「ひぁ……あふぁ……ぃ……」  
「お、おねがいだから……もうやめてあげてよぉ……」  
一時的な拠点としている廃ビルの1室に、2つの声が響いていた。  
片方は声と吐息の中間とでも言うべき意味の取れない喘ぎ声で、もう片方は時折しゃくりあげる音を伴った弱々しい懇願だ。  
他に室内に存在している音といえば、俺の肉紐と双子の天使達の体が奏でるぐちょぐちょという湿った音ぐらい。  
セラフィは意識を取り戻した後、俺が仕事に入っているのを見て退室していた。  
たぶん、今頃は天使の捕獲という一仕事を終えたキッカと睦み合っているんだろう。  
あれだけ俺とやっていたというのに、その辺セラフィは底無しというか貪欲というか。  
それでいて普段はむしろ清楚な感じなあたり、彼女を教育したキッカの手腕は見事なものだと感嘆するより他にない。  
「マイカが……マイカが死んじゃうよう……」  
そんなことを考えていると、不意に双子の天使の内、ミルカというらしい片方の天使がそんな失礼なことを言ってくる。  
その言葉にちょっとカチンと来た俺。  
そりゃ、最初の内はちょっと欲望のままやりすぎて、後でキッカにしこたま怒られる羽目になったことも何度かあったけど、さすがに最近は随分経験を積んできたことでその辺の匙加減は把握できるようになってきているのだ。  
どうせ口にしようとしてもキシャーしか言えないので、心の中だけで愚痴ってみる。  
――それにしても、あの時のお仕置きといったら……。  
思い出してはいけないと頭ではわかっているのに、ついついキッカにされたお仕置きを思い出して身震いをしてしまう。  
 
「ひはぁぁあ!」  
その動きが肉紐に伝わり、膣内と腸内を同時に掻き混ぜられたマイカがまたしても心を飛ばして絶叫した。  
肉紐による拘束を振りほどかんばかりの激しい痙攣。  
それがしばらく続いた後、天を仰いでいた首をかくりと落としてマイカの体は一切の反応を断ってしまう。  
「マイカぁ!」  
その様子に最悪の事態を想像したのか、それまでの弱々しさとは一転してミルカの方も絶叫する。  
全くもって失礼極まりない。  
――まあ、マイカの方はこれくらいか……。  
最後を俺の意思ではないイレギュラーな動きでイカせてしまったのが少々不本意ではあったけれど、マイカの方は今はこの辺が限界だろう。  
両腕を左右に広げ、足はMの字に固められた姿勢で持ち上げられた状態。  
マイカの外見は、ここに運び込まれた時からは随分かけ離れたものになってしまっていた。  
全身をたっぷりと白濁液にコーティングされ、敏感な3つの芽を痛いほどの張り詰めさせている。  
膣口も肛門も、複数の肉紐を縒り合わせて作った極太の肉棒で限界ギリギリまで広げられ、それどころか極めて細いものではあるが尿口にすら肉紐が1本潜り込んでいる始末だ。  
「ぅ……」  
それらをずるずる引き抜いていくと、単純な肉体的反射によってマイカが小さく呻き声を漏らす。  
「マイカ……」  
その事に束の間の安堵を覚えたらしいミルカだが、挿入されていた異物が抜けても、すぐには閉じられなくなった3つの穴から大量の白濁液が溢れ出す様を見て再び辛そうに顔を歪めていく。  
それでも決して目は逸らさない。  
この辺は俺の教育の賜物だ。  
気を失うまで蹂躙してきたマイカとは違って、ミルカに対しては動けないように拘束しただけで、少なくとも肉体的にはそれ以上のことをまだ何もしていなかった。  
外見がそっくりな双子だけにちょうど鏡に映したようにマイカと向き合う場所に持ち上げ、後はひたすらマイカだけを責め続けてきたのだ。  
ミルカに対して強制したのは、目の前で犯される相手の姿をただひたすら見続けることだけ。  
当然ではあるが、最初の内は顔を背け、目も固く固く瞑っていた。  
俺のこの体が持っている欠点の一つは、こちらからは言葉で意思を伝えることができないことだ。  
だから、こちらから指示を伝える場合、基本的には実力行使という形にならざるをえない。  
と言っても、今回に関しては俺としてはある目論見があったから、いつものようにこちらの意に反した行動に対して直接ミルカに体罰を与えるというわけにはいかなった。  
その結果、本来は雪のように白く透き通っていたマイカの尻は、今ではべっとりと付着する白濁の上からでもわかるくらい赤く痛々しく腫れている。  
こういうのは体罰ならぬ心罰とでも言うんだろうか。  
自分が目を逸らせば大切な相手が鞭打たれる。  
何度か繰り返す内にそれを理解したミルカは、それでもしばらく時間がかかったが、最終的にはこちらの意図通り瞬きすらほとんどせずに、目の前で繰り広げられる陵辱劇から目を離さないようになっていた。  
 
