石造りの狭い部屋。  
その中央に設置された、そこに存在するだけで周囲に威圧感を振り撒く鋼鉄の十字架。  
見るからに頑丈そうなそれに今、1人の女が磔にされていた。  
一糸纏わぬ姿。  
意識がないらしく力なく垂らした頭の上にある光輪と、彼女の背中、肩甲骨のあたりから生えた1対の白い翼が、彼女が天使と呼ばれる存在であることを主張している。  
腰まで届くブロンドはこびりついた土で輝きを失い、その裸身も同じく乾いた土と、そして凝固した血液によって無惨に彩られていた。  
すらりと長い手足の表面に走る、数えきれないほどの白と赤の線。  
それは全て、ほんの数時間前に刻まれた裂傷とそこから流れた血の跡だった。  
数こそ尋常ではないものの、一つ一つはそれほど大きなものではない。  
天使という種族が持つ高い自己治癒力をもってすれば、1日もすれば跡すら残さず消えてしまうだろう。  
一方で、手足のものとは別に、左脇腹にも1つの傷痕があった。  
数が少ない代わりとでも言うように、気の弱い者なら正視することすら適わないほどの痛々しい傷痕だ。  
辛うじて塞がってこそいるものの、薄皮の下にまだ生々しい肉の色を覗かせるその傷は腹と背の両面にあり、彼女の手首ほどもある何かがそこを貫通したことを物語っていた。  
そこから溢れ出した血は、腰から左足にかけて、かなりの面積を赤黒く染め上げている。  
何も知らない者が見れば、磔にされ拷問を受けた後に槍か何かで貫かれ止めを刺された、そんな経緯を想像するかもしれない。  
だがよくよく見てみれば、彼女が磔にされた十字架にも、それが立てられた床にも血痕はない。  
また、本当にかすかなものではあるが部屋の中には彼女の息遣いも響いている。  
そこから導き出される結論は、彼女が別のどこかでそれらの傷を負わされ、その後ここへ運び込まれて十字架にかけられたということだ。  
と、それまで彼女の呼吸音以外に物音1つしなかった部屋に、新たな音が生まれた。  
金属同士が擦れ合う、軋みの音。  
その発生源は、窓のないこの部屋を唯一外界と繋ぐ役目を持った扉だった。  
その扉がゆっくりとゆっくりと開いていく。  
 
新たに部屋に現れたのは、年端もいかない少女だった。  
幼さがまだ色濃く残るその顔立ちは、どこか十字架の彼女と似て、けれどその背から生えた翼の色は鴉を思わせる漆黒。  
翼を出せるよう大きく背中が開いたデザインの紺のワンピース。  
その上に白いエプロンを合わせた侍女服に身を包み、その首には鉄の鋲が打たれた革製の首輪を嵌めている。  
少女が誰かの所有物であることを強く意識させるその姿。  
少女はその手に水の張られた一抱えほどのサイズのバケツを持っていた。  
それなりに重量のありそうなそれを危なげなく十字架のそばまで運ぶ。  
そして水の中からタオルを取り出し固く絞ると、それを十字架にかけられた天使の顔に宛がった。  
まずは頬についた土ぼこり、続いて口元の血の跡を丁寧な手付きで拭いとっていく。  
そうやって顔についた汚れをあらかた落としたところで血と泥で汚れたタオルを1度水ですすぎ、今度はゆるくウェーブのかかった髪の一房を手に取った。  
これをまた、わずかな汚れも残さないように丁寧に丁寧に拭っていくと、くすんでいたブロンドが徐々に本来の輝きを取り戻し、頭上に浮かぶ光輪の光を反射する。  
少女はしばらくかかってボリュームのある髪の手入れを終えると、今度は首、腕、胸と順を追って湿ったタオルを運んでいった。  
その間、少女は終始無言だった。  
仮面のような無表情を顔に貼り付けたまま、ただ与えられた仕事をこなすだけの機械のような単調さで淡々と作業を進めていく。  
その様子は、部屋に入って以来まばたきすらしていないのではと思わせるほどに無機質だ。  
タオルをすすぐ水音と、翼の根元や傷痕など敏感な場所を摩擦された磔の天使が漏らす小さな呻き声だけが時折部屋に反響する、そんな時間。  
それが終わりを告げたのは、侍女服の少女の手にある濡れタオルが、脇腹にある一際大きな傷口のあたりに差しかかった時だった。  
直前にすすいだばかりだった濡れタオルが、見る見るうちに赤黒く染まっていく。  
繰り返し繰り返し、すすいでは拭いすすいでは拭い、根気よく大量にこびりついた血液を拭き取っていると、それまでよりも幾分大きな呻き声が、磔の天使の口から零れ落ちた。  
ずっと閉じられたままだった瞼が1度ピクリと震え、ゆっくりと上がっていく。  
その瞳の色は、侍女服の少女と同じ透き通った碧だった。  
 
「つっ……ぅ……」  
深い昏睡の余韻か、すぐには意識の焦点が定まらない。  
ぼやけた視界を埋めるのは、ゴツゴツとした石が剥き出しになった無骨な壁。  
最初に自覚したのは脇腹の疼痛。  
その痛みに誘われるように自然とそこに目を向けた私は、そこにいた少女の顔に衝撃を受けた。  
「リリィ!?」  
自分の体に濡れタオルを宛がっている少女の存在に目を剥いた。  
とっさに動こうとして、けれど両の手首や足首、そして背中の翼の根元に生まれた痛みにそれを阻害される。  
そこでようやく自分が十字架に磔にされていることを自覚した。  
横棒の両端に手首を、縦棒の下端に足首を、そして自分では見ることはできないけれど、交差部分に翼の根元を固定されているらしい。  
この状況に対する驚愕や、捜し求めていた相手をようやく見つけた安堵。  
それらを始めとした幾つもの感情が一斉に込み上げてきて頭の中で混ざり合う。  
