五月晴れ。  
 
ぽかぽかの陽気で、中間試験も終わって、伸びをするのも気持ちがいい。  
あたしはいつものように髪を高く二つに結んで、土曜日の空気をいっぱい吸った。  
「んっ」  
伸びをした両指をぱっと離して、つま先をたたいて靴を履く。  
玄関先から見える裏山の新緑も眩しくて元気が沸いてくる。  
古着屋さんで安く買ったワンピースが風にふくらみ、足取りも気を抜いたらスキップになりそうだ。  
「ふふふーふふふふーふふー」  
「もしかして頭打ったのか?」  
聞きなれた声がいきなり邪魔をした。  
水しぶきと一緒に、隣の柵越しに幼なじみのでかい図体が良く見える。  
あたしは生まれたときから一緒の男子を腰に手を当てて睨みあげた。  
まったくでかいのは体だけでデリカシーなんてまるでない。  
「…うるさいな。可愛いとか何とかいえないの?」  
「えー。その態度が可愛くねーじゃん」  
「ふん。言ってなさい。勝利が彼女も作らないで寂しい青春を送っていても  
 もはやあたしには何の関係もないのよ!なんたって、」  
「いや、それもう十回くらい聞いた」  
「ふふふ」  
何度でも言いたい。  
だって今日は特別な土曜日なんだから。  
 
そう、デートなのである。  
 
これからあたしは14年間生きてきて産まれて初めての男の子からのお誘いというやつに一緒にいくことになるのである。  
ありのまま先週起こったことを話そう。  
最近部活で調子が悪くて、試合の予選メンバに選ばれたもののどうしてもチームメイトの足をひっぱりがちだった。  
そんなとき厳しくて評判の荻野部長(男子)に呼び出されてさあスタメン外されると縮こまっていたら、  
いつの間にか公園デートの約束を取り付けられていた。  
信じられないと思う。  
あたしだって嘘みたいだと思う。  
 
――荻野部長は厳しいけど優しい。ちょっと背が低いけど、いつも一生懸命だし。  
その。正直に言えば。  
勝利に毎日偉ぶらなければやっていけないくらい、心臓がうるさくてどうにかなりそうなのだ。  
生い茂った夏みかんの葉に目を逸らせて、目にかかる水しぶきにまた視線を戻す。  
勝利が柵の上からこっちにホースを向けているせいだ。  
ワンピースが濡れそうだったのでちょっと離れる。  
 
「当日になってまで浮かれてんなよ。こけるぞ。嫌われるぞ」  
「う、うるさいわね。子供みたいなこといわないでよ」  
「楽しんでこいよ。愛」  
 
言い返したのにかぶさって、勝利がいつもみたいにさらっと笑った。  
とても暖かい五月晴れの日で、あたしはまだ中学二年生になったばかりだ。  
 
「うん」  
 
青色のホースから隣の庭に水がまかれているのを背に、初めてのデートに向かった。  
幼馴染に手を振って。  
 
 

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