「う〜あづい〜」  
纏わりつく暑気から逃げるように寝返りをうっても、暑さが和らいでくれるはずもない。  
もうこれで何日目か覚えてすらいない熱帯夜に、奈々美は寝付くこともできずベッドの上で煩悶していた。  
全身に浮いた汗がべとつき、せっかく寝る前に風呂に入ってさっぱりした気持ちもすでに跡形もない。  
(もう1回入ってこようかな……)  
とはいえ、明日の朝も奈々美はラジオ体操にいかなければならない。  
ずる休みなど母が許すはずがなかった。  
今からもう1度シャワーを浴びていたら、一体どれだけ寝られるのかわからなかった。  
けれど、このままでもそれはそれでいつまで経っても眠れそうにない。  
(だいたい、どうしてせっかくの夏休みだっていうのに、早起きしないといけないのよ。  
 せっかく学校がないんだから遅くまで寝てたいのに)  
無駄なこととわかっていても、奈々美はつい心の中で愚痴を零してしまう。  
(……まあ、そうさせないためのラジオ体操なんだってことくらいわかってるけどさ)  
せめて自分の部屋にもクーラーがあれば。  
そんなことを考えながら、奈々美はまた寝返りをうとうとした。  
「……え?」  
身体が、動かなかった。  
(うそ? なに?)  
いきなりの事態に一瞬で頭の中がパニックになる。  
金縛りという単語が真っ先に思い浮かんだが、固まっているというよりは神経が寸断されて脳の指令が手足にまで届いていないような、そんな感覚だった。  
晩ご飯の時に見た怪談番組の内容が頭によぎって、一瞬背筋に寒気が走る。  
 
――カサ――  
 
「ぃ!?」  
かすかに聞こえた物音。  
普段なら気にもとめないようなそれに、今は心臓を絞り上げられたような錯覚に陥った。  
固いもの同士が擦れ合うような、かすかな音。  
さっきまで全身にまとわりついていた熱気は、今はもう嘘のように感じられなくなっていた。  
心臓の鼓動がまるで階段を駆け上がっていくように早くなる。  
さっきまでとは違う、もっと粘ついた嫌な汗が、奈々美の全身にじっとりと滲み出してきていた。  
 
――カサ――  
 
「ひっ!」  
また同じ音がして、恐怖のあまり息が詰まる。  
けれどその一方で、改めて聞くとどこかで聞いたことがあるような気もして――、  
「あ……」  
思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。  
(これってヤドカリの……)  
少し前から飼い始めたオカヤドカリ。  
それが動く時、さっき聞いたような音が聞こえていたことを思い出した。  
水槽に顔を近づけてようやく聞き取れるほどのかすかな音だったが、今は深夜で雑音が少ないから聞こえてきたんだろう。  
もしかすると恐怖のあまり感覚が鋭敏になっているのかもしれない。  
音の正体がわかったことで、奈々美は心底安堵を覚えていた。  
もちろん金縛りの問題は全く片付いてはいない。  
それでも『幽霊の正体見たり枯れ尾花』、ことわざ辞典で覚えたそんな言葉を思い出し、この音にビクビクしていた今までの自分が一気に恥ずかしくなっていた。  
身体は動かないままだが、それでも1つ謎が解けたせいか、奈々美の心にわずかに余裕が生まれ、それでようやく、自分の状態を確認するだけの冷静さが戻ってくる。  
「ぁ……ぁ……」  
(声は、出せる。  
 目は…………)  
少しだけ瞼を震わせてみると、一応開けられそうだった。  
(でも、開けてもし目の前に何かいたらどうしよう)  
この手の話では定番の、何かが圧し掛かったくるような重さは感じていない。  
けれど、幽霊なんてもともと重さがないのが普通だとも思う。  
そう考えると、なかなか思いきれるものではなかった。  
 
――カサ――カサ――  
 
(ああ、もうこの音はいいんだって。  
 今はそれどころじゃないのに、うるさいなぁ)  
 
――カサ――カサ――カサ――  
 
(……え?)  
その音が、前より大きくなったような気がして――、  
「ひぅっ!?」  
横向きに寝ている奈々美のうなじに、何かが触れた。  
少し湿った、硬い――感触。  
 