「……リリィ! リリィでしょう?」  
こんなに近くにいるのに、昂ぶった感情のせいで自然と叫ぶような声量になってしまう。  
けれど、それを向けられた少女の方は、まるで耳が聞こえていないかのようだった。  
こちらを見上げる素振りすら見せず、大量の血で汚れた私の体を拭っている。  
侍女服に身を包んだ少女の外見は、たった1週間離れていただけだったのに記憶の中にある最後の姿からは随分変わってしまっていた。  
それでもその顔を見間違えるはずがない。  
「リリィ……その翼……」  
それが何を意味するのか、私は知っていた。  
知らないわけがなかった。  
自分の顔が歪んでいくのを自覚しながら、一縷の望みをかけて叫ぶ。  
「リリィ、私よ、お姉ちゃんよ! わからないの!?」  
その声がもう届かないことを、理性はすでに理解していた。  
それでも止められなかった。  
彼女の外見の変化は、黒く染まった翼だけではない。  
見たことのない服装。  
自分の真似をして伸ばしていたはずの髪はすっかり短くなってしまっている。  
その下からはあまりにも不似合いな革製の首輪が、時折その姿を覗かせていた。  
私が髪を梳いてあげると、くすぐったそうに、うれしそうに身じろぎしていた小さな体。  
その頭上にあった光輪も、今はもう失われていた。  
 
「起きて早々、騒がしいわねぇ」  
扉を開けて、新たな人影がこの部屋に入ってくる。  
濡れたように艶やかな黒髪をかきあげながら姿を現したのは1人の女悪魔だった。  
私からリリィを奪っていった、どんなに憎んでも足らない相手。  
名前はイリーナというらしい。  
「似ているからもしかしてとは思っていたけど、やっぱりあなた、この子のお姉さんだったのね」  
毒々しさすら感じさせる真っ赤な唇。  
その端がいやらしくつり上がる。  
新しい玩具を見つけた喜びを隠そうともしない、彼女のそんな表情を見るのはこれで2度目だった。  
1度目は、彼女がリリィをさらった犯人だと知り、私が闘いを挑んだ時だ。  
そうやって始まった戦闘で、文字通り私は彼女に遊ばれた。  
全て手足に狙いを定めた、わずかに出血する程度の攻撃。  
手加減されていることに屈辱を覚え、なんとか裏をかこうと考えつくかぎり全ての手段を実行した。  
けれど力の差はあまりにも歴然としていて、私の攻撃は彼女の体にかすりもしない。  
そうして万策尽き動きを止めた直後、脇腹を彼女の尾に貫かれたところで、私の記憶は途切れていた。  
「ん……ぅ……」  
脇腹のあたりを動いていたタオルの感触が、今度は股間にまで移動してくる。  
塞がったばかりの傷痕に触れられるのとは別の感触に、思わず息が零れてしまった。  
妹とはいえ、そこを触れられるのにはかなりの抵抗がある。  
反射的に、やめてと言おうとした瞬間だった。  
「アニム、目を覚ましたならもういいわ。  
 ご苦労様、片付けてらっしゃい」  
機先を制するように、イリーナがリリィにそう声をかける。  
「はい」  
私の声には全く反応しなかったリリィ。  
その彼女は憎むべき悪魔の言葉に素直に返事をすると、バケツを持って部屋を出ていってしまう。  
その間、1度も私に視線を向けてはくれなかった。  
2人きりになった部屋で、もう1度イリーナを睨み付ける。  
「あの子はリリィよ。  
 アニムなんかじゃない」  
「あら、だってあたしはあの子の名前なんて知らなかったもの。  
 だから堕ちたお祝いに付けてあげたのよ。  
 それで、あなたのお名前はなんていうのかしら? 教えてくれれば名前だけは残してあげてもいいわよ」  
「誰が、あなたになんか……」  
「そう、それなら仕方ないわね。  
 あの子に聞いてもどうせもう憶えていないし、あたしがまた何か新しい名前を考えてあげる」  
リリィの中に、もう私は名前すら残っていない。  
あえて神経を逆撫でするためのこの物言いは、私に対しては効果は抜群だった。  
頭の中が沸騰する。  
「どうしてあの子を……あの子はまだ……」  
言いたいことはいくらでもあるのに、悔しさのあまりうまく言葉が出てこなかった。  
悪魔に敗北した天使は捕らえられて堕天させられる。  
宣戦布告以来各地で頻発する小競り合いの中で、幾人もの天使がその犠牲になったとは聞いていた。  
それは確かにそうだった。  
けれど、それは戦場でのことのはずだ。  
リリィはまだ、戦う術もほとんど知らない子どもだったのに。  
「たまたまよ。  
 たまたま見かけてかわいかったから欲しくなったの」  
そんな私を嘲笑うように、ことさら偶然を強調する。  
「そんなに睨まないで。  
 姉妹だけあってあなたもあたし好みの綺麗な顔をしてるわ。  
 だから、ちゃんと2人一緒に飼ってあげる。  
 それならあなたも満足でしょう?」  
そう言って笑う彼女に、怒りで頭がどうにかなってしまいそうだった。  
手足を十字架に縛り付けられてなかったら、力の差なんて一切構わず飛びかかっていたはずだ。  
だけど、今の私にできるのは奥歯を音が鳴るほど噛み締めて、ただ睨み付けることだけ。  
それがイリーナの心に何の影響も及ぼさないことはわかっていても、それぐらいしかできなかった。  
 
「さあ、お喋りもいいけれど、そろそろ始めましょうか」  
イリーナが近づいてくる。  
その目的はわかりきっている。  
リリィだけでなく、私までも堕天させることだ。  
