<刑部(おさかべ)姫>  
 
今日も一日いろいろ大変だった学校も終わった。  
ちょっと涙目になっているのをごしごし手で拭う。うん。これで元通り。  
――まず手洗いとうがいをしなきゃ。  
うちのママはそういうところがものすごく厳しい。  
どういうわけか分からないけど、昼間働いているママは、  
家にいなくても僕が手洗いとうがいをしたかどうか、  
ちゃんとわかっていて、やっていない日はうんと叱られる。  
ママが言うには、一目見ればすぐに分かるんだそうだ。  
……そんな鋭いママでさえ気がつかないのだから、  
「あの女(ひと)」はやっぱり、普通じゃないんだろう。  
 
手と顔を洗ってうがいもした後、僕はため息をついて自分の部屋に向かった。  
2階の廊下の突き当たりで立ち止まり、壁にもたれかけさせている金属の棒を握る。  
棒の先っぽを天井についている出っ張りに掛けて、引っ張ると、折りたたみのハシゴが降りてくる。  
それを伸ばしてトントンと上がっていけば、僕の部屋だ。  
ハシゴを上る時、廊下のあっち側にある大きなドアをちらっと恨めしげに眺める。  
このお家を立てるとき、僕は2階に僕の部屋が欲しいと言ったんだけど、そこは結局パパの書斎になった。  
友達のどこの家も、昼間は全然家にいないパパが、  
ママと二人で使う寝室のほかに書斎まで持っているところなんてないんだけど、うちは別だ。  
なにしろ、ママがパパにものすごく甘い。  
「ただいま新婚○○年目!」を言い張るママは、ほんとの新婚さん並にパパにめろめろで、  
パパが「子供は屋根裏部屋で勉強するものだ」と、  
どこの国の常識かわからない話をすると、一も二もなく賛成しちゃった。  
もっとも、ママもパパの書斎が大好きなようで、パパの休みの日は書斎に入り浸っている。  
もちろん昼間は僕も入れて家族で遊びに行ったりするけど、  
夕食前のちょっとした時間とかは、二人でなんだかごそごそやっている。  
そういう日は、大抵ママが妙につやつやしてご機嫌で、パパが少しやつれている。  
そして、夕食はうなぎとか焼肉とかご馳走なことが多い。  
まあ、パパが書斎を持っていることとか、  
そのせいで僕の部屋が屋根裏部屋になったこととかは、ほんとは嫌なわけじゃない。  
屋根裏部屋は窓が大きく取ってあって見晴らしもいいし、  
こうして天井からハシゴを取り出して登るのも、秘密基地みたいでわくわくする。  
僕は、僕の部屋が大好きだ。  
でも──。  
僕が屋根裏部屋に上るのを躊躇してしまうのは……。  
 
「――むむ、帰ってきたかや」  
部屋の真ん中に敷いてある畳の中央にちょこんと座っていた人影が声を掛けてきた。  
「ただいま……戻りました」  
僕は、僕よりもちっちゃいかもしれない相手に挨拶をした。  
その声に、その女(ひと)はちょっと眉をしかめる。  
柳のように細く整った眉のことを「柳眉」と言って、美人の代名詞だというけど、  
その女(ひと)は、まさしくそれだ。  
「むむ、相変わらず心のこもらぬ礼じゃな。そういう時は、  
<麗しきご尊顔拝し奉りまして恐悦至極でございます。  
○×△学校□年☆組、池田太郎助(たろすけ)、ただいま戻りましてございます>  
と申すものと教えたはずじゃ」  
「……覚えられないです、そんな長ったらしい挨拶」  
「長ったらしいとはなんじゃ。そもそも、  
<姫君様にあられましては今日も一段とお美しく>とか  
<かんばせを拝し奉りまして、拙者感謝感激雨あられでございます>とか  
<ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレカイジャリスイギョノスイギョウマツ……>などと  
続けなくてはならないのじゃぞ?」  
「全然意味が分からないですっ!」  
僕はほとんど叫ぶようにしてわめいた。  
でも、和服──それもものすごく豪華な紅の着物をまとった人影は全然動じなかった。  
「まあ、よい。許してつかわす。感謝いたせ」  
と、まるで僕が悪いかのように言い放つ。  
 
