「ただいま」  
「おかえりー」  
 わざわざ玄関にまでくる姉。ゆっくりしてもらってて構わないんだけどな。  
「ご飯にする?お風呂にする?それとも…わた……私に………」  
「姉ちゃん。ボケるなら最後まできちんとボケようね。半端だと恥ずかしいだけだよ」  
 姉に向かいやんわりと言う。いきなりどうしたのやら?  
 気付けば下を向いてほとんど聞こえないが、小声で何かを言っている。  
「……ボ………じゃ………もん…」  
   
「……ボケたんじゃ…無いもん…」  
 精一杯反論したつもりだが聞こえてないようだ。  
「まぁ、とりあえずご飯で。まだ風呂入る気分でも無いし」  
 私云々については流された。予想はしていたけど、ちょっとだけ悔しい。  
 答えられたらそれはそれで恥ずかしいけど…それでも…その……それなりにしてあげるつもり……だし………  
 そのまま私は彼が横を通り、鞄を置くため自室に行ったのに、数分間気付かなかった。  
 
 
 今日も飯は美味かった。皿洗いも手伝い終わり、居間でのんびりしていたとき、学校でのことを思い出した。  
「姉ちゃんさ?」  
「何?」  
「彼氏とかいないの?」  
「ふぇっ!?」  
 赤面し、硬直する姉。  
「ななな何で!?」  
「いやさ、今日同級生が聞いてきてさ」  
 先日学校まで迎えに来てくれた姉を見た奴、その話を聞いた奴は結構な数がいたようだ。ウン十人に聞かれた。  
 俺とはどういう関係か、彼氏はいるのか、趣味は何か、スリーサイズはどのくらいか。  
 とりあえず適当に答え、スリーサイズを聞いた奴にはもれなくグーパンチをくれてやった。  
 よく話す奴から全く話した事の無い奴、クラスすら一緒になった事の無い奴。  
 女にまで聞かれたのは何でなのかね?  
「まぁ俺も興味無いわけじゃないけど。姉と引っ付くのは誰なのかってのは」  
 身内びいきかも知れないが、姉は完璧超人と言っても問題ないだろう。付き合えるのはどんな奴だろうか。  
「で、どなの?」  
「う…ぁう……そ…そう言うそっちは…ど、どうなの?」  
 返答の代わりとでもいうように、肩をすくめて笑ってみせる。  
「これまで俺がお洒落して喜々として出かけたことある?」  
「………ない」  
「そーいうこと。年齢イコール彼女いない歴さ」  
 何か姉が安心したように見えるのはなぜだろう?  
「で、そっちは?」  
「………好きな人は……その………いるけど…」  
「うぉう、そいつぁ幸せ者だね」  
「そう…思う?」  
「うん、姉ちゃんは家事とか上手いから、良い嫁さんになれると思うし、そんな嫁さん貰える奴は幸せに決まってる」  
「…あぅ……」  
 更にうつむく姉。  
「どんな奴?」  
「い……言わなきゃ…駄目?」  
「うーん?まぁ、無理に言わんでも良いさ。風呂も沸いてんでしょ?入ってくる」  
   
 立ち上がり自室に服を取りに行く彼の背中を眺めながら思う。  
─私が好きな人は、すぐ近くにいて、鈍いけど優しくて、いつもニコニコしてる─  
「……あなたが…好き………なんだよ?…」  
 

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