春。それは、別れの季節。遠く離れる者や居残る者を問わず、別れには  
必ずと言っていいほど、感傷が伴う。それを、杉本貴史は十八歳の春に  
知った。  
「桜が満開だな」  
貴史は自宅に咲いた桜の木を見て呟く。地元の名家として身上を築いて  
きた杉本家の庭には、樹齢数十年の桜がある。それが、毎年春になると  
咲き乱れ、まさに百花繚乱の様を見せてくれる。  
「美しい。だけど、いずれは散ってしまう」  
貴史は桜の元で、また呟いた。その時、風に煽られた桜の葉が舞い落ち  
始める。まるで、散る花が貴史の心の中を見透かしたかのように─  
 
時を遡り、十六年前の春、まさに満開の桜に祝福されるかの如く、杉本家  
に女児が生まれた。その名を美咲。美しく咲く、と書いて、美咲。女児は年  
と共に美しく成長し、良家の息女として誰からも敬愛され、今に至る。  
「お兄様」  
庭に兄の貴史が佇んでいるのを確かめた美咲が、声をかけた。春霞を抜け  
ていきそうなほど、美しく澄んだ声で。  
「美咲」  
背に妹の呼びかけを得て、貴史が振り向く。すると、美咲はにこにこと微笑  
みながら兄の傍らへ来て、  
「桜を愛でてらっしゃるの?」  
そう言って貴史の腕を取った。  
 
「ただの酔狂さ」  
妹に取られた腕を、僅かに強張らせた貴史が答える。愛らしい美咲の  
姿に視線を奪われないように、ちょっとだけぶっきらぼうに。  
「ふふ・・・お兄様は梅が咲いた時も、そう言ったわ」  
「そうだったかな。ははは・・・」  
美咲が笑うと、貴史もつられて笑った。  
「いやね、お兄様ったら」  
絡めた腕を引き寄せる美咲。体を密着させると、豊かに実った乳房が  
貴史の背中に当たる。すると、貴史は頬を染めて、  
「美咲、子供じゃないんだから、あまりくっつくな」  
と、美咲の腕を解こうとした。しかし、  
「なあに?お兄様は普段、あたしを子供扱いするくせに」  
兄を慕う妹は、ぷうと頬を膨らませ憤る。いつもであれば、ここで貴史は  
からかいのひとつでも言う所であったが・・・  
「・・・もう、子供扱いは・・・出来なくなる・・・んだ」  
ふっと表情を曇らせ、美咲を見つめた。  
「・・・・・」  
貴史がそう言うと、美咲も言葉を詰まらせ、絡めていた腕を放していく。  
そして、  
「そうよね。あたしは、もうすぐ人の妻になるんですものね」  
と、寂しそうに呟いたのであった・・・・・  
 
 
美咲は、十六歳を迎えた所で嫁がせる─  
先週末、貴史は養父である杉本義彦にそう告げられた時、激しい  
慟哭に見舞われた。しかし、  
「何故?」  
という疑問は、沸き起こらなかった。それは、幼い頃に貴史が杉本家へ  
養子として迎えられた事が関係している。  
 
杉本家当主である義彦は、子宝に恵まれなかった。だから、十八年前  
分家に生まれたばかりの貴史を、譲り受けたのである。その二年後に、  
美咲は生まれた。つまり、貴史と美咲は、本来ならいとこ同士になる。  
しかし─  
「女に、杉本家は継がせられん」  
義彦はそう言って、美咲にはあまり愛情を注がなかった。それを、幼い  
美咲は肌で感じていたのか、義彦には懐かず、兄である貴史に父性を  
求めていく。  
「お兄様、お兄様」  
と、美咲はいつも貴史の後についてまわり、愛情を得ようとした。それに、  
兄は優しく応えてきたのである。  
「お兄ちゃんは、いつもお前の傍にいるよ、美咲」  
美咲と接する時は、いつも笑顔でいた貴史。それが、幸薄い妹を安心させ  
る唯一の手段と知っていたからだ。そうして、いつしか妹は兄を慕い、また、  
兄は妹を特別な存在と見るようになっていく─  
 
「結納はいつ?」  
「来月の半ばに・・・式は五月には挙げるそうです」  
「そりゃ、急だな」  
貴史と美咲の間に、そんな会話が紡がれた。先週、養父から美咲を  
嫁に出すと聞かされたばかりなのに、もう式の話が出ている。聞く所  
によれば、相手は旧家のご子息とやらで、まだ二十歳そこらだという。  
家名を重んじる義彦はこの婚儀に乗り気で、美咲や貴史の意向など  
まるでお構いなしだった。  
 