「ひ、ぃ……」  
肉棒を目の前に突き付けると、ついに自分の番が来たと悟ったのか、ミルカが滑稽なほどに顔を引きつらせる。  
マイカの時は、その肉棒を2本、ろくに前戯も施さずにいきなり両方の穴に挿入した。  
当然そんな無茶をすればマイカが感じる苦痛は相当なもので、彼女は半狂乱になって泣き叫んだものだ。  
今のミルカの顔から読み取れる感情は、それを目の前で見せ付けられていたことからくる苦痛への純粋な恐怖が大半ではあるが、その裏にはもう一つ、同じ恐怖でも多少色合いの異なるものが見え隠れしていた。  
もう1人の自分とでもいうべきマイカがたどった悲惨な道筋。  
いつしか、この肉棒による暴虐的な抽送にすら快楽を感じて歓喜の涙に咽び泣くようになるという、未来の自分への根源的な恐れ。  
今のミルカにしてみれば、それは自分が自分でなくなるような、そんな気分なんだろう。  
この表情だけでも、ミルカを後回しにしていた意味があると思えてしまうくらい、その表情は今の俺には魅力的だった。  
だが、それを心行くまで堪能した後、俺は突き付けていた肉棒を解き、一旦細い肉紐へと戻してみせる。  
「……ぇ?」  
マイカと同様、それをそのまま挿入されると思っていたんだろう、予想外の変化にミルカの緊張がわずかに緩む。  
もちろん、俺としては別にミルカを安心させようなどとは思っていなかった。  
俺には俺なりの考えがあるのだ。  
それも知らずに、わずかとはいえ安堵しているその様子がおかしくてたまらなかった。  
こんな体じゃなかったら思わず噴き出していたかもしれない。  
最初、キッカがこの2人を連れてきた時、同時に犯して喘ぎ声の聞き比べでもしようかと思った。  
実際、その直前までは行ったのだが、そこでもっと面白そうなアイデアが閃いたのだ。  
俺はその案をこそ実行するために、まずはマイカだけを、しかもデモンストレーションの意味も込めていつも以上に乱暴に犯してみせた。  
実際には細心の注意を払いながらやっていたのだが、ミルカから見れば化け物が本能のままにマイカの体を貪っているように見えただろう。  
バラした肉紐を、そこからさらに分解してより細くより細く解いていった。  
その内の1本を、焦らすようにゆっくりとミルカの股間に近づけていくと、いくら細いとはいってもさすがにミルカの顔に浮かぶ恐怖の色が濃くなっていく。  
1度も触れてはいないのに、それでもミルカのそこはかすかな湿りを帯びていた。  
別にめちゃくちゃに嬲られるマイカの姿を見て欲情していたとか、そんなエロ漫画ドリームな反応ではないんだろう。  
そこを乱暴に扱われるマイカの姿を見せられて、デリケートな粘膜を守ろうとしたミルカの本能が分泌させた液体だ。  
肉紐自身が粘液を帯びているからなくても別に問題ないが、別にあって困るものでもない。  
M字に開脚させているせいで、細く開いた秘唇の隙間。  
狙いを定めて極細の1本をそこに挿入させていく。  
 
「い、ぃゃぁ……」  
蚊の鳴くような声で拒絶するミルカ。  
多少の異物感はあるだろうが、指よりもはるかに細い肉紐ならば痛みはないはず。  
実際、その声に肉体的な苦痛の色は感じ取ることはできなかった。  
その細さを活かし、処女膜すらも傷付けないまま侵入を続け、あるポイントを目指していく。  
初めて入る場所でありながら、俺の頭の中にはその場所への道筋が既にはっきり描けている。  
「やだ……もうそれ以上入ってこないでよう……」  
ミルカの哀願を聞き入れたわけでもないが、一旦肉紐の動きを止める。  
「み、ミルカの言葉、わかるの……?」  
あまりにもタイミングが良すぎたせいで自分の願いが聞き入れられたとでも思ったのか、そんなことを口走る。  
溺れているところに流れてきた藁みたいなものなのか、あまりに絶望的な状況に本来ならありえないはずの可能性にすら縋ってしまうんだろう。  
まあ、自分が止まってと言った途端に、ミルカにしてみれば中途半端な場所で動きを止めたら希望を持つのも無理はないのかもしれないが。  
俺としてはただ単にそこが目的地だっただけだ。  
そこに意味があるということを、本人がまだ知らないだけ。  
知っているのは俺と、そして気を失ったままのマイカぐらいだろうか。  
続いて、さらに細くした肉紐を、今度は尿道に侵入させる。  
こちらも痛みを感じないよう、かなり限界近くまで細くしたものだ。  
「だ、だめ、そんなとこ……」  
本来は液体が通過するだけの狭穴を、細くはあっても確かな触感を持つ肉紐が逆方向に進んでいく違和感に声を上擦らせるミルカ。  
これもまた、最奥まではいかないあたりで動きを止める。  
「な、なにをするの……」  
股間から2本の肉紐を生やした状態で、震えながら問いかけてくる。  
その答えを、俺は言葉ではなく行動で示してやった。  
 
