「は〜あっ、めんどくせえ、仕方ない。会社に行くとするか」  
俺はゲームの電源を切りながら、思わず愚痴りだす。はっきり言って仕事をしようって 
気力が全然ない。  
まったく、うちの会社は何を考えてるんだ。技術で入った俺が何で、営業の外回りに配 
属されなければならないんだよ。  
 
「じゃ、課長。少し外回りしてきます」  
出社早々俺は会社を出た。もちろん、外回りなんてする気はこれっぽっちもない。  
できるだけ、金が掛からなくて同僚が現れにくいところがいいんだがな……。そんなこ 
とを考えながら駅に向かった。  
 
 
「ちっ。まだ準備中……か」  
自宅そばの駅に向かおうとしたが、今までとは別のゲーセンを求めようと考えた俺は、 
途中下車をした。  
繁華街からやや外れた場所にやっとゲーセンを見つけたが、あいにくと準備中。  
開店まで時間潰しできる場所はないかと、辺りを見渡した俺は、ゲーセンの斜め向かい 
にどんなテナントが入っているのかよくわからない雑居ビルを見つけた。  
俺はそのビルの屋上に上がり、景色をのんびりと眺めていた。下ではサラリーマンが歩 
き回っている。  
「やれやれ、毎日毎日ご苦労なことだねえ……」  
俺はタバコに火を付け、独り言をつぶやきながら東屋の下にあるベンチにごろんと横に 
なった。  
ま、天気もいいし、たまにはこうしているのも悪くない、か。  
 
 
「ねえおじさん、いったいここで何をしているの?」  
どれくらいそうしていたか、居眠りしていた俺は突然肩を揺すられ目を覚ました。  
……おじさん? 俺はまだそんなトシじゃねえ、と答えようとして起き上がり、声を失 
っていた。  
年の頃は12、3歳くらいだろうか。ショートカットでくりっとした目が印象的な、何 
年か経てば間違いなく美人と呼ばれるだろう資質を持っている、可愛い女の子が立って 
いたのだ。  
 
「ねえ、何をしているの?」  
再び女の子が聞いてくる。俺は曖昧に笑みを浮かべながらベンチに座りなおしながら、 
「今、休憩中」と答えた。  
何に対しての休憩中なんだ、と頭の中で問いかける自分がいたのに気づき、思わず苦笑 
いしていた。  
だが、それにしても……。  
「君こそいったいこんな場所で何をしているんだ? 学校はどうしたんだ?」 
「え? 私ですか……? 今、休憩中です」  
俺の問い掛けに、俺の返事と同じように切り返す彼女。こりゃやられたね。  
 
「よいしょっと。天気、いいですね……」 
「ん? ああ」  
俺の隣に腰掛け、空を見上げながらつぶやく彼女に対し、適当に相槌をうつ俺。  
確かに天気はいいのだが……。少し暑いせいか、何だか咽喉が渇いてきたな。  
「えっと、水、水っと」  
俺は独り言をつぶやき辺りを見渡し、蛇口を見つけると咽喉の渇きを潤すために立ち上 
がった。と、  
「ダ……ダメです」 
「へ? ダメって何が?」  
突然、俺の袖を掴みながら首を振る女の子。俺は彼女の言っている意味が分からなくて 
聞きなおした。  
 
「そこのお水……飲むつもりだったのでしょう? あのお水はとてもじゃないけれど飲 
めませんですよ」  
お、おいおい。いったいどっからやってきたお嬢さまなんだよ。ここいらの水は皆同じ 
くらいだぞ。  
「ち、違います。あのお水は他と比べてもひどすぎます」  
再びかぶりを振る女の子。ふうん、そうなのか。俺はとりあえず納得して財布から金を 
取り出し、女の子に言った。  
「咽喉渇いたからさ、何か飲み物買ってきてくれない? 君も好きなもの買ってきてい 
いから」  
だが彼女はうつむいたまま、お金を受け取ろうとしない。  
……そりゃそうか。いきなり初対面の相手にパシリ扱いされて納得するヤツ、いるはず 
がないか。  
そう思った俺は、小銭をズボンのポケットにしまい、階段に向かって歩き出した。  
と、突然右腕を引っ張られる感触を覚え、横を見ると女の子が俺の腕に自らの腕を絡ま 
せていた。  
 
