、とうてい少年の歯が立つものではなかった。  
それは、金剛石より硬いのではないだろうか。  
無理に噛みしめれば、歯のほうが砕けてしまうにちがいない。  
物理的な硬さ──搗いた「もの」の剛力の他に、  
あきらかにこの世ならぬ「力」が加えられた食物だった。  
<神食>と、人は言う。  
妖しの、鬼の、そして神の、食べ物は、常人の食せるものではない。  
少年の困惑顔に、山姫はにっこりと笑って隣の皿を取った。  
「……あらあら。では、これならどう?」  
その上にあるのは、真っ白な握り飯。  
しかし、それも同じことだった。  
石よりも硬く密度のある握り飯を、少年は飯つぶ一つばらすことさえできなかった。  
「……まあまあ。それじゃ、これなら?」  
泣き出しそうな表情の雅人を見て、山姫はくすくすと笑いながら、その隣の椀を取る。  
椀の中で輝いているのは、白い御飯。  
しかし、理想的な炊き上がりを湯気と匂いで証明するそれは、  
小砂利のように硬く、少年の咀嚼を拒んだ。  
 
「……だめ……」  
口に含んだ飯を、椀のふたに吐き出しながら、少年は涙目になった。  
少年は、ずらりと並んだご馳走を目の前にして、絶望的な空腹感に襲われていた。  
「――ふふふ、仕方ないわね」  
山姫はなぜか上機嫌で笑い、御飯の椀を取り上げた。  
その艶やかな微笑みに、少年は背筋をぞくりと這い上がるものを感じた。  
 
「……こっちに来なさい」  
山姫は、箸と椀を手に持ちながら山姫は、雅人を促した。  
「あ……はい」  
素直に従った少年を、笑みを濃くして見つめた人外の美女は、  
白飯を一塊、箸でつまみあげると、自分の口の中に放りこんだ。  
箸と椀を置き、山姫が目を閉じる。  
わずかな咀嚼音が聞こえた。  
山の女神は、神のための食物を容易にかみ砕いた。  
何度も何度も口の中の飯つぶを丁寧に噛みしめ、やがて、山姫は目を開いた。  
「――」  
すっと手を伸ばし、側に座った少年を抱き寄せる。  
「……!?」  
驚いた少年がもがく前に、山姫は、その唇を自分の唇で奪った。  
金縛りにあったように硬直した雅人の唇を割り、その口中に何かを流し込む。  
どろどろの粥に溶けた、人外の白飯を。  
その甘く、温かく、かぐわしい液体は、何の抵抗もなく少年の喉を通り過ぎた。  
「!!」  
雅人の眼が見開かれた。  
 
「ふふふ……」  
「あ、あ……うわ……」  
突然のことに混乱する頭と、胃の腑に収めた久々の食物の美味に少年は言葉もでなかった。  
その様子を目を細めて眺めた山姫は、また白飯を口に含むと咀嚼を始めた。  
噛み終わると、また口移しで少年にそれを与える。  
「……白い御飯、おいしいでしょう? 私ね、食べるものも白いのが大好きなの。  
たんとお上がりなさい。お腹いっぱいになるまで食べさせてあげるわ……」  
その言葉通り、山姫は少年が満足するまで、口移しで粥を与え続けた。  
「ふわあ……」  
最後の一口を飲み込んだ雅人は、唾液の糸を引きながら唇を離していく山姫を呆然と眺めた。  
少年にとってはじめての口付け。  
それは、人ならぬ美しさを持った山の女神からのものだった。  
少年は、恥ずかしさに顔から火が出るようだった。  
「……あ…れ……」  
いや、血がまわっているのは、顔だけではなかった。  
全身が、火照るように熱い。  
「ふふふ、どうしたの?」  
山姫が、くすくすと笑いながら雅人の顔を覗き込む。  
「い、いや、なんでも…ない……です……」  
少年は、もじもじと身体を動かしながら、かすれた声で答えた。  
嘘だった。  
身体の中が、どこかおかしい。  
しかし、反射的に大丈夫だと答えてしまったのは、  
それが少年にはなじみの生理現象を伴っていたからだった。  
ズボンを押し上げる、股間の中心。  
それが、いやらしい雑誌やDVDを見たときよりも、ずっと強く自己主張しているのは、  
美しい少女から口付けを与えられたせいなのか。  
――意識したとたん、怒張はさらに激しくなり、少年は身もだえした。  
 
「なあに、どうしたの?」  
山姫が近づく。  
かぐわしい吐息。わずかに白飯の豊潤な香りがまじっている。  
それを吸っただけでますます下半身が猛るのを感じた少年は、  
思わず後ずさりして逃げようとした。  
しかし限界にまで張り詰めた少年の男性器は、  
その動きだけでも衣服にこすりたてられ、雅人をますます窮地へと追いやった。  
人外の美少女は、そんな少年に容易に追いついた。  
青畳の上で、少年に抱きつき、耳元でささやく。  
「ふふふ、おち×ちん、熱いでしょ?」  
「――え?」  
少年は自分の耳を疑った。  
だが、山姫は、もう一度、その単語を彼の耳元でささやく。  
「おち×ちん、大きくしちゃったのね?」  
神秘的な山の女神が、到底口にすることがないようた卑猥なことばに、  
少年は驚きとともに、身体と心がしびれるのを感じた。  
山姫の漆黒の瞳に淫靡な光が宿る。  
それは獲物を捕らえた獣のそれに似ていた。  
「うふふ」  
抗う術もなく青畳の上に転がされた雅人の上に、白い十二単がのしかかる。  
体重はほとんど感じられない。だが、体温は感じられる。  
「うわあっ!」  
不意に、身体全体に電流が走ったように、少年は身を仰け反らせた。  
山姫は、その繊手を雅人の股間に這わせていた。  
ズボン越しに、しなやかな指の動きが伝わる。  
「すごい……。この……袴の上からも貴方のおち×ちんが大きくなっているのがわかるわ」  
ジーンズという単語を知らないのだろうか、一瞬逡巡したが、  
うまく自分の知っている単語に置き換えた後は、山姫の言葉はすらすらと出てきた。  
男性器の卑称を口にする時は、舌なめずりせんばかりの表情すら浮かべて、  
美しい山の女神は少年に擦り寄った。  
 

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