「ひきぃぃぃ!?」  
ミルカが喉を反り返らせて悲鳴をあげる。  
挿入した肉紐は細くはあっても、ちゃんとその先に口を備えている。  
それを使って、ある一点を尿道と膣内の両側からピンポイントに吸い上げたのだ。  
そこから生まれた刺激によって、ミルカは一瞬忘我の極地へと跳ね上げられる。  
筋肉が1度ぎゅっと収縮し、次の瞬間反動のように弛緩した。  
それに合わせて尿道の中を熱い液体が駆け抜けていくことが、文字通り手に取るように俺にはわかる。  
「は、ぁ……ぇ――」  
我に返ったミルカが、恥ずかし過ぎる粗相を防ごうと再び筋肉を緊張させようとする。  
そこへ――、  
「――――!?」  
もう1度さっきの場所を吸い上げる。  
またしても一瞬とはいえ意識を飛ばし、そしてその一瞬が致命傷になった。  
「あ、ああ……いや、いやぁ……」  
肉紐を咥え込んだ尿道が内側から押し広げられ、そこから薄黄色の迸りがアーチを描く。  
俺がマイカの相手をしている間、ずっと我慢していたんだろう。  
その量はかなりのもので、いつまで経っても終わりが見えない。  
その間も、ミルカの心の防壁の隙を突くように、タイミングを見計いながら吸引を繰り返す。  
「あぃっ!? な、なにこれ、い!? ……や、やめてぇ!」  
放尿の羞恥と、自分の体が送ってくる未知の感覚に翻弄されているのか、ミルカが身も世もなく悲鳴を振り絞る。  
そんなミルカの体は、本人の意思とは別の所で反応を返し始めていた。  
小さな芽が体積を増し始め、秘口からも新たな蜜を分泌させる。  
ミルカ自身もそろそろわかってきているはずだ。  
自分の出している声が、まぎれもなく快感によるものだということを。  
なにせ、ついさっきまでマイカの声をその耳でずっと聞いていたのだから。  
マイカの場合は苦痛から快楽へ、徐々に徐々にその色を変化させていった。  
だけど、ミルカはいきなり快楽一色の声を上げている。  
目論見通りの反応に、俺は心の中でだけほくそ笑む。  
 
天使といっても、背中や頭の上にぷかぷか浮いているオプションはともかくとして、体の作り自体は人間のものと変わらない。  
性感を得るために効率のいい場所も、基本的には人間と同じだ。  
だから、ただ快楽に溺れさせるだけならば、俺のこの体を持ってすればもう何も考えなくてもこなすことができる。  
だけどそれじゃ俺としてはつまらない。  
せっかくこんな極上の素材を与えられたら、色々試してみたくなるのが人情ってものだ。  
いや、もう人間じゃないんだけどさ。  
ともかく、淫核あたりを重点的に責めてやれば、それだけで気をやらせることは簡単だった。  
ある程度肉悦の味を覚えさせてしまえば、後は膣内を極太の肉棒で抉ってやれば切れ間なく続く絶頂地獄に追いやることも難しくない。  
だけど、一口に膣内といっても、場所によって感じ方にかなりの差があることを俺はこの体になって初めて実感したんだ。  
もちろん以前だってGスポットの存在とか漠然とした知識はあったものの、そこだけをピンポイントで責めるということは人間の体の構造上不可能だった。  
だけどこの体、この肉紐を活用すればそれも可能だ。  
ただし、1番感じるポイントの正確な位置というのは個人差があって、それを探るためにそれなりの時間を要してしまう。  
それなりのサイズのものであたりを付け、そこからさらに絞り込んでいく作業。  
いわば最上階に向けて地道に階段を昇っていくような行程だ。  
今までは、その間に天使の少女達の方が快楽に対し順応してしまうという問題があった。  
まあ、快楽を仕込むのが俺の仕事なんだから、問題っていうも微妙な感じだけど。  
それでもずっと俺の中にあったのは、いきなりそのポイントを責めたらどんな反応をするのだろうという、そんな疑問だった。  
そこへもたらされた福音が、このミルカとマイカという双子の天使達だった。  
もしそっくりなのが外見だけじゃなかったら。  
いざ責めを開始しようとした時、天恵のように俺の頭にそんな考えが閃いたのだ。  
目の前には、全く同じ体が2つもある。  
片方を使ってその性質を調べ尽くし、それをもう片方に反映させる。  
調査の過程をすっ飛ばし、自分でも知らなかったはずの最大の弱点をいきなり責め抜く。  
アクションゲームで言えば、安全な天井裏を通ってゴールを目指すみたいな、そんな反則技。  
これこそが、今回の俺の目論見だった。  
名付けて、キンタ○リオ作戦!!  
 
