四角いリングの中では、半裸姿の女。それと、食虫花を思わせる  
怪物が、対峙している。  
「ちくしょう・・・この、化け物・・・」  
女は息を荒げ、焦燥感に包まれていた。目前にある化け物は、美し  
い花を実らせてはいるが、粘液にまみれた触手を持ち、獲物を  
狙っている。獲物とは、もちろんリングの中にいる女だ。  
「せりゃあッ!」  
女が叫びと共に、前へ出た。触手の間を抜け、花を狙いにいく。女に  
は手持ちの武器など無く、完全な徒手空拳だった。それでも、前に  
出る。ブロンドの髪をなびかせ、怪物に食らいつこうとしているのだ。  
しかし・・・  
「あッ!」  
怪物の触手が女の足を掬う。怪物は、植物から進化した異形と見え  
たが、動きが早い。その上、幾本もの触手を使い、獲物を捕らえる事  
を、得手としているようだ。女は、あっという間にリングへ這わされ、  
怪物に圧し掛かられた。  
「やめてーッ!」  
女が悲鳴を上げる。下半身は完全に触手の元にあった。  
「ああ・・・」  
女は突っ伏してリングの上でもがく。だが、怪物の戒めからは逃れ  
られそうにない。その内、女が身に付けていた衣服が剥ぎ取られた。  
「ああーッ・・・」  
尻の割れ目を伝って、触手が女の秘部へ潜り込むと、哀しい悲鳴が  
上がった。怪物が、女を犯したのである。  
 
 
「面白い趣向でしょう」  
リングを見下ろすように作られた席上から、長身で痩躯の男が言う。  
男は、隣に座ったうら若き女性へ、同意を求める様な眼差しを送った。  
「ええ。とっても」  
そう答えたのは、高橋夏見。今をときめく、高橋財閥の一人娘である。  
夏見は、目下で怪物に犯されている女には、憐憫の欠片も見せてい  
ない。今、怪物に組み伏せられた女は、リング内を這いずる様にして  
犯されている。その様が、夏見には面白くてたまらないらしい。  
「十七歳の夏見お嬢様には、少々過激すぎるかとも・・・思ったんですが」  
痩躯の男はそう言って、ワイングラスを手に取った。  
「いいえ。素晴らしい退屈しのぎです、葛原さん」  
夏見が答えながら、男の名を親しげに呼ぶ。痩躯の男の名は、葛原丈。  
貿易会社を経営し、財界に縁が深い人物だった。  
「女性が静かになりましたわね」  
リング内を指差しつつ、夏見は葛原へ問い掛ける。見れば、戦っていた  
女は崩れ、今や微動だにしていない。怪物の前に、屈してしまったようだ。  
「次の趣向へ移りましょうか」  
葛原がぱちんと手を鳴らすと、リングがフロア下へ降りていった。女も怪物  
も共にである。  
「あの女性はどうなるんです?」  
夏見が好奇心一杯に問うと、  
「さあ」  
葛原は、表情も変えずに答えた。  
 
葛原が、金持ち相手に面白い趣向を凝らしている・・・と言うのは、財界  
においては、常識となっていた。諸々の事情で、首の回らなくなった女を  
集め、怪物や猛獣と戦わせている。そんな忌まわしいショーを催しては、  
金持ちの退屈をまぎらわせているのだ、と。リングの周りを良く見ると、  
テーブル席がいくつも設けられ、金のかかった装いをした男女の姿が  
確かめられる。リング上のライトを強めてあるので、席についた客たちは  
互いのシルエットしか見られない。だから、身分が分からなくて済む。  
彼らは飲食をしながら、女が怪物に犯されるのを見て愉しむのである。  
悪趣味の極みと言えた。  
 
「夏見お嬢様、次の趣向です」  
「楽しみ!」  
葛原が夏見を促した。高橋財閥は、並みの金持ちとは違い、VIP扱い  
なので、いつも特等席を設けてある。誰をも見下ろし、優越感を満たして  
やるのも、葛原のしたたかさだった。  
「今度の女は、難民です。この戦いに勝ったら、大金を遣って入国を認め  
させてやる、と言ってあります」  
リフトでせり上げられるリングの中に、褐色の肌を持つ女がいた。年は  
二十代後半といった所か。筋肉質で、長身の娘であった。  
「何と戦わせるのです?」  
夏見が問うと、葛原が、  
「獣人です。知性を持たせてあります」  
と答え、頬を歪めた。  
 