「嫌なら─」  
断ってもいいんだぞ、と貴史が言いかける。いくらなんでも、前時代的  
過ぎると、貴史は憤っていた。平成の世に、身売り同然で他家に嫁が  
せる話などあっていい訳がない・・・と。しかし、  
「我が家では、女は道具でしかありませんから」  
ふっと目を伏せ、美咲は言った。表情には、諦めが見えている。いくら  
抗っても、抗いきれない宿命のようなもの・・・それを悟っているかのように。  
 
「・・・・・」  
貴史の言葉が途切れた。何も言えない自分が腹立たしい。愛らしい妹が、  
家同士の繋がりを深める為に、品物のような扱いを受ける事がたまらない。  
「お兄様」  
不意に美咲が呼ぶ。うつむきかけていた貴史が、物憂げに妹へ目を遣ると・・・  
「これ、ご存知?」  
何故か美咲は、スカートの裾を捲くりながら、貴史に向かって問い掛けた。  
 
「な、なんだ、これは?」  
問い掛けられた貴史が目を丸くした。妹が、スカートを捲くり上げて  
いる姿にも驚いたが、兄を最も驚かせたのは、美咲の下半身を包ん  
でいる金属製の拘束具の存在である。  
「貞操帯・・・という物だそうです」  
美咲は自嘲気味に呟いた。可憐な十六歳の乙女の股間には、不貞を  
防ぐための拘束具が装着されている。かつて、欧州で戦役に行く男が  
留守中の妻の不貞を防ごうと、鍵のついた下着を穿かせた・・・という  
話は、貴史も知っていた。しかし、何故、美咲がこんな物を身につけねば  
ならないのか・・・貴史が、そう言って訝ると、  
「お父様の言い付けだそうです。信用無いんですね、あたし」  
美咲は、ふふ・・・と笑って、言葉を繋いでみせた。  
(何て事を・・・)  
貴史の肩が怒りで震えている。それを見て、美咲はぼそりと呟いた。  
「花嫁は、無垢でなければいけない・・・って、言われました」  
ここでようやく美咲はスカートの裾を下ろし、貴史に背を向ける。更に、  
「もっとも・・・あたしは、唇すら誰にも許していませんけどね。えへへ」  
と、肩越しに兄を見遣った。  
(美咲─)  
貴史は気付いている。美咲が─妹が自分に対して、恋慕の情を持って  
いる事を。そして、誰にも許さなかった純潔を、他ならぬ兄に奪って欲し  
かった事も。  
 
さあっ・・・と桜の花びらが風に舞う。その刹那、美咲の体は貴史の  
胸の中にあった。  
「お兄様!」  
貴史は両手を広げて、美咲を受け止める。そして、肩を抱いた。  
「美咲・・・」  
妹を強く抱きしめる兄。放したくない─切に思う。  
 
ざざっと落花が激しくなった。その時、兄妹は長年秘めていた想い  
を解き放つ。  
「愛してます。お兄様」  
「僕もだ。美咲」  
二人の想いに感化されたのか、桜が煽動している。まるで、花吹雪が  
兄妹を包み込もうとしているかのようだ。その時、美咲がふっと呟く。  
「お兄様・・・あたし、お兄様に抱かれたかった・・・でも、今となっては  
それもままなりません」  
「美咲・・・」  
ここで、美咲が貴史の前に傅いた。そして、ズボンのジッパーに指を  
伸ばす。  
「いけない・・・美咲・・・」  
ジーッ・・・と金属音が響く。ズボンのジッパーが開けられたのだ。それ  
が、何を意味しているのかは、貴史にも理解出来る。だから、拒んだ。  
しかし・・・  
「大丈夫・・・今なら、桜があたしたちの罪を隠してくれますわ・・・お兄様」  
美咲は兄のズボンの中へ手を伸ばした。この時、貴史が感じたのは、  
禁忌による罪悪感と、男茎に得たひやりと冷たい妹の手遊び─  
それだけであった・・・・・  
 