――カサ――  
 
再びその音が、すぐそばで聞こえた。  
首の、すぐ後ろで。  
そんなはずはなかった。  
ヤドカリを入れた水槽には蓋がちゃんとついていて、出てこられるはずはない。  
けれどそっき感じたあれは――もちろんうなじになどヤドカリをあてたことはないが――ヤドカリに指で触れた時そこで感じた感触と同じもののようで――、  
「……!」  
足の裏を何かがまた掠めていく。  
さっき首の後ろで感じたものと同じ感触。  
だが、そんなはずはない。  
ヤドカリの移動がそんなに速いはずはないのだ。  
 
――カサ――  
 
(それに、この音だってまだ頭のすぐ近くに……)  
 
――カサカサカサカサカサカサカサカサカサ――  
 
「――!?」  
散発的だったその音が、いきなり洪水のように押し寄せてきた。  
音の正体がわかり、少しだけ冷静になっていた頭がまたパニックになる。  
そして奈々美は、混乱のあまり何も考えずに思わず目を開けてしまった。  
「う、うそ……」  
我が目を疑う、今までこの瞬間ほどこの言葉を実感したことはなかっただろう。  
薄暗い部屋、ベッドの上、数え切れないほどのヤドカリがうごめくその光景に、奈々美は息をのんだ。  
こんなこと、あるはずがなかった。  
何かの拍子にヤドカリが水槽の外に出てしまうくらいなら、絶対ないとまでは言いきれない。  
けれど、1匹しかいなかったはずのヤドカリが、この短時間にこんなに増えているはずなんて――、  
 
――カサカサカサカサカサカサカサカサカサ――  
 
奈々美の考えを否定するように、目の前から、そして背後からも、この音が聞こえてきている。  
それはまるで絶え間なく押し寄せてくる潮騒のようだ。  
首は動かせないせいで振り向いて確認することはできないが、それでも背後にもかなりの数のヤドカリがいるらしいことが音でわかった。  
姿を見たことで思い出したように、あたりに漂う生臭さが鼻をつく。  
夜中突然身体が動かなくなり、しかも無数のヤドカリに包囲されていた。  
その自分が置かれたあまりに異常な事態にもう何が何だかわからず、奈々美の頭が思考を放棄しそうになる。  
頭に浮かぶのは、誰か助けてという、ただそれだけ。  
(そうだ、お母さん!)  
声は出せるのだから、助けを呼ぶことはできる。  
どうしてそんなことにも気が付かなかったのか。  
自分の頭の悪さに自己嫌悪に陥りながらも、奈々美は口を開き大きく息を吸った。  
「――――」  
頭の中では、確かに奈々美は大きな声で母を呼んだはずだった。  
けれど実際には喉が凍り付いたように硬直し、さっきまで出せていたはずの声が今はもう出せない。  
ますます混乱する頭で、とにかく助けを呼ぼうと何度も挑戦した。  
それでもでき損ない笛のようにヒューヒューと空気が抜けていく音がかすかに鳴るだけで言葉にはならず、そしてそれはヤドカリ達が出す硬質な音の波にあっさり飲み込まれてしまう。  
(どうしようどうしようどうしよう……)  
焦りと恐怖で涙が込み上げてきて、ただでさえ暗さとその密度のせいではっきりとしないヤドカリ達の輪郭が滲んでいく。  
溶け合い混ざり合うそのシルエットは、まるで本当の波のようだ。  
その波から、1つの水滴が零れ落ちる。  
全体からしたら、本当に小さな塊。  
奈々美の身体からは少し離れたところにいたヤドカリの群れからはぐれたその1匹が、のそのそとシーツの上を歩いてくる。  
その目的地は、助けを呼ぼうと大きく開けた奈々美の――口。  
ヤドカリは湿った場所を好み、狭い場所に隠れようとする習性がある。  
飼育の仕方が書かれた説明書の1文を思い出し慌てて閉じようとしたが、筋肉が弛緩したように顎が動かない。  
喉に続いて、いつのまにか異変がそこまで広がっていた。  
大きな鋏を口の端に引っ掛けて、まるで鉄棒で懸垂をするみたいにヤドカリが自分の身体を持ち上げる。  
(うそ、うそうそ止めて!)  
声が出せず、心の中だけでヤドカリに懇願する。  
けれど、そんなものが通じるわけがなかった。  
顎は動かない。  
舌で押し出すという考えも一瞬浮かんだが、もし鋏で反撃されたらと思うと恐怖で強張り動かせなかった。  
 
