小学生の頃なら、お兄ちゃんに何でも言えた。だけど中学生になって隠し事がで  
きた。お兄ちゃんの友達からラブレターを貰ってしまったのだ。その人自体はとて  
もいい人なのだけど、断る言葉が出てこなくて、泣いてしまった。  
 それは放課後の教室での出来事、返答に痺れを切らせたその人が、直接言ってき  
たのだった。私は泣いて何も言えず、それを見た周囲が二人を公認のカップルと断  
定した。囃し立てるクラスメートと顔を赤らめる彼。私は断る勇気がなくて、その  
日から私たちは「カップル」となった。  
 「ついにあの遠藤優衣が──」という噂が独り歩きし、お兄ちゃんの耳にもその  
日に届いた。だけどお兄ちゃんはその話題を口にすることなく、普段どおり接して  
くれた。  
 いつかお兄ちゃんに言えたらいいな。今日のことも、優衣の気持ちも。  
「さてと」  
 料理を作らなくちゃ。  
 お兄ちゃんの部屋を後にしようとして、机の引き出しにふと目がいった。引き出  
しが一つ少し隙間が空いていて、そこから白い布切れのようなものが見えた。  
 目を逸らそうとして、でも背ける事ができなくて、机に近寄る。  
 右手を引き出しに差し伸ばそうとして、手を止める。  
 何でこんなことしてるんだろ。ここはお兄ちゃんの部屋だから、勝手に中のもの  
を見たりしちゃいけないはずなのに。でも、その引き出しの中にあるものは優衣の  
ものでないかと思ってしまったのだ。  
 私はその引き出しを開けた。そこには女の子用のショーツが、折りたたまれて置  
かれていた。  
 心臓の鼓動が高まる。そのショーツはあまりにも見覚えがあった。私はそれを右  
手で掴んだ。シルクの生地で縫製されたショーツは一部濡れていて、指先にしっと  
りとした生温かさが伝わる。朝洗って中干ししたから、まだ乾ききってないのだろ  
う。ショーツを左手でも持って、広げてみた。ショーツは細かい花柄の模様が散り  
ばめられていて、真ん中に赤い、小さなリボンがついていた。間違いなく、私のだ。  
 頭が止まる。どうしてここに、私の下着があるんだろう。お兄ちゃんが、持って  
きたのか。何故。  
 不意にあそこがじんわりと熱くなった。まただ。またあの変な感じだった。胸が  
苦しくて切なくて、あそこが熱を持つ感覚。  
「……はぁ……はぁ……」  
 頬が熱くなって、顔が赤くなって息が乱れて、あそこに触ってしまいたくなって  
しまうあの変な感じ。  
 女子なら誰でもしてる、ある行為。  
 男子なら早い人は小学校の低学年の頃からしているという、ある行為。  
 おなにー。  
 おなにーをすれば、このどうしようもなくもどかしい感覚から逃れられるのは知  
っている。だけどおなにーは恐いくらいに気持ち良すぎて、できずにいた。おなに  
ーをたくさんしていると、絶頂に達することがあるという。絶頂に達したことを目  
を輝かせて語る女子もいて、周囲から「変態」とレッテルを貼られてからかわれて  
いた。でも皆おなにーをしているなら、皆絶頂に達したことがあるのだろう。エッ  
チな話になった時に微妙についていけなくなるのは私くらいで、それは嫌だった。  
だけどそれはいけない事だから、できるだけ触らないようにしてきた。一ヶ月に何  
回もいけない気分になることがあって、触れたくなっても我慢してきた。皆は私の  
ことを「お堅い、まじめな子」と言うけれど、私は変態にならないようにしてきた  
だけだった。  
 私はいつしかショーツを顔に引き寄せていた。生臭い匂いがショーツから漂って  
くるが、不快ではなかった。むしろ鼻にまとわりつくような生臭さをもっと嗅ぎた  
くて、ショーツを裏返して顔に寄せる。途端に顔に生温かい、湿った何かがこびり  
ついた。白いサラダドレッシングのような色をした、とろみのあるものが鼻先や頬、  
目元や唇に突然付着したので、私は驚いた。ショーツの裏がこんなに濡れているは  
ずはないのに。  
 少しショーツを離してみた。ショーツにこびりついたそれのいくつかが糸を引い  
て、私の顔についたままとなっていた。どうしてこんなものがついているのか。少  
なくとも朝に表も裏も洗った。  
「あっ……」  
 せ……ぃえきだ。  
 お兄ちゃんの、精液なんだ。今日の間に、ほ、放出された、精液。  
 これが、精液なんだ。  
 