「な……ど、どうしたんだい?」 
「あの……。一緒に付いていって……いいですか……?」  
戸惑いながら尋ねる俺に、はにかみながら答える女の子。俺は、腕を絡まれることに多 
少驚きながらも頷く。  
そして、上目遣いに自分を見つめる彼女の微笑みにドキリとしていた自分がいることに 
気がつき、動揺を覚えていた―――。  
 
 
「さって、と。もうこんな時間か。仕方ない、帰るとするか」  
もうすでに空が夕焼けに染まってきた頃、俺は時計を見ながらつぶやく。  
結局あれから、二人で飲み物やお菓子を買い込み、延々とビルの屋上で二人でくっちゃ 
べっていた。  
「あ…あの…」 
「はい?」 
「明日も…ここに、来てくれますか?」  
別れ際、女の子が俺に話しかける。ううっ、また上目遣いで…。  
「ああ、来るよ」 
「ホ、ホントですか!? 約束ですよっ!」  
胸の鼓動が大きくなるのを抑えながら返事をする俺に、はにかんだ表情で小指を差し出 
す女の子。…何だそりゃ?  
「指切りです! 嘘ついたら、針千本ですからねっ」 
「ああ、分かったよ。…ところで、キミはなんて名前なの?」  
俺は苦笑しながら小指を差し出し、女の子と指切りをしながら尋ねる。  
「えっと…由奈って言います」 
「そっか…俺は敏則って言うんだ。よろしくなっ」  
指切りが終わってから、女の子はぽつりと名乗る。俺もまた自分の名を名乗り、屋上を 
後にした。  
その日は何故か遠足前の子供のように、明日が待ち遠しい、うきうきした気分で夜を過 
ごしていた――。  
 
 
「…で、]の解は3となる。分かった?」 
「はい! すっごく勉強になります!」  
あれから何日か経ったが、俺は毎日のようにビルの屋上に通い、由奈に勉強を教えてい 
たわけだ。  
自慢じゃないが成績はそれなりによかったし、人に教えるのも嫌いではない。  
「あのう…。それで、この前聞いていた、この箇所がどうしてもよく分からなくて…」  
「ん、それはね…」  
ああ、こういう生き方もあったんだなあ…。そんなことを考えながら由奈の質問に答える。  
実際に、生まれてから今までで最も充実していると言える時間だった。  
ただ、ひとつだけ気になるのは由奈のことだ。どうやら、ずっとここに暮らしているよ 
うで、学校にも通っていないらしい。  
いつだったか、何故学校に通わないのか、何故家に帰らないのかと尋ねたことがあった 
が、顔をうつむかせながら「行けないから…」と答えるのみだった。  
まあ、彼女には彼女の事情があるだろうから、あえてそれ以上深く追求することはなか 
った。  
「それにしても敏則さんって、色々な勉強ができるんですね! 由奈、感動しました!」  
俺がそんなことをぼうっと考えていると、いきなり由奈が俺の首筋にしがみつきながら 
言う。  
「ま、まあ、な。さて、今日はこれまで。じゃ、また明日ね」 
「あ。はい、分かりました! じゃ、約束です!」  
思わず胸の鼓動が大きくなる俺に対し、小指を差し出す由奈。  
由奈はいつも別れるとき、”明日会う約束”ということで指切りを俺に迫ってくる。  
実は俺も由奈と会うのが楽しみであったりするし…おいおい、確かに彼女は今のところ 
いないけど、由奈に…まさかな。  
そんなことを考えながら、俺は由奈に別れを告げ、会社に戻った。  
 
 
ザアアアア…  
その日は朝からもの凄い豪雨だった。それでも、俺は由奈のいるビルの屋上に向かった。  
由奈は東屋の隅でガタガタ震えていたが、俺を見てぱっと表情を明るくさせ、こっちに 
来るように手招きをする。  
俺はその笑顔に吸い込まれるように、東屋に向かって駆け出していた。  
「…寒いのか?」 
「…ええ。…寒くて、冷たくて…」  
ピッタリと俺に体をくっつけ、歯をガチガチ鳴らし続ける由奈。…おいおい、そんなに 
寒くはないだろ。  
俺はそう思いながらも由奈の肩を抱き、ちらりと由奈のほうを向いた。  
すると、襟の隙間から由奈のまだ未発達な胸の谷間が見えた。思わず顔を背ける俺。  
だが、目に焼きついた映像が離れず、かえって一瞬しか見なかったことにより逆に妄想 
が広がり興奮を呼び覚ます。  
その興奮を如実に表しているのが、俺の股間にあった。…そう、すでに完全に勃起して 
いたんだ。  
「あの…これ、どうしちゃったんですか?」 
「え!? いや!? これは…あの…その…」  
由奈が勃起した俺の股間を指差す。どう答えればいいものか、しどろもどろしている俺。  
「男の人って、時々おちんちんがこんな風に大きくなりますよね。何でこうなっちゃう 
んですか? 敏則さん?」  
さらに質問をする由奈。そのくりっとした目で上目遣いに見つめられたとき、俺の理性 
は限界を通り越していた。  
 