「そもそも、なんで、貴女が僕の部屋を占領しているんですか?」  
僕は今まで何度も繰り返してきた質問を、今日もまた投げかけた。  
そう、彼女──刑部姫(おさかべひめ)さまは、この屋根裏部屋の先住民だった。  
お家が建って、僕たちが前のマンションから引越ししてきた初日、  
僕は、僕の部屋にこの和服姿の姫さまがいることに気がついて仰天した。  
以来、毎日のようにこの質問をしている。  
「……なぜ居るのかと言われても、ここはもともと、わらわの住処じゃ」  
長い黒髪が艶やかな美姫は、柳眉をしかめて僕を睨みつける。  
「もともとって、ここはパパが建てたお家でしょ!」  
「……わからぬ童子(わらす)じゃの。  
おぬしの家は「天守閣の一番上を守り神であるわらわ捧げる」という盟約を結んでおる。  
だいぶ狭いが、この部屋は今の館で一番高い位置にある部屋じゃ。ゆえに、わらわの物じゃ」  
……僕の家は、たしかに、戦国時代のお殿様の末裔だ。  
お城を建てるときに、土地神様とそういう約束をした伝説があるのも知っている。  
でもご本家とか、ご先祖さまの住んだお城とかはちゃんと残っていて、僕の家とは関係ない。  
でも、この刑部姫さまに言わせると、  
コンクリートで作ったお城やマンションは、天守閣として認めないそうだ。  
だから、分家の分家の、そのまた分家の、何代分かれた先かわからない僕の家が  
木造二階建てで新築になったとき、引っ越してきたらしい。  
だけど、ここは僕の部屋だ。  
「――昨今の<ジュータクジョーキョー>の厳しさとやらはわらわも知っておるわ。  
童子の一人や二人と同居でも苦しゅうない。許す」  
……刑部姫さまはこともなげに言い切って、僕の抗議を封じて、今に至る。  
不思議なことに、パパもママも、姫さまが屋根裏部屋にいることに気が付きもしないし、  
そもそもここまで上がってこようとしない。  
「わらわが招かぬ限りは、たとえ城主といえども天守の上の階まで上がってはならぬしきたりじゃ。  
昔は、一年に一度、当主と話をする場を設けたが、  
嫡男のおぬしがこうして毎日わらわのご機嫌伺いにまいるとなれば、それも必要あるまい」  
 
僕は姫さまのご機嫌伺いをしているつもりはないんだけれど、  
たしかに、その「しきたり」には何かしら不思議な力があるらしい。  
パパもママも、決して屋根裏部屋には上がってこなかったし、  
無理に連れてこようとすると、必ず何か──宅急便が玄関のビルを鳴らしたり、台所の鍋がふきこぼれたり、  
会社から急な電話がかかってきたりして、その場を離れなければならなくなる。  
何度かそういうことを試した後、僕は、両親にこの状況をどうにかしてもらうことを諦めた。  
 
