私はずっと屋敷の中で生まれ育った。だがそこに私がいた理由はそこで豪奢な生活をするためでも、そこで働くためでもない。いや、働いてはいたのかもしれない。
私は虐げられるために存在する「人形」の役割を果たしていたからだ。
屋敷の人たちは主人であろうと家政婦であろうと、私を蹴り、蔑んだ。時には真っ赤な火かき棒を当てられ、私の肉にやけどを作り、そこの部分を禿げさせた。
それすら笑い事にされ、更にいくつか火傷を負わされた。いつもの粗末な物置小屋で寝起きをしていたら三日ほど経ったときには肉がぐちゃぐちゃに腐り、異様なにおいを放ち始めた。
家政婦の一人がスプーンのようなものを使ってそこを抉り取った。私は激痛にのた打ち回り、血液と涎を撒き散らしながら、しかし痛みに耐えることしかできなかった。
それを見ながら彼らは私を笑い、そして抉り取った肉を捨てた。抉り取った家政婦はおぞましいとばかりに幾度も幾度も手を洗った。
少なくとも、私が見ている限りでは彼女に私の体液が付着したとは思えなかった。だがそれでも彼女は石鹸を使い、何度も水で流した。
皮の手袋の上にスプーンを触ったはずなのに、それでも洗った。
彼らは私のことを同種とは思っていなかった。私も産まれたときから屋敷の中の自分を覗いてきたが、それは十分に承知していることだった。
私と彼らは根本的に違う。彼らは私と自らを比べるとき、自分のことを人間と称する。一方で私は畜生と呼ばれた。鏡に映った私の顔、身体が犬のそれに近いことからそう呼ばれるのだろう。
ただ大きく違うのは、犬のような四足歩行ではなく、二足歩行であることだった。細かく言えば耳の毛は抜け落ち、至る所が鬱血している。火傷の痕は無数。
他にもたくさんあるはずだが、実のところよくよく比べたことはないからあまり分からなかった。
少なくとも私にとってこの場所が生まれた場所であり、虐げても笑顔を見せてくれる彼らのことが好きだった。痛いのは嫌だったが、笑顔は好きだ。だから虐げられても平気だ。そう思えば、気が楽だった。
芥と掃除道具、それとゴキブリと僅かな食べ残しが腐ったものが私の寝るのを待っていた。それだけが唯一の救いだったのかもしれない。
朝起きれば蹴られる。それが坊ちゃんの朝の体操。腹を殴るのは旦那様の日課。
指の骨を折るのは奥様の趣味だった。それが完治するなんてことは殆どなかったから、冬の初めに後頭部を殴られて殺される頃には私の身体で歪ではないところは殆どなかったし、遊び甲斐がなくなっていただろう。
多分、だから捨てられたのだと思う。
朝起きていつものように体中を蹴られて、旦那様に顎を殴られてのた打ち回っている横から奥様が、
「もういいわ。飽きてしまったもの」
その言葉を合図に、家政婦達は例の手袋をはめ、庭の小屋に置いてある薪を手に取った。
私の後頭部に大きく叩きつけ、そこから全身を叩き潰す。顔は無事だったけれども、結局右耳は途中で聞こえなくなってしまった。体中が動かなくなって、私は自分が死んでしまったのだろうと結論付けた。
私はその日のうちに厩の傍にある、肥料にするための肥溜めに捨てられた。
壊れて飽きてしまった、人形のように。
しかし死んでしまったと思ったのだけれども、思った以上に私は頑丈らしい。
頭に何かが当たって痛いなと思ったとき、目を開けると悪臭。全身に纏わりついたそれは馬の糞だった。
空から落ちてくるのは冷たい針。傷口を雨が叩いて、とてつもなく痛かった。
立ち上がろうと突っ張った手を支えるはずの床に、身体がめり込んだ。歪な指が中に隠れてしまって、引き抜こうとした瞬間猛烈な悪臭が鼻を突いた。
また意識を失ってしまいそうなそれに、呼吸を止めてなんとか対処をして私は肥溜めに転がるようにして身体の重みを分散させた。
ゆっくりと引き抜いていくと、なんとか抜ける。けれどもそのときには私の身体は馬の糞塗れで、息を止めるのも限界だった。
体中を蟲が這い回り、蝿がたかる。発酵したガスが私の意識を奪おうとしたところで再び息を止める。
何とか這って地面に戻ったけれども、体中に染み付いた臭いは雨に全ての糞を流してもらってもそう簡単には消えはしなかった。
それでも肥溜めにはまっていたときよりは幾分かましになった匂いに、私はようやく呼吸をすることを思い出した。が、鼻は完全に麻痺してしまっていた。
あまりの悪臭のせいで、それ以外が鼻に入ってこないような心地。
痛いとすら思える嗅覚は恐らく身体に染み付いた臭いがある程度消えるまで機能することはないだろう。それは大きな不安だった。普段から屋敷の人たちの感情の機微を読み取るのに役立っていたそれが使えないのは、私にとっては大きな痛手だ。
捨てられたのだからきっと屋敷に戻ることなど許されないのだろうけれども、もしこの先また人間と会う事があるようならまたそれを使うこともあるだろう。だからこそ怖かった。不安でたまらなかった。
けれども、気を失っている間中降りしきる雨の中にいた私は凍え切ってしまっていた。
まだ季節は冬と言うわけではないけれども、それでも叩く雨はとても冷たく、吐く息を白く濁らせた。昇っていくうちに景色へ溶けていくそれを見ながら、私はすぐ向こうにそびえる私の生まれた屋敷を眺めた。