「…んっ…!?」  
俺は有無を言わさず由奈をベンチに押し倒し、唇を奪う。突然の出来事に目を丸くさせ、 
声を詰まらせる由奈。  
「男がちんちんを大きくさせるのはね…。目の前の女性のことが好きで好きでたまらな 
くなったときに、そうなるんだよ」  
唇を離して口をついて出る言葉…お、おいおい! 何を言っているんだ俺!?  
「じゃあ…じゃあ、敏則さんは由奈のことが好きなんですか?」 
「……ああ、大好きだ」  
由奈の問いに迷わず答える俺。  
…だから、さっきから何をして、何を言ってるんだ!? 自分のしていることが分かっ 
ているのか!?  
――頭の中で冷静に考えるもう一人の俺がいる。果たして、本当の”俺”はどちらなの 
か?  
「そうなんですか…。由奈も敏則さんのことが大好きです…」  
顔を赤らめながら微笑む由奈。俺はそんな由奈を抱きしめ、再び唇を重ねた。  
「んっ……。はぁ…はぁ…」  
長いキスの後、多少目を潤ませ息を荒くさせる由奈。俺は体を起こし、由奈のスカート 
をめくりあげる。  
「な…何を!?」 
「…由奈。キミのすべてが欲しい」  
驚く由奈に俺は答えた。もうすでに、冷静に考える”俺”はいない。本能の赴くままに、 
由奈のパンティに手を掛けた。  
と、由奈は両手で俺の手を掴み、抵抗しようとする。そんな由奈に俺は優しく答えた。  
 
「大丈夫。俺は由奈を酷い目に遭わせはしない。約束するよ」  
俺のそのひとことに安心したように体の力を抜く由奈。  
それどころか自ら腰を浮かし、パンティを脱がそうとする俺を手伝おうとすらしている。  
さらに由奈のシャツのボタンを外し、前をはだけさせる。すべすべとした白い肌が俺の 
目に飛び込んできた。  
「いや…。恥ずかしい…」  
両手で顔を覆いながらぽそりとつぶやく由奈。そんな仕草も俺にさらなる興奮を与える 
材料にすぎない。  
俺は由奈の両足を大きく広げ、その中心部に舌を這わせた。  
「きゃ…んっ!」  
一瞬悲鳴をあげようとするが、体を仰け反らせながら艶っぽい声を出す由奈。  
そんな声をひたすら聞きたいがために、俺はまるで何かに取り憑かれたかのように由奈 
の秘密の場所に舌を這わせ続けた。  
 
