「ねぇねぇ。3階のトイレ・・・出るんだって」  
それはとある小学校の、他愛も無い噂話の一つ。  
「出る・・・・・・って、おばけ?」  
「ちがうよ――――」  
いつからか個室に住み着き、悪さをする生き物の話。  
「今はもう卒業した子が、実際に襲われたらしいよ。その子、一週間くらい高熱を出して、休んだって」  
「あたしが聞いた話だと、イカみたいなタコみたいな奴に襲われたんだって・・・。  
あそこ、大するのにちょうどよかったのに・・・普段からあんまり人来なかったし。ねぇ、一緒に来てよ」  
「やだよ。他のトイレを使えばいいじゃん。誰も気にしないよ」  
 
噂は事実とは思えないくらい曖昧だから、確かめようと思う者も出て来る。  
「みんなが言ってること…本当のことなのかなぁ?」  
件のトイレ前でぼやく少女。休み時間だというのに、トイレを含む周囲には生徒の姿はまばらで、個室は全て空室になっていた。  
それでも彼女の瞳は、このトイレ…否、噂への興味に満ちている…。  
子供ならではの好奇心で、こうした噂や怪談にはいつも首を突っ込んでいた。  
だが、理由は噂が事実か確かめる、それだけではない。  
「やっぱり、今ここ以外のトイレを使うのは恥ずかしいな…」  
言いながらお尻を気にする。3時間目の半ば、急な便意を催し困っていたのも、理由の一つである。  
他の生徒が集中しているであろうトイレで事を済ませるのは気が乗らない。  
「早く済まさなきゃ。10分休み終わっちゃう」  
上履きをスリッパに履き替え、個室に入る。何の変哲も無いトイレが、今日は特別に思えた。  
期待しているのか、それとも怖いのか……パンツを脱ぐ手が震える。  
心臓がどきどきいっているのがわかる。ジーンズとパンツを膝辺りまで下げた少女は和式の便器に、ゆっくりと腰を下ろした。  
何故だか生暖かい空気がお尻にまとわりついていた。  
 
「ぅ…んん…」  
みちち…。  
少女がお尻の辺りに力を入れ、すぼんだ排泄門を押し開いて排泄物の先端が排出されてくる。  
それに集中する少女…だから気付くことはなかった。  
自分の下で、しゅるり、と音を発した主が、足に巻き付いて、初めて気付く。その時には、もう遅かった。  
「えっ…やっ、何…?」  
うろたえる少女をよそに、便器から伸びた二本の触手はぎりぎりと脚を絞め上げ、拘束する。  
「いやっ、痛い…乱暴しないで…」  
話が通じる相手ではないが、少女は太股を絞め上げられる痛みに、悲鳴に近い声で懇願する。  
やはり人の言葉は通じず、淡々と自らの意思を実行に移す。  
便器の中から新たな触手が出て来て、少女のお尻に向かって伸びる。  
蕾が花開くように、先端部分をくぱっと広げて、べちょりと覆い尽くすように張り付いた。  
「やだっ…なにこれ、なんなの…」  
気持ち悪いよぅ、と半分泣きながらお尻にくっつくそれを剥がそうとし、然し、引っ張る度に脚を拘束する触手が  
ぎりぎりと締め付け抵抗する。  
「い、いたいっ…!やめて、骨が折れちゃう…!」  
手を離すと、触手もきつく絞めるのを止め徐々に痛みが引いていく。  
「ぐす…こんなの、やだよぅ…」  
個室の中で動きを封じられて。しゃがんだまま、丸出しのお尻によくわからないものがくっついて。  
最初の好奇心は完全に消し飛んで、今は代わりに恐怖と哀しみが少女を支配している。  
「…助けて…」  
かすれた声で呟くが、この時間、そしてこのトイレに誰も近寄らないことは、少女自身が一番良く知っている。  
だから、絶望に暮れるしかない…。  
 
