ある朝、目覚めたら声が出なかった。
どうも体の調子がおかしいな?と思いながら、うがいをしに洗面所へ向かった。
「ガラガラ〜ぺッ!!」
うがいをしつつふと鏡に目をやると、自分で思ってたより髪が伸びていたことに気づく。
(そろそろ髪切りに行かなきゃ・・・今度はどんな髪型にすっかなー?)
そんなことを考えながら洗面所を後にする。
「な、なんだ!?」
突然、目の前が真っ暗になった。
驚いた俺はパニックを起こしつつ日の光が差しているベランダのほうへ向かう。
ベランダに出てみて始めて真っ暗になった理由がわかった。前髪が異様なほど伸びていたため、前が見えなくなったのだ。
落ち着いて触ってみると前髪だけではなく髪全体が体を覆いつくすほど伸びているのがわかった。
この異常事態に慌てふためいていると、突然髪が体に纏わり付いてきた!
(うわ!ななな・・・・何が!?)
髪の呪縛から抜け出そうと激しくもがいていたら、誤ってベランダから落下してしまった。
(うわああああああああああああああああああ!!!!)
俺は死ぬのか・・・そう思っていると纏わり付いていた髪の力が緩んでいくのを感じた。
いや、緩んでいるわけではなかった。どっちかというと体の中に吸い込まれていく感じだった。
そうこうしてるうちに俺は地面と追突した。
ドスーン!!!
「ブゴォッ!」
地響きとともに間抜けな悲鳴を上げながら、ああ・・・俺は死んだんだな・・・と薄れゆく意識の中で思った。
しかし、現実は非情ではなかった。
多少の痺れはあったが何とか動くことができたのだ!ビバ生命!
(・・・そういえばあの髪はどうなったんだ?)
さすがに立つことはできなかったので四つん這いになってなにか体を映せるものを探すことした。
しばらく辺りを彷徨って近くの川でとりあえず自分の顔を確かめようと覗いてみた。
「ブヒャ!!!」
なんと川の中から黒い豚がこちらを覗いているではないか!
さすがにビビった俺は一旦川から目を逸らした。
一度深呼吸してから再び川の中を覗くと、今度は黒豚と目が合ってしまった!
「ブヒィッ!!」
俺はまるで豚のような悲鳴をあげてしまっていた。それと同時に水の中の黒豚も驚いた顔をしていた。
(どういうことだ・・・?まさか・・・・!)
心臓がバクバクなっている。だがじっとしていても始まらない。
真実を確かめるために勇気を出して水中に向けて微笑んでみた。
するとどうだろう。水中の黒豚もぎこちなく微笑んでいるではないか!!
(そんな・・・そんな!!)
目の前の出来事を信じられない僕は、笑ったりしかめっ面をしたり色々と顔を変化させてみた.。それに合わせて黒豚の顔も笑ったり不細工なしかめっ面に変化する。
最終的には黒豚の顔は今にも泣きそうな.悲しい表情をしていた。
俺の口からはため息はでなく、代わりに鼻からフゴッっと鼻息が出るばかりだった。
冷静に頭の中で今起こったことを整理する。
『突然髪が伸びる→体に髪が纏わり付く→パニックになる→ベランダから墜ちる→なぜか死なない→いつの間にか髪は消えて、俺は黒豚になっている』
こうして冷静に考えてみると、やはりあの髪が原因なようだ。
だがこんな姿になってしまった今では、もうどうすることもできない・・・。
出来るのはただブヒブヒと鳴くことだけだ。
「ブヒッブヒッ!ブヒィー!!」