嗜虐的な光を湛えたイリーナの瞳が、こちらの目を間近から覗き込む。  
「そんなに怯えなくても大丈夫よ。  
 これがあなたを生まれ変わらせてくれるわ」  
彼女の手には、いつのまにか1つのリングが乗っていた。  
親指と人差し指で作った輪と同じくらいの直径をもった金色のリング。  
イリーナの逆の手が私の股間に伸びる。  
そしてそのまま私のペニスを摘み上げると、あろうことかそれをリングに通したのだ。  
「な、なにを……んっ」  
リングが一瞬で収縮し、根元のあたりに圧迫感が発生する。  
「このリングには幾つかの効果があるんだけれど……ほら、もう効き始めた」  
彼女の言葉を証明するような変化が、私の体に起きていた。  
ペニスが自分の意思とは無関係に勝手に体積を増し始めたのだ。  
「1つ目の効果は、あなた達天使のこれに勃起した状態を維持させること」  
「は、くぅ……」  
包み込むように握られて、手を前後に動かされる。  
「こ、こんなもので……」  
むりやり勃起させられたペニスを扱かれると、どうしてもそこからは快感が生み出されてしまう。  
それがたとえ憎むべき敵であってもだ。  
こちらの快感のツボを心得たような、緩急を付けたその刺激。  
「ふふ、姉妹だけあって、感じるところは一緒なのね」  
意思に反して、刻一刻と膨れ上がっていく射精への渇望。  
――感じちゃ、だめ……。  
それに流されまいと必死に堪えていた私の耳に、扉の開く小さな音が飛び込んでくる。  
反射的にそちらに向けた視線の先、戻ってきたリリィが無機質な視線を初めてこちらに投げかけてきていた。  
頭の中が、かっと熱くなった。  
「リ、リリィ、見ないで……見ちゃだめ……」  
こんな姿を、憎むべき敵の手で快感を与えられて悶える姿を、リリィにだけは見られたくなかった。  
けれど、私の言葉は届かない。  
「アニム、ちゃんと見ていてあげなさい。  
 あなたのお姉さんが生まれ変わる瞬間を」  
それまでがただの準備運動だったかのように、イリーナの手の動きがいよいよもって激しくなる。  
もしかするとリリィが戻ってくるまで待っていたのかもしれない。  
「さあ、まずは1度イキなさい」  
耳元で囁きかけられるのとほぼ同時、ペニスの先端にぴりっとした小さな痛みが走った。  
何をされたのかはわからないまま、頭の中で何かが爆発する。  
――で、出ちゃう……。  
敵の手で射精させられる屈辱と、高まってきた快楽の波が爆発する感覚に目の前が白く染まっていく。  
腰が小さく前後に動いてしまうのを止められなくなっていた。  
なのに――、  
「あああ……そんな、どうして……」  
確かに目も眩むような絶頂感全身を貫いていったにも関わらず、ペニスの先端から透明な液が滲むように漏れ出ているだけで射精が行われることはなかった。  
「2つ目の効果は、これを付けているかぎり射精をできなくさせること。  
 イクことはできるけどね。  
 そして最後の効果は……」  
「はああああ!」  
絶頂の瞬間に止めていた手の動きを、イリーナが突然再開させた。  
萎えることもなく体積と硬度を維持していたペニスの表面を擦りあげられる。  
さっきまでと同じはずのその行為から生み出される快感は、さっきまでのものとは比べ物にならなかった。  
「イク度に、どんどん感度を増していくのよ。  
 あなたは何回目まで耐えられるかしらね」  
あの子は4回目で音をあげたけれど、とイリーナは私の耳元で囁いた。  
 
「は、ああ、……あぅ、くぅん」  
2度、3度と射精を伴わない絶頂を越え、その度に加速度的にそこから生まれる快楽は増していく。  
扱かれれば当然、それどころか、手を止めていられても触れられているというだけで全身に震えが走るほどの気持ち良さ。  
じわりと滲み出した透明な液がにちゃにちゃと下品な音を立て、聴覚からも私を責め苛んだ。  
何も言わず、じっと見つめてくるリリィの視線がそれをさらに加速させる。  
――ま、また……また来ちゃうぅ……。  
4度目の法悦。  
高まった波が理性を押し流していく。  
倍増していく快感に反比例するように、絶頂の間隔狭まってきていた。  
3度目の後、まだ10回もイリーナの手は往復していない。  
気が狂いそうなほどの責めの中、気を抜くと思わず許しを乞いそうになる口を必死になって引き締める。  
――それ、だけは……絶対に……。  
口の中にかすかな鉄の味が広がっていく。  
それでも全身の痙攣や、どうしても抑え切れない淫らな吐息に、絶頂を迎えたことはあっさりイリーナに見抜かれていた。  
「これで、4度目。  
 ふふ、お姉さんとしての面目は立ったというところかしら」  
手が離される。  
「はぁう!?」  
次の瞬間、男性器の根元からもう少し下をいきなり触れられて、心構えができていなかった私はみっともない悲鳴をあげてしまった。  
それまで1度も触れられていなかった場所。  
そこを掻き混ぜられると、ぐちゃぐちゃとさっきまで以上の卑猥な水音が部屋の中に生まれてしまう。  
リングの効果によって増幅されるのは、それをはめられた男性器からのものだけではなかった。  
「ほら、あなたの先走りと愛液で、こんなにグショグショ」  
目の前にかざされた手。  
その指の間にかすかに白く濁った透明な橋ができるほど、そこはもう完全に濡れそぼっていることを見せつけられる。  