「……ときに太郎助。この本は他にないのかえ?」  
僕が不思議な居候のことで内心ため息をついていると、  
その当の本人は、またろくでもないことを言い出した。  
「ありません!」  
僕は反射的に叫んで、赤くなった。  
刑部姫さまが今まで興味深々の様子で眺めていたのは──エッチな本。  
塾の帰りに駅で拾って勉強机の引き出しに隠していたのを見つけられた。  
刑部姫は、ものすごく興奮した様子で僕からそれを取り上げて見入っていた。  
なんでも、「最近の娘っ子は発育が良いのでたまらん」そうだ。  
女の人なのに、女の人の裸に興味深々なんて、変なの、と言うと、  
「わらわは男も女もいける口じゃ」と返事された。  
<いける口>というのは意味がよく分からないけど、質問はしない。  
昔、酔っ払ったパパが「ママは前も後ろもイける口なんだぞー」と話していたことがあって、  
後でママに意味を聞いたら、ママは真っ赤になって僕の頭を何度も叩いて怒った。  
多分、子供は聞いちゃいけないことなんだろう。  
だから、僕は<いける口>ということばには近寄らないことにしている。  
──だけど、今回は、その相手が向こうから近づいてきた。  
姫さまは、部屋の中央に鎮座する畳(部屋はフローリングなんだけど、  
姫さまがダダをこねたので、パパに言って敷いてもらった)から飛び降りると、僕のほうににじり寄る。  
「むむ、本が駄目なら、<いんたあねつと>はどうじゃ?」  
僕の勉強机の上置いてあるノートパソコンをちらちらと見ながら言う。  
「だ、駄目だよ。あのパソコンはエッチなサイトに入れないようになってるんだもん!」  
「むむ、しかしその<せきゅりてい>とか申すのは、おぬしがこないだ解除したのじゃろ?」  
 
……ばれてる……。  
僕の三日間に及ぶ奮闘の成果は、姫さまにはちゃんとわかっていたらしい。  
結局、僕は、姫さまといっしょに、エッチなサイトを見ることになった。  
「むむう。やはり最近の娘っ子は発育が良いのう!」  
ノートパソコンを食い入るようにみつめる姫さまは、ほう、とため息をついた。  
刑部姫さまは、――正直発育が悪い、というより幼い外見だ。  
戦国時代とか、江戸時代とか、それよりもっともっと昔から生きているのだから、  
ものすごい年のはずなんだけど、見かけは僕とそんなに変わらないんじゃないか、と思う。  
でも、中身はすごくオトナだ。  
……それは、しっかりしているとかそういう意味じゃなくて、  
「むむっ! この<さいと>は、そそが丸見え<むしゅうせい>ではないか!  
でかした、太郎助!! 誉めて遣わす!!」  
いやらしいことが好きって意味で、とってもオトナ……。  
刑部姫さまは、鼻息も荒く画面に見入った。  
<しきたり>の魔力で、パパもママもこの部屋には上がってこないのはこういう時、楽だ。  
「太郎助、次の絵を見せてたもれ! 動く絵のほうじゃぞ」  
「はいはい……」  
僕はエッチな動画をクリックした。  
ものすごいおっぱいのお姉さんが、たくさんの男の人にエッチな事をされる動画が始まる。  
姫さまは手を叩いて喜んだ。  
「おおおっ!! まぐわっとる、まぐわっとる!! やりおるのう!!  
おお、まらをしゃぶり始めたぞえ、しかも二本じゃ。右の男(おのこ)のは随分と大きいのう。  
あ、もう子種を出しおった。この早漏めが。してみると、左の男のほうが当りじゃの。  
いやいや、待て待て、右のほうは早いが、子種をたっぷりと出しおるわ。まだ出し終えてない。  
おお、娘っ子の顔じゅうが子種まみれじゃ。これはこれでなかなか見ものよ……」  
刑部姫さまはご機嫌な声で実況解説を始めた。  
どれも同じような内容のエッチな動画は、正直、何本か見れば飽きてくるんだけど、  
この女(ひと)が楽しそうに話し始めると、ものすごいエッチな内容に思えてくるから不思議だ。  
……もっとも、ものすごい美人の女の子と、いっしょに見ていると、  
どんな駄作でもそう感じてしまうのかも知れない。  
 