…………人間だった頃の記憶は随分薄れてきているはずなのに、なんでこんなことばっか憶えているかな、俺は。  
 
「はひぃ! ああ!? だ、だめぇ!?」  
キンタ○リオ作戦に為す術もなく翻弄される1人の少女。  
今の彼女を貫いているのは、その体で得られる中で最も純粋な快楽なのだ。  
堪えようと思っても、到底堪え切れるものではない。  
ようやく勢いを弱めてきた放尿の後を継ぐように、どろどろと愛液が溢れ出し始める。  
その様子は、まるで壊れた蛇口を連想させるほど。  
正直、さすがにここまでハマるとは思っていなかった。  
いきり立った3つの肉芽。  
物欲しげにヒクヒク震えるそれらにも、今回はあえて触れることはしない。  
そんなことをしなくても、今のミルカは大きく開いた口からだらだら涎を垂れ流し、舌を突き出して悶絶する。  
体積にしたら小指の先にもはるかに及ばないその1点に、今や彼女の全てが集約されていた。  
「あ、かはっ……か……」  
ミルカの呼吸音が危険なレベルに到達する。  
マイカがそれなりの時間をかけて到達した場所。  
それに何十分の一にも満たないわずかな時間で追いついて、いやそんな場所なんてほんの一瞬で抜き去っていた。  
頭の中、冷静な部分はそろそろ止めろと警告する。  
だけど別の、もっと情熱的な部分がもっと先へもっと先へと急き立てる。  
あんなに恐ろしかったキッカのお仕置きすら、今の俺には大した障害にはなりえなかった。  
「ひ、ひむぅ……もう、ひんじゃふぅ……」  
発音も怪しいその言葉を、もう失礼なものだとは笑えなくなっていた。  
 
「で、せっかくの双子なのに片方壊しちゃったんだ?」  
腕組みをしてこちらを見下ろすキッカの視線がめちゃくちゃ痛い。  
「き、きしゃー……」  
命こそ取り止めたものの、すっかり正気を失ってしまったミルカを見て、キッカは随分おかんむりだった。  
まあ、キッカからの注文は『あくまで意思は失わず、だけど体は火照って抑えられないの!』的な感じだったんだから無理はない。  
完全に心を壊してしまうと商品価値は大暴落、というわけだ。  
しかも今回は双子の片割れ。  
こうなってしまうとマイカの方も双子という付加価値なしで扱わなくてはいけないから、キッカにとっては2重の痛手だったんだろう。  
背景に炎なり稲妻なりを背負っていそうなキッカの後ろで、優しい優しいセラフィは心配そうにこちらを見つめてくれている。  
ありがたいけど、でもだからといってキッカを宥めてくれるわけではない。  
そこまで期待するのはさすがに酷というものだ。  
「まったく……やっと多少は使えるようになってきたかと思ったのに……この役立たず!」  
げしげしと足蹴にされる。  
そのことに屈辱とかそんなものは感じなかった。  
それどころか、この程度で終わってくれたらどれだけ幸せか。  
「なにニヤニヤしてんのよ、このドM!」  
表情なんてわからないはずなのに、そんなことまで言われてしまう。  
ベ、別に足蹴にされたことが嬉しいわけじゃないんだぞ。  
「決めた! あんた、もうセラフィとするの禁止!」  
「キシャッ!?」  
「えっ!?」  
俺と、あととばっちりを食らったセラフィの声が室内に響き渡る。  
俺にとって、セラフィとの行為は商品となる天使達相手のものとはまた別の意味を持つ特別なものだった。  
セラフィもセラフィで、天使を調達するためにキッカが長く留守にする時は疼く体を持て余してしまうから、それなり以上に俺を必要としてくれているはず。  
ていうか、必要としてくれているといいなぁという、かなり都合のいい願望があったりしたんだけど。  
「キ、キシャー、キシャシャーーー、キシャキシャキシャー」  
お代官様どうかそれだけはご勘弁をと、もはや恥も外聞もなくぺこぺこ体を折る俺。  
「ふん、行くよセラフィ」  
「あ、は、はい……」  
そんな俺を不機嫌そうに一瞥して、後はもう振り返りもせず出て行ってしまうキッカ。  
何度か心配そうに振り返ってくれたけど、結局はキッカの後を追って部屋を出ていくセラフィの背中。  
残された俺は、絶望の淵で肉紐をうねうねと蠢かすことしかできなかった。  
 