「あむぅ!?」  
迷っている内に口の中に硬い感触が潜り込んできた。  
舌の上に広がる塩っぽい味と、それまで空中に漂っていた分の何倍もの生臭さが鼻に抜けていく。  
わしゃわしゃと動く小さな足が舌を抱き込むように回された。  
口蓋を凸凹した貝殻で擦り上げられる痒みとも痛みともつかない刺激。  
口の中を犯される恐怖と、そして喉の入口を刺激されることに対する肉体的な反射もあって、ついに奈々美の瞳から涙がボロボロ零れ始める。  
そんな初めての口虐におののく奈々美の周囲で、新たな変化が生まれた。  
残っていたヤドカリ達が、少しずつこちらに向かって押し寄せて来始めたのだ。  
そして背後から聞こえる音も、間違いなく近くなってきている。  
「――――!」  
込み上げてきた悲鳴もまた、音にはならなかった。  
できたのは、閉じられなくなった口の端に、せいぜいよだれの泡を作ることくらいだ。  
逃げることも、追い払うことも、助けを呼ぶことすら、今の奈々美には許されていなかった。  
 
背中側に引っ張られる感じが生まれた。  
パジャマを何箇所も鋏で掴まれて一斉に引かれると、1匹1匹の力はそれほどでもなくても身体を仰向けにされてしまう。  
尻や背中の下で逃げ遅れたヤドカリがもぞもぞと動き、くすぐったさと気持ち悪さが込み上げてくる。  
「はぶぅ!?」  
肩甲骨の輪郭のあたりを貝殻でなぞられて、ブリッジをするように身体が反り返った。  
自身の意思では動かせないのに、自分よりはるかに小さいヤドカリが与えてくる刺激には反応する奈々美の身体。  
そして、力なく仰向けになった奈々美の身体の至るところで、薄手でサイズにゆとりのあるパジャマの中にヤドカリ達が侵入を開始した。  
襟元から、袖から、裾から。  
口の中にあった感触が全身に広がった。  
全身の皮膚を、貝で擦られ、足先でチクチク刺激される。  
いつしか、奈々美の疑問はどうしてこんなことになったのかではなく、ヤドカリ達が何をしようとしているのかということになっていた。  
頭に浮かぶのはエサとしてあげたポップコーンの姿だ。  
皆で、自分のことを食べようとしているのではないか。  
それぐらいしか、思い浮かばなかった。  
(やだ、そんなのやだよう……)  
涙がとめどなく溢れ出し肌を滑り落ちていった。  
 
襟元から入ってきていた数匹が、やっと膨らみ始めた胸の上にまでやってきた。  
パジャマどころか肌着の下にも入っているせいで直に触れる足の感触が、緩やかな斜面を上っていく。  
尖った足と、引き摺られる腹の感触。  
こんなことならブラを着けておけば良かったと心の底から思う。  
クラスの中ではかなり出遅れた感はあるもののようやく女性らしさを主張し始めた胸。  
昼間はブラを着けるようになっていたのだが、夜はまだ着けたままだと息苦しさを感じるからと外していたのだ。  
「はっ……あぁっ……」  
息を出すたびに泡が生まれて、ぱちんぱちんと弾けていく。  
気持ち悪いはずなのに、その中に少しだけ違う何かが混ざり始めていた。  
まるで自分でそこをさすった時みたいな胸の芯が痺れるような感覚に戸惑いを覚える。  
(ううん、違う。  
 そんなはずない。  
 こんなの、こんなので)  
奈々見は必死にその感覚を否定した。  
こんな状況で、そんなものを感じてしまうなんてあまりにも惨め過ぎるからだ。  
そんな少女の葛藤などお構いなしに、真っ先になだらかな丘を登り終えた1匹が足を止めた。  
次の瞬間、目の前が真っ白になるような痛みが全身を駆け抜ける。  
「いひぃっ!?」  
その拍子に口の中のヤドカリを潰してしまいそうになり、しばらく大人しくしていたその1匹が驚いたように暴れ始めた。  
口の中を荒々しく掻き回される。  
爪によって引っ掻かれたのか、口の中にかすかに鉄の味が生まれたけれど、それを気にする余裕はなかった。  
胸の中心、敏感な場所を、あの大きな鋏で挟まれている。  
石臼で挽かれる豆にでもなった気分だった。  
硬い殻に覆われた2本の指で、ヤドカリのその大きさからは想像できないほどの力で圧迫される。  
そこから生まれる痛みが大きすぎて何も考えられなくなっていた。  
「あ、は、あぁあ……」  
ようやく鋏が開かれた時、心の底から湧き出したような長い息が口の端から零れ落ちていく。  
とはいえ、鋏は離れてもジンジンとした痛みが残っていた。  
そこだけ燃えているような、ちょうど胸の先端に灸をすえられたような、そんな熱が。  
それを冷まそうとしているかのように、今まで乳首を挟んでいた個体が、今度は自信の腹をそこに擦り付け始めた。  
少し湿っていてひんやりしたその感触が、嫌な熱を孕んだ肉芽の上を往復する。  
(や、やだ……なんで、こんなこと……)  
労わるようなその行為に奈々美はますます混乱する。  
 
