「現界で面白い映像を手に入れたんだ。一緒に見ようぜ」
ある日、友人が嬉々として俺に見せた物。ラベルも何も無い一本のビデオテープであった。
「おいおい。見ると一週間後に死ぬ呪いのビデオとかじゃないだろうな?」
「それはそれで興味あるが・・・残念ながら違うな。それに俺達、もう死んでいるだろ?」
「それもそうか」
そのテープを、友人がビデオデッキに入れながら。俺はテレビを見続けた。
数秒間の砂嵐の後、ブラウン管に表示されたのは、何かが這い出てきそうな
井戸でもなければ難解且つ抽象的な映像でもなく、
何処かのトイレの個室だった。
「盗撮ビデオかよ・・・お前、こんな趣味が有ったのか。
わざわざこんなもの買わなくても、この身体なら覗き放題だろう」
「いいから黙って見てろ。・・・ほら、最初のお客さんだ」
テレビには個室に入ってくる人の姿。無論、女の子だ。そうじゃなかったら逃げる。
間違っても男のなんか見たくは無い。
隙間から見上げるような姿で少女の姿が映し出される。
裾を出した白いワイシャツに、紺のプリーツスカート。上履きを穿いてる所を見ると、
校内なのだろう。スカートと太股の隙間からパンツが見える。
盗撮されていることも知らず、女の子は、スカートを捲り上げた。
白いパンツを下ろしつつしゃがむと、視点もそれに合わせて下がる。
「・・・・・・やっぱり、ただの盗撮ビデオじゃないか・・・」
「まぁ見てれば解る。肝心のシーンはもうすぐだ」
「・・・・・・」
既に飽きつつある俺だったが、友人が何故か興奮気味に言うので、もう暫く付き合う
ことにした。
もしこれで本当に単なる盗撮ビデオだったら、一発ぶん殴る。
放尿を終えた女の子がからからとトイレットペーパーを巻き取る音がする。・・・長い。
たかだか股間を拭くだけで使い過ぎだ。勿体ないだろうが。
溜息を吐きながら見ていると、ほんの一瞬、画面が歪んだ。
ビデオテープに傷でもついているのか・・・?
「きたきた・・・」
友人が、いよいよだ、と期待を露にしている理由が解らない。何がいよいよなのか。
そんな友人に呆れつつ画面に目を戻して・・・俺は我が目を疑った・・・。
女の子が跨っている便器から手が伸びてきた。
死人のそれのように蒼白な、人間の片腕そのものが、便器の中からという有り得ない場所
から突き出ている。
更にその手は伸びて、女の子のお尻に触れるなり、摩る様にお尻に掌を這わせ、撫で回した。
「きゃああ!?」
悲鳴、そして女の子のお尻が視界から消えると、手は何も無い場所で指先を泳がせる。
「ひいぃっ!!いやああああああああ!!」
先程以上に大きな悲鳴を発する女の子。
便器から突き出る手を直に見てしまったのだろう。
反射的に個室を飛び出そうとし、しかし鍵は開かず、彼女を焦らせるのみ。
女の子が鍵と格闘している内にもう一本の腕が便器から生えてきた。
今度は女の子の両足を掴む。
ずる、と。女の子の両足が少し下がる。
いや、引っ張られているのだ。あの2本の腕に。
ずる・・・ずる・・・上履きがタイルの上を擦って、便器へと近づいていく。
「やだやだやだぁっ!誰かぁっ!だれかあぁぁぁぁ!!」
ついに片方の足が便器の中へ。
そしてもう一本の足も、間も無く便器に入ってしまう。
それからは、最早、女の子は蜘蛛の巣にかかった蝶さながらに。
驚愕する俺の前で、完全に便器の中に引き摺り込まれていなくなった。
最後には沢山の手が湧き出して、女の子を雁字搦めにして、
唯一残った左腕が最後の瞬間まで助けを求めるように、便器から突き出していたが、
それも間も無く便器に沈んでいった。再び画面が、一瞬だけ歪む。
そしてドアが開き、個室は正常な状態に戻った。
友人の話によると、この映像は現界でいうところの、裏ビデオとでも言うべき代物で。
トイレ盗撮映像に混じった、このような不可解な現象を一つに纏めたものらしく。
現界ではマニアに高値で取引されているそうだ。
他にも「赤い紙、青い紙」に遭遇し、赤と答えて殺されてしまう小学生の女の子や。
イカのようなタコのような怪物に陵辱される女子中学生など、おおよそ現実とは思えない
内容のものばかりが集約されている。
因みに後日。先の映像でトイレに引き摺り込まれた女子高生と偶然会ったのだが。
彼女を引き摺り込んだのは、亡くなった恋人(女の子)だったようで。今では、此処で仲良く暮らしている。
さて。友人がまたしても、新しいビデオを入手したようなので、また付き合ってやるとするか。