言葉は出なかった。ただ何となく飽きられてしまったことを悔やんだ。きっと人は飽きたものを簡単に捨ててしまうことが出来るのだろう。
私の身体を弄るのに飽きたのだったら、それは仕方がないことだったのかもしれない。私の身体は確かにぼろぼろだったし、他に遊ぶようなところもない。
歯は全て揃ってはいたが、恐らく左手の指は使い物にはならないだろう。スプーンでえぐられた場所は肉が生えてくるかもとは思ったが、そうなる前に皮が張ってしまい、抉れ、禿げたまま機能を取り戻していた。
私は歩いた。ただ、歩くことしか出来なかった。
屋敷に向かおうとした足はしかしそこに背を向ける。自分でも分かっていた。あそこに私の居場所なんてないと。
ただでさえ笑いものにされていたのだ。そこにしか居場所がなかったはずなのに、そこに戻ればまた痛い目に遭わされる。
それならば逃げてしまえばいい、と私は考えていた。それは辛い決断であり、一方で私自身を救うための決断でもあった。
少なくとも、馬の糞の匂いが染み付いてしまった私を屋敷に入れることなど、あの清潔好きな人間達が許すはずがない。
追い出されるか、その場でもっと酷い目に遭わされて、殺されるのが目に見えている。
だから逃げよう。何処か遠くへ。もしかしたら私と同じような者がいるかもしれない。そうでなくてもあの屋敷のように痛い目を見ることはない。
だったら空腹や、雨の寒さなんて気にはならなかった。勿論寒くないわけではない。身体が震えないわけでもない。
けれども、ほんの少しだけ見えた光明は私を奮い立たせるには十分だった。
私は歩いた。けれども何となく物足りなくて、少し早く歩いた。それでも物足りなくて少し走りはじめた。そして私は全力で走った。
何度も折られた足は走るには少し辛い。それでも走った。私は自由だった。
初めて自由だった。
走って走って、走りつかれるほどに走って、辺りを見回してみるとそこは森だった。
雨の衝撃をつけて木の葉が落ちてきているのか、雨宿りは出来ないみたいだった。ざくざくと腐葉土を踏みしめる感触が気持ちよくて、私はお腹が空いていることを少しだけ忘れて、また歩いた。
少し先に道が見えると、その足はなおさら速く進んだ。
しかしそれは細い獣道だった。
殆ど人が来ないようなそれは、まるで人里から離れて忘れ去られてしまったかのように枯葉に埋もれかけていた。けれどもそれは私にとって救いの道の様に感じられた。
長く続くその先に虐げられることのない生活が待っているのだと思うと、心が躍った。ただ、勿論同じ分だけの不安が私を襲っていたのも事実だった。
見つかって、もしまた暴力を振るわれたら。産まれたときの姿ではなくなって私を、また痛めつける者が現れない保証はなかった。それが一番怖かった。
道に入ってから少し歩いて、はるかに見えた黒い影。それは肥溜めの横にあった厩よりもほんの少し小さい、小屋だった。
勿論屋敷の小屋と比べれば全然大きさは違ったが、それでも雨を避けるには十分すぎるほどの建物だった。
近づいてみると、灯り。どうも雲の所為で空が暗いので小屋の中では灯りが必要なようだった。そして灯りが必要ということは、中に人がいるという証明だった。
先ほどの不安と、期待が大きく膨らんでいくのを私は感じた。勿論前者の方がはるかに大きかったが、しかし後者を信じたいという気持ちもまた、あった。
その気持ちに負けて小屋に走り寄り、私はいつも屋敷でそうしていたように扉を叩いた。中からはヴァイオリンの旋律が聞こえてくる。
加えて雨音で聞こえなかったのか、もう一度。そこで演奏が止まった。「誰かいるのかい?」という透き通り、しかし芯の通った声。この小屋の主人は、少年か青年か。その辺りのようだった。
「申し訳ありませんが、軒下だけでもいいので雨宿りをさせていただけないでしょうか」
ただその旨だけを、私は伝えた。余計なことを言って、扉を開けてもらっても困る。
いくら雨に流されたとはいえ、未だに私の身体からは動物の糞のにおいがしていたし、私自身もそれで不快になるのだ。この小屋の主人がそうならないわけがない。そうすれば、軒下にいることすら許してもらえなくなるだろう。
「そんなこと言わずに中に入ってください。歓迎します」
主人はいい人のようだった。だが、私はそうするつもりはなかった。これ以上傷つくのは御免だった。
「いいえ、十分です。お心遣い感謝します」
「そんなことを言わずに、」
唐突に扉が開いて、私はびくりと身体を震わせた。そこには端麗な顔をした人間の青年が、驚いたような表情で私のことを凝視していた。
そして顔をしかめる。すぐにドアを閉めるようなことはしなかったが、それでもやはり気になるのだろうと私は俯いた。
「犬さんだったんですね。どうぞ、中に入ってください」
視線を地面に落として、意味を咀嚼。気付いた瞬間にはっと振り向くと、笑顔で私の手を掴む青年の姿。
「酷い怪我だ。さあ、早く中に」
引っ張られて、私は為すがままに部屋へ連れ込まれることになってしまった。引っ張った青年の顔は笑っていた。
わけが分からない私を尻目に、彼は小屋の入り口の椅子に私を座らせる。そのまま奥に行き、暖炉に掛かっていた薬缶を取り出す。
「お茶でいいですか?」
私は頷く。が、一向に彼の思考が理解できない。