「ぃあ!」  
今度は別の個体に反対側の胸の頂きを挟まれ、またあの激痛を味あわされた。  
そしてそちらもまた、しばらく挟んだ後は労わるように腹を擦り付けてくる。  
頂点以外にも、まだ無数のヤドカリ達が胸の周囲に蠢いていた。  
腋下に陣取った個体が時折もぞりと身体を震わせ、腹の上に乗った個体がへその穴に頭を突っ込んでくるのがくすぐったくて仕方なかった。  
そのくすぐったさが胸からのものと混ざり合い、身体の奥から別の何かを引き摺り出す。  
奈々美が必死に否定した、甘い感覚を。  
 
そしてヤドカリ達が群がっているのは上半身だけではなかった。  
ズボンの裾から潜り込んできた一団がようやく太股まで差しかかったのだ。  
ここまでくれば奈々美にもヤドカリ達が何をしようとしているのかがわかっていた。  
なぜそんなことをするのかは全くわからないが、それでもどんなことをしようとしているのかはわかってしまう。  
内股を貝殻で擦られるくすぐったさに耐えていると、ヤドカリの感触が秘部に乗り上げてきたのが感じられた。  
下着の上から爪の先でツンツンと突つかれ、引き摺られた腹でなぞり上げられる。  
その刺激自体は他の場所でも感じていたものだ。  
けれど、与える側が同じでも、受ける側の感度には場所によってかなりの差が存在する。  
(い……やぁ……気持ち、悪い)  
薄布越しに擦り付けられるヤドカリの腹の感触は、上半身への責めで本人の意思に反して昂ぶりつつある身体にはもどかしく思ってしまうほど控えめな刺激だった。  
(お願いだから、早くどこか行ってよぉ……)  
ショーツの上で、ヤドカリの足が細かく位置を変えていく。  
だがちょうど陰唇の上に乗ったヤドカリの腹自体は、奈々美の大切な場所を撫でるように前後するだけでそこからは離れていこうとはしなかった。  
移動のためではない足の動き。  
まるで触診で患部を探している医師の手付きを思わせる、その動き。  
 
