まったく何がどうなっているのか…まったく理解不能だった。  
道路全体に狸の死骸が埋め尽くされ、俺の自慢の愛車は狸の血で深紅に染め上がっていた。  
 
『変わりヒト』  
 
ピピピピピピ……  
 俺の睡眠を邪魔する憎い音と共にベッドから跳ね起きた。まったく朝っぱらから嫌な夢を見たせいか、お気に入りのパジャマが嫌な汗でぐっしょりになってしまっている。3連休の初日の朝っぱらから嫌な夢を見ちまったせいか気分が悪い…浴室でシャワーでも浴びるかな。  
十数分後、シャワーを浴びた俺はまた一段と漢に磨きがかかっている。正直、俺みたいにこれほどいい男は世の中には2人としていないだろう。それほど俺は漢の中の漢だ。おっと、今日は実家に帰って仕送りを渡すついでに、自然の中で息抜きをする予定だったな。  
 俺ほどの漢になると毎日が忙しくてしょうがない。  
俺は華麗にスーツを着て、持っていく荷物を適当に鞄に詰め込んで、鍵がかかっているか確認し家を出る…家の前の駐車場に停めてある、愛車の青色MINIに荷物を放りこむとエンジンキーを回す。  
キャキャキャキャブワァァァン……  
 いつもこの音がたまらなく愛しく感じてしょうがない。今日も元気だね俺のMINIよ……。  
俺はやさしくハンドルをなでてやると優しくいたわるよう駐車場から発進したのだった。  
 
 
家を出て2時間弱が経った。  
 道は高速道路から峠道に入ったので実家まであと少し。カーブを抜けた先の道路の真ん中に狸がいた、ここいらはまだ自然が結構残っているので野生の狸がいても不思議ではない。  
反対車線に車が来る気配はないので避けようとした時だった…急に狸がこちらに向かって突進してきたのだ。避けようにも避けれなくなったので急ブレーキを踏む。  
 車は特有のスキール音を上げ停まろうとする。車のキズとタイヤの溝、俺はどちらかをとれと言われたら…当然、タイヤの溝をとる。俺の愛しい車にキズでもついたらたまったもんじゃない。  
ドカッッッッッ  
 鈍い音と共に車は停止した。  
 神様はなんて非情なんだろうか? 俺の愛車とタイヤの溝、両方を持っていくなんて考えてなかった。冷静に考えたら、ここは峠道…周りに車はいない状況で自然とスピードが出ていたのだろう。  
俺の自業自得だな…そう考えながらゴミ箱代わりにしようと思っていたスーパーのビニール袋を手に車から降りた。普通の人は轢いたらほっといて行ってしまうのだろうが、流石に供養してやらなきゃかわいそうに思った。ただそれだけの事だったのだが……  
「何で狸の死体が笑ってるんだよ。」  
 怖くてしかたがなかった。見間違いだとかそう見えただけとかそんなものじゃない…何か恐ろしいものの片鱗を見たようで怖かった。が、このままにしておくわけにいかない。恐る恐る死体に手を触れようとした瞬間、すぅっと死体は消えてしまった。  
残された物といえば、狸を轢いた時の血だまりと、フロントバンパーにキズができた俺の愛車と、真っ青になった俺だけが残されていた。  
 
