「ねぇ、悠治君」  
日本の首都、東京…から少し離れた比較的小さな町、俺の住んでるアパート一室、折りたたみのベッドの上で俺は彼女に腕枕そしていた。  
彼氏彼女の営みをした後の心地よい疲労感に浸ってると、中学の時から付き合ってる俺の彼女  
それまでボーっとしていた由里が突然話しかけてきた。  
「ん?」  
この場合顔だけでも由里のほうに向けて聞いてやるのが本当なんだろうけど  
どうも俺のキャラには合わない気がするので、顔を向けずに話を聞く  
由里は俺の方に体を向けて言葉を続けた。  
「死ぬまでに一度やってみたいことって、なに?」  
突然のわけの分からない質問に、一瞬ポカンとしそうになるが、これはいつものことだ  
この前なんか「人が生まれてくる意味って何なのかな?」と哲学的な質問をしてきた  
とりあえず思考を切り替えて質問に対する質問をしておく、あまり良くないんだろうけど……  
「ひとつだけ?」  
「別にひとつだけじゃなくていいんだけど、何か無い?」  
死ぬまでにやってみたいこと、そんなのあるに決まってるじゃないか!  
「あるよ、二つ」  
「どんなこと?」  
由里が興味深そうに尋ねてくる。  
「ひとつは完全犯罪」  
実を言うとこれはあまり本気じゃない、あいにく犯罪に手を染めようとは思わないからだ。  
何より青い制服のお兄さん方に連行される恐れがある、と言うのがいやだ  
「へぇ、もうひとつは?」  
「終電が出た後の線路を歩いてみたい」  
これは本気、小さいころからの夢、月の出た真夜中に線路の上を歩いてみたい  
ただ、この後に「由里と一緒にな」と付け加えないのも俺のキャラと違う気がするからだ  
言うべきなんだろうけど……  
 
「なにそれ、変なの」  
由里はクスクスと笑っている。人の夢を笑うとはなんと無礼な!  
「そういう由里はどうなんだよ」  
少しむっとなりながら由里に聞いてみる  
「結婚してみたい」  
即答ですか。しかも小学生みたいな回答  
「ありきたりだな」  
思ったままを口にする  
「そうだねぇ」  
と少し笑いながらうなずく由里、なんだか悔しくなってくる俺  
自分でも理由が分からない、ただ、なんとなく悔しくなったので  
「もっとほかに無いのか?」  
言った後でちょっと言い方が強かったかもしれないと思った  
「ほかに?」  
ありがたいことに由里は俺の心配を完全にスルーしてくれた  
「世界征服とか、政治改革とか、もっとでっかいことだよ」  
俺の言葉を聴いて「う〜ん……」と考え込む由里  
「……あっ」  
何か思いついたのか体を俺の方に向けていた体を俺にくっつけてくる  
こいつは自分が今何も身に着けてないと言うことを忘れているのか?  
そんなことされると、やっと収まった息子がまた暴れだすことになりかねない、がここは冷静に  
「何かあったか?」  
俺も顔だけ由里のほうに向けて由里の言葉の続きを聞く  
「線路を歩いてみたいなぁ、雄二君と一緒に」  
「っ!!」  
 
俺が「キャラじゃないから」と言わなかったことをなんの躊躇もなく、当たり前の顔で言ってきた  
「そ、そんなことしたら、青い制服のお兄さんに怒られるぞ!」  
今、俺の顔は赤く染まってることだろう、部屋が暗いのがありがたい  
「そのときは一緒だね」  
うれしそうな顔で恥ずかしいことを言ってくれる  
さらに自分の顔が熱くなるのがわかる  
由里がそんな俺を見つめてくる  
なんか泣きそうになってきた、もちろん悲しいからじゃない  
泣きそうになってるを見られたくなくて俺は天井に顔を向けた  
「あれぇ?泣いてるの〜?」  
ニヤニヤしながら体を起こし、俺の顔を横から覗き込んでくる由里、由里に背を向ける俺  
「泣いてない!断じて泣いてないぞ!!」  
とりあえず泣いてないと言っておく、これは一応本当のこと  
「ふ〜ん」  
ニヤニヤしながら由里がさらに覗き込んでくる  
「こっち見るなよ、ちょっとむこう向いてろ」  
由里に背を向けたまま、さらに顔を隠す俺  
自分で言うのもあれだけど、これはもう、ばればれである  
「はいはい」  
由里はフッと笑って起こしていた体をベッドに寝かせた  
くそっ!こいつはいつもこうだ、いつも俺の考えてることを読み取って俺を辱める  
でもそんな由里を好きな俺は、きっと世界で一番の幸せものなんだと思うんだ  
 

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