夜。  
おぼろげな暗闇にたたずむ教会の中に、一人の天使がいた。  
ゆるい曲線を描いた肌色の髪の毛に、透明に近い琥珀色の目。それらは教会の女神像のように美しく、気高い。  
 
今夜は−悪い予感がする。  
それが怖くて、朝からずっとここで窓を見つめていた。  
「ああ、私をどうか闇から遠ざけてください‥」幼いチスは、ただ一心に祈る他なかった。  
 
と、  
何か音がした。  
気のせいだろうか。  
チスは恐る恐る天井を見上げ―  
「ひゃっ!」  
大きなガラスの破片が落ちてきた。それに続いて、何枚ものガラスが枠ごと落ちてくる。  
いよいよ気のせいではなくなってきた。  
−まだほんの幼い頃にも、ちょうどこれと同じような光景を見たことがある。  
窓が次々に壊されていって、そこから幾つもの黒い固まりが入ってくる。周りに飾られた美しい花がバラバラになってゆき、気が付くと何人もの天使が血に染まっていて・・  
 
気が付くと、チスの周りはガラスの破片だらけになっていた。  
その破片の上を裸足で歩いてゆく、一つの影。  
 
「今晩は、白い羽の天使様。悪魔の、ネイゼといいます。」  
 
チスはその姿を見て、背筋に汗が流れるのを感じた。  
チスより2、3歳は上だった。異常に大きく真っ黒な翼によく似合う、膝まである真っ黒なコート。短くて真っ黒な髪。後ろで揺れる汚れた尻尾。  
そして、その風体にふさわしくない、幼くあどけない顔つき。  
まさしくそれは、幼い頃に見た「黒い固まり」だった。  
−た、倒さなきゃ!  
慌てて洋服を探るチスの顔は、みるみると青ざめていった。武器が・・・ない。  
どこかで落とした?だとしたらどこで?あれは天使の証。あれがないと、天使界を追放されることにもなりかねない。  
チスは泣きそうな目をこらえながら必死に考えた。武器がないと知られれば、この悪魔に−殺されかねない!  
 
「・・・先にやっちゃってもいい?」  
ネイゼはその言葉が終わらないうちに、自分の羽をむしり取ると、それを空に向かって投げた。  
空に舞う羽が地面に落ちるか落ちないかの瞬間、  
「いっ、・・ああああっ!いたい!いたい!」100も200もある小さな羽が、もの凄い殺気を帯びてチスに向かってきたのだ。  
ネイゼはどんどん羽をむしり取って、それを投げた。チスの膝にガラスの破片が刺さる。だが、その痛みは羽の痛みには及ばなかった。  
本当に、本当に殺されてしまうんだ!チスは、痛みと恐怖に気を失いそうだった。  
「ごめんなさい!ごめんなさい!何でもし・・しますから!やめてっ!」  
次の羽が空中で止まった。  
「何でも・・・する?」  
「はい。だからやめて・・・」  
洋服越しに、真っ赤な血が滲んできた。  
「そこまで言うのなら、もう何もしないよ。」  
とても悪魔とは思えない優しい笑み。  
 
がたたっ!  
「いっ・・・・!」  
一瞬何が起こったのか分からなかった。頭の裂けるような痛み。木製の硬い椅子に、強く頭をぶつけてしまった。  というか、ぶつけられた。  
「な・・・・なにを・・」  
「あれ?何でもしていいって言ったのは君じゃなかった?」  
「でも私、殺す以外なら、って・・・」  
「・・・何か勘違いしてない?誰も君を殺そうなんて考えてないよ。もっといいことをしてあげようと思ったんだけどなあー・・」  
「・・いいこと・・?」  
チスはわけがわからなかった。  
「だからね、とりあえずこの邪魔な布は破らせてもらうよ。」  
「え・・」  
チスが着ていた薄い絹のワンピースに、ネイゼはそっと手を置いた。  
そして、思いっきり左右に引っ張った。  
チスはびっくりしてとっさにその場から逃げ出そうとした。しかし、ネイゼに膝で押さえつけられ、身動きがとれない。糸のはち切れる音が下まで続く。  
やがて、教会に染まってしまいそうな白い肌が、月の光とネイゼの光る目に照らされた。  
チスは恥ずかしさと頭の痛みで、体中真っ赤になっていた。  
ネイゼが冷たくて尖った爪を、チスの乳首に押しつける。  
「っ!!!?」激痛が走った。  
 