「――おお、いよいよまぐわいの本番かや? 男の方はまらをいきり立てておるわ。  
お、入ったぞえ、入ったぞえ。それも、太郎助の言う<こんどおむ>とやらを付けておらぬわ。  
この男、娘っ子を孕ますつもりかの。……おおっ、もう一人は尻の穴に入れるつもりかえ?!  
昔は小姓の尻が好きな大名が多かったが、女の後ろの穴でするのは考えもしなかったわ。  
長生きはしてみるものじゃのう……。おお、この娘っ子、まだ飽き足らず別の男の物をしゃぶり始めたわ。  
左右の手でもまらをしごいておる。ひい、ふう、よお……五人も同時に喜ばせておるわ」  
ノートパソコンの中で続いている動画を見ながら、姫さまは手を叩かんばかりにはしゃいだ。  
「……」  
はじめのうちは、姫さまの嬌声に相槌を打っていた僕は、途中から押し黙ってしまった。  
エッチな動画を見ているのがいやになったのではなくて、――その逆。  
刑部姫さまは、声まで可愛いというか綺麗と言うか、とにかくすごく魅力的なんだ。  
それが、ちょっと古風な口調だけど、こんなにエッチなことをしゃべっているのを  
聞かされていると、――なんだか変な気分になってきちゃう。  
まして、姫さまは、僕と椅子を半分こして座っているから、ぴったりひっついている。  
さらさらとした絹の服と、もっとさらさらとした姫さまの黒髪が僕の手に触れたり、  
どんなお香なのかわからないけど、とにかくいい匂いの姫さまの香りが鼻腔をくすぐってきたり、  
吐息や体の温かさとかが伝わってきて、僕は──。  
「――まらが、勃ったかや?」  
いつの間にか、刑部姫さまはノートパソコンの画面ではなく、僕の顔を覗き込んでいた。  
大きな瞳が、きらきらと光っている。  
赤い舌を出して、ぺろりと自分の唇をなめる。  
僕は、それを見ただけで、金縛りに合ったように硬直した。  
「ふふふ、まぐあうかや、太郎助? いつもの通りに」  
刑部姫さまは、にんまりと笑って僕の耳元でささやいた。  
そう。  
僕は、この綺麗で奇妙な同居人と、もう何度も交わっている。  
美人で、恐くて、いやらしいことが大好きな不思議な女(ひと)と……。  
 
「んむ。……ふ、ふ……」  
僕の下半身を裸にした姫さまは、すぐに僕のおち×ちんに舌を這わせた。  
紅い紅い舌が、軟体生物のように自在に動く。僕は椅子に腰掛けたまま痙攣した。  
「あっ……ああっ……」  
「ふふふ、良いかえ? 良いかえ?」  
身体を震わす僕を見て、刑部姫は嬉しそうに笑う。  
「さすがは逸物で国一つを取った男の末裔じゃ。先ほどの男どもより、何倍も逞しいぞえ」  
白魚のような指が、僕のおち×ちんをつかんで、上下にこすり上げる。  
「うわっ……、そ、それダメぇぇっ!」  
僕は腰を跳ね上げそうになったけど、姫さまは、もう片方の手を太ももに置いてその動きを封じた。  
「ふふ、出すときは、わらわの中に出してたも」  
「……う、あ……」  
びくんびくんと脈打っているおち×ちんを、きゅっと握った。  
僕は心臓とおち×ちんが、きゅん、とするのを感じた。  
刑部姫さまのあそこは、狭くて、きつくて、ぬるぬるしていて、とっても気持ちがいいんだ。  
はじめて姫さまにしてもらったとき、  
──つまり、引っ越してきて、はじめて屋根裏部屋に登ったとき──から、  
毎日のようにしてもらっているけど、何度してもすごく気持ちいい。  
それに、姫さまは、「する」時に「ヒニン」をしないんだ。  
学校の保険の授業で「セックス」する時は、「ヒニン」しなきゃダメって教わったけど、  
刑部姫さまに言わせると「まぐわいは、子種を女(おなご)の中に出すものじゃ」と言い張って  
いつも僕に中で射精させる。  
一度、パパの書斎からコンドームを(学校の授業で見たからすぐにわかった)を持ってきて  
使ってみようとしたけど、姫さまが途中ですごく不機嫌になったから、  
それからずっと、「ヒニン」はしてない。  
「また、やや子の心配かや? おぬしは気が細かいのう。  
ふふ、わらわとおぬしでは子はできぬだろうから、気にするでない」  
姫さまは、僕の懸念を屈託なく笑い飛ばして、僕の上にのしかかった。  
いつもは、そこから僕のおち×ちんを姫さまのあそこに入れていくんだけど、  
今日はいつもと違っていた。  
 