「んっ……は、ぁ……」  
ドアの向こうから、セラフィの声がかすかに聞こえてくる。  
押し殺そうとして、それでも抑え切れていない甘い喘ぎ声。  
普段ならそれを聞いているだけで俺の方も興奮してくるはずだった。  
なのに、今それを聞いている俺の心は、不思議と冷め切っている。  
まるで芯から凍りついてしまったかのように。  
肉紐の1本をドアノブに伸ばし――、  
「……ぇ?」  
ドアを開けると、中にいたセラフィが一瞬指を止めてこちらにぼうっとした視線を投げかけてきた。  
この部屋に入るのは、初めてこの廃ビルに来た時以来だ。  
それからはずっと自分に割り当てられた部屋で売り物用の天使の調教と、そして今目の前にいる彼女との行為に耽っていた。  
あの時にはなかったと思う壁際の粗末なベッドの上で、熱に浮かされているように頬を紅潮させ瞳を潤ませているセラフィ。  
清楚な白いワンピースと、その裾をたくし上げ秘部に指を添えて自らを慰めているという淫猥さのギャップ。  
それを見てもなお、俺の心はざわめかない。  
「ど、どうしたんですか?」  
ようやく事態を理解したのか、慌てて服を整えて手を後ろに隠すセラフィ。  
その表情は俺がいきなりこの部屋に来たことに対する当惑と、恥ずかしい行為を見られた羞恥に彩られていた。  
そんな彼女に俺はじりじりと近づいていく。  
何本もの肉紐を蠢かせながら――。  
「――!? だ、駄目です!」  
俺がセラフィに対して肉紐を伸ばすということがどういうことなのか、それは彼女も十分過ぎるほど知っている。  
そしてそれは今、キッカによって禁止されていることだ。  
それでも俺は動きを止めなかった。  
「ご主人様に知られたら、今度こそ――あ!?」  
反射的に後ろに下がろうとしたセラフィの背中が壁に当たる。  
そのことが、俺の中で最後の引き金を引いた。  
逃げ場のない彼女に俺は一斉に無数の肉紐を差し向けたのだ。  
「ヤケになったら駄目です。  
 我慢していれば、きっとご主人様だってわかって――ぁぷ!?」  
一瞬で手足の自由を奪い、小さな口に何本もの肉紐を捩じ込んで言葉すらも奪いとる。  
俺の方からは一切の言葉を放たず続けられる荒々しい行為。  
セラフィの瞳に俺のことを心配する気持ちとは別に、自分自身のことを案じる色が浮かぶ。  
それを感じ取り、一瞬だけ気持ちが揺らぎそうになった。  
覚悟は決めてきたはずなのに、この期に及んで――。  
迷いを断ち切るために、彼女自身の手によってすでに熱く濡れそぼっているぬかるみに肉紐を送りこむ。  
元々、セラフィは快感に対してどうしようもなく弱い。  
そうなるように調教されきっている。  
そして、俺はそんなセラフィの性感帯を知り尽くしていた。  
だから手足や言葉に続いて、彼女から思考の自由まで奪うのにもそれほどの時間は必要ない。  
キッカが帰ってきたのは、度重なる絶頂の末にセラフィが意識を失ってからしばらくしてのことだった。  
 