 お兄ちゃんの、精液。  
 お兄ちゃん……優衣のお気に入りのショーツ、お兄ちゃんの精液でとろとろだよ。  
そんなによかったの? 優衣が、綺麗にしてあげようか?  
 それは精液を舐めるための言い訳だった。  
「お兄ちゃん……」  
 ここにいない人に対して問いかける。  
「頂き……ます」  
 私は舌を差し出して、ショーツに溜まった白い精液に舌を浸した。  
 
 
 それから兄の部屋に、何か啜る音が響き渡るのに時間は掛からなかった。都市部  
から離れた閑静な町の一角、一軒家の二階の一室で制服に身を包んだ年端も行かな  
い少女が白い布切れをじゅるじゅると口に含んでいる。兄にオカズにされたショー  
ツを両手に持って、精子が付着した箇所を口腔に入れて、普段の振る舞いからは想  
像もつかないようなはしたない音を立ててしゃぶり続けている。  
「んっ……んっ……んっ」  
 ショーツについた精液はなかなか取れないらしく、少女は形のいい眉を寄せて、  
可愛らしい顔を赤らめて、頬をへこませて吸飲する。少女の視点は定まっていない。  
 これはメディアには流れない。ブラウン管に写るアイドルの仕事を軒並み奪うほ  
どの端正な顔立ちの高校一年生が、男性の棒を啜るが如く、女の子座りをして自分  
の下着に吸い付いている。制服のスカートから伸びた足を覆う黒ニーソックスがい  
やらしい。  
「ちゅる……ズじゅッ、んっ……んっ、んっ、んっ、んっ、チュぱぁぁあ」  
 アイスクリームやバナナを頬張るアイドルを映像越しに見たことはあっても、自  
分の下着を水音を立てて吸う少女を見る機会はまずない。それが妹となれば尚更だ。  
 優衣──お前、そんなことしたら──  
 ペニスが勃つ。  
 腹の下辺りがもぞもぞしてくる。その音、表情はヤバイ。何でそんなおいしそう  
に頬張るんだ。精液はそんなにおいしくないだろう。しょっぱいだけだろう。それ  
なのに目をトロンとさせて、ちゅるちゅるしゃぶってるだなんて……。  
 鼻息が荒くなる。気を許せばこちらまで興奮して荒い息を吐いてしまう。マズイ。  
 心臓の鼓動が早くなり、体中の血液が股間に集中し始める。急速に睾丸に精子が  
作られ始めているかのように、ペニスの上あたりが蠢き始めていた。俺はペニスを  
触ってはいけない。絶対に触ってはいけないんだ。今、ペニスが敏感になってる。  
「んっ、んっ、んっ、んっ、ちゅるっ、ズじゅッ、ちゅるっ、ズじゅッ、じゅるっ、  
じゅるじゅるじゅるじゅるっ……んっ、んっ、んっ、んっ」  
 妹の声が甘美に耳に届く。優衣の声はアニメ声のように繊細で、包み込むような  
印象を与える可愛らしい声だった。男子ならその声を聞くだけでもんぞり打って萌  
えてしまうだろう。その優衣の癒されるアニメ声が、白濁液にまみれて脳に届く。  
 胸が締め付けられるように痒くなる、甘い攪拌音。  
 
 優衣は着実に精液を吸い続けていた。  
「あっ、あっ、アッ────」  
 途端に優衣は吸うのを止め、だらしなく口を広げたまま、ビクビクと体が痙攣し  
始めた。  
 パンティーは両手に掴んだまま、女の子座りをした優衣は瞼を震わせていた。制  
服から伸びた手足が小刻みに揺れる。遠目にはただ白いものを持っているようにし  
か見えなかっただろう。だが俺は今までずっと優衣を見てきた。こんな優衣は見た  
ことがなかった。優衣は精液を飲んで、軽くイったのだった。  
 その間、部屋は静寂に包まれていた。  
 

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