少なくとも私の鼻は強烈な臭いを嗅ぎ分けているし、人間の彼ですらそれが鼻につくのは当然だろう。しかしそれに嫌な顔をしない。それどころか、私をもてなしまでしている。
「ですが、いいのですか? 私はこんな臭いをさせて」
「何のことですか? さあ、お茶を淹れましたよ。お菓子は、すみません。クッキーしかないです」
菓子を食べるのは初めてだった。屋敷の坊ちゃんや奥様が食べていたのは知っているが、私自身はその甘い香りを嗅いだことしかない。
普段は粗末な食事しか与えられていなかったし、一度空腹に耐えかねて屋敷の食料庫に忍び込んだこともあったが、その時は腹を満たせるようなものしかとってこれなかった。
しかも、そのあとこっ酷く叱られ、右腕の骨を折られた。その時は何とかもとの形でくっついたけれども、二度とそんなことはしないと心に強く誓ったものだ。
「食べていいのですか?」
「ええ、勿論。歓迎しますよ。こんな辺鄙なところに来るなんてのは人間も、獣人も殆どないですから」
青年は笑顔で受け答えする。それを見て私も遠慮がちに微笑む。
一拍置いて、
「どうせなら泊まっていってください。ついでに、怪我も診ましょう。ベッドは一つしかないですが、勘弁してください」
その申し出に、口に痛いほどクッキーを詰め込んだ私は、激しく頷きながら、
喉に詰まらせた。
夕食は豪華だった。とは言っても、彼には普通の食事らしい。パン二枚とウインナーソーセージが二本。ポトフと切り分けられたチーズ、サラダ、そしてデザートはやはりクッキーだった。
私はむしゃぶりついた。ただ空腹だったからではない。それが初めて食べるようなまともな食事だったからだ。
ただでさえ糞の匂いの染み付いた体中の毛にスープを零し、パン屑を引っ掛けながら、とにかく夢中で食べた。途中でパンが足りなくなったのを見計らい、青年はもう二枚切り分けた。それも私の腹の中にきれいに収まった。
後に残ったのは二人分の食器と、毛と言う毛が汚れきった私と、満足そうな青年の姿だった。
「お気に召していただけましたか、お客様」
茶化したように言う青年に、私は何度も何度も頷いた。
「本当にいいんですか。食べてしまってから言うのもなんですが」
「いいんですよ。食べ物も三日おきに送られてきますから」
誰からですか、という問いを私は抑えた。別に詮索しても全く意味はないと思った。淹れてもらったお茶で口に残ったものを流し込みながら、お腹いっぱいの食事の満足感に浸った。
「そういえば、なぜこんなところに住んでいるのですか?」
夕食の準備中、彼から私への質問が絶えなかったので、訊くのがおくれてしまった。青年はほんの一瞬だけピクリと動きを止めて、しかしすぐに調子を取り戻した。
「人間が、怖いんです。こうして離れていれば無理に他の人と交流をとらなくていいから、こんな辺鄙で不便なところに住んでいるんですよ」
「どんなお仕事を?」
「いいえ、私は働いていません。父は隣町の領主ですからお金は税として入ってきますし、跡継ぎも兄がいるから私は必要ないんです。
おまけに対人恐怖症ですから、まあ、厄介払いとしてここに送られたんですけどね」
なるほど。だからせめて飢え死にさせないように、数日おきにでも様々な物資が運ばれてくると言うことなのか。父親か兄かがここに物資を送らせて、町まで行かないようにする。よく考えている。
とは言っても、それが青年のためかと言えばそうではないとも言える。もしかしたら彼もまた、私と同じような必要とされていない者だったのかもしれない。
だとすれば、ほんの少しだけ、私は同類を見つけられたことに感謝したかった。一方で、彼のような優しい人間を必要としなかった誰かを恨んだ。
恨んで、しかしそうしなかったら私は彼と出会えなかったという矛盾に当たって、私は考え込んでしまった。
「まあ、僕は個々の生活が気に入ってますけれどね。誰も来ないし、気楽だし」
そう言いながらも、少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべた青年が、私にはなんだかとても愛おしく感じられた。ただ必要とされていないと言う同類を見る目ではない。
なんとなく、彼に惹かれて行っている様な、そんな心地だった。と言ってもそこに恋愛感情があるわけではないと思う。ましてや、人と獣人だ。そんな感情を抱くのがおかしい筈だった。
だが、胸騒ぎは収まらない。加えて狂おしいほどの衝動。目の前の青年を抱きしめたい。なんだか分からないが、そうして絡み合いたい。しかし理性がそれを否定する。
においの染み付いた身体でそんなことをしてしまえば、私は必ずここから追い出されてしまう。それが怖かった。怖かったからこそ躊躇う。
だが、押し留めようとすればするほどその感情は強くなり、そして私を疼かせる。全裸の状態の私の股間が濡れ始める。
胸が苦しくなるような感覚を覚えて、私の視線は定まらなくなった。彼の僅かににやけた表情が目に入り、そして私は椅子にもたれかかるように脱力した。
彼が私を抱きかかえたような心地がして一瞬意識が覚醒する。しかし再び思考はとろける。身体が火照り、股間が疼く。おかしくなってしまいそうな未知の感覚に私は戸惑い、そして身体を動かすことが出来なかった。
私をベッドに寝かせると、彼は私の身体に舌を這わせる。
「くさい。くさいよ」