「くぅ……」  
――悪魔、なんかにぃ……。  
恥ずかしさと悔しさで胸がいっぱいになる。  
だけど、次の瞬間には宿敵の手で無理矢理快楽を悶えさせられていたことすらも、最悪の事態というわけではなかったことを思い知らされる。  
「アニムも見ているだけでは退屈でしょう? 続きはあなたがしてあげなさい」  
イリーナが身を引きながら、控えていたリリィに指示を出す。  
私はそれを聞いて耳を疑った。  
「はい、ご主人様」  
彼女の全てを奪った憎むべき相手を主と呼び、入れ替わるようにして私の目の前に移動してくるリリィ。  
 
「そうね、少しの間、下は休ませてあげましょう。  
 私にするときのように胸で感じさせてあげなさい」  
その指示に、リリィがその両手を私の胸に伸ばしてくる。  
「リリィ、やめて……おねがいだから……ぁあ!?」  
下から支えるように乳房を持ち上げられ、やわやわと優しい手付きで圧迫された。  
感度を増しているそこを揉み解されると、ペニスを扱かれる鋭角な快感とは趣の異なる、じんわりとした悦楽が生まれ広がっていく。  
彼女の小さな手の平の中で形を変える私の両胸の中心では、自分でも認めたくはなかったけれど乳首が完全に勃起してしまっている。  
そこを責められたらと思うと背筋に寒気が走った。  
妹に責められ、身も世もなく感じてしまう姿をイリーナに見られるわけにはいかない。  
それだけは避けなければならない事態だった。  
なのに、その私の思いを読み取ったかのように、リリィがその顔を右の胸に近づけてくる。  
何をしようとしているのかは、一目瞭然だった。  
息がかかるくすぐったさを感じた次の瞬間、熱くて柔らかい感触に敏感すぎる突起を包み込まれる。  
「ひっ……ぃい……いやぁ吸わな、ううん……」  
妹にわざとちゅうちゅうと音を立てて胸を吸われる倒錯的な状況。  
麓のあたりを優しく揉まれるだけだったときよりはるかに鮮明になった快感に追い討ちをかけられ、頭が混乱して何も考えられなくなる。  
唇で挟まれ、舌先で転がされ、前歯で甘噛みされ、強く吸引される。  
瞬間瞬間、刺激の種類が入れ替わり、私に心構えすることすら許さない。  
こんなテクニックを、以前のリリィが知っているわけがなかった。  
この1週間で、横にいる女悪魔に教え込まれたんだと思うと、快楽に押し流されつつあった怒りがぶり返してくる。  
――許さない、絶対に許さない。  
私はそのどす黒い感情に、必死になってすがりついた。  
そうでもしないと、片胸だけでも達するのに十分過ぎるほどの甘美な感覚に自分が消えてしまいそうだった。  
「ふああ、な、なに!?」  
なのに、そこへさらに新たな刺激が加えられる。  
反対の胸、その乳首の周辺を、真っ黒に染まったリリィの翼の先が触れるか触れないかの位置で動いていた。  
中心にある1番敏感な場所にだけは触れないようにしながら、焦らすようにくすぐっていくリリィの翼。  
右の胸から生まれる直接的な快感とは対照的な、頭の後ろがちりちりと焼けるようなもどかしさ。  
焦らされた後で触れられた時、自分が見せてしまうだろう反応への恐怖。  
一刻も早く満たして欲しいという喉がひりつくほどの渇望。  
それがないまぜになって頭の中で渦を巻いた。  
さっき自分の中にあったはずの確かな怒りが、押し退けられるようにその勢力を減退させていく。  
「はぁ……いやぁ……焦らさ、ないでぇ」  
自分の口を突いて出てしまったその言葉が、最初自分でも信じられなかった。  
だけど、1度口にしてしまうともうその思いも言葉も止められない。  
そんな私の背中を押すように、いつのまにか反対の胸ヘの責めは中断されていた。  
そのことがさらに私の中の快楽への餓えを倍加させる。  
「お、お願いリリィ……もっと、ちゃんと……」  
「あら、だめよそれじゃ」  
不意に横からかけられた声に、頭から冷や水をかけられたように我に返る。  
狂おしいまでのもどかしさの前で、一瞬とはいえイリーナの存在が頭の中から消えていたのだ。  
改めて彼女の前で口にしてしまったみっともないおねだりの言葉が私の頭に浮かんでは消えていく。  
彼女がどんな表情で、どんな気持ちでそれを聞いていたかと考えると、それだけで死んでしまいたくなるほどの羞恥に襲われた。  
「その子の名前はアニムなんだから、ちゃんとそう呼んであげないと自分に言われてるってわからないわ。  
 ねえ、アニム?」  
「はい、ご主人様」  
声とともに零れ出るかすかな吐息。  
それが唾液をまぶされた右乳首を冷やしていく感触にすら、ぞくりと身を震わせるだけの威力がある。  
だけど私は、嘲笑混じりのその言葉だけは受け入れるわけにはいかなかった。  
たとえ過去の記憶の全てを失っていても、リリィはリリィ。  
それだけは譲るわけにいかなかった。  
 
散り散りになっていた怒りの炎を必死の思いで掻き集め、私はイリーナに食って掛かる。  
「この子はアニムなんて名前じゃない! 何がアニムよ! 私はそんな名前認め――」  
けれどイリーナに向けて放ったその言葉を、私は最後まで言い切ることはできなかった。  
いきなり頭を襲った衝撃。  
一瞬何が起きたのか理解できず、少し遅れて頭に伝わってきた、渇いた破裂音と、頬の疼くような痛みで自分がそこを打たれたのだと知った。  
手の届く場所にイリーナはいない。  
私の頬を打てるのは目の前にいる――、  
「リ、リリ――ッ!?」  