桜が狂い咲きを見せる中で、妹は兄の男を手にしていた。  
「これ・・が、お兄様の・・・」  
ジッパーから兄の男茎を取り出した美咲が、目を見張る。貴史の  
男は妹に触れられた事で、激しく昂ぶっていた。雁首はぐんと張り、  
茎の部分には忌まわしいほど、血脈が浮かび上がっている。  
「駄目だよ・・・美咲」  
桜の木にもたれかかりながら、貴史は言う。だが、美咲は男茎を  
決して離そうとはしなかった。それどころか、  
「夢にまで見た・・・お兄様の・・・分身・・」  
うっとりと目を細め、兄を慕う妹の領分を越えていく美咲。無垢の  
身で、唇さえも許したことの無い十六歳の乙女は、禁忌の愛に酔い、  
今や目前にある男茎に、身も心も屈していた。  
「これを・・・あたしの中へ・・・欲しかったんですが・・・お兄様」  
茎の根元を握り締めながら、美咲は男茎に頬擦りを始める。可憐な  
唇をすぼめ、ちゅっちゅっと口づけを捧げてみる。  
「ああ・・・美咲」  
貴史は腰が砕けたように、桜へ寄りかかっていた。妹の唇による愛撫  
が、己の欲望へ捧げられている。そう考えただけで、そら恐ろしくなる。  
しかし、やめてくれとは言わなかった。いや、言えなかった。  
「うふふ、お兄様、カワイイ」  
顔を赤らめる兄を上目遣いに見て、美咲は笑う。くすっと笑みが鼻を  
抜けた時、妹の唇は完全に兄の男を咥え込んでしまった。  
 
「うわあッ!」  
男茎がずるっと美咲の口内へ滑り込んだ。その瞬間、貴史はついに兄妹  
の越えてはならない壁を、越えてしまった事に嘆く。兄の身で、妹に滾らせ  
た欲望をぶつけている。そんな浅ましい光景が、理性を苛むのだ。  
「んッ・・・んんッ」  
それに対して、美咲は情熱的であった。愛する兄の性器を味わい、女が  
燃え盛っている。舌に塩気と苦味を感じたが、意に介さない。むしろ、その  
味が芳醇にすら感じるのだ。  
(お兄様・・・ああ、あたしのお兄様)  
声にならない叫び─もごもごと頬を膨らませ、舌を男茎に絡めながらも、  
美咲は叫ぶ。兄の全てが欲しい、と。だが、それは嫁ぐ身にあっては、叶わ  
ぬ願いでしかない。ならば、せめて・・・  
(お兄様の子種を・・・呑ませて頂くわ)  
眉間に皺を寄せ、美咲は貴史の雁首を吸い、茎を手でしごいた。子種が  
眠る玉袋へも手を這わせ、優しく揉む。愛する男の子種を、一滴たりとも  
残したくはない、という貪欲さが見えていた。  
 
「美咲・・・駄目だ・・もう・・・」  
くくっと貴史が泣きを入れると、美咲の目が輝く。もうすぐ、待ちに待った  
瞬間が来る。愛する兄の子種が飲める、と期待感が膨らんでいくのだ。  
「ああッ!」  
断末魔の叫びが貴史から上がる。それと同時に、兄は妹の顔から腰を  
引こうとした。まさか、子種をこのまま美咲に、舌で味わって貰う訳には  
いかない。そう考えたのだ。しかし、妹は逃れようとする兄の腰を掴み、  
離そうとはしない。  
 
(いいのよ、お兄様)  
目で訴える美咲。ただの男と女であっても、子種を飲ませてくれとは言い  
難い。だから、心で呟いた。  
「美咲・・・」  
上目遣いに自分を見る妹の気持ちを、貴史も理解が出来た。そして、優し  
く後れ毛を取る。  
「出るよ」  
貴史がそう言った瞬間、美咲は目を閉じた。待ちに待った時が来る、と思  
いを募らせる。更に、雁首を唇で窄め、甘く噛んだ。  
「うわッ!み、美咲!」  
がくん、と貴史が仰け反った。その刹那─  
「んんッ!」  
美咲のくぐもった声が鼻を抜けていく。そして、青臭い性臭を伴った精液が  
美しい十六歳の乙女の唇を汚していった。  
(お兄様の、子種が!ああ!)  
舌先でこってりとした精液の存在を感じ取った瞬間、美咲は絶頂に達して  
しまう。愛撫すらされていないのに、愉悦が女の奥を走り抜けたのだ。  
「んん〜ッ・・・んッ!うんッ!」  
次から次へと放出される精液を、美咲は狂喜しながら飲み干していく。  
ぐぐっと雁首が張り詰め、生暖かい粘液がほとばしる度に、くらむような  
陶酔感が女を昂ぶらせた。  
(女として生まれて良かった!)  
と、初めて思う美咲。愛する人の子種を口にする事が、これほどまでに耽美  
とは!そんな思いが、脳裏を灼いた。  
 