「まだ成長中だねえ・・・・翼も体も」  
そして、平らに近いその胸に手を置き、少しずつ少しずつ体重をかけていった。  
その手が重くなるにつれ、チスの胸に重くて鋭い痛みが走った。  
「く・・・はなして・・はなして、はなしてよおぉ・・・・」  
だんだん苦しくて、息が不規則になっていった。ネイゼがやっと手を放してくれたころには、胸は真っ赤になっていた。チスは、痛そうにしゃくりあげている。  
「実はさあ、君の手元から無くなった武器、あれ僕が持っちゃってるんだよね。どうせ使わないだろうし、捨てていい?」  
「だっ・・だめ!返してください!!」  
あれがないと明日にでも、この世界から追放されてしまう!行く当ても一人で生きていく力もないチスに、それはとてつもなく恐ろしいことだった。  
「これから言うこと、なんでもする?」  
「は・・・い」ああ、悪い予感とはこの事だったんだ。  
悪魔は自分の羽を一本むしって、それをチスの秘所に埋めていく。  
「ご気分は?」  
「・・・・」そんなこと言いたくない。でも、ここで返事をしなかったら・・少し躊躇いながら呟いた。「むずむずする・・・」  
「じゃあ、これは?」そう言って羽を上下に動かす。チスは全身に軽いしびれがくるのを感じた。「きもち・・・いい・・・・?」  
すると、ネイゼは突然くすくすと笑い出した。  
「え・・な、どうしたんですか?」  
「まさか答えるとは思ってなかった!もしかして、自分がすごーく恥ずかしい事されてるって、分かってない?」  
「そっ・・・そんな・・・だって・・・」  
「大体さ、よく僕みたいな悪魔に自分の裸をさらけ出せるよね。ちょっとモノを知らなさすぎじゃないの?それとも、裸を見られるのが気持ちいいとか?」  
ネイゼは、思いつくままにチスを罵ってゆく。  
チスはとうとう涙をこらえきれなくなってしまった。嗚咽をあげながらその場から逃げようとする。だが、ネイゼはいとも簡単にその体をねじり伏せ、破られたワンピースで両手を縛った。  
「もうっ・・・もう放してください!武器はもう、諦めます・・・!」  
「折角見つけた獲物を−誰が帰すもんか!」  
「いやああっ、もうやだ、やだあああっ!」  
チスは悲鳴を上げて暴れ回る。まるで幼い子供のように。  駄々をこねる子供に罰がくるように−チスは頬を思い切り殴られた。  
「・・天使の分際で、我が儘言っちゃいけないよ。武器はちゃんと返してあげる。但し、今みたいに我が儘を言ったら、こんどはガラスの破片で十字架を作ってあげよう。」  
天使は怯えて言葉もでなかった。  
 
「じゃあ、まずはその羽をそこから出して。手を使わずに。」  
そんなことできるはずがない。天使は泣きながら自分の翼を操ってみたが、そこまで届かない。  
ネイゼが、じれったそうに手をのばし、秘所の敏感な部分を指でつねる。  
「んぁっ!」声とともに、黄色くて暖かい液体が床にぶちまけられる。  
それに混じって、羽がずるずると落ちていった。  
「ね?こんなに簡単なことでしょ・・・?」  
そう言って唇を寄せ、チスの涙を舐めとる。  
暖かい息が、殴られた頬に触れた。  
この悪魔は、私にとことん恥をかかせるつもりなんだ・・・チスは、漠然とそんな思いにかられた。  
目の前で排尿してしまった自分が、恐ろしく憎らしい。  
 
美しく気高かった天使は、最早そこにはいない。  
代わりに、泣き疲れて充血した目に、乱れた髪、林檎のような赤ら顔をした一人の少女がそこに横たわっていた。  
「もう・・・もういいですか?」  
震える声で尋ねる。  
「そうだね・・これから行う『神聖な儀式』が終わったら、帰してあげよう。」  
「本当に、武器も、私も、帰してくれるの・・・・?」  
「もちろんさ。但し、その時君はもう・・・何も覚えていないだろうけど。」  
「どういう意味・・・」  
「神聖な儀式によって、君は天使なんかよりもっと素晴らしい存在になれるんだよ。」  
「素晴らしい存在・・・神様になるの?」  
 
幼いチスにとって、「神様」はとにかく偉大で尊敬される存在であって、逆を言うとそれだけの漠然とした存在だった。  
だから、「神聖な儀式」によって「神様」になれるというのは、何らおかしいことではないのだ。  
もう少し成長していれば、この言葉の「裏」が分かったはずなのに・・・  
 
−そうか、私は神様になれるんだ。  
   そしたら、この恥ずかしい出来事なんてみーんな忘れられるし、武器ももういらないんだ・・・  
安堵の表情を浮かべるチスの傍らで、ネイゼはベルトに手をかけて、そのままコートのボタンも外した。  
 