「あん…あんっ…。敏則さん…由奈…由奈…おかしく…おかしくなっちゃうよ…」  
俺がひたすら由奈の女の子の場所を愛撫し続けていると、由奈がうわ言のようにつぶや 
きだす。  
「そう……。何でおかしくなっちゃうのかな?」 
「何だか……何だか体が痺れるような、気が遠くなるような感じで…」  
顔を上げ、由奈に語りかける。由奈は右腕で目を隠しながら、ぼそぼそとつぶやく。  
そんな由奈がいとおしくて、俺は再び舌を這わせ続けた。  
「あ…っ…。あっ…。そ、そこ、そこダメェっ!」  
クリトリスに舌を這わせた途端、全身を大きく仰け反らせ悲鳴をあげる由奈。  
俺は舌を引っ込ませ、代わりにクリトリスをくちびるで軽く咥えながらチュッチュッと 
音を立てて吸い込もうとする。  
由奈はさらに声を大きくさせながら全身をビクビクと震わせ、秘密の場所からは蜜が溢 
れ始めていた。  
音を立てて蜜をすする俺。ちらりと由奈の顔を見ると、羞恥で真っ赤に染まり、涙でベ 
トベトになっている。  
それを見た俺は上半身を起こし、由奈の上に覆いかぶさりながら耳元で囁いた。  
「由奈…可愛いよ。愛してる…」 
「敏則さん…わたし……わたし…」  
つぶやく由奈のくちびるを再び奪う。由奈はそっと俺の背中に手を回し、しがみついて 
くる。  
俺は腰を浮かせ、カチャカチャとベルトの音を響かせながらズボンとパンツを脱ぎ、下 
半身を露わにした。  
そのまま俺は、これ以上ないくらいに大きく膨らんでいる己の分身を由奈の割れ目に擦 
りつけた。  
「あ…っ…。あんっ…」  
くちびるを離すと同時に甘い吐息を漏らす由奈。俺はしがみつく由奈の腕を優しく振り 
払い、上半身をあげた。  
由奈がくりっとした目で俺をじっと見つめる。その無邪気な目は疑問の色に染まってい 
る。  
これから俺が何をするか、分からないのだろう。  
 
俺は両手で由奈の秘密の場所を押し広げた。ピンク色の肉が蜜で妖しくぬめっている。  
女の場所ってのは、本当に魔力でもあるのか? そう思いながら俺は分身を秘密の場所 
に押し当てた。  
ぬちゅっ… 
「はあ…んっ…」 
ずっ…ずりゅっ… 
「い…痛…」 
くちゅっ… 
「大丈夫…。ゆっくりするから…」  
淫猥な音を立てながら由奈の中に俺の分身が潜り込む。由奈のつぶらなくちびるからこ 
ぼれる甘い吐息と声。  
俺はその声に潜り込ませる速さを遅くさせるが、それでも潜り込ませる行為そのものを 
止めることは出来なかった。  
にちゅ… 
「で…でも…っ」 
ずっ… 
「…んっ…はあっ…!」  
そのうち、由奈の声が甲高くなってきた。その声に反応した俺は上半身も服を脱ぎ捨て、  
腰の動きを少しずつ早めながら由奈の奥まで分身を出し入れさせる。  
と、由奈がふらっと俺の方に手を伸ばしてきた。俺は由奈の上半身を優しく抱きかかえ、 
そのままくちびるを奪う。  
「ん…んんんっ…」  
由奈はくぐもった声を漏らしながら、ふたたび俺の背中に手を回してきた。  
俺はひたすらその姿勢のまま、腰だけを動かし続けていた。  
「あ…ん…あん…。何だか…何だか…気持ち…いい…」 
「気持ちいいかい? …俺も…俺も気持ちいいよ…」  
ぱっとくちびるを離したかと思うと由奈がうわごとのようにつぶやく。  
それに反応して、無意識のうちにつぶやきかえす俺もまた絶頂が近づいている。  
「敏則さん…」 
「由奈…由奈…」  
すでに頭の中は真っ白で、お互いの名を呼び合いながら、腰を動かすことしかできなか 
った。  
「あっ…アッ…。敏…則さん! 由奈! 由奈!」 
「由奈! 俺も…俺も…く、くうっ!」 
「は、はあんっ!!」  
雨音が周囲に響き渡る中、俺と由奈はほぼ同時に絶頂に達していた。  
 
 
それから、俺たち二人は肩を寄せ合い、何も言わずに座り続けていた。  
いや、正確には何も言えなかった、のだ。成り行きとはいえ、由奈にこんなことをする 
自分が信じられなかった。  
行為の後に俺に襲い掛かってきた後悔の感情が、俺を寡黙にさせていた。  
気まずかったのは由奈も同じだったのか、彼女もまた、ひとことも発してなかった。  
 