臭いを嗅ぐ彼の表情は、口調とは裏腹に恍惚としたものだった。臭いと言いながら嗜むようにじっくりと嗅ぎ、そして私の身体に触れていく。
ねっとりとした舌が私の顔を嘗め上げていき、鼻先、頬、耳へと捩じ込まれていく。初めての感覚に私は悶え、更に鋭敏になった身体が無条件で反応してしまう。
「……やめて……ください」
「大丈夫。怖くない。少し痛いだけ」
青年の顔は、先ほどの清純そうなそれとは全く違って、恐ろしくなってしまいそうな何かを含有していた。だがそれが何なのか分からない。加えて先ほどから感じているこの感情が何なのか、理解できなかった。
いや、それは感情ではなく、感覚だった。込み上げてくるそれが股間を濡らし、そして私を狂わせる。
彼にされるがままになりながら、それによって感じる快感に悶えることしかできない。
耳の中に舌を捩じ込まれ、乳首を甘噛みされ、尻尾を引っ張られ、そして股間に手が伸びるたびに電撃が走り、痺れるような快楽が走る。体中が、股間が熱い。
舌をだらりと出してなんとか体温調節をしようとしたけれども、無理だった。次々と体中の力が熱に変換されていくのが分かる。そして彼による刺激がそれを増長させていく。
頭の中ですら思考が出来ないほどに痺れていた。刺激を受けるたびに断続的に続くそれが私を攻めたて、そして堕としていく。
「とっても臭い。ここも、ここも」
股間の、小便を流す割れ目を、そして排便をする尻孔を嗅ぎながら漏らし、彼は私にはない茸のような股間のものを屹立させ、透明な汁をベッドと私の身体に垂らしていた。
そこから漂ってくる濃厚な匂いが、彼が雄であることと、私に発情していると言うことを本能に知らせていた。舌がじわじわとそれらの部位を重点的に攻め始めると、遂に私は声を漏らしてしまった。
私が気持ちよくなっていることを悟ったのか、彼は更に股間のにおいを嗅ぎながら嘗めていく。まるで私よりも犬に近いんじゃないかと思うほどに嘗めて、そして更に表情を喜悦に歪めていた。
息が荒い。私も彼も大きく息を吸いながら興奮に身を任せる。私は彼がしたいのならば抵抗しなかったし、それを把握して彼もより私に対する刺激を強くしていく。悶えながら私も股間も透明な汁をベッドに零し、そして彼の言葉に恥ずかしがるだけだった。
そこは疼く股間の割れ目ではなく、尻の穴だった。窄まったそこにたっぷりと涎をつけた舌の先端を捩じ込む。排泄をするはずの場所に逆に入れるという異様な感覚に、私は悶える。
もぞもぞと尻を動かしながら甘んじてそれを受け入れた。ねっとりとした動きで解しされていき、力を入れた舌が押し広げて深く侵入し始める。
しかし長さが足りずに中途半端に止まる。どことなく物足りないような心地で私は彼を見ようと振り返るけれども、私の尻に顔を埋めた顔を見ることは出来なかった。
夢中でなめるその姿は子供っぽく、そしてそれで感じる私と同じように変態的だった。股間の屹立したものは強い臭いで私を酔わせ、とろけさせる。
熱さで朦朧としながら、私は彼の行為に興じていた。
舌を抜き取ったとき、僅かに物足りない感覚。彼のほうを見ると、自らの指にも涎をまぶし、ゆっくりと排泄口を押し広げながら子供のように夢中になる彼の姿が目に入る。
違和感だったはずのそれは、身体の火照った私にとっては少しずつ痛みを伴いだし、一方で彼に汚いところまで愛撫されていると言う心地よさも作り出していた。
そしてその痛みが少しずつ幸福に代わり、僅かな快感になる。ゆっくりと開発されていく感覚に戸惑いながら、私は遂に彼の人差し指を根元まで受け入れた。
「気持ちいい? 痛がってないみたいだし凄くしまってるよ」
彼の口がゆっくりと私の耳に寄ってくる。
「さっきのご飯にこの辺りに生えている野草を混ぜておいたんだ。
強い媚薬作用がある草でね、僕も食べたとき一人でおかしくなってしまいそうになったんだけど、獣人さんにも効くみたいだね」
垂れた耳にぼそぼそと話しかける彼の吐息が当たって心地よく、そしてぞくぞくと背筋を走る快感。
そのまましゃぶりつくされてもいいような気がして、そして彼の言葉に耳を傾けながらも頭の中ではそれを理解することが出来なかった。
理解する必要もなかったのかもしれない。
「くさい。とっても臭い。うんこのにおいと洗ってない毛の匂い。臭いし、汚い。凄く興奮する」
思考は彼の言葉を正確に追従し、そして私を狂わせる。
「その身体もとってもいやらしいし、ここも、尻の穴も興奮させる。我慢できないんだ」
口にした彼は私の耳を食んだ。優しく、しかし強く唇で挟み、掴み、引っ張る。しかし襲い来たのは恐ろしいほどの性感だった。それだけで頭が真っ白になる。
そこに私の尻の穴から抜き取られた指が鼻に突きつけられる。食べるものを殆ど食べていなかったので糞と言える糞は殆どないからそこに排泄物がこびり付いていると言うことはなかった。
しかし据えた汗と彼の唾液、そして僅かに残った私の臭いが入り混じり、私の鼻を突く。よく効きすぎるそれが彼のにおいを感知して、私の股間が疼き始める。
まるで彼に影響されたかのように匂いが私を刺激し、愛撫する。直接的でないそれが肉体の行為を求め、そして私は私が壊れていくような感覚を受けた。