「どうして服を脱ぐ・・・ひゃっ!」  
尿で汚れた自分の秘所をこじ開けて、硬くなった「それ」が入ろうとしていた。  
「そんな・・・そこは汚いっ・・やめて・・くッ!」突然、痛みがチスを襲ってきた。  
「いたいっ・・・あぁあっ、うっく・・」  
何を入れられているのか分からない。ただ、それが深くに入るにつれて、ますます痛みはひどくなってくる。  
「ひぐっ・・ぐぅっ・・・んっ」  
チスはこわばった顔をして堪えた。  
その顔はたまにふっと緩んで、その度に涙がとめどなく溢れる。  
尿の匂いが一面に漂っている。  
「くっ・・・・めんどくさいっ・・!」  
ネイゼは残りを無理矢理押し入れた。  
「あああああっ!!!」  
チスの体が反り返る。激痛が走る。  
 
ばきっ!  
 
「つ・・翼が・・」仰向けになっていたせいで、体重がかかって折れてしまったのだ。  
「ほっときゃまた生えるから・・・黙ってろ!」  
「でもっ・・・痛いよお・・」  
「分かったよ・・・!」  
ネイゼは上手く寝返りをして、チスを上に、自分を下にした。  
「腰・・動かして」  
チスは震えながら言われたとおりにやってみる。  
むずむずするのか、痛いのか、よく分からない。  
しばらくやっているうちに、だんだん要領がつかめてきた。  
ぴちゃぴちゃと気持ち悪い水音が教会に響く。  
「うっ・・・んっ・・くぅっ、」  
「あっ、やっ・・あっあっ・・・」  
二人の荒い息が、時折花の香りを運んでくる。  
チスは懸命に腰を動かしながら、ネイゼの肩に頭を乗せた。  
この痛みと快楽に身をゆだねているうちに、もう、武器の事も、目の前にいるのが悪魔だということも、今何をしているかも忘れてしまいそうだった。  
 
「はあっ、ぁっ」  
だんだん疲れて、動きが鈍くなってきた。ネイゼはそれに気づくと、また寝返って元の体勢に戻り、さらに激しく動いた。  
さっき秘所から出てきた血が、チスの背中にべったりついた。  
「あっ・・いたっ・・ふぐっ、あああっ・・!」  
ずっと同じ動きを繰り返していると、ふと、ネイゼの目つきが変わった。「もうっ・・・出るっ」  
チスも、そろそろ絶頂に達しそうだった。  
もっとも、チスはこの感覚を「神のもとへ近づいた時の苦しみ」だと思っている。  
「くぅっ!!」「ふあぁっ・・」  
絶頂を迎えたとたん、二人の体がビクンとはねた。  
 
チスの中でおさえきれなかった精液が、秘所から溢れだしてくる。  
ネイゼはぐったりして倒れ込んでしまった。  
「はあっ・・はあっ・・あ・・・・」  
ネイゼの翼が、チスをすっぽり包み込んでいる。まるで、抱きつくように。  
「あぁ・・・あったかい・・」  
翼に包まれたチスが、息切れをしながら呟く。  
いつの間にか開放されていた両手で、ネイゼに抱きついた。  
「・・・天使が悪魔に、そんな事しちゃっていいの?」  
「あっ・・・・」  
「今更気づいた?」  
「でも、寒いから・・・」  
「じゃあ、暖かくしてやろうか」  
「・・・・・・・名前、ネイゼ、でしたっけ」  
「そうだよ。」  
ネイゼは静かに唇を重ねて、そのまま舌を入れた。  
しばらくの間消えていた水音が辺りに蘇る。  
唇は首へ、胸へと向かって・・・  
 
チスはやがて、眠ってしまったネイゼの横で、二度目の絶頂を迎えることになる。  
折れた翼は蘇り、白から灰色、灰色から黒へと変色していった。  
口の中から血が出てくる。生えてきた牙が口内を傷つけたのだ。  
体がふっと浮いたのは、生えてきた尻尾のせいだった。  
そして、肌色の髪は黒くなり、琥珀色の目は、みるみるうちに充血して真っ赤になっていった。  
チスは悲鳴の代わりに、祈りの言葉を唱えた。  
自分は、偉大なる神になっているんだ!  
その時、教会のどこにも、チスを映し出す鏡はなかった。  
 
 
朝。  
陽の光は、教会を照らした。  
血で汚れたガラスの破片と、その上に広がる白い羽と黒い羽。  
それらは、風が吹くと消えてしまいそうなほど儚い。  
遠くで鳥が鳴いた。  
 
終わり  
 

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