とっさに彼女の方に顔を戻した私を待っていたのは、純粋な憎悪に彩られたリリィの視線だった。  
さっきまでの私ですら、イリーナにここまでの視線を向けられていた自信はない。  
それぐらい純粋な、どこまでも純粋な感情が私に向けられていた。  
以前の彼女からは向けられたことのないその感情に、私は圧倒されて言葉を失ってしまう。  
私達は周囲から仲がいい姉妹として見られていたけど、だからといってケンカをしたことがないわけじゃなかった。  
それでもここまでのものは――。  
「ご主人様から頂いた名前を、あなたなんかが否定するのは許さない」  
抑揚のない、けれどそれが逆に聞く者に威圧感を与える口調。  
「リリィ……」  
呆然と漏らした私の呟きに、彼女が再び右手を上げる。  
「やめなさい、アニム」  
彼女の小さな手の平にもう1度打たれることを覚悟した私を救ったのは、よりにもよってイリーナのその一声だった。  
ビクンと、雷にでも打たれたように全身を硬直させるリリィ。  
硬質な靴音を響かせながら再び私の近くまで歩み寄ってきたイリーナが、リリィに打たれ熱を持った左の頬に触れてくる。  
「せっかくの綺麗な顔がもったいないわ。  
 捕まえる時も、顔には傷をつけないように気を遣ったんだから」  
「ご、ご主人様、申し訳……」  
さっきまでの、記憶とともに全ての感情を失ってしまったかのような様子から一変し、リリィは涙を浮かべながら許しを請う。  
哀れなほどにうろたえた、その姿。  
「いいのよ、アニム。  
 あたしがあげた名前を、大切に思ってくれているからだものね」  
私の頬から手を離し、今度は泣きそうな表情ですがりつくリリィの体を抱き寄せる。  
「ご主人様……」  
その言葉と行動に、リリィは心の底からの安堵を浮かべ身を委ねた。  
母親に抱かれる赤ん坊のように、安らいだ表情。  
イリーナの手で頭を撫でられ、くすぐったそうに身じろぎするリリィの仕草は、私の記憶にある彼女のそれのままだった。  
そのことが、私の中の絶望をより一層深く強くしていく。  
「ご苦労様、少し下がっていなさい」  
「……はい」  
リリィは髪の上を滑る手の感触が離れてしまったことに一瞬だけ名残惜しそうな表情を見せ、けれど次の瞬間には全ての感情を仮面の下に隠して私から距離を取った。  
 
「アニムがあんなに取り乱すなんて少し驚いたけど、そろそろ終わりにしましょう」  
その表情は、私が捕らえられた戦闘の最後に彼女が浮かべたものと同じものだった。  
あの直後、彼女は目で追うことすらできないほどのスピードで私の背後に回り、その尾で私の脇腹を貫いたのだ。  
「ひっ――」  
背中側の傷痕に、尖った何かが触れてくる。  
その感触に全身に恐怖と緊張が駆け抜け、喉から引き攣ったような悲鳴が漏れた。  
「ちゃんと憶えているのね、これの味を」  
私のその反応に、イリーナは満足したような笑みを浮かべて囁いてくる。  
傷口の縁をなぞるように動いている尾の感触。  
今にも皮膚を突き破って体の中に潜ってきそうなその感触。  
意識を失う前の、ほんのわずかな時間だけ感じたあの激痛が脳裏に蘇ってきた。  
そして、血液ととも魂までもが傷口から零れ落ちていくようだったあの喪失感もまた、同じように私の心に浮き上がってくる。  
不意に、ガチガチと耳障りな音がすぐそばから聞こえた。  
何かと思えば、それは私の奥歯がぶつかりあう音だ。  
「や、やめて……」  
絶対に口にすまいと思っていたイリーナに向けての懇願の言葉。  
けれど、恐怖のあまり思わずそれを口にしてしまったことを自覚し悔やむだけの時間も、私には残されていなかった。  
「怖がらなくてもいいのよ。  
 今度は別のところで味あわせてあげるから」  
唐突に、傷痕を嬲っていた尾の感触が消えてなくなった。  
「あああああ!」  
さっきわずかに触れられただけだった女性器を、今度こそ一切の躊躇なく貫かれる。  
男性器と両胸への幾度もの絶頂をともなう責め。  
それによって十分過ぎるほど濡れそぼっていたそこは、大した痛みもなく彼女の力強い尾を飲み込んだ。  
生まれたのは、目の前にいくつもの太陽が生まれたかのようなあまりにも強烈な快感。  
「かはぁっ!」  
最奥をずんと突き上げられると、押し出されるように泡立った唾液が口から溢れ出す。  
「あら、だらしない」  
顔を寄せてきたイリーナが、ぺろりとその唾液を舐め取っていく。  
「これぐらいで音を上げちゃだめよ。  
 帰りはもっとすごいんだから」  
その言葉は、次の瞬間身をもって実感させられた。  
「ひやあ、やめ、うごかさ……あひぃ!?」  
悪魔の尾の先端は、やじりのように返しがついた形をしている。  
だから彼女が尾を引くと、その凶悪な返しが膣壁を抉り取るように引っ掻いていくのだ。  
普通なら痛みが先にくるはずのその仕打ちすら、リングの効果が得も言われぬような快楽へと変換してくれる。  
「ふふ、お漏らししてるみたいよ」  
返しによって掻き出された愛液が、びちゃびちゃと床を打つ音が聞こえた。  
 
「ひ、イク……だめ、イッちゃだめ、なのに……」  
わずか1往復にも満たない動きで、私は為す術もなくまた絶頂を極めさせられる。  
射精を封じられた男性器が空しく跳ね、悪魔のリングがさらに私の感度を高めていく。  
2度目の挿入。  