そんな少女を憐れむ情など持ち合わせていないそれは、花触手の真ん中の部位―――ぽっかりと開いた穴を少女の尻穴にぴったり合わせ、  
せり出されるように現れた管状の器官をあてがいぐにぐにほぐしはじめる。  
「ひっ…いやぁっ。入って…入ってこないでぇ・・・」  
自分でも触れたことすらない恥ずかしくて汚い部分…今さっき便をひり出そうとしていた、不浄の部分。  
そこを得体の知れないものに弄繰り回され、ついに大粒の涙が瞳から零れ落ちる。  
「ひぐ…えぐっ…もう、嫌ぁ…」  
泣きじゃくり嫌がっても、触手の行為はまだ終わらない。  
触手が、どのような形でかは少女の知るところではないにせよ、満足するまで・・・少女は解放されそうになかった。  
 
ずぞぞぞ…少女の体内―――正確には、お尻の辺りで不気味が音がして。  
(いやっ!なに、何してるの……?)  
これに近い音を、少女は普通に耳にしている。  
何かを吸い込むような音から掃除機を連想し、自分の体内で行なわれている行為に、恐怖と不安が募る。  
(た、食べられてるの…?おなかの中からっ!?)  
自分の身体の中にあるもの…それがお尻に挿入されたものから吸い込まれている。そんな気がした。  
「やだっ、そんなのやだあああっ!助けて!誰か、だれかぁ!!」  
半ば狂乱するかのように叫ぶ。  
それを誰かが聞きつけたのか…ばたばたと外が騒がしくなった。  
数秒後…もっとも少女には時間を数える余裕などないが・・・女性教諭と思わしき人の声。  
ドアを叩く音。相変わらずお尻に張り付き、中のものを吸い込んでいる触手。  
それらが混ざった音を聞きながら、少女の意識は闇に落ちていった……  
 
 
「――ん。―――ちゃん!」  
「……ん…」  
自分の名を必死に呼ぶその声に、少女は目を開ける。  
視界に飛び込んできたのはトイレの壁ではなく、見慣れた白い天井。そして、不安と安堵が入り混じった表情で、  
覗き込んでいる先生や友達達。  
個室で気を失っていたのを、ここまで運んできた。先生はそう言って、何があったのか聞いた。  
(・・・夢じゃなかったんだ・・・)  
今のが単なる悪夢だと信じたかったが、お尻の痛みがその可能性を否定する・・・。  
少女は覚えている限りありのままを話した。にわかには信じ難い内容で…それでも先生は真面目に聞いてくれて、  
一通り話し終わると「怖かったね、でももう大丈夫」と頭を撫でてくれた。  
それから早退させてもらうことになり、先生は友達と一緒に少女の鞄を取りに行った。  
ベッドに横になり、そういえば便をしそこねたことを思い出す。  
(・・・でも・・・お腹が軽いな・・・)  
便意は何故かなくなっていた。  
 
あれから2週間経って…。  
件のトイレは使用禁止の張り紙が貼られ、先生を通じて各クラスに厳重な注意が通達された。  
理由は説明されなかったが、誰もが、薄々感じているようだった。  
あの噂は本当だったんだな…と…。  
そしてあの時から、一つの怪談がこの学校から消えた。  
 
「んしょっ…と」  
少女はスカートを捲り、パンツを下ろして便器を跨いでしゃがむ。  
朝寝坊して排便してくる暇がなかったから、少女は登校してまずトイレに駆け込んだのだ。  
ちょろろ、と少量のおしっこの後、「んっ」と力むとすぼんだお尻の穴が拡大、収縮を繰り返し便をひり出そうとする。  
「ん…く…っ」  
朝っぱらから学校のトイレで踏ん張る自分を恥ずかしく思わないでもなかったが、  
急がないと朝のチャイムが鳴ってしまう。授業中にトイレに抜け出したくはない…。  
急いで済ませようとする少女…その両足に、しゅるっと何かが巻き付く。  
「・・・・・・え?」  
身に覚えのある、気持ち悪い感触…それは、消えた筈の怪談。  
終わった筈の・・・・・・悪夢。  
だがまだ終わってはいないことを、あの時の同じ様に、お尻に張り付いてきたその感触で、  
少女は知るのだった。  
 
END  
 
 

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