「当然、覚悟はできてるんだよね?」  
部屋に入ってくるなり捕らえてきた天使を無造作に放り投げ、こちらを見据えたキッカの瞳に浮かんでいるのがどんな感情なのか俺には読み取ることができなかった。  
怒りなのか、呆れなのか、哀れみなのか、それとも全く別の何かなのか。  
「でもまあ、最期に愛しのセラフィと散々やれたんだから思い残すことはないよねぇ?」  
キッカの唇の端が吊り上がり、目が細められる。  
それに合わせて腕がすうっと上がり、その指先が俺に向けられた。  
それだけで、俺はまるで銃口を向けられているような気分に陥り、背筋を駆け抜けていく死の恐怖に全身を震わせる。  
いや、実際正真正銘の悪魔であるキッカの指先は、拳銃なんかよりはるかに危険な代物だった。  
そこから逃げるには俺の体の動きは鈍過ぎる。  
肉紐はともかく、本体の方はそれこそカタツムリのようにじりじりとしか動けないのだ。  
だから俺は、捕らえたままだったセラフィの体をとっさに自分の前に引き寄せた。  
キッカからの攻撃に対する盾にするように。  
罪悪感を感じているだけの余裕はない。  
今更言い訳にもならないが、今は手段を選んでいられる状況ではなかったのだ。  
もう後戻りはできない以上、どんな小さな可能性でも拾っていく必要があった。  
ただ、この方法に対する不安もある。  
セラフィが本当にキッカに対する盾になるのか。  
言ってみれば、これは1つの賭けだった。  
短いながらも共に行動して、分は決して悪くないとは思っていたが、それでもセラフィごと殺される可能性だって小さくはなかったからだ。  
「ちっ……」  
けれど数秒の沈黙の後、セラフィの体の向こう側から聞こえてきた小さな舌打ちに、俺はその賭けに勝ったことを確信する。  
それでも最初の賭けには勝ったことを喜んでいられるだけの余裕はなかった。  
まだ細い綱の上にいることに変わりはないのだ。  
完全に渡りきるまで足を止めることはできなかった。  
本体をセラフィの体で隠しながら、その盾を迂回させるように肉紐達を繰り出していく。  
「このっ!」  
何本もの肉紐の先端に同時に鋭い痛みが走った。  
いつのまにかナイフのように伸びていたキッカの赤い爪が俺の肉紐を切り裂いていく。  
爪による一閃がセラフィの体越しにちらちらと見える度、頭の中にノイズのような痛みが駆け抜けていく。  
それでも俺は矢継ぎ早にさらなる肉紐を生み出していった。  
1本切られたならば2本を追加し、2本切られたならば3本を追加する。  
俺が生み出し、キッカが切断する。  
いつ終わるとも知れない鬼ごっこのように、俺達は狭い部屋の中で攻防を繰り返す。  
そのペースは、最初の内は拮抗していた。  
けれど、その天秤が徐々に徐々に傾いていく。  
1本1本ならまだ我慢できた痛みが、積み重なることでさすがに無視できるレベルを超え始めたのだ。  
こんなことをしていてもただ苦しむ時間を延ばしているだけじゃないのか。  
足を止めれば、待っているのは俺自身の死以外にありえない。  
だけど、それなら一瞬で済むんじゃないか。  
恐れていたはずの自分の死。  
それが、ひどく魅力的に思えてくる。  
キッカの動きに合わせ、常に俺の本体が完全に隠れるように掲げていたセラフィの体。  
心が折れかけたせいだろうか、それを移動させるのが一瞬遅れてしまう。  
長く伸ばした爪だけではなく、それを振りかざすキッカの姿が一瞬だけだが垣間見える。  
その顔にあったのは、今まで見たことがない焦りの表情だった。  
 
俺の痛みのように、キッカの方も疲労が積み重なっていたんだ。  
考えてみれば、肉紐だけを動かせばいい俺とは違って、キッカは全身を動かして殺到する肉紐達を防がなければならない。  
加えて、セラフィの体によって俺の本体には攻撃できないというのは精神的に辛いはず。  
攻めているのは、俺なんだ。  
現金なもので、その認識にたどり付いた瞬間に俺の心が再び立ち上がるだけ気力を取り戻す。  
我慢できないと思っていた激痛が、まだ少しだけなら耐えられそうに思えてきた。  
いちかばちかセラフィの体を持ち上げていた肉紐までをも攻撃に回す。  
その瞬間を狙われたならば終わりだったが、俺の予想通り、今のキッカにその隙を突くだけの余裕はなかったらしい。  
今回の賭けも俺の勝ち。  
そして、今回の賭けは、この攻防自体の勝敗を決するほどに重要なものだった。  
「しまった!?」  
一気に数を増やした肉紐の1本が、爪を逃れて彼女の細い足首に絡み付く。  
そこからは、もう一方的だった。  
一気に引き倒し、残った手足にも次々に肉紐を巻き付けていく。  
「このっ! 離せ! 離しなさいよ!」  
必死にもがくキッカ。  
だけど、当然のことながらその程度で解放したりするつもりはなかった。  
そう、最も危険な部分は乗り越えたとはいえ、まだ全てが終わったわけではないのだ。  
今からキッカの体にしっかり教え込む必要があった。  
これからは、俺こそが彼女の主なんだということを――。  
 
