夏は暑い。昔の人が決めたことだ。それは仕方ない。  
しかし教室に扇風機も冷房もない、というのは割りと最近の人が決めたのではないか。何とかならないのか。皆望んでいるはずではないか。  
全開にした窓際でそんな事を考えていた由佳の足に、上履きが飛んできた。  
「…………」  
「あ、わり」  
「………………」  
そそくさと上履きを回収しようとする男子を遮り、由佳は「5-1 高野勇太様」と黒マジックでぐちゃぐちゃ書かれた上履きを踏みつける。  
「何だよ。返せよ」  
「バカなんじゃないの?」  
「あ?」  
ハンカチで額の汗をふきながら高野勇太さまをにらむ由佳。  
「毎日毎日昼休みのたびに男同士でじゃれあって。人にモノぶつけてヘラヘラしてるなんて信じらんない」  
「ぁんだよ! 謝っただろが!」  
「いつ?」  
「12時26分34秒、地球が6153412465765328回回った時だっ!」  
「聞いてないし」  
由佳は勇太の上履きに爪先をひっかけ、跳ね上げた。持ち主の顔面にヒットする布とゴムの塊。布とゴムの塊だが、これは何とパンツではなく上履きなのである。  
「てめえっ!」  
「女子に手を上げるの? 野蛮人だわー」  
「やめなよ。高野くんは少し落ち着いて、高橋さんは大人になって」  
間に入る眼鏡の男子。  
「いい方法があるんだ」  
「ねえよバカ」  
「黙っててよ」  
「はっきり決着をつけなきゃならないだろ?」  
眼鏡はめげなかった。フレームを指で押し上げる。レンズの向こう側が妖しく光る。  
 
「わざわざはっきりさせなくてもこいつのアホは決まってるわ」  
「でも、彼はそうは思ってないんだ」  
口を挟もうとする勇太を手で制し、眼鏡は続ける。  
「勝負して高橋さんが勝てば、きっと男らしく認めるよ」  
「はぁ? 俺がこいつに負けるわけねえだろ!」  
「じゃあ、あなたが負けたら一生ドレイになってもいいのね!?」  
「おうよっ! お前もだからな」  
「上等っ!」  
売り言葉に買い言葉。ここの約束なんてきっと、明日になれば忘れてしまうのに。。  
「それで、勝負の内容なんだ……け……ど…」  
もはや眼鏡など関係なく、殴り合いが始まっていた。呆然とする眼鏡に、横から現れた坊主の少年が話しかける。  
「眼鏡、宿題見せてよ」  
「え、写す時間ないよ。量多いし」  
「大丈夫、間に合わすよ」  
眼鏡から宿題のプリントを受け取った坊主は、自分の席で鉛筆と消ゴムを出す。  
「まずはここを消して……」  
名前欄が白くなる。  
「俺の名前を書く……」  
「何をやってるんだ君はぁーっ!」  
机に突っ伏して、飛びかかる眼鏡からプリントを守る坊主。体ごと組み付いて揺さぶられるが、机にしがみついて離れない。  
 
「いいじゃん! 仕方ないじゃん! センセーはこないだ俺が「やったけど家に置いてきました」って言ったら学習指導室に呼び出して釘バットで襲ってきたんだぜ?」  
「嫌だよ僕も釘バットなんか!」  
「いや、お前なら許される。俺も最初は普通の木のバットだったんだ!」  
「十分だって! 今の世の中、廊下に立たせる行為ですら「体罰」に当たるんだよ? なんで教師が殺傷能力のある武器で児童を襲うのさ!」  
坊主の体から力が抜ける。逆にひるんで手を離した眼鏡に、震えながら哀願する。  
「頼むよぉ。宿題忘れても許されそうなのは、優等生のお前しかいないんだよぅ」  
「うっ……」  
眼鏡の胸の内から熱いものがこみ上がる。僕にしか出来ないなんて。そんなにも頼ってくれる彼を助けない必要がどこにある!  
「まったく。今度から自分でやんなよ」  
「おおっ、神様仏様眼鏡様!」  
「あと、いきなり奪おうとするのは駄目。最初から話を通してよね」  
「ああっ、次からはそうします」  
「次はないの!」  
「ああっ、ああっ、ありがとうございます!」  
 