挿入時は返しによる純粋な刺激こそ減るものの、代わりに自分の体に生まれながらにある欠落を埋められる精神的、肉体的両面での充足感が私の理性をかき乱す。  
男性器と女性器、どちらか片方しか持たない悪魔と違い、私達天使はその両方を持って生まれてくる。  
けれど、構造上自分で自分を満たすことはできなかった。  
結局は誰かに挿入してもらわなければ、本当の充足は得られない。  
と、不意に悪魔特有の浅黒い肌で大部分を占められていた視界が開かれた。  
イリーナが私の背後に回り込んだのだ。  
「アニム、さっきから物欲しそうにひくついているこの子のペニスを、舌でかわいがってあげなさい」  
はい、とだけ言い近づいてくるリリィ。  
十字架にかけられた私の前で跪き、一瞬迷うように動きを止めた。  
今彼女の目の前にある器官は、女性型であるイリーナにはないものだ。  
イリーナは具体的なやり方を口にしない。  
あなたが思うようにやりなさいとでも言うように、ただ黙って尾を前後させるだけ。  
やがて、リリィは意を決したように動き始めた。  
すぐ下にある穴を滅茶苦茶に突き回されているせいで上下左右に暴れ回るペニス。  
その竿の部分を両手で包むように固定して、舌を突き出しながらおずおずとその顔を寄せていく。  
胸の時とは違い、その動きは明らかにぎこちない。  
そのことが私の中の背徳感を倍増させた。  
唾液をまとった舌の先が、とめどなく溢れる先走りに塗れた亀頭にそっと触れてくる。  
竿の部分を手で触れられただけでも達しそうなほどの快感があった。  
けれど、その舌からもたらされたのはそれすらも容易に上回る反則のような甘い感覚。  
最初はちろちろと様子を窺うようだった舌遣いが、徐々に徐々に大胆になっていく。  
舌の腹全体で亀頭の裏側をぞろりと舐め上げたかと思うと、舌先を尖らせるようにして先端の穴をほじるように刺激したり、張り出した傘の裏側のなぞっていく。  
「私がしてあげた時の指の動きを、一生懸命再現しているのね」  
声もなく悶えている私の耳元で、イリーナがそっと囁く。  
その息にすら耳朶を愛撫されているような快感を感じてしまうほど、私は悪魔のリングに支配されていた。  
その間も、挿入された彼女の尾は休むことなく膣内を往復し、ペニスからの刺激と合わさって繰り返し私を絶頂に押し上げる。  
波のようだった絶頂の間隔がますます狭まり、いつからか常に頂点にいるような状態に追い込まれている。  
なのに、次の瞬間にはさらに膨れ上がった快感が、さっきまでいた場所すらも頂点ではないことを証明して私を翻弄する。  
 
天井知らずの快楽に、私の心はついていけなくなりつつあった。  
ただ、自分の股間にある2つの快楽器官から送り込まれる刺激のことしか考えられなくなっていく。  
「出したいでしょう? たまっているのを思う存分」  
悪魔が囁く。  
それに抵抗するだけの意思は、もう私の中のどこにも残ってはいなかった。  
「だし、たひぃ……おねがい、もう、おかしくなる……くるっちゃうぅ!」  
心の中に浮かび上がってくる欲望を、何も考えないまま口から溢れ出させていく。  
言葉も思いも何もかも、体内に溜め込んでおけば破裂してしまいそうな錯覚があった。  
「いいわ、思いきりイキなさい」  
パリンという、小さな音が鼓膜を震わせた。  
その瞬間、ペニスの中をずっと押さえ込まれていた欲望が怒涛の勢いで走り抜けていくのが――、  
「は、ああああ、あああああああ!」  
固定していたリリィの両手を撥ね退けたペニスの先端から、火山の噴火を思わせる勢いで白濁液が噴出する。  
ペニス自体が爆発したかと本気で思うほどの激感だった。  
さっきまで繰り返し経験していたものが、子供だましとしか思えなくなるほどの圧倒的な絶頂感。  
私の体を十字架に縛り付ける全ての枷が消失し、心を縛り付けていた全ての事柄からをも解放され、空へと舞い上がっていくような錯覚。  
そこからようやく降りてきた私が最初に見た物は、私の精液によってどろどろに汚されたリリィの姿だった。  
幼さを残すその顔にも、短くなってしまったその髪にも、黒く染まった翼にまでも、私の白濁が降りかかっていた。  
その姿に、罪悪感が込み上げてくる。  
けれどそれと同時に確かな満足感すらも心の底から湧き上がってきたのを、私は自分で感じていた。  
「ふあ!?」  
イリーナの尾がずるりと膣から引き抜かれ、一際大きな愛液の塊がびしゃりと落ちて水しぶきを上げる。  
「ずっと2人一緒に飼ってあげる。  
 それならあなたも満足でしょう?」  
同じ言葉を、さっき向けられたような気がした。  
だけど、それに対して前回どんな反応を自分がしたのか、もう思い出せなくなっていた。  
ついさっきまで頭の中を埋め尽くしていた、今の私を形作るための全てのものが急速に遠ざかっていくのを感じる。  
大切だったはずの何か。  
けれど、それに手を伸ばす気持ちすら、もう湧いてこない。  
頭の中が錆び付いてしまったように重くなり、何かを考えることすら億劫になってくる。  
不意に、目の前を白い何かが上から下に通りすぎていった。  
雪かと思い、けれどここは屋内で、雪なんて降るはずがない場所だと思い至る。  
そうこうしている内にも、その白いものはますます数を増やしていた。  
確認しようにも、目が霞んでそれがなんなのかわからない。  
はらはらと舞い散る雪のような何か。  
音もなく床に降り積もっていくそれは、私の――。  
 
 