絨毯のようにひしめいている肉紐に手足と羽、そして尻尾を埋没させた仰向けの状態で、それでもキッカは俺を睨み付けていた。  
ただ、その眼光にはどこか鋭さが足りていない。  
それもそのはずで、今この瞬間もキッカは手足や尻尾の表面を無数の肉紐に這い回られている状態なのだ。  
十分に開発した後の天使なら、これだけでも絶頂に導くことができた。  
今のキッカではおぞましさぐらいしか感じられないかもしれないが、すぐにその境地に追いやってみせる。  
そう、思っていたのだが――。  
「あ、くふぅ……」  
予想に反し、不意にキッカの口から妙に艶かしい吐息が零れ落ちる。  
次の瞬間には悔いるように唇を噛み締めるが、さっきのは紛れもなく――。  
そこで俺の頭に1つの仮説が閃いた。  
以前、セラフィのあそこにキッカが尻尾を挿入していたことを思い出したのだ。  
天使にはない尻尾という器官。  
ちょうど男にとってのペニスや今の俺の肉紐のように、もしかして挿入されたセラフィだけでなく、キッカの方も快感を感じていたのではないだろうか。  
「な、なにす……ひぁう!?」  
それを裏付けるために手足を嬲っていた肉紐の動きを止め、尻尾だけを重点的に嬲り回してみると案の定キッカはあられもない反応を返してきた。  
すぐに悔しそうに顔を歪めるが、それすら次の瞬間には快楽に緩みはしたない嬌声を溢れさせてしまう。  
間違いなく、尻尾は彼女にとっての性感帯だった。  
それも、かなり感度のいい。  
「ひっ……こ、この、やめっ……く、っぁ」  
肉紐の絨毯の中、ディープキスで舌を絡めるように、複数を融合させた極太の1本を纏わりつかせ扱きあげる。  
ぐねぐねと動き回るしなやかな尻尾はキッカにしてみたら逃げようとしているのかもしれないが、俺からすれば積極的に絡め合わせようとしているとしか思えなかった。  
いや、実際に俺の思っている通りなのかもしれない。  
さらにその極太の隙間を細い肉紐の先端の口で何箇所も一斉に啄ばんでいく。  
「ひあぁ、だめ、それ……やめないと、くぁん!?」  
するとキッカの胴体が打ち揚げられた魚のようにビクビク跳ね上がり、尻尾から生まれる肉悦が俺の想像以上に大きいことを、もはや声を抑え切れずよだれの玉を撒き散らしている口以上に教えてくれた。  
元々たいして面積の広くなかった布地を取り去ると、露わになった割れ目からはすでにとろとろと蜜が溢れ出し、平坦な胸やその割れ目の上端にある3つの突起も生意気に勃起し始めている。  
その3個所にそれぞれ肉紐を伸ばしていくと、さすがにキッカの頬が引き攣った。  
その先端にある口の威力は、尻尾で十分思い知っているからだろう。  
だが、尖った牙が覗くその口から制止の言葉が放たれるよりも、俺がその敏感な肉豆に吸い付く方が先だった。  
「はひぃぃ!?」  
ちゅうちゅうと音を立てて吸い上げながら、釣り糸を引くように時折ピンと引き上げる。  
それも、キッカが予想できないように3箇所のタイミングを微妙にずらしながらだ。  
操り人形のように上から垂れ下がる肉紐に為す術もなく翻弄される悪魔の少女。  
今まで自分が従ったきた相手を思うがままにできる黒い喜び。  
それに急き立てられるように俺は新たな責めを繰り出した。  
 
新たに生み出した極太のそれを、死角から一気にアナルに突き立てたのだ。  
「あぐぅ!」  
体内にうまれた圧迫感からか、キッカが苦しそうな呻き声をあげる。  
けれどそれも結局は一瞬だった。  
「はぐっ……な、なに、これぇ!?」  
次の瞬間には目を白黒させながら悲鳴を迸らせる。  
尻尾を扱かれたり、敏感な突起を吸い上げられる程度ならセラフィとの行為でもやっていたかもしれない。  
だけど、尻尾の付け根を裏側から、腸の側から抉られるのなんて初めてのはず。  
まして、そこをピンポイントに吸い立てられるなんて、俺のこの肉紐ぐらいでしかできるはずがない。  
秘園からはますます量を増した蜜が途切れることなく伝い落ち、手加減のない抽送によって捲くれ上がった肛穴に巻きこまれていく。  
腸液と愛液が攪拌され、じゅぶじゅぶと卑猥な音を響かせながら聴覚からもキッカの心を蝕んでいった。  
「はひっ……ダメ、これ以上されたらぁ!」  
初めて聞くキッカの懇願するような声音に、とめどなく込み上げてくる征服感。  
あえて膣には挿入しない。  
そこは、完全に彼女が屈服して、自ら求めてくるまで取っておくのだ。  
いつも上の立場から俺に命令していたあのキッカが、俺に入れてほしいと弱々しく、情けなく哀願してくる。  
思い描いただけで心が沸き立ってくる想像。  
数時間前、セラフィを犯していた時が嘘のようだった。  
あの時は精神的に追い詰められていて、こちらが愉悦を感じているだけの余裕なんてなかったからただただ必死でセラフィの体を貪っていた。  
そう考えるともったいないことをしたとも思う。  
だが、これからは好きな時にキッカもセラフィも、そして他の天使も犯せるんだ。  
「い、イカされちゃう!? ……こんなの、悔しいのにぃ!」  
ついには大粒の涙を零しながら、一気に性の高みへと駆け上がっていくキッカの体。  
そこへ俺の方も追随していく。  
「はああああああ!」  
キッカの絶叫を聞きながら、俺は彼女の全身と腸内に、ありったけの欲望を叩き付けていた。  
 