私は自分の腸液と彼の唾液の交じり合った汁を嘗め取る。汚いとすら感じなくなったのは、彼がそうだからだ。
加えて興奮で目の前が見えなくなってしまっているからかもしれないけれども、それでも夢中で彼の指をしゃぶる。粗方嘗め終わると再び彼が私の尻の穴に指を突っ込んでくる。一本増えていた。
先ほどよりも強い圧迫感に、私の思考が白に塗りつぶされていく。今まで使ったことのない場所を押し広げられる痛みは予想よりも上をいっていた。
が、しかし刺激されているうちに心地よくなってくる。それは彼による愛撫だからなのか、彼が料理に入れたという野草の作用なのか。
しかしどうでもよかった。今感じている圧迫感があまりにも幸福すぎるような気がして、どうでもよくなっていた。
「んっ」
思わず漏れた声は彼の興奮を更に高めたようで、彼は唾液を絡ませた指を更に一本増やして私を追い詰めようとする。彼の股間の怒張したものが顔に当たり、濃厚なにおいで頭が痺れた。
何も考えられず、ただもっとしてほしいと言う思考だけが私を満たしていく。そうしながら肉棒のにおいに惹かれて舌を這わせると塩気のある味と、生臭い風味。
先ほどの私の腸液よりも濃厚なそれがたまらなくて、私はなめる。垂れる透明な液が私の顔を汚し、そして更に血液を通わせた彼の性器がびくんとしゃくりをあげた。
彼は何も言わなかった。ただ、それがいいことであるかのように私を咎めずに、より尻穴を拡張しようと試みた。ある程度嘗め終え、潤ってくるともう一度だけ舌を捩じ込んで、すんすんと鼻を利かせた。
そして羞恥心と興奮で壊れそうな私の横へ寝転がると、
「好きだ」
ぞくりと性感帯となった耳から駆け抜ける声の快感は、完全に私を虜にした。
これから何をされるのか、本能で理解できる。具体的には分からないが、より強い刺激を彼によって与えられ、愛撫される。
おかしくなりそうな感情を抑えながら私は彼の攻めに耐えるしかないだろう。そして、先ほどまで嘗めていた彼のものによって種付けされる。
それを想像するだけっで身震いした。身体の火照りはとまらず、真っ白な思考は痛みも違和感も全て快楽に変換してしまう。私を壊しながら乱れさせ、そして彼の嗜好のままに私は染め上げられていく。
「挿れるよ」
先端が先ほどまで慣らされていた場所にあてがわれ、ゆっくりと侵入していく。
しかしいくら解そうとしてもそんなにすぐに、今まで排泄にしか使っていなかった場所が性感帯になるわけがない。
それでもじわじわと、切れないように気遣いながら挿入されていく圧迫感は確かに私に幸福感をもたらし、肉棒の熱が痛みを和らげていっていた。
「ぁっ……ぁあっ………」
先ほどの指よりも深く、太いそれが奥へと侵入してくるごとにあまりの違和感で私は思わず身体を強張らせる。ぎゅっっとシーツを握り締めながら全身に力を込める。
侵入を拒むつもりはなかったけれども、整理反応で括約筋に力がはいってしまうと彼が苦しそうに呻き声を上げた。感覚からすると根元がかなり締め付けられてしまっていたようだ。
慌てて力を抜こうとするが、簡単にはいかない。そうしているうちにも彼はゆっくりと進入を続け、私に首筋に熱い息を吹きかける。吐息が重なり、互いの身体が密着し始め、より一層私たちは一つになって、堕ちていく。
「はあぁっ……」
吐き出した息が熱い。体中の熱が唯一体温を逃がせるそこから漏れて生臭い息をシーツにかける。
びくびくと指先が震える。息が詰まりそうになりながら遂に彼のものを根元まで埋め込まれると、声を上げながらベッドの上に上半身を伸ばした。
尻尾はびんと張詰め、彼の行為を邪魔しないようにしたいのに言うことをきかない。しかしそれを優しく除けてから、彼は私に身体を密着させた状態で耳元に口を寄せる。
「動くよ」
私は応えることができなかった。初めて使われる尻穴の痛みと、熱さと、興奮で何も見えず、彼の言葉も聴いてはいたが理解することは出来なかった。
ただそれが今挿入されている以上の行為であることをおぼろげながら理解して、期待をする。次の瞬間、彼の腰がゆっくりと動き始めて、痛みと伴う快感で狂いそうになる。
ずぶっずず
ゆっくりと引き抜かれながら、彼の身体が起き上がっていく。結合部に唾液を垂らして潤滑性を増そうとするけれども、うまくいかない。
痛みは抜けないが、しかしそれも続けているうちに消えてくる。と思った頃には彼の唾液と先走り液、そして私の愛液がじわじわと絡みながら少しずつではあるけれども滑らかに動き始めた。
彼が私の尻を掴む手が熱い。外はまだ雨が降っていて寒いと言うのに、部屋の中は熱く、様々な臭気が充満していた。それらを嗅ぎながら彼は増長し、更に動きを大きくしていく。
私といえば先ほどから更に強くなる身体熱さで半ば意識を失っていた。が、たまに彼の腰が深くまで入るとそのたびに覚醒し、再びとろけてしまいそうな快楽の海へと落とされる。
「痛っ」
彼が更に少しだけ早く動かそうとして、穴が切れたような鋭い痛みに私は顔をしかめた。彼を見ると僅かにすまなさそうな表情をして、私を抱いた。
「ごめん」
そのまま抱き上げて、胡坐をかいた彼の上に穴を貫かれたままの私が座るような体制になる。より奥まで彼のものが入り込み、腸を抉られるような感覚に悶える。