「……」  
「……?!」  
姫さまは、何度か僕のおち×ちんの先っぽに自分のあそこをこすり付けた。  
柔らかくて温かい感触が、僕の一番敏感な部分をなぶり、僕はうめき声を出した。  
「ふふふ……」  
いつもはそこから一気に腰を沈めるんだけど、今日の刑部姫さまはもう一度腰を浮かす。  
再度腰を沈めると、おち×ちんの先にいつもと違った感触が伝わった。  
「え……」  
「うむ。いけそうじゃな……」  
姫さまはにやりと笑った。  
「ひ、姫さま、そこって……」  
「尻の穴じゃ。わらわもここでしたくなった。今日はここでするぞえ」  
目をきらきらと(いや、ぎらぎらと?)輝かせる姫さまは、本気だ。  
「後ろの穴でさせるのは初めてじゃ。――光栄に思え」  
とっさのことに僕はことばもなく口をぱくぱくさせるだけだったけど、  
……おち×ちんはいつもより固くなったのを自覚した。  
姫さまのお尻──「まぐあい」のたびに見ているけど、  
白くて柔らかくて、でもどこか固さが残っていて、壊れやすい宝物のように綺麗だ。  
その中心にある小さなすぼまりが、女の子にとって  
あそこ以上に恥ずかしくて秘密な場所ということは、なんとなく知っていた。  
その花園に、唐突に招かれる。  
好奇心に満ち溢れた高貴な姫君の戯れは、僕の予想とか想像とかをいつも超越する。  
混乱する頭よりも、おち×ちんのほうがずっと素直だった。  
「来よ。――わらわのここは狭いぞえ、覚悟しいや」  
指先で僕の物を押さえながら、姫さまは勢いよくしゃがみこんだ。  
「んああっ!!」  
「んっ……くっ……!!」  
二人の悲鳴は、最初は甲高く、やがて甘くかすれていく。  
いつものあそことは違う交わりに、姫さまも、僕も目が眩むような快感を覚えた。  
 
「――くふっ。痛いかと思ったが、なれて見ると、これは……なかなか……。  
男(おのこ)同士で楽しむ輩が解せんでおったが、なるほど、今はよう分かる」  
何度か上下に腰を動かした後で、姫さまは僕の上でにんまりと笑った。  
インターネットで覚えた新しい快楽にご満悦らしい。  
でも、僕は声もなく震えるのが精一杯だった。  
「ふふ、どうじゃ、わらわの穴は?──ほほ、聞くだけ野暮かの」  
あそこでする時よりも、何倍もきつく締まった穴で何度もしごきたてられる。  
汚いところ(と言っても、姫さまがそこを汚いことに使うのかは疑問だけど)  
に入っているという感覚はまったくなかった。  
姫さまの、あそこよりももっと秘密の場所、それも誰も入ったことのないところに  
おち×ちんを突きたてたということに、僕は心臓がバクバクするくらいに興奮していた。  
身体と、気持ちの両方の気持ち良さに、びくびくと全身が痙攣する。  
「ふふ、子種を出すかや? わらわの中に出してたもれ」  
姫さまは、僕の上に上体を倒すと、そうささやきながら僕の唇をなめた。  
その舌に、自分の舌を絡ませようと伸ばす。  
舌が逃げる──刑部姫さまの笑いが色濃くなる。  
同時に姫さまの腰の動きが激しくなり、きつい孔に締め付けられた僕のおち×ちんが限界に近づく。  
「ひ…め…さま……」  
泣きそうな声でつぶやいた唇の上に、いたずらっぽく笑った刑部姫さまの舌が戻ってきた。  
何度かなぶるように僕の舌をつつく。  
「うあっ、姫さま、……僕、もう、ダメっ!!」  
がくんがくんと腰を震わせながら叫ぶ。  
刑部姫さまがぐっと顔を近づけた。姫さまの舌が僕の舌に絡みつく。  
その瞬間、僕は、姫さまの中に射精していた。  
びゅくん、びゅくん。  
姫さまのお尻に、僕の精液がどくんどくんと注ぎ込まれる。  
姫さまは、きゅうっとおち×ちんを絞り上げて、  
僕のそれを一滴残らず吐き出すように無言で命じた。  
そして、僕は、その姫さまの命令に従った。  
 