 
「ただいまぁ〜。」  
 惨劇の後、何事もなく普通に実家に帰ってこれた…が、少々気になった事がある。昼前だと言うのに人がいないのだ…店もコンビニさえ開いていない、歩いている人間もいない。いるとしたら狸が大量にたむろしているだけだった。  
いやぁな感じがしてたまらない。  
「あ、お兄ちゃん。お帰りなさい。」  
「おぉ、由美か。どうよ高校は……。」  
「うん、それがこの2,3日で生徒はおろか先生…町の皆も忽然と姿を消してゴーストタウンになってるのよ。あ、お父さんとお母さんは深刻な顔して居間で二人で話しこんでるよ。」  
「そうか、ありがとう。」  
 妹はペンを耳にかけ自分の部屋へと入っていく。俺はそのままノックなしで居間に入った。  
「ただいまぁ。」  
「あ、お帰り…康太郎。」  
「町がゴーストタウンになってるんだがどうかしたのかい?」  
「あぁ、実はこのところ町の人の対応があからさまにおかしくなっていてな。よそよそしいというかまるで人間ではないような……。」  
 人間離れした生活ができる親父が言うのだ間違いないだろう。  
「康太郎…実はこのところ皆、悪漢に襲われてね。」  
「え? 親父もお袋も由美もかい?」  
「あぁ、私は実力で追い払ったが、母さんと由美は稲荷神社でもらったお守りを投げつけたら苦しんで逃げたそうなんだ。」  
 俺がどんなにすごくなろうとしてもこの親父には勝てそうにない。にしても、どうしてお守りを投げつけたら苦しむのだろうか? 確か稲荷神社では、幼馴染が巫女をやっていたな…顔も見たいし行ってみるか。  
「なぁ、今から稲荷神社に行ってきてもいいか?」  
「では、私達も一緒に行こうか。」  
「えぇ。」  
 こうして俺達は少し離れた山の上の稲荷神社へと行くことになったのだった。  
 
町から少し離れた山の中腹に稲荷神社はある。   
 幼馴染であり、俺が昔淡い思いを抱いた彼女…神童 涼子はさらに美しく…さらに袴姿で出てきたので思わず『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!! 』なんて叫びそうになったが心の中で必死に押しとどめた。  
「もうそろそろ来る頃だと思ってました。説明とかは後でするので早く本堂の中へ!!」  
彼女は俺達を土足のまま無理やり寺の本堂に押し込む、俺の背中に彼女の胸が当たり口の中が鉄の臭いで充満する。  
「りょ…涼子さん。ど、土足のままでいいのかい?」  
「そんな事言ってる場合じゃないんです。早く!!」  
彼女の必死な顔を見て事態の深刻さを理解する…だが、鼻血が垂れているので傍から見たらただの変態だろう。 正直、非情に格好が悪い。  
 お袋と由美が白い目で見てくるので本堂に入ったらすぐにティッシュを取り出し鼻をかむ。鼻血を出させた当の本人はというと……  
「どうかしたの? 鼻血なんか出して。」  
なぜ鼻血を出したのかまったく理解していなかった。流石に『胸が当たって出た』なんて口が裂けても言えないので適当に言い訳をしたら……  
「そう…では、一人一人分かるように事態の説明をするんで私にお父様から私の後についてきてください。他の人は後でお呼びしますので少しの間本堂で待っていてくださいね。」  
 華麗にスルーされてしまった。 ん? ちょっと待てよ。  
「どうして一人一人なんだい? 一度に説明できるだろうに……。」  
と、まぁごく当然の疑問をぶつけてみる。  
「それは…今は時間がないので後で説明します。」  
 まるで『これ以上質問したら殺す』みたいなオーラを感じる。え? 俺って何か変な質問したっけ? 俺が混乱している間に親父と涼子は本堂を出て行ったのだった。  
 