眼鏡としてはこの時点で由佳と勇太の件はどうでもよくなったのだが、バタバタしている内に教室の後ろの方に人だかりが出来ていた。  
 
「やれーっ! トドメを刺せーっ!」  
「ヘンタイ! まじ有り得ないから!」  
「弱ってるぞ、やっちまえ!」  
「やめようよ、可愛そうだよぉ」  
男子が盛り上がり、女子が泣いたり怒ったりする輪の真ん中に、由佳は座らされていた。  
「どうした、引き分けなら放課後もう一勝負だぜ?」  
「ばかぁ! 不審者!」  
涙目で叫ぶ由佳。ハーフパンツの間に、上履きが脱げたままの勇太の足が差し込まれて震えている。  
電気あんまだ。由佳は初めて受ける感触に戸惑い、いいようになぶられている。  
熱くなった割れ目に下着が張り付き、自分の形が股からえぐりこまれる。固くなった突起を足の裏で擦られるたびに腰がびくびくする。  
「おりゃおりゃ、女の方が丈夫なんじゃないのか?」  
「やだぁ、あぁっ、あっ、あぁ、あ、あっ」「まだまだ激しくなるぜ!」  
「いやーっ、あっ、あんっ、んっ、はあっ」息が苦しくなる。  
「うりゃあっ!」  
「ああっ!」  
両足首が強く引かれ、女の子の大事なところに固い踵が食い込む。そのまま足首を持ち上げられる。全身に力が入る。  
 
「ぅあっ?」  
どさ  
こわばった体に弱い振動が送り込まれ、由佳はたまらず力を抜く。汗で濡れたTシャツの背中が床に張り付く。座らされていた由佳が倒れたのだ。  
一時的にあんまが収まった。足の触れている部分が全体的に熱く、広がっていく感じがする。  
「ねえ、待って。おかしいの、やばいよ、何か……」  
「くらえッ、電気あんま弍式だあーっ!」  
「あーっ!」  
お互い座ってするのが壱式。受ける側が寝るのは弍式。攻める側が立つのは参式である。零式は相手をうつ伏せにする。  
「ワシの電気あんまは百八式まであるぞーっ!!」  
「やだ、あぁあ、あ、あーあぁっ!」  
悶える由佳。  
弍式に入ってしまうと体がほとんど動かせない。持たれた両足首と震わせられる股間で感じる責め手のなすがままだ。  
 
乱暴な足が女の子の部分をひっかき回す。  
「あれ……どうなってんの?」  
「女って、電気あんまされるとあんな風になんのか?」  
クラスメートがなにか言ってる。皆が頬を染めて、自分を見下ろしている。床に仰向けにされていると、覗き込む皆の表情が分かりすぎる。  
こんなに恥ずかしいのに、興味深そうにじろじろ見られる。足が差し込まれている股間を観察されている。  
「あっ、ああっ、あ……」  
由佳の中のおかしな感覚が少し引く。頭の中がぼんやりした色に包まれて体が浮きかかる。  
なのに見られているせいで、そこから意識が離せない。ぐちゃぐちゃにほぐされてびりびりする。変な液が溢れる。  
「叫ばなくなった?」  
「何か腰が上下に動いてる」  
「あれ、夢中で足にこすりつけてるんじゃない?」  
やめられない。体が勝手に動く。  
「なんでそんなことすんの?」  
「だって……彩ちゃん………とかしないの?」  
「え? 何それ?」  
「あ、あのね……時間かかるから、後で教えてあげる」  
頭の上がえっちな雰囲気になっていく。  
「んっ」  
割れ目を攻める振動が急に激しくなる。  
「あっ、あーっ!」  
足の踏む角度が浅くなり、先端が集中的にいじめられる。  
「っ、んーぁっ、いやあーっ!」  
お腹の下から爆弾が弾けて、床も空気も分からなくなる。体がびくびく震える。変な液がたくさん飛び出る。息が苦しい。頭がほかほかする。  
 
あ  
 
 
気持ちよかった。すごく、良かった……  
 
 
認識した由佳の意識はそのまま暗闇に堕ちていった。  
 
 
その日は気付いたら家で寝ていた。  
 
翌日、由佳が学校に行くと高野勇太は欠席だった。その知らせを聞いた坊主の震えっぷりを見るに、釘バットでやられたに違いない。  
「由佳ちゃん、おはよ。だいじょうぶ?」  
「あー、うん。平気」  
おさげのクラスメートが話しかけてきた。後ろで、ワンピースの子も発言せずに会話に参加している。  
「ねえ、今日の放課後あたしたちと遊ばない?」  
なぜか改まった申し出に、「いいよ」とだけ返す由佳。  
「やったね、彩ちゃん。いっぱい練習できるよ」  
「うん、嬉しい」  
 
 
その日の夕方は責めにも回ることになる由佳だが、それはまた別の話  
 
 
 
おわり  
 

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