──はあはあと、荒い息をついて僕は畳の上で脱力した。  
ものすごい満足感と虚脱感が僕の全身から力を奪う。  
「ふふふ、いつもより倍も出したぞえ……。  
太郎助は、いやらしい子じゃ。歴代の当主で一番いやらしいわ……」  
姫さまが、にやにや笑いながら耳元でささやいた。  
「そんなこと、ないです……」  
自分でも確信なさそうに聞こえる抗議に、姫さまは笑みを濃くした。  
「わらわは、いやらしい太郎助が好きじゃぞ」  
「……!!」  
なぜか、エッチな事をしているときより、恥ずかしくなって僕はばたばたと暴れた。  
「ふふふ」  
その様子を笑って眺めていた姫さまが、ふと真面目な顔になった。  
「じゃから、太郎助を泣かす奴ばらは許さぬ。  
太郎助が泣いていいのは、わらわとまぐわっている時、気持ちよすぎて泣くときだけじゃ」  
「え……」  
屋根裏部屋の交わりの中ですっかり忘れていたほんの二時間前の出来事を思い出して、  
僕は、びっくりとした。  
「なんで……わかるの……?」  
姫さまは無言で、僕に自分の顔を近づけると、僕の目の下をぺろりとなめた。  
「ひあっ」  
くすぐったさに、悲鳴を上げる。  
「涙の匂いは、よう分かるぞえ。――誰にやられた?」  
優しく、だけど、逆らえないくらいに厳しいその視線と問いに僕は、  
誰にも言わないでおこうと思っていた、  
僕の事をものすごくいじめる女の子のことをしゃべってしまっていた。  
「――ふむ」  
刑部姫さまは、一言頷いて立ち上がった。そのままハシゴを降り始める  
「ひ、姫さま、ど、どこに──?」  
屋根裏部屋から一日中出ることのないはずの姫さまの行動に、僕は慌てた。  
「決まっておる。そやつに償いをさせてやるのよ」  
刑部姫さまは、僕が見たこともないような冷たい瞳で応えた。  
「そ、そんな……」  
僕は青くなった。  
あの娘がいくらお金持ちで、お家もすごくても、――所詮は人の世での話。  
何百年も生き続ける女神さま、それも祟り神様が相手では……。  
「……わらわは尻の穴の狭い女じゃ。――それはおぬしが今日、よおっく知ったであろ」  
怒り狂った冷たい瞳のまま、嫣然と笑った姫さまは、ものすごく綺麗で、  
こんな時なのに、僕は思わずごくりと唾を飲み込んだ。  
「――じゃから、わらわは自分の男(おのこ)が攻め立てられて黙ってはおれぬ。  
かならずや、その娘に報いを受けさせる」  
さきほどの笑顔とはまったく異なる微笑を浮かべた刑部姫さまは、階下に消えていった。  
 
                                       前編終わり  
 

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