 
親父への説明から3時間経過――  
 お袋に続き由美も連れられて行ったがどういうわけか誰も戻ってこなかった。由美を連れて行こうとする前に俺が説明を求めても『安全な所に隔離した』と一点張りで話にならなかった。俺は暇なのでこの謎を脳細胞を使って考えてみたがどうにも答えは出てこなかった。  
どうせ次は俺の番なんだから、すぐにこの謎は解明されるだろう。  
 あまりにも暇なので窓を見てみるとうっすらと満月が昇り、太陽も沈み始めているのか薄暗かった。こういう日は燃えるように血が熱くてたまらない。  
まぁ、気分的にハイになるだけでそんなに害はないし、子供の頃からそうなので俺的にはもう慣れてしまっているが…何か大切な物を忘れてしまったような気分にもなる。  
それから美しい我が思い出に浸っていると、やっと涼子が戻ってきた。  
「待たせたわね。」  
「結構待たされたよ。で、時間がないのに何でここまでかかったか教えていただくぐらいは聞いてもよかでしょうか?」  
「そうね、貴方達家族って結構頑固だったからと言っておきましょうか。」  
 あの親父の事だ。彼女が提案したことを聞かなかったんだろうな…思わず頭を抱えてしまう。  
「で、俺をどうしたいんだ?」  
 家族がここにいないということは会えない理由があるはずだ。しかも、その理由は町から人が消えたことにつながるはずである。と、俺の本能は告げた。  
「そうね…でもタイムオーバーだったみたい。」  
 彼女は独り言のようにため息をもらした瞬間だった。  
ガンッッ!!  
 本堂の扉が叩きつけられるように開き、その先には2本足で立ったまるで信楽焼の置き物のような狸達が蠢いていたのであった。  
「うん、涼子さん、これはどういうことですかなぁ〜?」  
 必死に平静を装うとしているが顔が引き攣ってしまうのは当然だ。そう、いくら俺が漢の中の漢だとしても…だ。これは想像の範囲を超えている。  
「康ちゃん、私が時間を稼ぐから早く逃げて。」  
「嫌だね。俺は男だ! 女性を盾に逃げるなんてできないネ。」  
「おじさんも同じように同じこと言ってたわね。流石は親子ね。」  
「俺は親父似なんだよ。ところで策があるんだが乗ってみないか?」  
 そんな些細な会話の間にも狸達は俺たちを囲もうとする。  
「何よ? その策って?」  
 訝しげに問い返してくる彼女を見て俺は軽くニヤッとすると、ライターと隠し持っていたねずみ花火を取り出す。彼女はそれを見てあきれた顔をする。  
「貴方って、ホントに昔っから悪戯好きよね。」  
 そう、これは元々、涼子を言いくるめて2人で外に出た時に驚かしてやろうと用意していた物なのだ。  
「火事になったら本気で許せ。」  
「大丈夫、火事は慣れてるし対策もしているから。」  
「そうかぁ。」  
 それを聞いたら躊躇する必要は無い。俺はネズミ花火に火をつけて狸達に投げつけてやった。  
 
 案の定、急に投げつけられたねずみ花火に慌てふためく狸達…その間に彼女の右手をしっかりと握って裏口へと走り始めた。彼女もやる  
事が分かっていたのだろう。自分の存在を確かめ合うように手を握り返してきた。  
俺たちは裏手の廊下に出て、そのまま裏口から外へと逃げる。  
「はぁ、はぁ。…ねずみ花火はまだあるの?」  
「あれで終わりだ。百円ショップの物だから1つしかないんだ。」  
「何か…策は…あるの?」  
「無いから逃げてるんだろぉぉぉ!!」  
 後ろからは見なくても分かるほど追いかけてくる気配をビンビンに感じる事ができた。  
「あっ!!」  
おそらくは石に躓いたのだろう。手が解け、彼女は地面に勢い良くヘッドスライディングを決める。  
「大丈夫か!?」  
鼻血も出ている…かなり痛そうだ。  
「いいから逃げて! 後から絶対に追いつくから!!」  
「くそっ…!」  
 唇をかみ締めながら俺は走った…立場は全然違うが、まるで『走れメロス』に出てくる主人公の気分になれたような気がした。  
 
道無き道を走りぬけ、聞こえるは俺の息を吐く音だけ。  
 驚くほど静かで、本当に追手が追ってきているのか怪しくなるくらい静かで逆に怖くなる。  
満月の月明かりの元、妙に疲れがたまらない…逆に走るスピードが速くなるのを俺自身感じる事ができる。  
このペースだともうそろそろ家が見えてもいい頃だった。  
 だが、家の影は近づく事はなくむしろ同じところをグルグル回っているような…そんな気分にさせられた。  
何かがおかしい…俺は適当な木に目印をつけ再び走り始めた。  
 
数分後――  
 俺は目印をつけていた場所にいた…狸に化かされていたのだろうか? 化かされていたとしたらいつ? どこで?  
いくら考えても回らない頭に腹が立つ…その時だった、俺は元々スレンダーな体型なのだが、まるでポンプで空気を入れているかのようにお腹が膨らんでいくのだ。  
お腹に合わせて体型もどんどん膨らんでいく、自分でも気がつかないうちに一物も赤黒く2倍以上に膨れ上がっていた。  
 当然、満足に走れるわけでもなく、すぐに息が上がる。それに合わせて自分自身の身体の体温も急激に上昇していくのが感じられた。  
「お、お兄ちゃん。」  
 そんな苦しい中、我が妹の喘ぎ声が聞こえた。  
 