「ご、ご主人……様……もう、もうイカせて……くださぃ……」  
暗い水の底から浮かび上がっていくような感覚。  
幻の水面が近づくにつれ、途切れ途切れの、どこか舌ったらずな声が聞こえた。  
「もう少し我慢なさい、アニム」  
それに答える声は、さっきのものとは対照的にしっかりとした諭すような口調。  
そんなやりとりを聞きながら、私はどうやら自分が床の上に蹲るようにして気を失っていたんだと認識する。  
全身にまとわりつくような疲労感があり、それ以上に頭の中が混濁していた。  
自分が誰なのかも、ここがどこなのかもわからない。  
そんな状態で、それでもなんとか顔を上げた。  
「――ッ!」  
そこにいた蝙蝠の羽を持つ長身の女性を見た瞬間、全身に稲妻が走る。  
さっき聞いたご主人様という単語。  
それがすっと頭の芯に滑り込んでくる。  
直感的に、その人こそが自分が仕えるべき相手だと理解した。  
「はぁ……ああ……うぅん」  
そんなご主人様に背後から抱え上げられている女の子が1人。  
幼さが残るその外見にそぐわない、ただれたような悩ましげな喘ぎ。  
彼女にそんな声を出させているのは、捲くれ上がったスカートの中、M字に開かれた両足の中心を貫くご主人様のしなやかな黒い尾だった。  
左右に目いっぱい広がってご主人様のものを受け入れている穴の少し上、そそり立った男性器の根元には金色のリングがはまっている。  
あれが何か、私は知っている気がした。  
いや、知っていた気がすると言った方が正しいのかもしれない。  
もう思い出せないのだから。  
「あら、ようやく起きたのね」  
ご主人様が私の目覚めに気づいて視線を下ろす。  
一方で、アニムと呼ばれていた女の子はその顔を涙やよだれ、汗なんかでぐちゃぐちゃにして悶えるばかりだ。  
こちらのことになんか気を配るだけの余裕はないらしく、ただただ熱い吐息を零している。  
そんな彼女のショートカットの髪や、黒い翼に白い液体がこびりついているのが見えた。  
ご主人様の尾が前後するたびに溢れ出すアニムの愛液で、部屋の中には甘酸っぱいような香りが充満している。  
その姿を私は心の底から羨ましいと思った。  
――私もしてほしい……。  
「ご主人様……」  
私は震える腕で上半身を持ち上げる。  
 
その時、ご主人様がアニムの耳元で何かを囁いた。  
それを聞いたアニムは至福の表情をその顔に咲かせ、同時に彼女のペニスに嵌まっていたリングが澄んだ音を立てて砕け散る。  
次の瞬間、アニムのペニスの先端から、驚くほどの勢いで白濁液が噴出した。  
細い喉を折れてしまいそうなほど仰け反らせ、足の指を精液の噴出に合わせてぎゅっ、ぎゅっと断続的に握り込む。  
繰り返し吐き出されるアニムの精は、そのまま正面にいる私の体に降り注いできた。  
ムッとするほどの青い臭いが鼻を突き、触れた場所が燃えるように熱くなる白く濁った生命の源。  
あっという間に私はアニムにも負けないほど頭からどろどろになっていた。  
同時に、アニムを彩っていた白いものが、別の誰かの精液だということに思い至る。  
そして、それがたぶん私のものなんだろうということにも。  
「立ちなさい、レナ」  
長い射精を終えてぐったりするアニムを抱えたまま、ご主人様が私に言う。  
「レナ……?」  
「そうよ、それがあなたの名前」  
「……私は……レナ」  
もう1度繰り返すと、その名前はすんなり心に染み込んできた。  
そうやって自分の名前を獲得した私は、ご主人様からの初めての命令を果たすために、まだうまく力が入らない全身に懸命に鞭を打って立ち上がる。  
私の体の下には汗とは違うぬめりを持った液体がたまっていて、ともすればせっかく立っても足を滑らせそうになったけれど、それでもなんとか震える足で自分の体重を支えることに成功した。  
「さっきまでのを見て、興奮していたのね」  
ご主人様の視線が私の股間に向けられた。  
確かにそこでは私の男性器が立ち上がっている。  
少しの気恥ずかしさが込み上げてきて、でもご主人様の許しがなければ隠すことはできない。  
「ほら、起きなさいアニム」  
ご主人様が腕の中のアニムの体を小さく揺らした。  
最初は力なくかくかく前後に振れていた彼女の首の動きが幾度目かで止まり、続いて意思を伴った動きでゆっくりと上がっていく。  
「レナ、今度はあなたが入れてあげなさい」  
一瞬言われた意味がわからなくて、でもご主人様がアニムの股間から尾を引き抜くと何を求められているのかがようやくわかった。  
はい、とだけ言い、アニムを抱え上げているご主人様に歩み寄る。  
「レ、ナ……?」  
アニムが虚ろな視線を私に向けてくる。  
「そうよ、彼女はレナ。  
 ここではあなたが先輩なんだから色々教えてあげるのよ?」  
張り詰めたペニスの先端を、湯気が立ちそうなほど潤っているアニムの秘所に宛がうと、彼女はびくんと身を震わせた。  
「ぁ……ぅ……」  
何かを言おうとしたのか、アニムの口が小さく震えた。  
けれど私はそれを無視して、そのままずぶずぶと先端を押し込んでいく。  
アニムの中は、さっきまであんなに太いご主人様の尾で掻き回されていたのが嘘のように窮屈だった。  
深さこそあまりなく、根元まで挿入する前に突き当たってしまったけれど、火傷しそうなほど熱い蜜に纏わりつかせた細かな襞の感触は想像以上の快感を私のものに与えてくれる。  
