「ううう・・・」  
 ベッドの上でシクシク泣いているのは悪魔。  
 そんなのをまったく無視して、俺は毟り取った羽をさっと油に入れる。  
 パチパチカラカラ、といい音がして黒い羽が油の泡に包まれる。  
 
 食卓の上に乗ったのは湯気を立てている悪魔の羽。  
レタスの緑と狐色の揚げ物のコントラストはいつ見てもすばらしい。  
「・・・あたしの羽・・・」  
 悪魔はといえば、涙目で恨みがましくこちらを見つめている。  
「お前も食うか?」  
「食べるわけないでしょっ!!!」「そうか…美味そうなのになあ?」  
 俺は羽の骨を掴むと薄い皮膜に歯を立てた。  
 サクッ。  
 む。これはなかなか…  
 最適の温度の油で適切な時間だけ揚げないとこうはいかない。  
 やっぱ俺、料理上手いぜ。  
 素材もなかなかいいみたいだ。コイツの羽の脂身と筋肉のほどよいバランスが唐揚げには  
最適な食材になっている。筋も固すぎず柔らかすぎず、内側から柔らかい肉汁が染み出してくる。  
 そして歯ごたえもイイが、噛む音がこの悪魔の尖った耳に入るたびに泣きそうな表情に  
なっていくのがたまらない。  
 骨についた肉を歯でこそぎ落とすように喰っていると、ついにこの悪魔は泣き出してしまった。  
…ホントに悪魔か?  
 関節の軟骨まですっかりしゃぶって食べきる。  
 カラン、と皿に骨が落ちると悪魔はいっそう強く泣き出した。  
 
「お前の羽、美味いな」  
「・・・・・・」  
「褒めてんだぞ?」  
「・・・う、嬉しくないわよ!」  
 泣きながら怒鳴る悪魔。  
「それにしても、なんで逃げないんだ?」  
「羽がなきゃ、魔力が使えないもの」  
 ふてくされた様な顔でそう言う。  
「羽がない悪魔だっているじゃねえか」  
「……あたしはそこまで位が高くないの!」  
 低級悪魔か。  
「…早くしなさいよ」  
「何をだ?」  
「あ、あたしを…殺すんでしょ」  
 
 そういえば、どうするか決めてなかったな。  
 殺しちゃうか。どうしようかな。  
 
「…羽」  
「え?」  
「羽、また生えてくんのか?」  
「ひ、一月もすれば生えてくる…けど?」  
「よし。決めた。それまでお前を飼ってやる」  
「ええええっ!?」  
 俺は手早くコイツの首に神鉄の首輪を巻きつけ、鎖を寝台の脚に固定する。  
「な、ナニをっ――」  
「鎖に触んないほうがいいぞ。魔力吸われちまうから」  
「さ、さきに言いなさ…」  
「早く美味い羽を生やすんだぞ」  
「この、この悪魔ッ!」  
「それはお前だろ。俺天使だし」  
 寝台に突っ伏す悪魔を見ながら、俺は次はどんな調理法がいいかな、と  
そんなことを考えていた。  
 
―――――オチのないまま終わる。  
 

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