桜が静まった。花びらはいい加減散り、地を彩らせている。その上で、  
妹は兄の男茎から垂れこめる、精の残滓を舐め取っていた。  
「ああん・・・お兄様・・」  
名残汁を舌で掬い取りながら、美咲は目を蕩けさせている。子種を  
呑んだ興奮で、放心状態になっていた。頬には涙の後が見て取れ、  
近く訪れる別れを悲しんでいるようだ。  
「美咲・・・飲んでくれたのか」  
愛しい妹の髪へ手櫛を通す兄も、落涙している。放したくない─痛切  
に思う。だが、別れは確実に来る。そう思うだけで、やり切れなかった。  
「お兄様の子種ですもの・・・」  
雁首をちゅうっと吸って、美咲は微笑んだ。もう、名残汁は出てこないと  
悟った所で、ようやく男茎をズボンの中へしまう。そして、  
「ごちそうさまでした」  
にこっと笑って、いつもの─妹の笑顔で貴史を見遣った。  
「美咲」  
貴史が手を伸ばす。抱き締めたいから、こっちへおいで、と胸襟を開いた  
つもりだった。だが─  
「駄目よ、お兄様」  
美咲の体は、貴史の脇をすり抜けた。そして、振り向きざまに言う。  
「さよなら。今までありがとうございました」  
目に涙を一杯溜め、礼を述べる美咲。唇をわなわなと震わせ、泣き叫び  
たい気持ちをこらえているようだ。  
「美咲!」  
貴史が手を伸ばす。離れるな、そう叫ぼうとした瞬間、妹は兄の手から  
逃れ、駆け出していた。まるで、思いを断ち切るように・・・  
 
 
五月の吉日─美咲は花嫁衣裳に身を包み、貴史の前にあった。  
「お兄様・・・あたし、きれい?」  
ふふっと微笑みながら、妹が問うと、  
「ああ、世界一・・・な」  
兄はお世辞ともつかない賛辞を返した。華やかな結婚式場で、美咲は  
式に臨んでいる。純白のウエディングドレスが良く似合い、美しかった。  
(きれいだよ、美咲・・・本当に)  
貴史は心でそう呟く。言葉は出ない。今、口を開いたら、泣いてしまうだ  
ろうと思っている。  
「お兄様、手を引いてちょうだい。バージンロードまで」  
美咲が手を差し伸べた。言葉を無くした兄を慮っての事だ。  
「そ・・・それ・・は、兄の役目じゃ・・・ないだろう・・」  
涙ぐみながら、貴史は答える。花嫁を導くのは父親の役目である。だが、  
美咲にとって貴史は父に等しい存在。だから、その役を願ったのだ。  
「いいのよ、どうせお父様は挨拶で忙しいもの」  
そう言って美咲は手を貴史に預ける。ふっくらとした優しい手だった。  
「い・・・行こうか・・美咲」  
ぽろぽろと涙を零す貴史。もう、泣き顔を見られても、構わないと思った。  
愛する妹が、嫁ぐのだ。涙くらいいいだろうと思う。  
「はい。お兄様」  
導かれる花嫁も泣いていた。兄に引かれる手が暖かい。幼い日々に、  
いつもこうやって兄に手を引かれた思い出も過ぎる。  
 
「ううっ・・・ぐすん」  
貴史が嗚咽を漏らした。もはや、完全に泣いている。その姿を、美咲が  
泣きながら笑う。  
「うふふ・・・お・・お兄様ったら・・・可笑しい・・わ」  
「お、お前・・・も・・・だよ」  
花嫁の控え室を抜け、愛を誓う壇上までの僅かな時間を、兄妹は泣き笑い  
つつ歩く。この時、式場に設けられた教会の鐘が鳴った。だが、それは決して  
福音とはならないのを、この二人は知っている。だから─  
美咲は、未来に流す。美しく青い涙を。そして貴史は、癒える事の無い心の傷  
を抱え、生きていく。  
 
カーン・・・コーン・・  
 
鐘の音と共に、美咲が貴史の手を解く。そして、最後の時が来た。  
「さよなら」  
そんな別れの言葉は、兄妹のユニゾンとなり、教会の廊下で反響する。  
それが、愛する二人を別つ楔の如く、いつまでも残ったのであった・・・・・  
 
 
 
おわり。  

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