その瞬間、世界が一瞬で切り替わる。  
そこはあの廃ビルの一室のままで、けれどさっきまでよがり泣いていたはずのキッカは何事もなかったかのように目の前に平然と立っていた。  
奪い取ったはずの服も、快楽によってぐずぐずに熔かしたはずの表情も、さっきまでのことが幻のようにいつものまま。  
いや、本当に幻だったのか。  
「あんたが考えてることはだいたい想像がつくけど、まあそんなとこよね」  
キッカの唇の端がにぃっと吊り上がり、猫のように目が細められる。  
それに合わせて腕がすうっと上がり、その指先が俺に向けられた。  
今でも幻だったなんて信じられないあの瞬間の再現。  
俺はとっさにセラフィの体を引き寄せようとして、体がぴくりとも動かないことに気がついた。  
「ムダムダ。  
 あんたの神経は、もう指先――じゃなくて今は触手か――触手の先までズタズタになってるから」  
キッカの笑みがますます深くなる。  
口の端から覗くのは、獰猛な肉食獣を連想させる尖った牙。  
余裕の笑みを浮かべながら平然と立つ彼女と、微動だにできない俺。  
格が違うということを心の底から思い知らされる。  
それこそ、お釈迦様の手の平の上にいることに気づいた孫悟空のように。  
鳳凰を前にした1羽の鴉のように。  
「最期にいい夢見れたでしょ? まあ短い間だけど仕事を手伝ってくれたから退職金代わりってやつ?」  
キッカの指先、綺麗に手入れされた赤い爪が滑るように俺に向かって伸びてくる。  
「じゃあね」  
短い別れの言葉が俺の意識に、そして爪の先端が俺の体に食い込んできて、その瞬間俺の意識は断ち切られていた。  
 
「……むぁ?」  
顔を上げると、目の前にはビールの缶が並んでいた。  
どうやら酔っ払った挙句に、そのままテーブルに突っ伏して眠ってしまっていたらしい。  
とっくに放送時間は終わっているようで、付けっぱなしのテレビは空しく砂嵐を映し続けている。  
ザーザーという耳障りなノイズに意識が掻き乱され、さっきまでひどく長い夢を見ていた気がするのにその内容が全く思い出せなくなっていた。  
内容は憶えていないのに、それがひどく残念に思えて、それと同時にそのことにどこか安堵しているような妙な気分。  
「……あ…………ただい…………スト中……」  
と、不意にそのノイズの中に人の声らしきものが混ざり始めて、俺の注意を引き寄せる。  
それに合わせて砂嵐にも乱れが生じ、次の瞬間にはちゃんとしたスタジオの映像が映し出されるようになっていた。  
反射的に時計を見るが、朝というにはまだ早いはずなのに。  
『こんばんわー、今日も始まりました深夜の不定期海賊放送テレビショッピング“悪魔の囁き”。  
 今夜はここテレビ○日のスタジオをお借りしての放送となりまーす!』  
けたたましい声。  
「な、なんだ?」  
テレビの画面には、さっきの声の主である少女の顔がこれ以上はないというほどドアップで映っている。  
非の打ち所のない完璧な営業スマイル。  
ニカっと笑った口元に、随分尖った八重歯が覗く。  
というか、八重歯というより、もう立派な牙のようだ。  
『初めての皆さんはじめまして、常連の皆さん3ヶ月ほどのご無沙汰でした、今夜も進行を務めますのはもちろん私、悪魔のキッカ』  
キッカと名乗った少女が身を引き、その全身が画面に映るようになる。  
大胆に肌を露出させたチューブトップにホットパンツ。  
なるほど悪魔という設定だけあって、いかにもな感じのファッションだった。  
その姿に、なぜか心の表面にさざなみが立つ。  
この悪魔役の少女は、初めて見る相手のはずだった。  
少なくとも記憶にある限り、今まで別の番組で見た憶えはない。  
もちろん、この番組自体に関してもそのはずだ。  
なのに、俺はこの娘のことを、そしてこれから出てくるだろうもう1人の天使の少女のことを――。  
 

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