糞のにおいのする私の身体に顔を摺り寄せながら、彼は邪魔な尻尾をどけて、その状態で私の乳首を抓る。痛みが脳に直接伝わり、しかし愛液は溢れて止まらない。
と思ったとき、股間に何かが触れる感触。定まらない視線を落すと、彼の指が私の割れ目の入り口をなぞるように弄り始める。
それがたまらなく切なくて、声を上げる。それを聞いて更に彼は股間のころころとした豆を弄り、そのたびに私はよがる。
首を振り、快感に耐えながら彼の愛撫に抵抗しようとする。が、できない。尻の穴を攻められるのとは全く別次元の痺れるような感覚で腰が立たない。なんとか浮かそうとするけれども、手すらもが震えて身体が完全にベッドへと突っ伏してしまった。
「っ……っ……!」
尻穴に突き刺された状態で前の割れ目を愛撫される痛みとも思えるほどの快感を私はまるで現実ではないかのように感じていた。
しかし彼が腰を突き上げるたびに現実へ引き戻され、再び狂う。先ほどよりも強い断続に、私は涙を零しながら耐える。狂い、壊れてしまわないように最後の理性を振り絞りながら懸命に悶え、腰を振る。
しかしそれが逆に快楽をもたらし、さらに私をおかしくさせる。その間に私の完全に逆立った毛を撫でながら、彼は私を抱きしめた。
そして私は受け入れる。受け入れることしか出来ない。股間を弄られて溢れ出る汁。後ろの穴に彼の長いものを挿れられながら淫らに腰を振る。
汚いと分かっていても彼に促されれば掬われた結合部の汁を彼の指ごとしゃぶり、涎を口端から零しながら口付けを交わす。
腰を振るペースが速くなる。それに伴って僅かに残っていた理性すら切れ切れになり、彼の口が何を言っているのかも聞こえなくなる。
「 」
「っぁっっぁあっっっああっぅっ!!」
吐息が重なりながら彼の犯す尻の穴から前の穴への刺激が強くなる。と、
ぶっ
割れ目の奥から込み上げてくる激痛。痛みと快楽の天秤が傷みに傾きながらそれでも私は腰を振る。
我慢できないのが分かりながら痛みを庇おうとしてバランスを崩し、彼が支えて私が溶け、痛いのに痛みが気持ちよくて強く強く後ろから何度も突かれながら前の穴に侵入していく指が傷口を抉りながら私を追い詰めていき、狂う。
狂い、乱れながら汁を飛ばして更に口付けし、抱きしめられ、貫かれる。
壊れてしまいそうで、壊れ、おかしくなり、口にしながら抱きしめられ、涙を零しながら腰を振り、熱く吐息を吐きながら荒く荒く肩を上下させて乱れ、蕩け、脈動し、仰け反る。
何処が前で何処が後ろで誰が私で犯され犯しているのが彼で、前の穴が気持ちがよくて、よくて、痛い痛い気持ちがいい。
「なんかっ……くるっ!!」
込み上げてくる感覚に私は身を任せる。身を任せるがしかし、あまりに強烈過ぎて意識が飛ぶ。目の前がちかちかしながら彼の肉棒が更に怒張していくのがわかる。
尻穴が拡張され続け、男を飲み込みながら前の穴が疼き、そしてそれが満たされる。
前の穴に込み上げてくる何かが私を押しつぶし、狂わせる。涎を垂らしながら空ろな目で壁を眺め、揺さぶられる。
喘ぎ、込み上げるものを抑えようとしながら、しかしそうしきることができずにただ乱れた。乱れるうちにどうでもよくなり、そして身を任せた。そこに待つのは絶頂。
「ぁあっああああっあぁあっ!」
ベッドへ顔を突っ伏しながら股間から脳へ直接響くような、これまでとは比べ物にならないほどの気持ちよさが私の中で爆発する。
熱い、熱い。悶えながら延々と続く一瞬に身を捩る。
しかし耐え切れない。ぞくぞくと背筋を抜けていく快感の虜になり、彼が更に腰を振るペースをはやめていくのを感じながら真っ白の視界で狂おしいほどに乱れる。
割れ目の中に入った指を反射的に締め付けると更に激しい刺激が私を襲う。更にそれが尻穴を締めさせ、彼を追い詰めていくのが分かった。
「っ出すよっ」
絶え絶えになりながら、彼もまた私を抱きしめながら夢中で腰を振る。
中に突っ込んで、私が悶えながら体勢をずらし、それを見計らって引き抜く。その間にも私の股間に指が二本うずめられ、ぐちゃぐちゃとかき回す。
飛沫がその辺りを濡らし、結合部からはぐぷぐぷと湿った音が聞こえる。雄と雌との交じり合いの臭いが部屋に充満し、更に糞の香りと唾液の臭いが入り混じる。
その中で私たちは正に獣のように乱れ、そして絶頂のままの私を彼が強く抱きとめた。
強く、強く。痛いほどに。
びゅくっびゅるるびゅっびゅっくくっびゅっるるるるでゅるっびゅっ
腸の中で彼のものが爆発するかのように子種を流し込んでいくのが分かる。
熱い。熱い。そして彼が私の臭う毛に顔を埋めながら緩んだ表情で私を抱きしめる幸福。暖かくて、熱くて、痛い。それでもなお抱きとめる。
抱きとめ、あまりの気持ちよさに私が、彼が呻き、叫ぶ。私の尻尾がびんと張っているのが分かる。彼との結合部が分からない。ただ熱く、狂ってしまいそうなほどに揺さぶられ、中に精液が打ち込まれていくのを感じるだけだった。
それを感じながら、瞼を強く閉じる。シーツを握り締めながら。シーツに涎の糸をひきながら。
あまりの快感に私の意識は、そこで途切れた。
目覚めると、まだ雨は降っていた。
鼻を突き抜ける濃厚な精液の匂い。私の尻の穴から漏れて、シーツに染みを作っていた。
中から溢れ出る感覚が僅かに心地が悪い。結合部から彼の肉棒は既に抜かれていて、横で泥のように寝息をたてる彼の姿が目に入った。