「……ぃッ!?」  
突然雷に撃たれたような衝撃が奈々美の体を突き抜ける。  
それまで感じていた痛みや痒み、そして本人が必死に否定していた幼い性感のどれとも違う、ただ純粋な衝撃とでもいうべき何かが彼女の頭を混乱させる。  
(な、なに!? なんなのよぉ!?)  
目当ての物を見付けたとばかりにヤドカリの足がさっきの衝撃の発生源へと集中する。  
「ひっ!? ……ぃぁっ!? ……あぅ!?」  
ビクッ、ビクッとベッドの上で奈々美の下半身が跳ね上がる。  
(やめ、やめて……それやめてぇ!)  
口腔を別のヤドカリに侵されている奈々美は心の中で懇願する。  
だが、どんなに必死に祈ってみても、ヤドカリの動きに変化はなかった。  
それどころか――、  
「あああぶぅぅぅ!?」  
胸のあたりにいたヤドカリが、上下に激しく動く足場から振り落とされまいと左右に1つずつある突起にそれぞれ死に物狂いでしがみついてくる。  
一瞬、気が遠くなるほどの激痛が脳を揺さぶり、けれど次に来た未知の感覚に奈々美は一瞬で翻弄された。  
(き、気持ちいい……こんなことされてるのに気持ちいいよぉ!)  
それが快感と呼ばれる類の感覚であることを、もう彼女自身も認めざるをえないほどの甘美な電流。  
ショーツの中心、今もヤドカリの腹と足に絶え間ない攻撃を受けている場所がじわりと湿る感触がひどく鮮明に感じられる。  
ぬめりを帯びたその液体がなんなのか、奈々美は学校の授業で、そして友達との秘密のお喋りで知っていた。  
それがどんな時に自分の体から分泌されるのかも。  
堰を切ったように溢れ出す少女の淫蜜を吸った薄布が、初めての行為に懊悩する奈々美の秘所を容赦なく摩擦する。  
(や……だめ、なんか……なんかきちゃう)  
知識としてしかしらない、経験したことのない何かが近づいていることを、奈々美の雌としての本能が告げていた。  
ぞくぞくする震えが背骨を走り抜け、自分の意思では指1本すら動かせない手足がビクビク痙攣する。  
全身を我が物顔で這いずりまわるヤドカリの足先や腹の感触。  
その全てが、もう奈々美にとっては得も言われぬ肉悦を与えてくれる無上の存在へと成り代わっていた。  
異常な事態への恐怖も、ヤドカリに感じさせられているという羞恥も、いつのまにか消えている。  
残ったのは、初めての絶頂に対する渇望だけ。  
(来る……来る……きちゃうよぉ……)  
と、不意に奈々美の頭の中に、見えてもいない股間の状況がなぜかはっきりと映し出された。  
ぐっしょりと濡れそぼったショーツの上、ヤドカリの目の前でぷっくりとした突起が1つ薄手の布を押し上げている。  
そこにヤドカリが鋏を伸ばす。  
(あ……ああ、そこ、そこをそんなにされたら……)  
足先で突つかれるだけで目も眩むような衝撃を受ける、その敏感過ぎるほど敏感な牝器官。  
そこをその力強い鋏で押し潰されたらどれほどのものか。  
鋏がゆっくりと閉じられていく。  
「――――――!」  
ヤドカリを咥え込んだままの奈々美の口から、声にならない叫びが溢れ出す。  
そして少女は、初めての性の頂きを経験した。  
 
 
「――ぁ!」  
奈々美は弾かれたようにベッドの上で跳ね起きた。  
「……あ、あれ?」  
自分の部屋。  
ベッドの上。  
カーテン越しに差し込む朝日と、かすかに聞こえる雀の鳴き声。  
はっとして自分の周囲を見回した。  
だがベッドの上には自分の体が乗っているだけだ。  
続いて部屋の隅にも目を向ける。  
そこにあるのはちゃんと蓋が閉まったままの水槽が1つと、中には見慣れたヤドカリが1匹。  
「ゆ、夢……?」  
一気に肩の力が抜ける。  
と、不意に妙な匂いが鼻をくすぐった。  
それ自体は1日に何度かは嗅ぐ日常的な匂い。  
だが、自分の部屋で嗅ぐことは滅多にない、というよりあってはならないその匂い。  
「やばっ!?」  
熱帯夜のせいか、変な夢を見たせいか、たぶんその両方で奈々美はパジャマが貼り付くほどの大量の寝汗をかいたいた。  
そして股間にはそれとは別の湿りが、いや湿りなどという表現ではあまりにも足りないほどの水分が下着とパジャマ、そしてシーツまでにも染み込んでいる。  
「ど、どうしよう……」  
奈々美の脳裏に、幾つかの打開策が浮かんでくる。  
だがそれを嘲笑うように部屋の外から階段を上がってくるスリッパの音が聞こえてきた。  
(お母さんだ!)  
まさに絶体絶命、だった。  
 

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