リングに現れた新たな挑戦者は、怯えていた。何故、自分がここに?と  
でも言いたげに、辺りを見回しては訝っている。身なりは、ビキニの水着  
だけ。豊かな乳房と、脂の乗った腰周りが官能的な女である。そこへ、  
一匹の獣が唸りを上げながら現れた。  
「あれが、獣人です」  
葛原が指差した先に、獣人はいた。全身を体毛に覆われ、虎のような風貌  
をしている。二メートルを越す巨躯に、全身鋼鉄とも言える筋肉。見るからに  
遺伝子操作で作った怪物であった。  
「アア・・・」  
怪物が目前に現れると、女が後ずさる。この時点で、彼女に戦意は無さそう  
だった。涙目になり、これから己の身に起こる悲劇を、察した様に見える。  
「ガウウ・・・」  
唸りを上げる獣人は素っ裸だ。しかも、股間からは男根が二本も生えている。  
それが、挑戦者の怯えを倍加させていた。だが、彼女に逃げ場など無い。  
「助けて!」  
女がリングを囲っている柵に手を伸ばし、テーブル席にある人々に救いを  
求めた。しかし、誰一人動こうとする者はいない。  
「ガアアッ!」  
獣人が吼えた。それと同時に、女は頭髪を捕まれ、早々と囚われの身となる。  
「助けてッ!助けて・・・」  
泣き叫ぶ女を、獣人は担ぎ上げた。そして、ヒップを包んでいるビキニのボトム  
を荒々しく毟り取ってしまう。  
 
「ウウウ・・・」  
獣人は立ったまま、女の尻肉を掴んだ。そして、そのまま己の股間へ  
と導いていく。二本の男根は、すでに隆々と反り返り、おぞましい欲望  
に包まれていた。  
「やめてーッ!」  
女が抗う。抱きかかえられ、女の急所を割られた。そうなれば、次に  
来るのは陵辱しかない。女は渾身の力を込め、怪物に掴みかかって  
見るのだが、とても戒めから逃れられそうには無かった。  
 
「あの怪物・・・ペニスが二本もあるのですね。ああ、早くあの女を犯せ  
ばいいのに!」  
特等席で夏見が叫ぶ。興奮状態にあるのか、拳を握り締めリング内で  
泣き叫ぶ女の悲劇を、今か今かと待ち望んでいた。それを見た葛原が、  
「もうすぐですよ」  
そう言って、ワイングラスを干していく。  
 
「イ・・・ヤ・・アーッ・・・」  
叫びが途切れ途切れに飛んだ。女が目を見開いて、背を仰け反らせて  
いる。女の秘部と、尻穴へ二本の男根それぞれが穿たれていた。  
「ガウッ!」  
獣人が腰を揺すり、勝ち鬨を上げた。もっとも、相手には初めから戦意  
など無く、ただ一方的に陵辱されただけである。その女は失神したのか、  
ぐったりと体を獣人に預け、ぴくりとも動かなくなった。  
 
「あら・・・もう、終わり?」  
夏見が言いながら、不満を顔に表している。彼女は、リング内で女が  
泣き叫び、犯される姿を期待していた。だから、いとも容易く終わった  
獣姦ショーに、腹立ちを隠せないでいる。  
「つまらないわ」  
葛原に向かって、夏見が言う。すると・・・  
「いえ。メインイベントはこれからなんですよ。夏見お嬢様」  
夏見の目を見つめながら、葛原はゆっくりと身を起こした。そして、  
一片の紙切れを懐から取り出すと、夏見に広げてみせる。  
「これが、なんだか分かりますか?」  
紙切れにはこんなくだりが書き付けてある。  
 
『私、高橋義男は葛原丈様より、百億円のご融資を受けました。  
ここに、それを証し、一筆書き残します』  
 
高橋義男。それは、夏見の父の名である。それを見た夏見が驚愕した。  
顔から、血の気が引いている。  
「あなたのお父上は破産なさいました。ついでに言うと、どこかへ  
身をお隠しになられました」  
葛原がそう言って、夏見から視線を外した。それは、まるで夏見を  
見放したとでも言うような、冷たい動作に見える。  
「わ・・・わたくしは・・・どうすれば・・・?」  
引導を渡された夏見は、がくがくと震える手を葛原に差し伸べた。  
だが、葛原は一瞬押し黙った後、  
「あそこに立つしかありませんな。もし、化け物と戦って勝てれば、  
お貸しした金はお返ししなくても結構です」  
と、リングを指差した。  
 
リングがせり上がっていく音を、夏見は放心のまま聞いていた。身には、  
パンティとブラジャーしか着けさせて貰ってない。  
「どうして、わたくしが・・・」  
ぶつぶつと呟く夏見。葛原の計らいで、怪物との戦いに勝てれば、借りた  
金は無しにしてくれると言うが、お嬢様として今日まで生きてきた夏見に、  
勝てる見込みなど、万に一つも無い。  
「ああ・・・あれは!」  
リングがフロアに上がると、夏見は絶望する。そこには、二メートルを越す  
巨大な犬の姿があった。しかも、股間にはおおぶりな男根が欲望を突き出  
している。  
「グルル・・・」  
犬が低く唸った。それに怯える夏見。ついには恐慌し、リングから逃れようと  
するが・・・  
「助けてーッ!誰か!お願い!」  
夏見がいくら叫んでも、誰も救いの手を差し伸べてはくれなかった。観客  
たちは知っているのだ。この女が、高橋財閥のお嬢様『だった』夏見である  
事を。そのお嬢様が、恐ろしい容貌の化け物に犯される様が見たい、と、  
この場にいる全員が思っているのだ。泣き叫ぶ夏見が二度、三度柵を  
揺すった。その刹那・・・  
「あーッ・・・」  
やはり、前の挑戦者たちと同じような叫びを、夏見は上げたのであった・・・・・  
 
 
おちまい。  

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