「あ、雨…上がりました、ね」 
「あ、ああ…」  
が、ようやくポツリとひとこと。俺は何と答えていいか分からず、生返事を返す。  
「な、なあ由奈」 
「はい? どうかしましたか?」  
話しかける俺に、くりっとした目で見返す由奈。…う…何だか俺はこの目に弱い。  
「い…いや…。あの、さ。由奈って、ずっと一人でここにいるんだろ? 何なら…うち 
にこないか?」  
しどろもどろになりながらも、どうにか言葉にする俺。…おい、これじゃまるっきりプ 
ロポーズじゃないか。  
再び頭の中で冷静な俺が突っ込みを入れる。…今頃戻ってくるな、どうせならもっと早 
く戻って来い。  
「………本当に、いいんですか?」 
「ああ勿論。どうせ一人暮らしだし、困ることはないさ」  
俺が頭の中で”俺”と会話をしていると、由奈が問い掛けてきた。俺は即座に答える。  
…いや、実際には困ることはたくさんあると思うのだが…。って、しつこいぞ。ここま 
で来て後に引けるかい。  
「あ、ありがとうございます…。でも…でも、それ…は……」  
うつむきながら、逡巡する由奈。そりゃあ…そう、だよな。  
「…あ…由奈には由奈の事情があるんだろうから、嫌なら無理する必要は無いんだぞ。  
俺は今日はこれで帰るから、ゆっくり考えなよ。それじゃあな」  
立ち上がり、出口に向かって歩き出しながら、由奈に手を振る俺。振り向くことはしな 
かった。  
 
 
 
 
その日、由奈と指切りはしなかった――。  
 
 
 
 
「ちっくしょ。またやられたか」  
俺はゲームの電源を切りながらぼやく。…今日も朝がやってきた、か。  
その日は結局一睡もせずに、ひたすらゲームをやっていた。仕方が無い。とりあえず、 
会社に行くとするか…。  
ぼうっとした頭で出勤する。その日はとりあえず定時まで会社にいた。  
一睡もしていないので、仕事をまともにやったかどうかは覚えていやしないが。  
終業の鐘が鳴ったと同時に席を立つ俺。向かう場所はただひとつ……由奈のいる、例 
のビルだった。  
 
「何だ? 何があった?」  
ビルの前では警官が立っていて、立ち入り禁止のロープが張られている。……まさか。 
俺の心臓の鼓動は高まっていた。  
「ちょっとキミキミ。このビルは立ち入り禁止だよ。それとも、ここの関係者?」 
「いえ…。あ…あの…何が…あったのですか?」  
入り口で俺を制止する警官に俺は質問した。…まさか…まさか由奈が…?  
「ああ。ビルの屋上の給水塔で遺体が発見されたんだよ。  
数ヶ月前に母親が娘を殺してそこへ投げ捨てたと自供してね。詳しく知りたければ、 
今日のニュースを見ればいいさ」  
淡々と答える警官に俺はハンマーで殴られたような衝撃を覚えていた。  
あそこに…あそこに…遺体があった……?  
「そういう訳で立ち入り禁止なんだ。さ、帰った帰った」  
声が出せずに立ち尽くす俺を警官が追い払う。俺は逆らう気力も無く、フラフラとそ 
の場をあとにした。  
 
 
『ニュースです。行方不明の女の子、犯人は母親でした』  
駅前の家電屋を通り掛かったときに耳に入ったテレビの声。俺はまるで吸い寄せられ 
るようにテレビの前に立った。  
『数ヶ月前から行方が分からなかった、星崎由奈さんですが、今日昼過ぎ母親の自供 
により、遺体で発見されました』  
…被害者の名前が由奈だって!? 俺は思わず叫びそうになっていた。そんな…まさ 
か…まさか…。  
その時、俺の頭の中では”由奈”と出会っていた頃が走馬灯のようによぎっていた。  
 
 
『そこのお水……飲むつもりだったのでしょう? あのお水はとてもじゃないけれど 
飲めませんですよ』  
『…ええ。…寒くて、冷たくて…』  
 
 
そうか、だからあの時、俺に水を”飲むな”と言っていたのか。だからあの時、水を 
見て震えていたのか…。  
俺は心の中で何かが壊れたように、それでも何かを納得したかのように、その場を立 
ち去り、自宅に向かった。  
 
「ちいっ。電気消し忘れてたか」  
自宅のカギを開け、思わずぼやく俺。部屋からはゲーム音が聞こえる。  
ギリギリまでゲームをしてたときは時々やってしまうからな…。俺は、ため息をつき 
ながら部屋に入った。と、  
「あ、敏則さん、おかえりなさい! このゲーム、凄く難しいですね。由奈、全然進 
まないです」  
そこには、ゲーム機のコントローラーを握り締めながら、俺に微笑みかける由奈の姿 
があった。  
 
 
おわり  
 
 

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