腰が立たない。筋肉痛と、力が入らないのとが一緒になって身体の自由を奪っていた。なんとか上体だけを手で支えるとベッドから這い出そうとした。
しかし眠気が更に襲い、再びベッドへと落ちる。衝撃で尻の穴から精液が漏れた。肛門が痛む。拡張されたことよりも何度も貫かれたことによって擦れたのが原因だと思う。
それでもなお、私は肉欲を求めていたい衝動に駆られていることに気がついた。おかしいのは分かっているのだけれども、初めて性行為の快楽を、肛虐される悦びを知った身体は無条件でそれを求めるようになってしまっていた。
痛くてもいいから犯されたい。そんなことを考えている自分が恐ろしくあり、一方でそれが当たり前のような気もしていた。
昨日のような熱さも火照りもない。しかしそれでも欲しい。尻の穴を蹂躙し、犯されつくし、股を開かされ、指で絶頂まで追い詰められたい。
ほんの数時間前に初めて体験した性交だった筈なのに、それを想像するだけで私の股間は濡れる。我慢できず、そしてするつもりもなかった。
彼の萎えた股間に生える雄の象徴を私は刺激する。自らの割れ目を指で弄りながら、尻の穴から溢れ出る精液を感じながら、べとついた彼の逸物を嘗め、しゃぶる。
こびり付いて固まった精液がなめるたびに溶け、青臭いにおいを鼻の奥に突き抜けさせる。更に興奮して、私は自らを諌める指を早めた。くちゅくちゅと溢れ出る愛液と刺激による快感に身を震わせた。
止まらない。いくらでもこうしていたかった。しかし私の顔を抑える暖かな感触。彼の掌が私の頭を押さえつけ、優しく舌の動きを制止させる。
「昨日あんなに激しくしたのに、まだ足りないの?」
にこりとした彼の笑みは、ただ優しいだけでなく妖艶な何かを含んでいた。そして私も身体の内側から湧く不思議な感情に、同じような笑みを作った。
そして彼に口付け、舌を絡ませる。頭がおかしくなってしまいそうな痺れ。彼の指と、私の指がそれぞれ肛門と尻の孔を弄った。
ぬぷと音を立てて尻の中に指をもぐりこませ、焦らしながら彼は耳元で囁いた。
「そんなことしなくてもいいことを思いついたんだ。僕のは出し尽くしちゃったからね」
にこりと笑った彼の顔を私は愛おしいと思いながら眺めていた。顔を触れてくれる暖かな感触。殴りもせず、ただ抱きしめてくれる彼に私は平穏を感じていた。
少なくとも彼は私を殴りはしなかったし、それ以上に暖かく私を抱いてくれた。性知識が豊富でない私でも分かるほどに変態的であったけれども、それを補って余りあるほどに私に対して優しかった。
だからこそどんな行為でも受け入れることが出来たし、それを極上の快感として感じることも出来た。あまりにも幸福だと、感じることが出来た。
それが甘えだと言うことも分かっていた。しかしそれでも私のことを肉体的にでも愛してくれるのならば、私はそれでもよかった。
蔑まず、殺そうともせず、うち捨てられた私を拾い上げ、温もりを与えてくれた彼にされるのならばどんな変態的な行為でも受け入れられるような気がした。
だがそれは自分自身に対する妥協だ。怖いからこそ媚び諂う。それがどんなに気持ちいい行為だったとしても心のどこかで嫌悪していたことを私自身が知っている。
それでも心を騙し、それに染まっていく私は彼の求めるままになり、彼に嫌われまいとしているに過ぎなかった。
それが溜まらなく嫌で、しかしそれを打ち壊す勇気など私にはなかった。
「今日の昼頃に物資がくるんだ。彼も僕らの仲間に引き入れてあげよう」
だからこそ、私は唐突の彼の提案を受け入れた。肉欲に溺れる獣のように、自分自身の心を偽って。そして肉体がそれを求めるようになってしまっているのもまた、事実だった。
熱い息が口から漏れる。自己分析を塗りつぶすように官能の吐息が凄まじいにおいのしているだろう部屋に混じっていった。
もう、においは感じない。糞のにおいも丸ごとひっくるめて、彼にとっての「私」なのだから、これ以降もこのにおいを落とすつもりはなかった。
そして落ちることもないだろう。ここにいれば、彼の嗜好に任せた交尾で、毎日そんなことをされてもおかしくないからだ。
あるいはそれ以上のことを。考えると、開発され始めた私の肛門が求めるようにひくつく。
しかしそれでも私は心のどこかでそれを拒もうとしていた。本当にこのままでいいのか。
葛藤しながらほんの一晩で染め上げられた私の意志は更にそれを拒んだ。尻穴を攻められ、割れ目を弄られるそれを想像するだけで 濡れてしまうほどに私は行為を求めるようになってしまった。
彼に抱かれてい今もそれを夢想しながら彼に身を任せている。それはとても嬉しくて、心のどこかで生まれる戸惑いを隠すことが出来なかった。
満たされることがあるのならば、それは私の甘えから生まれる偽りのものだろう。しかしそれでもこれまでと比べるのならあまりに幸福だった。
そしてそれを捨てて新しい何かを求めに行くことは、私にとってあまりにも恐ろしいことだった。
だからこそ妥協する。妥協し、自分自身の心を騙すことによって私は満たされたという錯覚を起こし、より彼に依存することになる。
それが例え彼の嗜好に染まることだとしても、心のどこかで偽った私はそれを受け入れる。どんなに変態的な行為でも、私を乱れ、狂わせてしまうような行為だったとしても。