加えて、腰を引くと絡みつく襞の感触がより一層強く感じられて、思わず腰が砕けそうになる。  
「あ……ふぁ……いい、いいよぉ……レナぁ」  
閉じること忘れてしまったように開きっぱなしになった口から甘ったるい喘ぎ声を漏らすアニム。  
その幼い容姿のせいだろうか、彼女のことが愛おしくてたまらない、そんな気持ちが込み上げてくる。  
「せっかくだから、1つゲームをしましょう」  
挿入する快楽と、挿入される快楽で陶然としていた私達の目を覚まさせるように、突然ご主人様がそんな提案をする。  
「先に相手をイカせた方が勝ち。  
 ただし手を使っちゃだめよ。  
 勝った方には、そうね……」  
焦らすような間。  
「次はあたしに入れさせてあげるわ」  
 
見蕩れるほどの微笑みとともに告げられたそのご褒美に、緩みきっていたアニムの表情がさっと引き締められる。  
たぶん、私も同じ反応をしていたと思う。  
直前まで手を取り合って快楽に耽っていた私達は、今ではもう、1つのご褒美を奪い合うライバルになっていた。  
自然と腰の動きが早くなる。  
「んっ……くぅ……」  
そうすれば快感までも押さえ込めるとでも言うかのように、真っ赤な顔で、ぎゅっと口を引き結んで声を抑えようとするアニム。  
それに対し、私はさらに腰の動きを激しくさせることで彼女を追い詰めようとした。  
「あら、やっぱりイッたばかりのアニムの方が不利みたいね」  
ご主人様のその言葉の直後、私の体をすさまじい衝撃が貫いた。  
「ひゃああああ!」  
全く気構えをしていなかった私は、あまりの刺激にたまらず悲鳴をあげてしまう。  
ご主人様の尾が、いきなり真下から私のあそこを貫いたのだ。  
私の膣を押し広げるその存在感はあまりにも大きすぎて、今アニムに挿入している私のものなんて、ご主人様の尾に比べらた間に合わせの代用品にすらならないことを思い知らされた。  
膝が崩れ、そのまま沈みそうになった体を挿入された尾1本で支えられる。  
「ほら、ちゃんと立ちなさい。  
 でないとあなたの負けにしちゃうわよ」  
その言葉に、必死になって自力で立とうと試みる。  
だけど、足に力を入れると、ただでさえ目も眩みそうなほどの快感を与えてくれるご主人様の尾をより一層強く感じてしまう。  
これがゲームの最中でさえなかったら、何も考えずその悦びに身を浸していたかった。  
だけど今は――、  
「そうそう、これだけだと今度はレナが不利でしょうから、アニムの感じるポイントを教えてあげるわ」  
「はひひゃぁ!?」  
何とか辛うじて自力で立てそうになったところを、新たな刺激で惑乱させられる。  
私が崩れ落ちそうになったせいで最奥まで挿入されていた尾の先端が、入口の近くにまで戻ってきたのだ。  
先端のかえしで膣内を抉られる感覚に、魂までも掻き消されそうになる。  
「ご、ごしゅ……ひあぁ……さまぁ、いああ!?」  
それだけでももう堪え難い感覚に気が遠くなりそうだったのに、そこにさらなる追い討ちをかけられ言葉もまともに発音できなくなってしまう。  
入口付近の天井側、ちょうどペニスの根元の裏側のあたりを擦られたのだ。  
そこを責められると、どうしようもないほどの快楽に一瞬で意識をさらわれる。  
「あら、あなたもここが弱点だったのね」  
くすくすと笑いながら言うご主人様は、一向に責めの手を緩めてはくれない。  
私にできるのは歯を食いしばって極上の快楽を堪えながら、教えてもらったアニムの弱点を自分の亀頭で擦り上げることだけだった。  
「はぁうっ、あっ、だ、だめぇ」  
確かにそこへの責めは効果的だった。  
それまで引き結ばれていたアニムの口から甲高い喘ぎが漏れ始める。  
だけど、それでもまだアニムには多少の余裕があるように私からは見えた。  
一方で私は、もういつイッてしまってもおかしくないほど追い詰められている。  
いくらアニムが直前にイッたばかりで敏感になっているとはいえ、彼女の膣とご主人様の尾の両方で責められるこの状況はあまりにも分が悪かった。  
「今度はレナの方が負けてしまいそうね」  
ぎりぎりの私の状態を読み取ってくれたのか、今度は抱え上げたアニムの背中に顔を埋めるご主人様。  
「いひぃぃ!?」  
直後、雷に打たれたように、大きく1度アニムの体が跳ね上がった。  
彼女の背後からちゅっ、ちゅっと言う小さな音が聞こえてくる。  
直接は見えなくても、背中の特に敏感な翼の根元やその周辺を吸われているんだということぐらいは見当がつく。  
そこは体の中でも、特に敏感な場所の1つ。  
ご主人様にしてもらうことを想像しただけで、背筋がぞくぞくするほどのその行為。  
追い風を受けた私は、ラストスパートとばかりに腰の動きを早くする。  
それは私の側が感じる快感も大きくさせる諸刃の剣だった。  
それでももう他に選択肢はなかったのだ。  
幾度かの往復で、最後に残っていたなけなしの理性が吹き飛んでいく。  
「イク、イッちゃうぅぅ!」  
それがどちらの声だったのか、私にはよくわからなかった。  
絶頂に至る充実感と、ゲームに負ける絶望感の両方を感じながらペニスの中を精液が通過していくのを感じたのとほぼ同時、お腹に熱い液体を浴びせ掛けられたからだ。  
私達は、まるで予め申し合わせていたように2人同時に絶頂を迎えていた。  
 

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