「由美…由美ぃ!!」  
 妹の名を叫び、悶えながらも何とか傍まで来た時だった……。  
「お兄ちゃん、そのデッカイおチンチンで私を貫いて……。」  
 そこには愛しく可愛い妹の姿は無く、醜くて太っちょの雌タヌキが自ら犯されようとしている姿だった。  
「な!? 由美じゃ…ない?」  
「お兄ちゃん、私よ。ほら新しい身体、可愛いでしょ?」  
 そう言って雌タヌキは俺の唇を奪い、その大きな尻尾を器用に使い、股の間から尻の…特に尾骨付近を入念にさすり始める。変化が始まってから、まるで全身が性感帯のようになっている俺はなす術も無くその気持ちよさに堕ち始めていた。  
「ほら、お兄ちゃんも私みたいに毛むくじゃらになってきてるわ。」  
 彼女の言うとおり、全身から獣毛が噴出すように生えてきて…さすられている尾骨からも何かが伸びているような、そんな感覚に陥っていた。  
「じゃあ、私の中に入れるね。」  
 ダメだ!! これを入れさせたら本当に人間じゃなくなっちまう…そう考えた俺は身体をよじらせて逃げようとするが、とても妹とは思えないほどの力で押し倒された。  
「お兄ちゃん…逃げちゃ、い・や・よ。」  
 まるで一昔前の大人の女性の口調で言いつつ、唇で口を塞ぎ、自分の秘所に俺の一物を差し込んだのだった。  
 
 山に妹と俺の吐息と淫乱な音だけが木霊し、俺の身体は顔を除き、狸と寸分違わぬ物となっていた。  
「お兄ちゃん…いい加減出して。一緒に逝こうよ。」  
「俺は狸を妹に持った覚えは無い。」  
 自分の知らない間にも顔にも変化は始まっている耳は丸く…頭の上へと移動していく。  
「ふぅん、まだそんな事言うんだ…じゃあね、こうしちゃうんだから♪」  
 彼女は尻尾を唯一の穴にねじ込もうとする。  
「そんなでかい尻尾なんて入りは…ぐぅぁぁぁあ……。」  
 意思と関係なく肛門は尻尾を難なく受け入れる…強烈な痛みと共に快感が襲う。俺は歯を食いしばる事しか出来なくなっていた。彼女はあきれた顔をしつつも、先ほどと同じように人より長い口を器用に使いキスをする。  
俺はそんな事お構い無しに歯を食いしばっていたのだが、相手は無理やり舌を入れてきた…あまりの快感に耐え切れず、身体中の力が抜けていくと同時に鼻から口が伸びていき、意識が獣の物へと成り変って行くのをただ感じるだけだった。  
 
「……康ちゃん? 康ちゃんったら?」  
「はっ!? 俺は狸になったんじゃ?」  
「ハハ、何言ってんの? 久々にうちに来て、寺の縁側でのんびりお茶を飲んでたと思ったら寝ちゃって…かわいかったわよ、寝顔。」  
 袴を着た幼馴染が顔を覗き込んでいる…どうやら、ずっと俺の膝枕をしていたようだ。  
「ごめん。」  
 俺は赤面しながらも起き上がる。太陽は未だ頭の上でぽかぽかと照らしている…妹を犯してしまった夢、あれは悪夢だったのだろうか?  
それにしても豪いリアルな夢だった。  
「悪い、もうそろそろ帰るわ。」  
「うん、何時までこっちにいるの?」  
「う〜ん、仕事もあるし明後日には発つわ。」  
「分かった。」  
 取り留めのない会話をし、神社を後にする…何が本当で、何が夢なのか未だに頭の中がすっきりしないが並木通りをゆっくりと散歩しながら帰っていった。  
 
 

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