だからこそ私を抱きながら喘がせ、更に染め上げていく彼から私は逃れることはしなかった。否、出来なかった。
拒むことで彼が私のことを嫌ってしまうような気がして、怖かった。失ってしまうことが怖かった。
尻の穴を弄られながら、物足りないと言う感覚にとらわれる。嫌悪感が私を苛むのを無視しながら求め、腰を振ろうとした。しかし身体が疲れきってしまっているためか、身体が動かない。
とろんとしためで彼を見て訴えかけると、僅かに苦笑いをしながら口付けをしてくれた舌を絡ませ、蹂躙される悦びを感じながら私は抱きしめられた。
そうだ、このままでいいのだ。私はこれ以上を望まない。
むしろ、この幸せですら私には勿体無い。だから私は停滞する。ここで、彼が望むままにされる。たとえ彼が私のことをさらに歪な形に変えたとしても、私はそれを受け入れる。
こんこん。
ドアが叩かれる。
彼が振り向き、にやりと口の端を歪める。
それを眺めながら、私の思考は肉欲に塗りつぶされた。
熱い。尻の穴が広げられる痛みに呻きながら、私は彼が私の股間の割れ目の中に肉棒を突っ込まれる感覚に酔いしれた。
尻の穴を抉り、排泄物に塗れさせられながら乱れるのは彼に物資を運んできた男。筋肉質な身体を汚しながら狂ったように私の尻の中に自らを打ち付けていく。
喘ぎ、私は異臭を嗅ぎながら興奮していく自分を感じる。彼も、尻穴を独占している男もそのにおいに興奮し始める。
物資を運んできた彼に精力増強剤と私用の媚薬、更には睡眠薬を仕込んだ茶を飲ませ、糞のにおいのする部屋に寝かせて犯すと、
観念したように腰を振るようになり、においで鼻が曲がりそうになれば体中に塗りたくり完全に麻痺させた状態で肉棒を扱き上げ、私自らアナルに招き入れた。
締め付け、感度のよい肉棒を刺激してやれば精力剤の効果でいきり立った肉棒に痛いほどの快感が走るのは明確だった。そして彼もまた、私と同じように溺れていく。
汚辱に塗れ、それでもなおおかしいほどに身を捩じらせてしまうような糞と獣の世界へ。
打ち付けるたびに酔いしれていく。私の身体の中を抉る快感に。匂いと欲望に塗れた異常な世界へ。そして彼もまた深く、深く染まっていく。
染まりながら私をも染め上げていく。それが溜まらなく幸福で、そして尻穴を犯す男にとっても新たな刺激となり、それを追い求めていくことになる。
染まっていく。私も彼も、男も。彼の言葉は私を汚い言葉で罵りながら、一方で肉体は優しく抱き上げてくれる。排泄物に塗れながら私の顔を撫で、口付けをしてくれる。
私は幸福を感じながら腰を振り、より彼を、彼らを感じようと懸命になる。かき回される感覚に狂いそうになりながら私は乱れた。
二人の男に挟まれながら涎を垂らし、愛液を撒き散らしながら乱れる。
それはあまりに気持ちがよくて、おかしくなってしまいそうなほどの快楽。
このままでいい。このままでいいのだと、私の心が誘う。
こうして彼が望むままにこの小屋に近づいたものを二人で染め上げていく。
この男のように簡単にそうなるかは分からないけれども、簡単でなければ時間をかけてじっくりと染めていけばいい。
それが彼のような雄でも、私と同じような雌でも。人間でも、獣人でも変わらない。
襲い、乱れさせ、誰かにここに来てはいけないなどということを口にしないようなほどに塗りつぶしてしまえばいい。
歪んだ性癖を植え付けるほどに調教し、この小屋へ排泄物に塗れた私と彼との行為に夢中になるほどに通い詰めるほどに狂わせてしまえばいい。
少なくとも私は犯され、肉欲に身を捧げることに抵抗はなく、寧ろ自ら望むほどになってしまった。
ほんの昨日今日の話ではあるけれども、それまでの常識や理性を超えた狂おしいほどの快楽がここにある。それが偽りの幸福感ではなく、私が素直に感じていることだった。
だからこそ私はそれを求めることに自らを偽り、そして幸福を感じている振りを自らにさせて幸福であると錯覚する。錯覚をあまりに強くしすぎて本当にそうであると思い込む。
私は、それでもいいと思った。
尻の穴を犯す肉棒がより怒張する。深く、太く、私の中を犯していき、彼もまた私の割れ目の中を深くまで侵入していった。
熱く、暖かい二人に挟まれながら私の胸が押し付けられる。その痛みと、それぞれの粘膜を貫かれる痛覚。
それでもなお私は求めた。
快感だけは本物だから。歪な身体、歪な心、そして歪な性癖を得た私の中で唯一まっすぐに存在するものだから。
「んっ」
私は目をつぶり、背筋を抜けていく快楽と鼻を抜けていく臭気に耐えた。耐え、そしてそれを味わった。
それが幸福だった。それが私にとって当然であるような気がした。
この先私は幸福に対して妥協し続け、更に彼色に染まっていくことになるだろう。それに対する恐怖すら私の中では彼に塗りつぶされてしまいかけている。
しかし、それはもしかしたら私にとって幸福なことなのかもしれない。
何も考えることなく彼に流されるままに肉欲に溺れていく。それが生まれてから振り返れば不幸としか感じられなかった過去と比べればあまりにも贅沢すぎる幸福なのではないのだろうか。
そう思いながら私は喘ぎ、乱れた。
そして犯され、蹂躙され、狂わされるがままに、肉欲に溺れ続ける。
延々と。
彼に抱かれながら。